2010年6月10日木曜日

銀のうでわ












「銀のうでわ」(君島久子/文 小野かおる/絵 岩波書店 1997)

昔、ある村にアーツという女の子がいました。母さんが亡くなったので、アーツより年上の娘をもつまま母がやってきました。しばらくすると、アーツの父さんも亡くなってしまったので、アーツは朝から晩までまま母にはたらかされるはめになりました。アーツは毎日、母さんが残してくれた牝牛を、草の多い山に連れていくのですが、まま母はそのときも麻をどっさりもたせ、牛の番をしながら麻をつむぐようにといいました。「こんなにたくさんの麻をどうやってつむいだらいいの」とアーツが泣きくずれると、「その麻を食べさせておくれ、つむいであげるから」と、牝牛が麻を食べ、お尻からきれいにつむいだ糸をだしてくれました。その糸をみたまま母はびっくりして、姉娘を牝牛の番にいかせました。が、牝牛は麻を食べようとしません。姉娘が力いっぱい牝牛をぶつと、姉娘は逆に牝牛に突きとばされてしまいました。そこで、まま母は牝牛を殺すことにしました。

つぎの朝、たきぎとりにいかされたアーツのところに、一羽のカササギが飛んできてこういいます。「アーツよ、牝牛はきょう殺されてしまうの。まま母が牝牛のスープをくれても、けっして食べてはいけないよ」。アーツが大急ぎでうちに帰ってみると、牝牛はもう殺されて、肉もスープもすっかり食べられてしまいました。アーツは泣きながら残っていた骨を拾うと、家の壷のなかに隠し、それから毎日、まま母のつらい仕打ちを打ち明けます。

中国版シンデレラ物語です。紹介したのは本書の3分の1。このあと、村長(むらおさ)のところの、年に一度のお祭りに、カササギと牝牛の助けを借りたアーツは、着飾って、馬に乗ってでかけます。この物語では、落とすのはガラスの靴ではなく、銀の腕輪です。また、シンデレラ物語とちがって物語は結婚では終わりません。ふたたび姉娘が邪魔をして、もうひと波乱起こります。

巻末の解説によれば、本書は四川省大涼山に伝承しているイ族の「阿茨姑娘」(アーツクーニャン)をもとに、同じイ族の貴州省威寧の伝承、およびペー族、チベット族などの話を資料として、伝承のもち味を大切にしながら再話したものだということです。登場人物の衣装は、イ族に取材したものなのかもしれません。小学校中学年向き。

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