2011年10月31日月曜日

きつねおくさまのごけっこん












「きつねおくさまのごけっこん」(グリム兄弟/原作 ガビン・ビショップ/絵 江国香織/訳 講談社 1996)

キツネの旦那さまが亡くなると、奥さまは「わたくしは家にこもります」と、部屋に引きこもってしまいました。ネコのお手伝いは、続いて住みこんで、食事のしたくをしたり、村人とのおしゃべりを楽しんだりしました。ネコは、もともと亡くなったキツネを好きではなかったので、ぜんぜん悲しくありませんでした。

さて、キツネの奥さまは、大変な美人として知られていたので、奥さまのもとには次つぎと紳士が結婚の申しこみにやってきます。最初にやってきたのはオオカミでしたが、ネコがとりつぐと、オオカミの姿を聞いた奥さまはきっぱりとお断りします。次にやってきたのはイヌで、その次はウサギでしたが、やっぱり奥さまは断ります──。

グリム童話をもとにした絵本です。絵は、線画に水彩で色づけした、見栄えのするもの。このあと、ついにキツネの紳士がやってきて、奥さまは「わたしはこんどこそ、幸せな結婚をするでしょう」と、再婚を決意します。脇役の、お手伝いのネコが大変いい味をだしています。小学校低学年向き。

2011年10月28日金曜日

神の道化師












「神の道化師」(トミー・デ・パオラ/作 ゆあさふみえ/訳 ほるぷ出版 1980)

昔、イタリアのソレントに、ジョバンニという小さな男の子が住んでいました。ジョバンニには、お父さんもお母さんもいませんでした。でも、なんでも空中に投げ上げて、お手玉のようにくるくる上手にまわすことができたので、いつも八百屋のパプチスタさんの店先で、得意の芸をみせました。町のひとたちは、ジョバンニの技をみにあつまってきて、終わると、店で買い物をしました。そして、ジョバンニは、パプチスタのおかみさんから、熱いスープをごちそうになるのでした。

ある日、町に旅芝居の一座がやってきます。その舞台をみて、あれこそぼくにぴったりの暮らしだと思ったジョバンニは、親方に芸をみせ、一座の一員にしてもらいます。ほどなく、道化師の格好をして舞台に立つようになったジョバンニは、しだいに名を知られるようになり、旅芝居の仲間と別れて、国中を旅するようになります。

イタリアの民話をもとにした絵本です。同じくこの民話をもとに、アナトール・フランスが「聖母の曲芸師」という短編を書いていることが思い出されます(「詩人のナプキン」(堀口大学/訳 筑摩書房 1992)収録)。このあと、歳月はすぎ、年老いて芸の腕がすっかりおとろえたジョバンニは、子どものころのようにパンをめぐんでもらいながら、故郷のソレントに帰ります。聖フランシスコ教会の修道院にもぐりこみ、眠っていると、やがてひとびとの歌声で目をさまします。その日はちょうどクリスマス・イヴで、ひとびとはイエスさまにささげものをもってきたのです。その夜、ささげるものがなにもないジョバンニは、イエスの像をよろこばせるために、一世一代の芸を披露します──。おそらく、作者の代表作と思われる一冊です。小学校中学年向き。

サリーのこけももつみ










「サリーのこけももつみ」(ロバート・マックロスキー/作 石井桃子/訳 岩波書店 1986)

ある日、サリーはお母さんとコケモモ(ブルーベリー)を摘みにいきました。「コケモモをつんだら、うちにもって帰ってジャムをつくりましょう。そうすれば、冬になってもたくさんジャムが食べられるからね」と、お母さんはいいました。コケモモ山の向こう側には、子グマがお母さんグマとコケモモを食べにやってきていました。「太って大きくなるように、たくさん食べておおき。寒い長い冬がくるから、おなかにいっぱい食べものをためておかなくてはいけないのだよ」と、お母さんグマはいいました。

さて、サリーはつんだコケモモをバケツに入れないで、みんな食べてしまいます。そうしているうちに、お母さんとはぐれてしまい、サリーはお母さんをさがしにいきます。いっぽう、子グマもお母さんとはぐれてしまい──。

