2012年12月28日金曜日

1つぶのおこめ












「1つぶのおこめ」(デミ/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2009)

昔、インドのある地方に、ひとりの王様がいました。王様は、とれたお米を、ほとんど自分の米倉にしまってしまいました。「米はわしがちゃんとしまっておく。飢饉の年がやってきたら、しまっておいた米をみなに分けあたえよう」と、王様はいいました。

何年ものあいだ豊作が続き、王様の米倉はいっぱいになりました。ところが、ある年飢饉がやってきて、ひとびとの食べるお米がなくなってしまいました。「お約束通り、米倉のお米をひとびとに分けあたえてください」と、大臣たちが頼みましたが、王様は怒鳴り声をあげました。「ならぬ! 飢饉は長く続くかもしれん。約束があろうとなかろうと、王がひもじい思いをするわけにはいかんのだ」

副題は「さんすうのむかしばなし」。絵は、インドの細密画の技法をつかったもの。さて、このあと、王様の宴会のために、1頭のゾウが米を入れたかごを2つはこんでいきます。ところが、片方のかごからお米がこぼれ落ちているのに気がついた村娘のラーニは、落ちてくるお米をスカートで受けとめ、王様に返します。感心した王様が、「なんでも好きなものをほうびにとらせよう」というと、ラーニはこうこたえます。「お米を1粒くださいませ。そして、30日のあいだ、それぞれ倍の数だけお米をくださいませんか」──。かしこいラーニの計画通り、もらうお米はどんどん増えていきます。見開きでえがかれる30日目の絵は圧巻です。小学校中学年向き。

2012年12月27日木曜日

ねずみのとうさんアナトール












「ねずみのとうさんアナトール」(イブ・タイタス/文 ポール・ガルドン/絵 晴海耕平/訳 童話館 1995)

アナトールは、パリ近くの小さなネズミ村に、愛する妻のドーセットと6人の可愛い子どもたちと一緒に暮らしていました。毎日、夕闇がせまると、アナトールたちはパリに通じる大通りを自転車で走りました。そして、人間の家に入りこみ、残りものを頂戴しました。ある夜、入りこんだ家で、アナトールは人間たちがこんなことをいうのを耳にしました。「なんていやらしいネズミだこと!」「やつらはフランスの恥だ。生まれつき悪なんだ」

人間の言葉にショックを受けたアナトールは、友人のガストンに、「人間がぼくたちのことをあんな風にみているとは夢にも思わなかった」ともらします。ガストンは「おれたちだって家族を食べさせねばならないんだぜ」と、こたえますが、アナトールは割り切れません。「軽蔑され、嫌われていると思うとたえられない。ぼくの自尊心はどうなるの? ぼくの誇りは? ぼくの名誉は?」

アナトールが、なぜフランで一番幸せなネズミなのかを語ったお話です。ポール・ガルトンは、「まほうのなべ」などの作者。本書は、白黒と3色のページが交互にあらわれる構成になっています。さて、このあと、「人間になにかお返しができればいいんだけど」という、妻のドーセットの言葉にヒントを得て、アナトールはタイプライターでカードをつくり、夜、デュバルチーズ工場へ忍びこみます──。本の最初と最後が、フランス国旗を模した、洒落たつくりになっています。小学校中学年向き。

ぼくたちまたなかよしさ











「ぼくたちまたなかよしさ」(ハンス・ウィルヘルム/作 久山太市/訳 評論社 1988)

ぼくと妹は、たいていは仲良しです。寝る前にお話をしてやるとき、妹はおとなしく聞いています。でも、分けっこするときは大騒ぎ。ある日、妹はとんでもないことをしでかしました。ぼくが飼っていたカメに運動が必要だなんて考えて、池に放してしまったのです──。

〈ぼく〉は、妹に心底怒り、あんまり腹を立てたせいか具合まで悪くしてしまうのですが――。

兄と妹のけんかを題材にした絵本です。絵は水彩。寝こんでしまった〈ぼく〉は、庭で妹が元気に遊んでいるのがまた許せません。でも、〈ぼく〉はじき妹を許し、仲直りします。裏表紙にえがかれたカメの姿がうれしいです。小学校低学年向き。

2012年12月25日火曜日

イーライじいさんのすてきなともだち

「イーライじいさんのすてきなともだち」(ビル・ピート/作 山下明生/訳 佼成出版社 1986)

昔、カンバンバザンゴという遠い国に、イーライというライオンがすんでいました。かつては、百獣の王と恐れられていたイーライでしたが、いまではすっかり老いぼれて、ネズミみたいに臆病になっていました。ごはんのときも、ライオンたちが満腹になり、ハイエナやジャッカルがあさりつくすまで、おとなしく待っていました。

イーライはハゲタカと一緒に、やっとごはんにありつきます。あんまりハゲタカがわめくので、振り向くと、おばあさんのハゲタカがジャッカルに食わえられ、引きずられていきます。かわいそうになったイーライは、おばあさんのハゲタカを助けるのですが──。

「ちいさなリスのだいりょこう」などをえがいた、ビル・ピートによる絵本です。絵は、色鉛筆でえがかれた、マンガ風の親しみやすいもの。さて、このあと、イーライはハゲタカたちにすっかり慕われてしまいます。あんまりまとわりつかれるので、イーライは怒鳴って追い払うのですが、ある日、ズーバンガ族の男たちがライオン狩りにやってきて──と、お話は続きます。気の利いた展開が楽しい、愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月23日日曜日

