2011年11月30日水曜日

子リスのアール












「子リスのアール」(ドン・フリーマン/作 やましたはるお/訳 BL出版 2006)

秋の朝早く、灰色リスのお母さんは、小さい息子に話しかけました。「ねえ、アール。そろそろおまえも外にでて、自分の手でドングリをみつけることをおぼえるときだよ」。そこで、アールはジルという名前の、人間の女の子のところにいきました。すると、ジルはアールに、ドングリとクルミ割り器をくれました。

さて、アールが巣穴にもどると、お母さんはこういいます。「リスのくせにクルミ割り器がいるなんて聞いたことある? ドングリもジルがくれたのよね。あの娘は、おまえを世界一だめなリスにする気なのよ!」。アールはジルにクルミ割り器を返しにいき、こんどは赤いスカーフをもらってきます。そして、ドングリをさがしに、夜、ひとりでそっと巣穴を抜けだします──。

「くまのコールテンくん」などで名高いドン・フリーマンの絵本です。絵は、版画風の(版画?)白黒のもの。スカーフだけに赤がつかわれています。アールのドングリさがしは、なかなかうまくいかないのですが、途中出会ったフクロウに、雄ウシのいるナラの木を教えてもらい、赤いスカーフのおかげで、みごとドングリを手に入れます。すべてが思いがけなく進んでいくストーリーが大変楽しい一冊です。小学校中学年向き。

2011年11月29日火曜日

ねずみのウーくん










「ねずみのウーくん」(マリー・ホール・エッツ/作 たなべいすず/訳 富山房 1983)

シューシュコ町の靴直し、マイクルおじさんは、ミーオラという猫とロディゴという犬、それにアンソニー・ウーくんというネズミと一緒に暮らしていました。ミーオラとロディゴはしょっちゅうアンソニー・ウーくんをいじめていました。それに、2匹はいつもケンカばかりしていました。静かに暮らしたくて、オウムのいる姉さんの家をでてきたマイクルおじさんは、みんなに仲良く暮らしてほしいと思っていました。

ある日、マイクルおじさんが、町へ靴をつくる材料を買いにいって家を留守にしているとき、ロディゴとミーオラは大ゲンカをして、家のなかをめちゃくちゃにしてしまいました。そこに、お姉さんのドーラおばさんがやってきました。ドーラおばさんは、ロディゴとミーオラを外にだし、家のなかを掃除しながら、あたしがここに引っ越してきて、弟の世話をすればいいんだわと思いました。

「もりのなか」などで高名な、エッツによる少々長め(55ページ)の読物絵本です。絵は白黒で、文章はタテ書き。このあと、ドーラおばさんはオウムのポリーアンドリューを連れて、マイクルおじさんの家に越してきます。ネズミが大嫌いなドーラおばさんは、あちこちにネズミとりをしかけ、ロディゴやミーオラは、ネズミを捕まえるまでごはんは抜きにされてしまいます。すっかり困ってしまったロディゴとミーオラは相談し、アンソニー・ウーくんに助けをもとめて…と物語は続きます。よく観察のいきとどいた、ていねいな物語はこびが印象深い一冊です。小学校中学年向き。

2011年11月28日月曜日

スティーナとあらしの日












「スティーナとあらしの日」(レーナ・アンデェション/作 佐伯愛子/訳 文化出版局 2002)

毎年、夏になるとスティーナは、島にあるおじいちゃんの家にやってきます。スティーナは、岸に流れついたものや、みつけてほしそうにしているものを、いつも探しまわっています。2人はほとんど毎日舟をだし、しかけた網をしらべにいきます。

さて、夜になり、おじいちゃんはラジオをつけて、「今夜は雨になるらしいぞ」といいました。それを聞いたスティーナは、急に立ち上がり、「もう寝ようっと」といいました。しばらくして、おじいちゃんがスティーナのベッドをのぞくと、ベッドは空っぽになっていました──。