すでに古典となった傑作絵本の一冊です。お話会の定番絵本のひとつでもあります。物語はこのあと、サリーがお母さんグマに会い、子グマが人間のお母さんと出会うのですが、その展開は大変サスペンスにあふれています。絵は白黒の、リアリティのある生き生きとしたもの。見返しに、サリーと、ジャムづくりをしているお母さんがえがかれています。小学校低学年向き。

2011年10月27日木曜日

すてきな三にんぐみ












「すてきな三にんぐみ」(トミー=アンゲラー/作 いまえよしとも/訳 偕成社 1991)

黒いマントに黒い帽子をかぶった3人組は泥棒でした。夜になると山を降り、目つぶしのコショウ吹きつけで馬車をとめ、真っ赤な大まさかりで車輪をまっぷたつにし、ラッパ銃で脅して、乗客からお宝を奪いました。そして、奪ったお宝は、山のてっぺんにある隠れ家にすべてはこびこみました。

さて、ある夜のこと、いつものように馬車を襲った3人組でしたが、そのときの乗客はティファニーちゃんだけ。獲物はなんにもなかったので、3人組はティファニーちゃんを大事にかかえ、隠れ家へはこびます──。

すでに古典となった、お話会の定番絵本です。子どもたちに読んでみると、最初はちょっと怖い雰囲気があるのか、そわそわと落ち着かない様子をみせます。物語はこのあと、ティファニーちゃんが隠れ家のお宝をみつけ、「まあぁ、これ、どうするの?」といったことから、どうするつもりもなかった3人組は額をあつめて相談して…と続きます。ウンゲラーによる3人組の造形は、シンプルでじつに秀逸。今江祥智さんによる訳も調子がよく、素晴らしい一冊となっています。小学校低学年向き。

2011年10月25日火曜日

がちょうのペチューニア












「がちょうのペチューニア」(ロジャー・デュボワザン/作 まつおかきょうこ/訳 富山房 1999)

ある朝早く、ぶらぶらと草地を歩いていたペチューニアは、1冊の本が落ちているのをみつけました。本をもっていると賢くなると思ったペチューニアは、その本を拾って帰りました。そして、眠るときも泳ぐときも一緒にすごし、自分はとても賢いのだと思いこみ、大変得意になりました。あんまり得意になったので、首がどんどん長くなるほどでした。

ペチューニアがあんまり賢そうにみえるので、ほかの動物たちは、困ったことがあると、ペチューニアに相談するようになります。また、頼まれていなくても、ペチューニアは意見をいうようになります。ある日、雌牛のクローバーが、オンドリのキングに、「あんたのトサカはなぜそんなに赤いの?」というと、ペチューニアはこういいます。「あんたのトサカは、お百姓がメンドリと区別するためにさしこんだのよ」。おかげで、キングはコケコッコーと鳴くとき、けっして頭を振らなくなってしまいます。かわいそうなキング!──。

自分は賢いとうぬぼれた、ガチョウのペチューニアのお話です。このあと、メンドリにヒヨコの数をかぞえてほしいといわれたペチューニアは、9羽のところを6羽と数え、「6は9よりずっと多いんです」といってメンドリを混乱させたり、ウサギの穴に頭を突っこんで抜けなくなってしまった犬のノイジーを煙でいぶしたりします。、むりやり頭を引っ張りだしたノイジーは、かわいそうに、耳を切ったり、鼻を焦がしたりするはめに…。もちろん物語の最後では、ペチューニアの賢さは(文字通り)吹き飛ばされます。小学校低学年向き。

おひめさまのけっこん












「おひめさまのけっこん」(バーナデット/絵 ラッセル・ジョンソン/文 ささきたづこ/訳 西村書店 1992)

昔、ロージーという名前の美しいお姫さまがいました。王様は、ロージーには立派なお婿さんをとらせたいと思っていました。「おまえのむこに、フェルディナンド王子はどうかね。王子の国には、果物が豊かに実り、小川が流れているぞ」と、王様がいうと、ロージーは金髪をゆすってこたえました。「どんなに素晴らしい国をもっていてもお断りよ。わたしが結婚するのは、目がキラキラと輝いているひとだけなの」

王様がいろんな国の王子との結婚をすすめても、ロージーはうんとはいいません。目が輝いている王子が通るかもしれいからと、ロージーは丘の上にぽつんと立つ塔でひとり暮らしはじめます。塔は、屋根はこわれ、窓は破れ、床やドアには穴が開いているといったありさまだったので、国一番の大工セバスチャンが直しに呼ばれます──。