ぶす












「ぶす」(もとしたいづみ/文 ささめやゆき/絵 講談社 2007)

昔、ある屋敷に、太郎と次郎という2人の家来がいました。ある日、主人は2人を呼んでいいました。「このつぼには、ぶすという大変な毒が入っている。つぼのほうから吹く風に当たるだけでも死ぬという、大毒だ。わしはこれからでかけるが、くれぐれも近づかないように」

主人がでかけたあと、2人はつぼから吹く風に当たらないように逃げまわります。しかし、主人は平気でつぼをもっていたと思い、中身をみてみようと、扇であおぎながらつぼに近づいていき──。

狂言「ぶす」をもとにした絵本です。狂言のくり返しの多いが、絵本によくあっています。「あおげ あおげ」、「あおぐぞ あおぐぞ」といったセリフまわしや、擬音の表現など、狂言の面白さが、よく反映されています。絵は、さっぱりとえがかれた親しみやすい水彩。このあと、つぼの中身が黒砂糖だと知った2人は、黒砂糖を食べつくし、いいわけに掛け軸や茶碗をこわして──と、おなじみの話へ続きます。小学校低学年向き。

2012年12月21日金曜日

よるのびょういん











「よるのびょういん」(谷川俊太郎/文 長野重一/写真 福音館書店 2006)

朝からお腹が痛いといっていたゆたかが、夜になって高い熱をだしました。お母さんは119番で救急車を呼びました。救急車はあっというまに病院に着きましたが、お母さんにはとても長くかかったように思えました。

当直の先生が診察し、すぐに手術の準備がはじまります。X線と血液検査の技師が呼ばれ、ゆたかのからだを調べます──。

救急車で病院にはこばれ、手術を受ける、ゆたかの一夜をえがいた絵本です。初版は1979年。一般に、写真は絵よりも早く古びるものですが、緊張感のある構成とモノクロの写真が、この絵本をいまでも読めるものにしています。このあと、お母さんは、夜勤をしているお父さんに電話し、手術室では、ゆたかの盲腸の手術がおこなわれます。小学校低学年向き。

2012年12月19日水曜日

もりのくまとテディベア












「もりのくまとテディベア」(谷川俊太郎/詩 和田誠/絵 金の星社 2010)

《もりのくまは ゆったりあるく

 このまがくれの おひさまあびて
 すきなはちみつ さがしてあるく

 ショーウィンドウの テディベアは
 あしはあるけど すわってるだけ
 どこへもいかない なにもたべない》

谷川俊太郎さんと和田誠さんのコンビによる一冊です。内容は、森のクマの人生と、テディベアの人生をならべたもの。森のクマは、厚塗りの水彩でえがかれ、テディベアは着色された線画でえがかれています。また、文章はタテ書きで、森のクマはゴシック、テディベアは明朝体がつかわれています。森のクマは恋をし、子グマを生みます。子ども部屋のテディベアはなにもしません。だれかが抱きしめてくれるのを待っているだけ、年もとらず、擦り切れ、ほころび、だんだん値段が高くなるだけです。クマとテディベアの対比が、味わい深い印象をかもしだしています。小学校低学年向き。

2012年12月18日火曜日

とぶ












「とぶ」(谷川俊太郎/文 和田誠/絵 福音館書店 2006)

ある晩、まことは空を飛ぶ夢をみました。次の日の朝、あんまりいい天気だったので、本当に空を飛べそうな気がしました。夢のなかでやったように、軽い気持ちで走ってみると、足が地面からはなれ、まことは空に浮かんでいました。

なにしろ、空を飛ぶのははじめてです。最初はうまく飛べません。でも、そのうちこつをおぼえて、まことはどんどん空を飛んでいきます──。

谷川俊太郎さんと、和田誠さんのコンビによる絵本です。絵は、空中に浮かんでいる感じが、じつによくでています。このあと、まことは海の上を飛び、畑の上を飛び、お母さんが洗濯物を干している家の上を飛んでいきます。オチも秀逸。まことと一緒に空を飛んでいる気分になれる一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月17日月曜日

かあさん、わたしのことすき?












「かあさん、わたしのことすき?」(バーバラ・ジョシー/文 バーバラ・ラヴァレー/絵 わたなべいちえ/訳 偕成社 1997)

《かあさん、わたしのこと すき?
 ええ すきよ、だいすきよ。

 どれくらい すき?