島で嵐に出くわしたスティーナのお話です。絵は、一日の移り変わりが美しくとらえられた水彩。このあと、嵐がどんなものか見にきたものの、暗くて怖くて、岩かげでべそをかいているスティーナを、おじいちゃんはみつけます。そして、最初からやり直しだと、嵐にふさわしい格好をして、もう一度2人ででかけます。おじいちゃんの優しさが心に残る一冊です。小学校中学年向き

2011年11月25日金曜日

アイラのおとまり












「アイラのおとまり」(バーナード・ウェーバー/作・絵 まえざわあきえ/訳 ひさかたチャイルド 2009)

となりのレジーに、泊まりにおいでよといわれ、アイラはとても喜びました。でも、アイラのお姉ちゃんはいいました。「アイラは、赤ちゃんのときから、あのクマのぬいぐるみと寝てるじゃない。ほんとにひとりぼっちで寝られるのかしらねええええ」。

クマちゃんをもっていったら、赤ちゃんみたいだとレジーに笑われるかもしれません。お父さんやお母さんは、「レジーは笑わないからつれていったら」といいますが、お姉ちゃんは「笑うよ」といいます。そこで、さんざん悩んだアイラは──。

お泊まりにいくとき、ぬいぐるみのクマをもっていくかどうかで悩むアイラのお話です。本文は、〈ぼく〉というアイラの一人称。作者のバーナード・ウェーバーは、「ワニのライル」シリーズの作者として高名です。物語はこのあと、ぬいぐるみをもっていかないときめたアイラに、意外なことが起こります。はじめてのお泊まりの不安と楽しさをえがいた読物絵本です。小学校中学年向き。

2011年11月24日木曜日

みんなぼうしをかぶってた












「みんなぼうしをかぶってた」(ウィリアム・スタイグ/作 木坂涼/訳 セーラー出版 2004)

1916年、ぼくは8歳だった。父と母は遠いヨーロッパからアメリカにやってきた。たまに、父と母はケンカをした。冬、部屋がなかなか暖かくならないと、父が暖房器具とケンカをすることもあった。ときおり、遠い両親の生まれ故郷から、かなしい知らせが届いた。母が泣いているのをみると、ぼくらまでどうしていいかわからなくなった──。

1907年に生まれ、2003年に亡くなったウィリアム・スタイグが、子どものころを回想した絵本です。絵はコミカルで、実感のこもった、ひとことでいって素晴らしいもの。スタイグは4人兄弟の下から2番目。小さいアパートに暮らしていたので、ひとりになりたいと思ってもとても無理。父も母もオペラを聴くのが好きで、父はボートをこぐのがとびきりうまかった。近所で一番かわいい子はマリアン・マック。けれど、当時、男の子と女の子は一緒には遊ばなかった──。絵本の冒頭には、8歳の、木に登っている作者が、そして巻末には、この絵本をえがいたころの作者の写真が載っています。外国のひとの、子どものころの話なのですが、読むと胸を打たれるのが不思議です。小学校中学年向き。

ちいさなちゃいろいうし












「ちいさなちゃいろいうし」(ビジョー・ル・トール/作 酒井公子/訳 セーラー出版 1997)

《せなかに
 ぜんぜん
 もようの ない

 ちいさな
 ちゃいろい うしが

   うちの うらにわに
 すんでるの

 ちゃいろい うしは すべすべで

 きれいな つのが
 ふたつ
 おでこの うえに あるの》

女の子が、裏庭にいる茶色いウシについて語った絵本です。文章と同様、絵もシンプルで可愛らしい水彩でえがかれています。小学校低学年向き。

2011年11月21日月曜日

そんなときなんていう?