タイトル通り、お姫さまの結婚のお話です。絵は、おそらく色鉛筆と水彩でえがかれた、ストーリーによくあった可愛らしいもの。このあと、ロージーはセバスチャンと親しくなるのですが、王様に、娘と結婚したらおまえは王様になるのだぞといわれたセバスチャンは、「いやだよ、王様になんかんりたくないね。ポケットはこのとおり空っぽだけど、いまのままで充分幸せさ」とこたえて去っていきます。そこで、ロージーはある決断をして…と物語は続きます。小学校中学年向き。

2011年10月22日土曜日

ごびらっふの独白












「ごびらっふの独白」(草野心平/詩 いちかわなつこ/絵 斎藤孝/編 ほるぷ出版 2007)

〈るてえる びる もれとりり がいく。
 ぐう であとびん むはありんく るてえる。
 けえる さみんだ げらげれんで。
 くろおむ てやらあ ろん るるむ
 かみ う りりら む。
 ……〉

「声にだすことばえほん」シリーズの1冊です。草野心平の詩、「ごびらっふの独白」が、いちかわなつこさんの水彩により、絵本に仕立てられています。カエルが主人公の絵本らしく、絵には水気が多く、葉っぱに乗って川を下ったり、電車に乗ったりと、細部が楽しくえがかれています。巻末には、この詩の日本誤訳が載せられていて、冒頭の2行はこうなります。

〈幸福というものはたわいなくっていいものだ。
 おれはいま土のなかの靄(もや)のような幸福につつまれている〉

原文は旧かな。読むと、まさかカエルがこんなことをいっていたとはと驚きます。声にだして読むと大変面白い1冊です。小学校低学年向き。

2011年10月21日金曜日

ピッツァぼうや












「ピッツァぼうや」(ウィリアム・スタイグ/作 木坂涼/訳 セーラー出版 2000)

ピートはご機嫌ななめでした。友だちと外で遊ぼうと思ったら、雨が降ってきてしまったのです。そんなピートをみて、お父さんはピッツァをつくることにしました。まず、ピートをキッチンテーブルにのせ、生地を伸ばすようにごろごろと転がします。油(ほんとうは水)を少々たらしたあと、小麦粉(ほんとうはベビーパウダー)をふりかけ、トマトの輪切り(ほんとうはボードゲームのコマ)をふりかけます。チーズ(ほんとうは紙切れ)をふりかけたあと、「さて、ピート、サラミはどうする?」と、お父さんがたずねましたが、ピートはこたえません。だって、ピートはいま、ピッツァの生地なのです──。

ご機嫌ななめな坊やが、お父さんやお母さんとピザごっこをするお話です。このピザは、くすぐられると笑ってしまいます。「ピッツァは笑ったりしないと思うがね」と、お父さんにいわれると、「ピッツァ職人は生地をくすぐったりしないと思うよ」と、いいかえしたりします。このあと、オーブン(ほんとうはソファ)に入れられて、ピザが焼き上がるころ、ちょうど雨も上がります。小学校低学年向き。

2011年10月20日木曜日

ホットケーキできあがり












「ホットケーキできあがり」(エリック・カール/作 アーサー・ビナード/訳 偕成社 2009)

朝、オンドリの声で目覚めたジャックは、母さんにいいました。「でっかいホットケーキが食べたいなあ」。すると、母さんは笑顔でこたえました。「手伝ってくれないとできないわ」「ぼく、なにを手伝ったらいい?」「この鎌をつかって、畑の小麦をいっぱい刈りとるのよ」

ジャックは、母さんにいわれたとおり、小麦をいっぱい刈りとって、ロバに乗せ、水車小屋にいって、もみ殻を落とし、小麦粉にしてもらいます。それから、ニワトリ小屋から玉子をとってきて、牛の乳をしぼり、クリームをかきまぜてバターをつくり、裏庭からたきぎをどっさりはこんで、地下室からジャムのびんをとってきて、いよいよホットケーキづくりにとりかかります──。