   わたりがらすが
 たからものを すきなのよりも、
 もっと いっぱい。

 いぬが じぶんの
 しっぽを すきなのよりも
 もっと いっぱい。

 くじらが 潮ふき口をすきなのより もっと いっぱい、
 あなたが すきよ。》

イヌイットの物語をもとにした絵本です。イヌイットのさまざまな風俗を下敷きにしており、巻末に詳しい解説がついています。物語は、母と娘のかけあいで進み、このあと、娘は、「わたしがジコウウシになっちゃったら? セイウチになっちゃったら? 北極グマになっちゃったら?」とたずねます。もちろん、お母さんはやさしくこたえます。「くまの皮をかぶっていても、あなたはあなたなのだから、母さんはあなたが好きよ」。ちょっと、「ぼくにげちゃうよ」を連想させる一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月15日土曜日

マドレーヌといぬ












「マドレーヌといぬ」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1973)

ある日、散歩の途中、マドレーヌは橋の上からすべって川に落ちてしまいました。すると、1匹のイヌが飛びこんで、おぼれそうになっているマドレーヌを助けてくれました。みんなは、その勇ましいイヌを連れ帰り、ジュヌビエーブと名前をつけました。

月日はめぐり、5月になって、評議員たちがぞろぞろ学校検査にやってきます。評議員たちは、「イヌは学校に入るべからずです」と、ジュヌビエーブを追い出してしまいます──。

「げんきなマドレーヌ」の続編です。登場人物や舞台や物語の構成は、前作を踏襲しており、親しみが増しています。さて、ジュヌビエーブを追い出されたマドレーヌは大いに怒ります。「ジュヌビエーブほどえらいイヌはいないわ。あなたには天罰がくだりますから!」。でも、怒ってばかりはいられません。ミス・クラベルにうながされ、みんなはパリ中をさがしまわります。ですが、ジュヌビエーブはみつからず──と、お話は続きます。訳者の瀬田貞二さんは、その翻訳でしばしばむつかしい言葉をつかいます。本書で、川に落ちたマドレーヌをジュヌビエーブが助けるところは、こんな訳になっています。「1ぴきの いぬが とびこんで、マドレーヌを くわえ、もくずになるみを たすけてくれました」。「もくずになるみ」といういいまわしが愉しいです。コールデコット賞受賞。小学校低学年向き。

2012年12月14日金曜日

さあ、とんでごらん!












「さあ、とんでごらん!」(サイモン・ジェームズ/作 福本友美子/訳 岩崎書店 2011)

公園に枯れ葉が舞い落ち、鳥たちが南の国へむかう季節がやってきました。「ジョージも飛ぶ練習をしましょうね」と、ママがいいました。でも、ジョージは飛ぼうとしませんでした。「まだ、いいや。こわいもん。巣のなかにいるほうがいい」と、ジョージはいいました。

ママが食べものをさがしにいくと、突然強い風が吹いてきます。風は木の葉を吹き飛ばし、ジョージの巣も吹き飛ばしてしまいます。ジョージは巣に入ったまま空を飛び、車の屋根に着地するのですが──。

コマ割りされた絵本です。絵は、マンガ風の親しみやすい水彩。吹きだしはなく、コマの下に文章がついています。さて、このあと車が発進し、ジョージの巣は橋から落ち、ちょうど通りがかった船がはこんでいた材木の上に落ちてしまいます。それから、材木はクレーンでつり上げられ、ジョージの巣もビルの建築現場にはこばれて──と、お話は続きます。ママは気が気ではありませんが、最後、ついにジョージは飛び立ちます。小学校低学年向き。

2012年12月13日木曜日

これはおひさま












「これはおひさま」(谷川俊太郎/文 大橋歩/絵 復刊ドットコム 2012)

《これは おひさま

 これは おひさまの したの
 むぎばたけ

 これは おひさまの したの
 むぎばたけで とれた
 こむぎ》

 

「これはのみのぴこ」と同様、どんどん言葉が積み上がっていく、積み上げ話の一冊です。絵は、クレパス(?)で塗った絵を組み合わせたコラージュ。文章も手書きです。このあと、小麦でつくったパンを男の子が食べ──と、言葉がつながっていき、最後、話はお日様にもどってきます。幼児向き。

2012年12月11日火曜日

げんきなマドレーヌ












「げんきなマドレーヌ」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1972)

パリのツタのからんだ、ある古い屋敷に、12人の女の子が暮らしていました。2列になってパンを食べ、2列になって歯を磨き、2列になって眠りました。女の子たちのなかで、一番のおちびさんがマドレーヌでした。冬が好きで、スキーもスケートも得意で、ネズミなんか怖くないし、動物園のトラにもへっちゃらでした。

さて、先生のミス・クラベルは、ある日の真夜中、どうも様子が変だと目をさまします。ちびちゃんのマドレーヌが、起き上がって、わーわー泣いているのです。さっそく、コーン先生が診察をし、マドレーヌは救急車ではこばれていきます──。

名高い「マドレーヌ」シリーズの第1作目です。いきいきとした描線でえがかれた絵は、カラーとモノクロが場面ごとに入れ替わります。文章は、絵の下に2、3行。場面は次つぎと変わっていきます。さて、マドレーヌが入院し、たちまち10日がすぎ去ります。ミス・クラベルとほかの女の子たちは、いつものように2列になって、マドレーヌのお見舞いにでかけます。作者紹介によれば、マドレーヌという名前は、作者ベーメルマンスの奥さんの名前からとられたそう。また、巻末には、作中にあらわれるパリの名所の解説がついています。小学校低学年向き。

やぎとぎんのすず











「やぎとぎんのすず」(八百板洋子/文 小沢良吉/絵 鈴木出版 2006)

ある日、お百姓さんはヤギに、銀の鈴をつけてやりました。ヤギは嬉しくて、首を振りながら跳ねまわりました。草はらの先に森があり、ヤギはそのなかに入っていこうとしました。ところが、イバラが茂っていてなかには入れません。ヤギがむりやり通ろうとすると、鈴が首からはずれて落ちてしまいました。