「そんなときなんていう?」(セシル・ジョスリン/文 モーリス・センダック/絵 たにかわしゅんたろう/訳 岩波書店 1979)

《まちの まんなかで ひとりの しんしが、
 みんなに あかちゃんぞうを あげている。
 いつも ほしいと おもっていたから、
 きみも いっとう うちへ もってかえりたい。
 でも、まず しんしは きみを あかちゃんぞうに
 しょうかいする。
 そんなとき なんていう?》

《おしろの そとで たんぽぽと おだまきそうを
 つんでいると、とつぜん おそろしい りゅうが
 あらわれて、あかい けむりを ふきかけた。
 ところが ちょうど そのとき ゆうかんな
 きしが かけつけ、りゅうの くびを ちょんぎった。
 そんなとき、なんていう?》

本書の冒頭にこうあります。

《わかき しんし
 しゅくじょの ための
 れいぎさほうの ほん》

この言葉どおり、本書は、こういう場合どんな風にこたえればいいかを説いた礼儀作法の本です。引用したような、ナンセンスなシチュエーションをえがいたページをめくると、若き紳士淑女が芝居気たっぷりに、「はじめまして」とか「どうもありがとう」とか返事をします。ほかにも、カウボーイに銃を突きつけられたときや、道ばたでワニを踏んづけたとき、飛行機に乗っていて、ひとのうちの屋根に穴を開けてしまったときなどの答えかたが紹介されています。次つぎとあらわれる、ありえない状況と、礼儀正しい受け答えが楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2011年11月18日金曜日

星と月の生まれた夜











「星と月の生まれた夜」(D・グティエレス/文 M・F・オリベル/絵 山本厚子/訳 河出書房新社 1994)

昔むかし、はるかかなたの村に、闇夜がきらいなひとりのセニョール(男のひと)が住んでいました。セニョールは太陽の光のなかで、一日中竹かごを編んだり、動物たちの世話をしたり、野菜畑に水をまいたりして楽しく暮らしていました。でも、太陽が山のむこうにかくれると、いつも悲しくなりました。

ある日、太陽が姿をかくしてしまうと、セニョールはいちばん高い山に登り、頂上から叫びました。「おーい! 闇夜ー! 暗くするのをやめておくれよ!」。すると、闇夜はちょっとのあいだ暗くするのをやめました。そして、「光をどこに連れていってしまうんだい?」というセニョールにこたえました。「光は、わたしの後ろにかくれてしまうんじゃよ。わたしにはどうすることもできないんだよ」。

世界民族絵本集の一冊です。本書はベネズエラの絵本。物語も、ベネズエラの昔話から採られたのかもしれません。お話はこのあと、闇夜がいったことをくり返し考えたセニョールが、どうすればいいかわかったぞと、再び山に登っていって…と続きます。絵は水彩。夜空に星や月が輝きだす場面では、月や星がほんとうに光っているようにみえます。小学校中学年向き。

いっすんぼうし











「いっすんぼうし」(いしいももこ/文 あきのふく/絵 福音館書店 1980)

昔、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。2人には子どもがありませんでしたので、それをなによりもさびしく思っていました。そこで、おじいさんとおばあさんは、「手の指ほどの小さい子どもでもひとりあったら、どんなによかろう」と話しあい、お天道様をおがんでは、「どうぞ子どもをおさずけください」とお願いしました。

すると、そのうち、おばあさんのお腹が痛くなって、赤ん坊が生まれました。ところが、その男の子は小さくて、手の指ほどしかありません。おじいさんとおばあさんは驚きましたが、これもお天道様のおぼしめしであろうと、赤ん坊を一寸法師と名づけ、可愛がって育てます──。

ご存知、一寸法師のお話です。石井桃子さんと秋野不矩さんによる仕事は、素晴らしい仕上がりです。このあと、12、3になっても小さいままの一寸法師に、おじいさんとおばあさんはがっかりますし、村の子どもたちは「ちび、ちび」といって、馬鹿にするようになります。そこで、一寸法師はみやこにでることを決意して…と物語は続きます。表紙の絵は、おそらくまだマゲを結うまえの一寸法師でしょう。小学校低学年向き。

2011年11月17日木曜日

あらしのひ












「あらしのひ」(シャーロット・ゾロトウ/作 マーガレット・ブロイ・グレアム/江 まついるりこ/訳 ほるぷ出版 1995)