「はらぺこあおむし」(偕成社 1988)で名高いエリック・カールの一冊です。ホットケーキをつくるのに、材料をあつめからはじめる本書では、なかなかホットケーキを焼くまでにはいたりません。でも、ジャックはめげず、母さんのいいつけにしたがって、材料あつめに奔走します。そのかいあって、ラストでは望みどおり、でっかいホットケーキが食べられます。小学校低学年向き。

2011年10月18日火曜日

はなをくんくん












「はなをくんくん」(ルース・クラウス/文 マーク・サイモント/絵 きじまはじめ/訳 福音館書店 1967)

〈ゆきが ふってるよ。
 のねずみが ねむっているよ。

 くまが ねむっているよ。

 ちっちゃな かたつむりが からの
 なかで ねむっているよ。

 りすが きのなかで ねむってるよ。
 やまねずみ(ウッドチャック)が
 じめんのなかで ねむってるよ。〉

ルース・クラウスは、夫のクロケット・ジョンソンとともにつくった「にんじんのたね」「はろるど」シリーズで高名です。また、マーク・サイモントは「オーケストラ105人」「のら犬ウィリー」の作者です。このあと、動物たちは、いっせいに目をさまし、鼻をくんくんさせながら一目散に駆けていきます。駆けていった先には、一体なにがあるのでしょう…。絵は、白黒の2色。雪景色と動物たちが、あたたかみをもってえがかれています。そして、最後に一箇所、黄色がつかわれています。小学校低学年向き。

2011年10月17日月曜日

ちいさなたいこ










「ちいさなたいこ」(松岡享子/作 秋野不矩/絵 2011)

昔、あるところに、心のやさしい百姓の夫婦が住んでいました。もう年をとってあまりはたらけなくなったので、遠いところの田んぼをひとにゆずり、うちのまわりの畑にわずかの野菜をつくって暮らしていました。ある年の春、2人は畑にカボチャの苗を植えました。夏がきて、やがて黄色い花が咲き、実がいくつもなると、そのなかに、ひときわ大きなカボチャがありました。「この色つやのいいこと。きっと味も格別でしょう。でも、ふたりでは食べ切れませんねえ」と、2人は子どもでもながめるように、目を細めてカボチャをみつめました。

さて、ある夜のこと、どこからか楽しそうな祭りばやしの音が聞こえてきます。2人が音のほうにいってみると、音はあのみごとなカボチャから聞こえてきます。カボチャからは光がもれ、おじいさんが指で押すと、そこに丸い穴が開き、のぞくとなかには小さな広場があって、親指ほどの男や女が30人ばかり輪になって踊っています──。

松岡享子さんと秋野不矩さんによる絵本です。このあと、2人は毎晩お囃子を聴き、踊りをみるのが楽しみになるのですが、ある晩、いつもの時刻になってもお囃子が聞こえてこなくなります。みると、皮のやぶれた太鼓のまわりで、小さいひとたちが、ひとかたまりになってすわっています。そこで、2人は、細い竹とドングリの皮と、渋を塗った薄い紙をつかって太鼓をつくり、箸でつまんでカボチャのなかにいれてやり──とお話は続きます。子どもの本は、いって帰ってくる話が多いのですが、この作品はそうではなく、その点印象に残る一冊です。小学校低学年向き。

2011年10月14日金曜日

クリスマスのちいさなおくりもの












「クリスマスのちいさなおくりもの」(アリスン・アトリー/作 上條由美子/訳 山内ふじ江/絵 福音館書店 2010)

「今夜はクリスマスイブだよ。どうしてなんにも飾りつけがしていないんだ。どうしてクリスマスのお祝いのしたくができてないんだ」と、一匹のネズミが、椅子の下からキーキー怒っていいました。すると、暖炉の前で寝ていたネコがいいました。「おかみさんは病気で入院しているし、子どもたちだけじゃなんにもできないだろ。だんなさんはすっかりふさぎこんでいるしね」。すると、ネズミはいいました。「ネコさん、あんたがなんとかしてくださいよ」

ネコはネズミたちに指示をだし、子どもたちのくつ下をとりにいかせ、暖炉の前のひもに下げさせます。それから、ミンスパイづくりにとりかかり、それが焼けるあいだ、太ったクモのおばあさんが部屋中にめぐらせたキラキラ光る糸に、ネズミたちが色とりどりの紙をかじってつくったお飾りを飾ります。そして、パイが焼けたころ、サンタクロースがやってきます――。