「イバラめ、なんてことをするんだ。ぼくの鈴を返してくれ」と、ヤギはいいますが、イバラは「自分でとるがいい!」と知らんぷりします。そこで、ヤギは、イバラをひどいめにあわせてやろうと、ノコギリのところにいくのですが──。

ルーマニアの昔話をもとにした絵本です。絵は、さっとえがかれた水彩。見返しに、ヤギのスケッチがたくさんあり、目を楽しませてくれます。さて、ヤギはノコギリのもとを訪れ、イバラへの仕返しを頼むのですが、「イバラはなにも悪いことはしていない」と、ノコギリに断られてしまいます。そこで、ヤギはこんどは火のもとを訪れて、ノコギリを燃やしてくれ頼むのですが──。このあと、ヤギは、川、ウシ、お百姓のもとを訪れます。「ひつじかいとうさぎ」などと同様、典型的な積み上げ話のパターンなのですが、最後の最後でそのパターンはくずされます。いささか根性の悪いヤギが、相応の報いをうける、気持ちのいい1冊となっています。小学校低学年向き。

2012年12月8日土曜日

キュッパのはくぶつかん












「キュッパのはくぶつかん」(オーシル・カンスタ・ヨンセン/作 ひだにれいこ/訳 福音館書店 2012)

森に落ちているものを拾うのが大好きな、丸太の男の子キュッパは、きょうも森でたくさんのものを拾ってきました。家に帰ると、拾ってきたものを全部床に広げました。それから、百科事典で名前を調べ、分類し、ラベルをつけました。そして、しまう場所をさがしましたが、でも、もうどこもいっぱいで、しまう場所はありませんでした。

キュッパは、困ったことがあると、町に住んでいるおばあちゃんに相談します。電話をかけると、おばあちゃんはこういいます。「そんなにものがたくさんあるのなら、おまえも博物館をつくってみたらどうだい?」

ものをあつめるのが大好きな男の子キュッパのお話です。ノルウェーの絵本で、絵はおそらく鉛筆とCGによるもの。キュッパのあつめたものが細ごまえがかれていて、みているだけで楽しくなります。また、むつかしい言葉には解説がついています。「分類」の説明はこう。「にたものどうしを あつめて しゅるいごとに わけること」。さて、おばあちゃんのアドバイスにしたがって、キュッパは博物館を開きます。努力のかいがあり、博物館には大勢のお客がつめかけるのですが、せまい部屋で眠るのも、箱につまずいて転ぶのにもうんざりしてしまったキュッパは一週間で博物館をやめてしまい──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

以下は余談。北欧のスーパーマーケットでみつけた食品や雑貨をあつめて一冊にした本、「スーパーマーケットマニア 北欧5カ国編」(森井ユカ/著 講談社 2011)にも、ほんの少し「キュッパのはくぶつかん」が紹介されています。こちらの訳では、「クッベくん博物館をつくる」。オスロの図書館の司書に、おすすめの絵本をたずね、何冊かみせてもらったうちの一冊がこの本だったということです。

2012年12月7日金曜日

おとうさん












「おとうさん」(シャーロット・ゾロトウ/文 ベン・シェクター/絵 みらいなな/訳 童話屋 2009)

《ぼくには おうさんはいない。
 ぼくが うまれたとき
 とうさんは もういなかった。
 かあさんが はなしてくれた とうさんは
 おとこらしく りっぱだ。
 もし いきていれば
 こんなとうさんだ。》

〈ぼく〉が、いまはいない父さんについて、思いをめぐらせた一冊です。〈ぼく〉と父さんは、毎朝一緒に家をでます。「きょうもいい日だ。しっかりやろう!」と、父さんはいいます。夕方、父さんは帰ってくると、なつかしそうに〈ぼく〉をみます──。巻末の「訳者より」には、こんな文章が記されています。

《この絵本「A Father Like that」の訳出にあたり、作者シャーロット・ゾロトウさんの意向で、少年の父親不在の理由を戦争で死んだとしました。それに伴い、文章の細部を多少変更いたしました。》

小学校低学年向き。

2012年12月6日木曜日

ばけものでら










「ばけものでら」(岩崎京子/文 田島征三/絵 教育画劇 2000)

昔、ある村に、荒れた寺がありました。あるとき、旅の坊さまがやってきて、今夜はここに泊めてもらおうと声をかけました。しかし返事はありません。通りがかった村人に訊いてみると、「ここに泊まるのはやめたほうがええ。化けもんがおってとりつかれるぞ」。すると、坊さんは、「ほう、化けもんか。会ってみたかった」といって、ずんずん寺にあがりました。

さて、掃除をしたあと、坊さんは眠りにつきます。すると、化けものたちがあらわれて、坊さまのまわりで踊りだし──。

絵を描いた田島征三さんは、「ちからたろう」などをえがいたひと。この絵本でも、豪放な絵をえがいています。このあと、坊さまは、「うるさくて寝ておれん」と、化けものと一緒に踊りだします。そして、最後に化けものたちの正体が明かされます。小学校低学年向き。

2012年12月4日火曜日

ガンピーさんのドライブ












「ガンピーさんのドライブ」(ジョン・バーニンガム/作 みつよしなつや/訳 ほるぷ出版 1978)