暑いあつい、田舎の夏の日。もやがうごいて、ほてった空が灰色に変わりはじめました。鳥は鳴かず、小枝もそよがず、風も吹かない、どんよりとした大きな世界が息をとめました。黒い雲が姿をあらわし、干上がった地面に影を落としました。すると、つぎつぎに雲が空をおおい、おしまいにはあたりが夜のよう真っ暗になりました──。

嵐がやってきて去るまでをえがいた絵本です。作者のゾロトウは、「うさぎさんてつだってほしいの」などの作者、画家のグレアムは、「どろんこハリー」の画家として、それぞれ高名です。文章は漢字が多いですが、すべてルビが振られています。本書は、絵だけのページと文章だけのページが交互にくる構成。この構成について、訳者の松井るり子さんは「訳者あとがき」でこう記しています。

「ページを立てて両側から顔をくっつけるようにして、大人が字を読み、子どもが絵をみる。その後ページを寝かせて、親子で絵を見る。そんな時間をもってくださいという絵本作家の声が聞こえてきそうです」

読み終わると、ほんとうに嵐がすぎ去ったような気持ちになる一冊です。小学校中学年向き。

2011年11月15日火曜日

おばあちゃんの魚つり












「おばあちゃんの魚つり」(M.B.ゴフスタイン/作・絵 落合恵子/訳 アテネ書房 1980)

おばあちゃんは、釣りにいくとき朝の5時に目をさまし、それから、いそいでいそいでお皿を洗い、大きな麦わら帽を頭にのせて、さあ出発。ボートにこぎだして、日がな一日釣りをします──。

釣りにいくおばあちゃんの一日をえがいた絵本です。おばあちゃんの釣り針には、コイやマスやナマズや、ときにはでっかいカワカマスもかかります。釣った魚はバターで焼いて夕食に。それから、いそいでいそいでお皿を洗い、あしたの釣りに備えます。絵は、非常なシンプルさでえがかれた線画。いつものようにゴフスタインの絵本はシンプルですが、それでいて、おばあちゃんの暮らしが満ち足りたものと思えます。小学校中学年向き。

2011年11月14日月曜日

ふわふわしっぽと小さな金のくつ












「ふわふわしっぽと小さな金のくつ」(デュ・ボウズ・ヘイワード/作 マージョリー・フラック/絵 羽島葉子/訳 1993)

イースター・バニーとは、たった半日のあいだに、世界中をまわって、子どもたちに幸せを呼ぶタマゴを届けるウサギたちのことです。世界中のウサギのなかから、心がやさしくて、足が速くて、おまけにとても賢いウサギが5匹だけえらばれます。イースター・バニーが年をとってはやく走れなくなると、卵宮殿に住む長老ウサギが、世界中のウサギをあつめ、代わりをつとめるのにもっともふさわしい者をえらぶのです。

さて、あるとき、からだは茶色、しっぽは綿の実のように白くてふわふわなので、ふわふわしっぽという名前の田舎ウサギの女の子が、こんなことをいいました。「大人になったら、わたし、イースター・バニーになるの。いまに見てて!」。それを聞いて、大きな真っ白ウサギや、長い足でビュンと走りまわる野ウサギは笑いました。時がすぎ、ふわふわしっぽは大人になり、結婚して21匹のふわふわしっぽの赤ちゃんを生みました。真っ白ウサギや野ウサギは笑いながら、「おまえの仕事は子守だよ。イースターは、おれたちみたいに立派な男のウサギにまかせとけって」といいました。ふわふわしっぽは、幸せのタマゴを世界中の子どもに贈る夢をあきらめて、自分の子どもの世話をすることにしました。

子どもたちが大きくなると、ふわふわしっぽは銘々に、お掃除や料理や洗濯や裁縫や、歌やダンスのしかたなどを教えました。ある日、イースター・バニーの1匹が年をとってはたらけなくなったので、長老ウサギが新しいウサギをえらぶという話を耳にしました。そこで、ふわふわしっぽは少し悲しい気持ちをおぼえながら、子どもたちを連れて卵宮殿に見物にいくことにしました──。