アトリーは、「時の旅人」(評論社 1981)や「グレイ・ラビットのおはなし」(岩波書店 2000)などを書いた名高い作家です。絵本作品には「むぎばたけ」などがあります。また、山内ふじ江さんは、「黒ねこのおきゃくさま」(ルース・エインズワース/作 福音館書店 1999)の絵を描いたことで高名です。本書は、ネコとネズミが協力してクリスマスのしたくをするクリスマス絵本です。淡い、柔らかみのある色づかいで、ネコもネズミもとても愛らしくえがかれています。小学校低学年向き。

2011年10月13日木曜日

きょうりゅうくんとさんぽ












「きょうりゅうくんとさんぽ」(シド・ホフ/作 いぬいゆみこ/訳 ペンギン社 1980)

博物館へいったダニーは、そこで恐竜に出会いました。「こいつが生きていたらいいのにな。一緒に遊んだらきっと面白いぞ」。そうつぶやくと、上のほうで、「ぼくもそう思うよ」という声がしました。

声のぬしはもちろん恐竜。恐竜に乗ってダニーは町にでかけます。洗濯物がからまないように気をつかい、海に入り、アイスクリームを食べてから動物園へ。一躍注目を浴びますが、みんながほかの動物をみなくなってしまったので、恐竜とダニーは、ダニーの友だちのところにいって遊びます──。

恐竜と散歩をしたダニーのお話です。シド・ホフはユーモラスな絵を描く漫画家で、絵本に「ナガナガくん」、児童書に「ちびっこ大せんしゅ」(光吉夏弥/訳 大日本図書 2010)などがあります。本書の表紙には、「はじめてひとりでよむ本」と銘打たれており、訳者の乾侑美子さんも訳者あとがきで、「できるだけはじめて自分で読む本にふさわしい文章になるように心がけました」と書いています。読みやすい文章と、シド・ホフの明朗でコミカルな作風により、大変楽しい読物絵本になっています。小学校低学年向き。

2011年10月12日水曜日

はだかの王さま












「はだかの王さま」(アンデルセン/作 バージニア・リー・バートン/絵 乾侑美子/訳 岩波書店 2004)

昔、ひとりの王さまがいました。王さまは新しい服がなによりも好きで、きれいに着飾るためなら、時間もお金も少しも惜しいと思いませんでした。ある日、はた織りと名乗る2人の男がやってきました。2人は、自分たちはこの上なく美しく素晴らしい模様の布を織ることができ、しかもそれは魔法のような布で、この布でつくった服は役目にふさわしくない者や、ひどく愚かな者にはけっしてみることができないのだといいました。美しい服がみえるのは、賢くて役目にふさわしい者だけなのです──。

「そんな魔法の布で新しい服をつくらせれば、家来のうちでだれがその役目にふさわしいか、だれが利口でだれが愚かなのか、たちまちわかるというものだ」。そう考えた王さまは、2人にどっさりお金をあたえ、さっそく仕事をはじめるように命じます──。

ご存知、アンデルセンの童話「はだかの王さま」をもとにした絵本です。カバー袖の文章によれば、作者のバートンの父親はこの話が好きで、よく子どもたちに読んでくれたそうです。この原作を絵本にするには、さまざまなやりかたがあるでしょうが、バートンがとった方法は、大勢の群衆をだすことでした。おかげで、にぎやかで上品な、楽しい読物絵本になっています。小学校中学年向き。

ねこのパンやさん












「ねこのパンやさん」(ポージー・シモンズ/作 松波佐知子/訳 徳間書店 2006)

あるところに、パン屋ではたらくオスネコがいました。パン屋の主人は意地悪で、奥さんは怠け者でした。ネコは、パンの生地をつくったり、リンゴを薄切りにしたり、パンを焼いたり、洗いものをしたりといったパン屋の仕事を、みんなやらされていました。おまけに、夜はネズミを捕まえるようにいわれました。でも、一日中こきつかわれたネコに、ネズミを捕まえる元気などありません。すると主人は、「ネズミをとらなきゃおまんまはなしだ」といって、ネコの朝ごはんをどんどんへらしていきました。

はたらきづめのネコはくたびれてはてて、だんだんやせて、泣いてばかりいるようになってしまいます。それを気の毒に思ったネズミたちは、自分たちを追いかけないという条件で、ネコの助勢を買ってでます──。