ガンピーさんは、自動車に乗ってドライブにでかけました。門をでて、細い小道をゆくと、「一緒にいってもいい?」と、子どもたちがいいました。ウサギや、ネコや、イヌや、ブタや、ヒツジや、ニワトリや、子ウシや、ヤギもいいました。「あたしたちもいい?」

ガンピーさんは、みんなを乗せて出発します。はじめは、お日様がきらきら輝き、エンジンはぽっぽと音をたて、なにもかもいい調子だったのですが──。

「ガンピーさんのふなあそび」の姉妹編です。ジョン・バーニンガムは、「ひみつだから!」など数々の作品をえがいたひと。さて、このあと、ガンピーさんたちは雨に降られてしまいます。おまけに、ぬかるみにタイヤをとられ、だれかが車から降りて、押さなくてはいけなくなります。すると、みんなはいいあらそいをはじめて──と、お話は続きます。お話会でよくつかわれる絵本の一冊です。小学校低学年向き。

2012年12月3日月曜日

かじかびょうぶ












「かじかびょうぶ」(川崎大治/文 太田大八/絵 童心社 2004)

昔、ある山里に、とても栄えた家がありました。ところが、その家のあるじの菊三郎は、生まれつきの怠け者で、毎日遊んで暮らしていました。そのため、あれぼどあった山や畑も売りつくし、とうとうかじか沢のある奥山も、手放すことになってしまいました。

売るまえに、菊三郎は奥山をみにでかけます。かじか沢の大きな一枚岩に寝ころんでいると、水草でつくったような、ぼろぼろの着物を着て、カエルのような顔をした奇妙なじいさまがあらわれます。「わっしゃあ、このあたり一帯に住む、かじかの棟梁でごぜえやす」と、じいさまはいいます。「のう、菊三郎さま。この、かじか沢だけは、どうか売らんどいてくださりませ──」

川崎大治さんが、伊豆の老人から聞いたという話をもとにした絵本です。文章は、民話調のタテ書き。太田大八さんは「天人女房」など、さまざまな作品をえがいています。さて、このあと、菊三郎は、家の古道具をかきあつめて売り払い、なんとかかじか沢を売らずにすませます。おかげで、家に残ったのは、なにも描いていない屏風が一枚きりになってしまいます。ところが、その晩、眠っている菊三郎の耳に、何十、何百というかじかの鳴く声が聞こえ、起きてみると、屏風にみごとなかじかの絵が描かれていて──と、お話は続きます。かじか(カエル)と人間の交流をえがいた、味わい深い一冊です。小学校中学年向き。

2012年12月1日土曜日

おはようのほん

「おはようのほん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 ジャン・シャロー/絵 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1997)

《よが あけます。おつきさまが しずみます。
 あけのみょうじょうが あかるく かがやきます──
 はれやかな あさのほし

 ひがしのほうから とつぜん
 ひとすじのひかりが さします。

 うみにつきだした がけは
 きらきらと こがねいろ。
 おひさまが のぼりました
 きぎのみどりを そめて。》

「おやすみなさいのほん」の姉妹編です。絵は、色鉛筆でえがかれたものでしょうか。かたちのしっかりした、彫刻的な絵柄です。このあと、オンドリが時をつくり、小鳥たちがさえずり、お日様は子馬や、リスや、ヒツジを次々に起こしていきます。最後のページの絵が大変印象的。まさに目のさめる一冊となっています。小学校低学年向き。

2012年11月30日金曜日

ふしぎなたね












「ふしぎなたね」(安野光雅/作 童話屋 1992)

昔、あるところに怠け者の男が住んでいました。ある日、仙人があらわれて、男にこういいました。「おまえに不思議なタネをあげよう。そのタネを1個焼いて食べれば、1年間はもうなにも食べなくてもお腹がすくことはない。また、このタネを1個地面に埋めると、来年の秋には必ず実って2個になる」

男は、タネをひとつ食べ、ひとつ埋めます。秋になり、実った2個のタネを、またひとつ食べ、もうひとつをまた埋めます。しばらくそうして暮らしていたのですが、「このままだと、いつまでたってもおんなじだ」と、男はタネを2つ埋め、その年はなにかほかのものを食べることにします──。

「美しい数学シリーズ」の一冊です。「旅の絵本」など、さまざまな絵本を手がけた安野光雅さんによるもの。この絵本でも、さっぱりとした水彩画をえがいています。さて、男が埋めた2個のタネは、次の年4個のタネを実らせます。そこで、男はタネを1個食べ、残りの3個を地面に埋めます。すると、次の年は6個のタネが、その次の年は10個のタネが、その次の年には18個のタネが実ります。いつしか男ははたらき者になり、結婚し、子どもをもうけますが、思いがけない災難に出会います──。最後の最後で、ただの算数の本ではなくなる、美しい絵本です。小学校中学年向き。

2012年11月28日水曜日

父さんと釣りにいった日












「父さんと釣りにいった日」(シャロン・クリーチ/文 クリス・ラシュカ/絵 長田弘/訳 文化出版局 2002)

ぼくが子どもだったときのある土曜日、父さんとぼくは朝早くから家をとびだし、裏庭でミミズをさがしました。車のトランクに、2本の釣り竿と、ミミズの缶と、サンドイッチを入れたバックと、水を入れた魔法瓶をしまうと、父さんはいいました。「だれも知らないところへいこう。新鮮な空気を釣りにいこう! そよ風を釣りにいこう!」