イースター・バニーを主人公にした絵本です。イースターの説明がカバー袖にあるので、引用してみましょう。

《イースターは、キリスト教を信奉する国々で、もっとも大事なお祭りのひとつ。キリストが死後3日目に復活したことを記念し、また春のおとずれに感謝するお祝いです。イースターの祝日は、春分の日のあとの満月のつぎにくる日曜日。だから、その年によって日付がちがいます。》

《イースターに欠かせないのが、このお話の主人公にもなっているイースター・バニー、幸運をよぶ卵を配るうさぎです。うさぎは、春になるとたくさん子どもを産むので、生命や多産の象徴、卵は復活の象徴といわれています。この日は、ゆで卵にきれいに絵を描いてプレゼントしたり、うさぎの形をしたチョコレートやキャンディーを食べたりして楽しく過ごします。》

絵は古風な、しかしウサギの姿がじつに可愛らしいもの。絵を描いたマージョリー・フラックは、「アンガスとあひる」の作者です。文章は漢字が多いのですが、すべてルビが振ってあります。物語はこのあと、ふわふわしっぽが長老ウサギにみこまれて、イースターバニーの仕事をすることになり…と続きます。ふわふわしっぽの活躍が楽しい読物絵本です。小学校中学年向き

2011年11月13日日曜日

あかいじゅうたん

「あかいじゅうたん」(レックス・パーキン/作 みむらみちこ/訳 ジー・シー 1989)

丘の上のラ・サル通りに、ベルビュー・ホテルという小さなホテルがありました。入口には、しま模様の雨よけがあり、特別の日だけ空色の服を着たドアマンっが、赤いじゅうたんをその下にひろげました。

さて、ある日のこと、ホテルにサルタナ公が泊まりにくることになりました。ドアマンは掃除をし、じゅうたんを広げようと靴のちょっと押しました。すると、じゅうたんはどんどん転がっていき、道路にでて、丘をくだって──。

赤いじゅうたんが、町中をどんどんころがっていくという絵本です。絵は、カラーと白黒が交互にくる構成。白黒の場面でも、じゅうたんだけは鮮やかな赤で彩られています。物語はこのあと、町中を駆けめぐるじゅうたんに、市長が緊急事態を宣言。じゅうたんを逮捕するために大勢の警官が出動するという、とんでもない展開になります。でも、もちろん、最後はなにもかもうまくいきます。小学校低学年向き。

2011年11月11日金曜日

門ばんネズミのノーマン











「門ばんネズミのノーマン」(ドン・フリーマン/作 やましたはるお/訳 BL出版 2009)

マジェスティック美術館に、ノーマンという名前のネズミが住んでいました。ノーマンは、美術館の門番で、お宝をみにくる芸術好きのネズミのお客たちを、だれでもむかえ入れました。そして、さまざまな絵や彫刻などを、まるで自分がつくったかのように、ていねいに説明しました。

さて、ほとんどのひとと同じように、ノーマンにも趣味がありました。1日の仕事が終わったあと、すみかにしている騎士のカブトのなかで、絵を描いたり、彫刻をつくったりするのです。ある、とても寒い日に、ノーマンはネズミとりの針金をつかって、ひとつの作品をつくりました。それは、空中ブランコをするネズミをあらわした作品でした。

「くまのコールテンくん」や「みつけたよぼくのにじ」などで高名な、ドン・フリーマンによる絵本です。本作の主人公は、芸術好きのネズミです。門番らしく、きちんと青い制服を身につけています。このあと、美術館で彫刻コンテストがおこなわれることを知ったノーマンは、自分の作品を「ちゅうちゅうブランコ」と名づけて出品します。作品は審査員の好評を得るのですが、自分のしかけたネズミとりが作品になっていると気がついたガードマンが不審に思い…と、物語は続きます。絵は、色鉛筆でえがかれたもの。見返しには、ノーマンがネズミとりの罠をはずす姿がえがかれています。最初から最後まで見所の多い、素晴らしい一冊です。小学校低学年向き。