せかいいちゆうめいなねこフレッド」や「せかいいちゆうかんなうさぎラベンダー」の作者、ポージー・シモンズによる絵本です。漫画風にコマ割りされた絵本で、ネコもネズミもじつに生き生きとえがかれています。物語はこのあと、ネズミたちの助けにより、一度は主人に認められ、朝ごはんをたくさんもらえるようになったネコでしたが、あるとき主人にあしたの朝までに、メレンゲ菓子を30個、ジャムタルトを40個、くるみのブラウニーを48個つくるようにいわれ、しかも材料はみんなネズミが食べてしまっていて…と、物語は続きます。パン屋のネコと手芸が得意なネズミたちの活躍をえがいた、楽しい一冊です。小学校中学年向き。

2011年10月7日金曜日

うちのなまくらさん












「うちのなまくらさん」(ポール・ジェラティ/作 せなあいこ/訳 評論社 1992)

うちのネコのごろすけは、いつだって寝てばかり。だから、ごろすけっって呼ばれるの。晩ごはんにも帰ってこないし、帰ってきても食べないでごろごろ。外でなにをしているのか知らないけれど、よくびしょ濡れでもどってくる。きっと、雨宿りするのも面倒なのね──。

女の子の語りによる絵本です。文章の応答が絵のなかでされていて、たとえば、ごろすけがびしょ濡れでもどってくる場面では、犬に追いつめられた子ネコを助けて、水のなかを泳ぐごろすけの姿がえがかれます。よくびしょ濡れでもどってくるのは、雨宿りが面倒だからではなかったというわけです。

ポール・ジェラティは、非常に写実的な水彩画を描くひとで、ストーリーもそれに応じたシリアスなものが多いのですが、この可愛らしい絵本ではいつもよりディフォルメのきいた絵をえがいています。小学校低学年向き。

2011年10月6日木曜日

ちゃぼのバンタム












「ちゃぼのバンタム」(ルイーズ・ファティオ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 乾侑美子/訳 童話館出版 1995)

デュモレさんの農場にいるニワトリの群れのなかに、たった一羽、目立ってからだの小さなニワトリがいました。この鳥は、ほんとうはニワトリではなくチャボでした。きれいで賢いチャボという鳥が好きなデュモレの奥さんが、ニワトリの巣のなかに、こっそりチャボのタマゴを忍びこませておいたのでした。

農場には、「大将」と呼ばれる、からだの大きなニワトリがいました。大将はいつも農場の門の上に立って胸を張り、声高らかに時をつくりました。いっぽうバンタム(チャボという意味)と名づけられたチャボの子は、大将のように時をつくってみたいと思っていました。でも、コケコッコーとはじめようとすると、たちまち大将が飛んできて、庭から追いだされてしまいました。バンタムは、メンドリのナネットが好きでしたが、ナネットに近づこうとすると、やっぱり大将に追い返されてしまいました。

「がちょうのペチュニア」シリーズ(富山房)などで高名な、デュボアザンによる絵本です。白黒とカラーページが交互にくる構成ですが、カラーは色味が統一されており、ぜんたいに渋い印象をあたえています。このあと、大将にやられてばかりいるバンタムは、すっかり意気消沈し、デュモレさんも「メンドリを守る仕事は大将に任せておけばいいからね。あしたの朝、バンタムを町の市場にもっていって売るとしよう」などというのですが、翌朝、農場にキツネが入りこんできて…と、物語は続きます。小さなチャボのバンタムが、大きな勇気をみせるお話です。小学校低学年向き。

2011年10月5日水曜日

コウモリのルーファスくん












「コウモリのルーファスくん」(トミ・ウンゲラー/作 いまえよしとも/訳 BL出版 2011)

夜、ごちそうを探しにでかけたルーファスは、野外映画会をみかけました。それまで夜しか知らなかったので、映画のきれいな色に驚きました。そして、昼間の素敵な色をみられたらすごいだろうなと思い、次の日の朝、眠らずに起きていました。日が昇りはじめると、その美しさに、ルーファスはみとれてしまいました。