道みち、父さんが、「あの街灯をみてごらん。一列に並んで輝いている、たくさんのちっちゃな月みたいだ」というと、街灯はたくさんのちっちゃな月に様変わりします──。

川へ釣りにでかけた父子の絵本です。絵は、カラフルな水彩。川に着いた2人は釣りをしながら話をします。子どものころ、父さんはどこに住んでいたの? 子どものころ父さんが住んでいた家のまわりは、どんなところだったの? こうして〈ぼく〉は、新鮮な空気や、そよ風や、父さんが住んでいたちっちゃな家や、澄んだつめたい川や、そのほかもろもろを釣り上げます。にぎやかな絵と、父子の情愛が響きあった、美しい一冊です。小学校中学年向き。

ダッシュだフラッシュ











「ダッシュだフラッシュ」(ドン・フリーマン/作 なかがわちひろ/訳 BL出版 2009)

小さな街に、フラッシュとシャッセという、2匹のダックスフンドが住んでいました。はたらき者のシャッセは、街中を走りまわって、新聞や花束の配達をして、お礼にサンドイッチや骨をもらって帰りました。ところが、怠け者のフラッシュは、毎日昼寝ばかりしていました。ある日、シャッセはフラッシュにいいました。「きょうは、あなたが仕事にいって、2人分の食べものをもらってきてちょうだい」

街にでかけてみたものの、みんなは仕事をくれません。ですが、電報局の窓に貼ってある配達係募集の貼紙をみつけ、フラッシュは配達係として雇われることになります──。

「くまのコールテンくん」などで名高い、ドン・フリーマンによる絵本です。絵は、黄色と黒の、ほとんどモノクロ調のもの。さっと引かれた線による、フラッシュとシャッセの表情が大変魅力的です。このあと、フラッシュは、シャッセがあきれるほどはたらくようになるのですが、ある日、もとの怠け者にもどってしまい──と、お話は続きます。はたらき者になったり、怠け者になったりするフラッシュが、なんとも味わい深い一冊です。小学校低学年向き。

2012年11月26日月曜日

おなかのすくさんぽ












「おなかのすくさんぽ」(かたやまけん/作 福音館書店 1992)

ぼくが真っ白いシャツを着て歩いていたら、動物たちが水たまりで遊んでいました。ぼくも仲間に入って、バチャッバチャバチャン。泥んこでおまんじゅうをつくり、クマが掘ってくれた穴に入って、まあるくなりました。

〈ぼく〉は、動物たちと一緒に洞窟を探検し、坂道をごろごろと転げ落ち、川に入って水浴びをします──。

「むぎばたけ」などをえがいた片山健さんによる一冊です。絵はおそらく色鉛筆でえがかれたもの。勢いと生気があり、〈ぼく〉と動物たちがどんどん進んでいくさまが、力強くえがかれています。〈ぼく〉は、眉毛が太く、たいそう凛々しい顔立ちです。さて、水浴びをしていると、クマが「きみは美味しそうだね。ちょっとだけ舐めていい?」といいだします。そこで、〈ぼく〉はちょっとだけ舐めさせたり、噛ませたりさせてやります。そのうちお腹がすいてきて、みんな家に帰ります。小学校低学年向き。

2012年11月23日金曜日

みみずくと3びきのこねこ












「みみずくと3びきのこねこ」(アリス・プロベンセン/作 マーティン・プロベンセン/作 きしだえりこ/訳 ほるぷ出版 1985)

春の終わり、夏が近づくと、雷や稲妻をつれた黒雲がお日様をかくしてしまうことがあります。ちょうどそんな日、かえでがおか農場の全部の木の、ひいじいさんのひいじいさん、一番古い木が風に吹き倒されました。嵐が去って、風がおさまると、倒れた木のうろから小さな小さなミミズクの子がでてきました。

農場の子どもたちは、ミミズクの子を世話することにします。食べものはステーキの細切れ、飲みものは点眼器でしずくを飲ませます。ミミズクのミミちゃんは、からだ中に羽根が伸びてきて、まだ飛べませんが、後ろに手を組んだ小さな社長のように、ぐるぐる歩きまわります──。

かえでがおか農場シリーズの一冊です。作者は「栄光への大飛行」をえがいたひとたちです。絵は、シンプルでおだやかなもの。絵と文章のバランスが、じつにうまくとれています。このあと、ミミちゃんは着実に大きくなり、森に返すときがやってきます。自分でエサがとれるように練習してから、森に放し、毎朝呼ぶともどってきますが、じきに呼んでもこなくなります。ここまでが本書の前半。後半は、3匹の子ネコの話となります。小学校中学年向き。

2012年11月22日木曜日

郵便局員ねこ











「郵便局員ねこ」(ゲイル・E・ヘイリー/作 あしのあき/訳 ほるぷ出版 1992)

その酪農場にいた大勢のネコのなかでも、クレアはもっとも冒険心のある子ネコでした。もうそろそろ大人になったのだから、自分自身の住処をみつけなくてはと考えていました。そこで、ある日、ミルク運搬車に乗りこんで、ロンドンに向かいました。