2011年11月9日水曜日

あかちゃんがやってくる












「あかちゃんがやってくる」(ジョン・バーニンガム/作 ヘレン・オクセンバリー/絵 谷川俊太郎/訳 イースト・プレス 2010)

赤ちゃんがくるのよと、お母さんがぼうやにいいました。いつくるの。用意ができたらね、秋になって葉っぱが茶色くなって散ってくるころ。なんて名前にするの。女の子だったらスーザンかジョセフィン、それともジェニファー。男の子がいいな、一緒に遊べるもん。そしたら、ピーターかスパイダーマンがいい──。

お母さんと男の子が、これから生まれてくる赤ちゃんについて、いろいろ話をする絵本です。赤ちゃんは、シェフになるかもしれないし、絵描きさんになるかもしれない。庭師になるかもしれないし、船長になるかもしれない。お母さんがそういうと、男の子は、赤ちゃん姿の、シェフや絵描きや庭師や船長を思い浮かべます。絵は、線画におそらくコンピュータをつかったと思われる、フラットな色づけがされたもの。人物のしぐさや、シチュエーションがていねいにとらえられています。最後、ぼうやはおじいちゃんと一緒に赤ちゃんに会いにいきます。小学校低学年向き。

古代エジプトのものがたり












「古代エジプトのものがたり」(ロバート・スウィンデルズ/再話 スティーブン・ランバート/絵 百々佑利子/訳 岩波書店 2011)

古代エジプトの神話を紹介した読物絵本です。「太陽神ラーの神話」「オシリスの神話」「ファラオ(王)と神と魔術師」という3つの神話が、17の話により紹介されています。目次を引用してみましょう。

・「まえがき」

《太陽神ラーの神話》
・「光と、ものみなすべての命」
すべてはどうやってはじまったのか

・「いうことをきかない子どもたち」
ヌートとゲブ

・「血の池」
太陽神ラーは、どうやって人間をこらしめたか

《オシリスの神話》
・「神がみのおくりもの」
イシスとオシリス

・「うつくしい箱」
オシリスの死

・「ざんこくな王」
イシス、逃げる
・「ひみつの名前」
イシスはどうやってラーのひみつをききだしたか

・「ちいさなツバメ」
イシス、オシリスをさがす

・「愛の勝利」
オシリス、よみがえる

・「セトの毒ヘビ」
幼子ホルス、すくわれる

・「魔法の目」
ホルスは、どうして目をなくしたか

・「ホルスの復讐」
ホルスは、どうやってオシリスの復讐をなしとげたか

《ファラオ(王)と神と魔術師》
・「王子とゆうれい」
トトの魔法の本

・「怒れる神」
ナイル川の氾濫は、なぜとまったのか

・「なんでももっていた王さま」
おちた髪どめ

・「不実な妻たち」
誠実な弟

・「天にむかう船」
きょうふの旅路

・「物語に登場する男神(おがみ)と女神たち」

このなかから、簡単にオシリスの神話の出だしを紹介しましょう。

ヌートとゲブの子どもたち(イシス、オシリス、セト、ネフティス)が大きくなると、イシスとオシリスにはエジプトのよく肥えた土地があたえられ、セトとネフティスには、砂漠ばかりの残った土地があたえられました。オシリスは役に立つ金属を土のなかから掘りだし、ひとびとにその使いかたを教えました。また、イシスは種をまいたり、ヒツジやヤギやウシを飼うことを教えました。こうして、イシスと、「善き人」と呼ばれるオシリスがおさめたエジプトには、偉大な文明が花開きました。