色にあふれた世界を知ったルーファスは、自分のうっとうしい色にうんざりします。だれかが原っぱに忘れていった絵の具をつかって、耳を赤、爪を青、足を紫に塗り、黄色く塗ったお腹のところに、緑の星をえがきます──。

「すてきな三にんぐみ」(偕成社)で高名な、ウンゲラーによる絵本です。ウンゲラーは、ヘビやタコといった、あんまり人気がなさそうな動物をよく主人公にしますが、本書ではコウモリです。このあと、昼間の空に飛びだしたルーファスは人間に撃たれて、地上に落ちてしまいます。そこは、蝶のコレクターとして知られたタータロ先生の庭で、ルーファスが蝶ではないと気づいた先生は、絵の具を落とし、ルーファスの手当をしてくれます。昼間の世界にあこがれた、コウモリのルーファスのお話です。小学校低学年向き。

本書は、「こうもりのルーファス」(はぎたにことこ/訳 岩崎書店 1994)のタイトルでも出版されています。訳文をくらべてみましょう。

「こうもりのルーファス」
《ルーファスは こうもりです。
 いつも、ひるまは ほらあなの
 てんじょうに ぶらさがって、ねてばかり。

 でも、よるになると、ごちそうを
 さがしに そとへ でていきます。》

「コウモリのルーファスくん」
《ルーファスは コウモリ。
 そとがあかるいうちは ずっと――ほらあなの 天井に
 ぶらさがって、ねているばかり。

 でも、夜ともなれば――そとにとびだし、
 ごちそうさがし。》

「ルーファス」は、「ルーファスくん」にくらべて小振りの絵本で、表紙にえがかれたコウモリの向きが逆になっています。それから、印刷のちがいでしょうか、「ルーファス」のほうが、夜がずいぶん明るいです。

2011年10月4日火曜日

ぼくじゃないよ、ジェイクだよ











「ぼくじゃないよ、ジェイクだよ」(アニタ・ジェラーム/作 常陸宮妃華子/訳 国土社 1997)

ある日、ジェイクはとても退屈していました。そこで、飼い犬のジェイクとファッションショーをすることを思いつきました。しばらくすると、お母さんがやってきていいました。「まあ、ダニー、こんなに散らかして!」。すると、ダニーはいいました。「ぼくじゃないよ、ジェイクだよ」

さて、外にでたダニーは、こんどは宝探しをすることを思いつき、庭のあちこちを掘り返します。家に入って、ジェイクを洗って、お風呂場はびちゃびちゃ。そのあと、切り紙あそびをして部屋を紙くずだらけにしてしまいます。そして、お母さんに怒られるたびに、ダニーはジェイクを指さして、「ぼくじゃないよ、ジェイクだよ!」というのですが──。

なんでも飼い犬のジェイクのせいにするダニーのお話です。絵は、漫画風の線画に水彩で色づけしたユーモラスなもの。もちろん、お母さんはダニーがジェイクのせいにするのを見抜いていて、ダニーに罰をあたえます。そして、ジェイクもダニーにやられっぱなしではありません。ラストでは、ダニーに一矢報います。男の子と飼い犬のやりとりをユーモラスにえがいた一冊です。小学校低学年向き。

2011年10月3日月曜日

ハロー! オズワルド












「ハロー! オズワルド」(ダン・ヤッカリーノ/作 青山南/訳 小峰書店 2003)

青いタコのオズワルドは、犬のウィニーとビッグシティに引っ越してきました。「友だちできるかなあ」とオズワルドは心配しましたが、オズワルドはほがらかだから友だちなんかすぐにできると、ウィニーは思いました。

引っ越し先に着いたオズワルドは、まず部屋にピアノを入れようとします。やっと階段の途中まではこびこみ、ひと休みしていると、ピアノはがたん!と降りはじめ、おもてを通って噴水に飛びこんでしまいます。

青いタコのオズワルドの絵本です。絵は、CGでえがかれたとおぼしき、鮮やかな色あいの、メリハリのきいたイラスト調のもの。絵と同じように、お話も率直で明快です。このあと、ペンギンのヘンリー、アイスクリーム屋のジョニー・スノーマン、双子のタマゴ、エグバートとレオ、チョウチョウのマダム・バタフライがあらわれて、オズワルドの部屋にみんなでピアノをはこんでくれます。楽しい登場人物が大勢でてくる、楽しい一冊です。小学校低学年向き。