ロンドンに着いたクレアは、夏中を公園ですごします。ですが、冬になると、公園にはだれもこなくなってしまいます。漁船の着くビリングスゲートにいったり、とある家に入りこんだものの料理女に追い出されたり、貧民街で貧しいひとたちとほんの少しの食べものを分けあったりしたあと、クレアは王立郵便局に入りこみます──。

作者のゲイル・E・ヘイリーは、アフリカの民話に材をとった「おはなしおはなし」を描いたひと。巻末の「このおはなしの由来」によれば、1800年代、ネズミに郵便物や為替がかじられる被害をこうむっていた郵便局は、ネコを局員として採用することになったとのこと。のちには、ネコに対する支給を計上することが公認されたということです。絵は、太い描線に淡く色づけされた、版画風(版画?)のもの。このあと、郵便局員ネコとなったクレアは、首からH.M.P.O.C(女王陛下直属郵便局員ねこ)のメダルをぶら下げ、郵便局で幸せに暮らすようになります。小学校中学年向き。

2012年11月20日火曜日

こぐまのくまくん












「こぐまのくまくん」(E.H.ミナリック/文 モーリス・センダック/絵 まつおかきょうこ/訳 福音館書店 1980)

雪の降ったある日、くまくんは母さんぐまに、「寒いよう。ぼく、なにか着るものがほしい」といいました。そこで、母さんぐまはくまくんに、帽子をこしらえてあげました。

ところが、外にでたくまくんは、すぐもどってきてしまいます。「寒いよう。ぼく、なにか着るものがほしい」というので、母さんぐまはくまくんにオーバーをこしらえてやねのですが──。

「こぐまのくまくん」シリーズの一冊です。本書にはお話が4つ入っていて、シリーズはぜんぶで5巻あります。「かいじゅうたちのいるところ」の作者として高名なセンダックは、本書でも、じつに存在感のあるくまくんと母さんぐまを描いています。さて、外にでたくまくんは、すぐにまたもどってきて「寒いよう」と母さんぐまに訴えます。母さんぐまは、こんどはズボンをこしらえてあげるのですが、それでもくまくんは着るものがほしいというのをやめません。「この上なにがほしいの?」「毛皮のマントがほしい」。そこで、母さんぐまは──と、お話は続きます。愛情深い母さんぐまと、ナンセンス味のあるストーリーが楽しい作品です。小学校低学年向き。

まっててね












「まっててね」(シャーロット・ゾロトウ/文 エリック・ブレグヴァド/絵 みらいなな/訳 童話屋 1991)

結婚したばかりの姉さんが、泊まりにきて、楽しく遊んで、また帰っていきました。元の自分の部屋で眠り、まるでお客様のように母さんとコーヒーを飲みました。

姉さんを送っていった帰り、〈わたし〉は母さんにこういいます。わたしも遊びにきてもいい? 姉さんみたいになって、パウダーをこぼさないひとになるし、お風呂場を水浸しになんかにしなくなるのよ──。

「いまがたのしいもん」などの作者、ゾロトウとブレグヴァドによる絵本です。絵は、線画に少し緑と茶色を色づけした、親しみやすいもの。このあとも、「次から次にスカーフをだしたり、ネックレスをつけてみたりしない、いろんなことができるひとになって母さんに会いにくるわ」と、〈わたし〉は続けます。結婚した姉さんにあこがれる〈わたし〉の、可愛らしい一冊です。小学校低学年向き。

2012年11月17日土曜日

クリスマスのまえのばん












「クリスマスのまえのばん」(クレメント・C・ムーア/文 わたなべしげお/訳 ウィリアム・W・デンスロウ/絵 福音館書店 1996)

《クリスマスの まえのばんのことでした。
 いえのなかは ひっそりと しずまりかえり
 なに ひとつ
 ねずみ いっぴき うごきません。

 セントニコラスが はやく くるように と
 ねがいを こめて
 だんろの そばに くつしたが
 だいじそうに かけられています。

 こどもたちは ベッドの なかで
 すやすやと ねむり
 ゆめの なかで いろいろな
 さとうがしが おどっています。》

冒頭の「はじめに」によれば、クレメント・C・ムーアが1822年のクリスマスの前夜、自分の子どもたちを喜ばせようと「セントニコラスの訪れ」という物語詩を書き、これが「クリスマスのまえのばん」としてよく知られるアメリカの古典となったということです。そして、80年後の1902年、「オズの魔法使い」の挿絵で知られる、ウィリアム・W・デンスロウが姪のために絵本に仕立てたのが本書。全体の調子は実に陽気です。煙突を通ったセントニコラスは、文字通り暖炉から飛び出します。

さて、古典である「クリスマスのまえのばん」には、いろいろな訳があります。ここでは、ツヴェルガーが絵を描いた「クリスマスのまえのばん」(江國香織/訳 BL出版 2006)をみてみましょう。












《クリスマスのまえのばんのことでした。
 いえじゅうがしんとして、だれも、それこそねずみいっぴき、
 めざめているものはありませんでした。
 セント・ニコラスがやってきたばあいにそなえて、
 だんろのそばにはくつしたが、ちゃんとつるしてありました。

 こどもたちはきもちよさそうによりそって、ベッドにおさまっていました。
 それぞれのこころのなかで、あまいさとうがしたちが
 おどってもいるのでしょう。》

江國香織さんの訳は、ツヴェルガーのひんやりとした絵によくあった、涼しげなもの。また、江國訳では、詩は〈わたし〉の1人称で語られています。こちらの本では、セントニコラスは陽気に暖炉から飛び出したりはしません。少しはにかんだような顔をして、うつむきかげんに歩いてきます。小学校低学年向き。