しかし、オシリスの弟、セトはオシリスをねたんでいました。「兄さんは、いちばんよい土地をもらったんだ。ああいう土地をもらえれば、おれだって美しくしたさ。──オシリスばかり愛され、おれのことはだれも気にかけやしない」。そこで、セトは残酷な計略を思いつきました。長い旅からもどってきたオシリスが、メンフィスの都で休んでいることを知ったセトは、オシリスを呼んで宴会をもよおすことにしました。宴会のさなか、家来たちが華やかに飾られた大きな箱をもってきて、背丈がぴったりおさまれば、この箱がもらえるというゲームがはじまりました。オシリスが入って寝そべると、その箱はオシリスにぴったりでした。でも、これがセトの計略だったのです。セトの家来たちは、オシリスが入った箱のふたを閉じ、縄で縛り上げると、ナイル川に放りこみました。オシリスは息ができなくて死んでしまい、セトはエジプト王の座にすわりました──。

このあと、セトに命を狙われることになったオシリスの身重の妻、イシスの、たったひとりたたかいがはじまります。

絵は、おそらくパステルでえがかれた、シンプルで深みのあるもの。カバー袖にえがかれた訳者による文章によれば、エジプトの物語は、長いあいだだれも知ることができなかったのですが、200年ほど前からヒエログリフ(象形文字)の読みかたがわかってきて、この偉大な物語も知ることができるようになったということです。文章も絵も格調があり、エジプト神話の入門書として優れた一冊となっています。小学校高学年向き。

2011年11月7日月曜日

とうさんおはなしして












「とうさんおはなしして」(アーノルド・ローベル/作 三木 卓/訳 文化出版局 1987)

ベッドに入ったネズミの男の子たちが、父さんネズミにいいました。「お願い、お話をひとつしてよ」。すると、父さんネズミがいいました。「お話が終わったらすぐねんねするって約束するなら、ひとりにひとつずつ、ぜんぶで7つもお話をしてあげよう」。「しますとも、しますとも」と、子どもたちはいいました。

父さんネズミが最初にしたのは、「ねがいごとのいど」というお話。あるとき、願いごとをかなえてくれる井戸をみつけた女の子は、井戸にお金を投げこみました。すると、井戸が「痛いよ!」といいました。次の日も、その次の日も女の子は井戸にお金を投げこみました。でも、そのたびに井戸は「痛いよ!」と返事をするばかり。これじゃ、あたしの願いなんか絶対かないっこないわと、女の子は悲しみましたが、走って家に帰ると、ベッドから枕をとりあげて──。

「がまくんとかえるくん」シリーズで高名な、アーノルド・ローベルによる絵本です。短いお話が7つおさめられています。収録作は以下の通り。

「ねがいごとの いど」
「くもと こども」
「のっぽくん ちびくん」
「ねずみと かぜ」
「だいりょこう」
「ズボンつり」
「おふろ」

お話は、どれもナンセンスでユーモラスなものばかりです。小学校低学年向き。

2011年11月4日金曜日

ねこのホレイショ











「ねこのホレイショ」(エリナー・クライマー/文 ロバート・クァッケンブッシュ/絵 阿部公子/訳 こぐま社 1999)

ネコのホレイショは、しま模様のおじさんネコで、ちょっと太りぎみでした。抱かれるのは嫌いでしたし、うれしいときもめったにのどをゴロゴロ鳴らしませんでした。ホレイショはケイシーさんという女のひとと一緒に、通りに面したレンガづくりの家で暮らしていました。ケイシーさんは、親切すぎるくらい親切なひとで、雨が降ったある日、宿なしの子イヌを家に入れ、そのままおいてやることにしました。ケイシーさんはホレイショに、「きっとおまえのいいお友だちになるわよ」といいましたが、ホレイショはお友だちなんかほしくありませんでした。

その後、お隣りが留守のあいだ、ケイシーさんはウサギも預かってしまいます。さらに、翼の折れたハトがきて、マイケルとベッキーという隣の子どもたちが遊びにきます。とうとう、ホレイショは、もううんざりだと思って家をでてしまうのですが──。

おじさんネコ、ホレイショのお話です。絵は、リノリウム版画でえがかれた、緑とオレンジを基調とした、シンプルで味わい深いもの。このあと、家出をしたホレイショは、2匹の子ネコに出会います。あっちにいけと追い立ててもついてくる子ネコたちの面倒を、ホレイショはしぶしぶみるのですが、ほかに世話をしてくれるひとはいないかと考えて、ケイシーさんのことを思いだします。18×13.5センチと、手のひらサイズの楽しい読物絵本です。小学校低学年向き。

2011年11月2日水曜日

ハービーのかくれが












「ハービーのかくれが」(ラッセル・ホーバン/作 谷口由美子/訳 リリアン・ホーバン/絵 あかね書房 1997)

ジャコウネズミのハービーが裏庭でイカダをつくっていると、お姉さんのミルドレッドが窓から顔を突きだしていいました。「ハービー、やめてよ。うるさいじゃないの。いま詩をつくっているところなのよ」「いやだよ、カナヅチもクギも板も丸太もここにあるんだもん。お姉ちゃんこそどこかにいって詩を書けばいいんだ」。お母さんにも怒られたハービーは、池のむこう岸に泳いで渡り、そこでイカダを完成させます。そして、わざとミルドレッドがみえるところまでイカダをこいで、そこで釣りをしていると、ミルドレッドが声をかけてきます。「そのイカダに乗せてくれない?」「やあだよ。これは、うちでもないし、裏庭でもないんだから。ぜんぶぼくのものだよ。だあれも乗せないよ」

こうして、またいいあらそった2人は、帰ってきたお父さんに罰を受けます。それでも2人はこりません。「あした、すてきなパーティーにいくのよ。弟なんか呼ばれないパーティーよ」と、ミルドレッドがいうと、ハービーもいい返します。「秘密の場所で、秘密クラブの会があるんだ。お姉ちゃんなんか仲間に入れないクラブなんだから」──。

「ジャムつきパンとフランシス」(好学社 2011)などのフランシス絵本で高名な、ホーバン夫妻による絵本です。絵は、魅力的な水彩。このあと、パーティーやクラブを盛んに自慢しあう2人でしたが、偶然たがいの実情を知ってしまい仲直りをします。けんかばかりしている姉弟の姿がいきいきとえがかれた読物絵本です。小学校中学年向き。

魔法のホウキ












「魔法のホウキ」(C・V・オールズバーグ/作 村上春樹/訳 河出書房新社 1993)

はるか昔、ある肌寒い秋の夜のこと、空を飛んでいたホウキは突然飛ぶ力を失って、乗せていた魔女もろとも地上に落ちてしまいました。落ちたところは、ミンナ・ショウという後家さんがひとりで住む家の野菜畑でした。翌朝、魔女をみつけたミンナ・ショウは、恐くてしかたがなかったものの、魔女を家のなかにはこびこみ、ベッドに寝かせてやりました。真夜中になり、傷が癒えた魔女は仲間を呼んで、そこから去っていきました。

さて、ミンナ・ショウは、魔女がいなくなったことには驚きませんでしたが、ホウキがひとりで勝手に床を掃いていることには驚きます。一日中、床を掃き続けるホウキに、別の仕事を教えてみると、ものおぼえのいいホウキは、ぱっとおぼえてしまいます。そのうちホウキは、薪を割ったり、水をはこんだり、牧草地から牛を連れもどしたり、簡単な曲ならピアノで弾けるようになります──。

「急行「北極号」で名高い、オールズバーグの絵本です。絵はモノクロ。絵というより、「場面」といいたくなるような、画像的な絵が、非常な精緻さでえがかれています。このあと、隣人のスパイヴィーさんがホウキを悪魔よばわりし、スパイヴィー家の子どもたちとイヌにからまれたホウキが自分の身を守ったことから、ホウキは焼かれるはめになってしまい…と、物語は続きます。絵も話も不思議な味わいの、幻想的な一冊です。小学校高学年向き。