2012年11月16日金曜日

子うさぎましろのお話












「子うさぎましろのお話」(ささきたづ/文 みよしせきや/絵 ポプラ社 1978)

クリスマスがやってきて、北の国の動物の子どもたちも、サンタクロースのおじさんから、それぞれ贈りものをもらいました。なかでも、白うさぎの子ましろは、一番先にもらいました。贈りものは、銀色の玉やバラのかたちをしたクリームで飾ってある大きなお菓子と、部屋にかけるきれいな飾りでした。

さて、お菓子をぺろりと食べてしまったましろは、もっとなにかほしくなります。そこで、囲炉裏の燃えがらすりつけて、からだを黒くすると、帰ってくるサンタクロースのおじさんを待ちかまえるために、そっとうちを抜けだします。

クリスマス絵本の一冊です。巻末の「おわりに」によれば、この絵本は、作者である佐々木たづさんの2冊目の童話集「もえる島」のなかの一編をとってつくられたということです。絵は、クレパス(色鉛筆?)でえがかれた、北国の感じがよくでた簡潔なもの。文章はタテ書きです。このあと、黒く化けたましろのことを、サンタクロースのおじいさんはひと目で見抜きます。ですが、空っぽの袋のなかからひとつぶの種をみつけだし、自分のサンドウィッチと一緒に、それをましろに渡します。サンタクロースと別れたましろは、からだにつけた炭をとろうとするのですが、なぜか炭は落ちず、ましろは涙をこぼして──と、お話は続きます。初版は1970年。ましろの心の起伏がよくえがかれた傑作です。小学校中学年向き。

2012年11月15日木曜日

ケムエルとノアのはこぶね











「ケムエルとノアのはこぶね」(ディック・ブルーナ/作 まつおかきょうこ/訳 福音館書店 1999)

昔、地球はそれはそれは美しいところでした。太陽は輝き、鳥は飛び、いろんな色のチョウが舞い、地面は花でいっぱいでした。毛虫のケムエルも、木の下でチョウになる日を夢みていました。

ところが、地上では人間たちが争いばかりしています。そこで、神さまは平和に暮らしているノアの家族に、箱舟をつくるように命じました──。

「うさこちゃん」シリーズで名高い、ブルーナによる、ノアの箱舟伝説をもとにした絵本です。ノアの箱舟をテーマにしても、ブルーナの簡潔で清潔なスタイルは変わりません。このあと、ノアは3人の息子と力をあわせ、大きな船をつくり、神さまに命じられたように、ひとつがいずつ動物たちを船に乗せます。ノアの家族も、毛虫のケムエルとそのガールフレンドも乗りこむと、大雨が降ってきます──。毛虫を登場させたことが、この作品の面白さのひとつです。また、ブルーナはじつにブルーナらしく、大雨を表現しています。小学校低学年向き。

2012年11月14日水曜日

まっててねハリー












「まっててねハリー」(メアリー・チャルマーズ/作 おびかゆうこ/訳 福音館書店 2012)

ある日、ハリーのお母さんは、友だちのお見舞いにいくことになりました。そこで、ハリーは通りの先にあるブルスターさんのお家で待っていることになりました。ハリーは、車と、積み木と、ダンプカーと、風車と、クマさんと、恐竜と、塗り絵と、絵本と、飛行機を荷車に積んで、お母さんと一緒にブルスターさんのお家にいきました。

ハリーは、生まれてはじめてお母さんなしで、よその家ですごします。お母さんがでかけることはわかっていましたが、でも本当に置いていかれるとは思っていなかったので、ハリーはとても悲しくなってしまいます。

子ネコのハリーを主人公にしたシリーズの1冊です。「ピーターラビット」と同じ大きさの、小振りなサイズの本。作者のメアリー・チャールズは、「とうさんねこのすてきなひみつ」をえがいたひとです。絵は、おそらく鉛筆に、ところどころ1色だけ色がおかれた、親しみに満ちたもの。本書でつかわれている色は紫ですが、シリーズ1冊ごとに、つかわれている色が変わります。さて、このあとブルスターさんは、ハリーにクッキーをあげたりして元気づけ、ハリーもしだいに伸びのびと遊ぶようになります。お母さんがハリーを置いていってしまう場面は、深く印象に残ります。小学校低学年向き。

2012年11月13日火曜日

くまのテディちゃん












「くまのテディちゃん」(グレタ・ヤヌス/作 ロジャー・デュボアザン/絵 湯沢朱実/訳 こぐま社 1998)

テディちゃんは、茶色のクマさんです。テディちゃんは、黄色いつりズボンと、赤いゾウがプリントされた小さいエプロンをもっています。すわるのに小さな青い椅子と、小さな青いテーブルと、小さな緑色のコップももっていて、小さな青い椅子にすわって、小さな青いテーブルについて、緑のコップで飲みものを飲みます──。

絵を描いたデュボアザンは、「ごきげんなライオン」「せかいのはてってどこですか」などの画家として高名です。本書でも、明快な、洒落た絵をつけています。テディちゃんはほかにもまだ、小さな緑のお皿と、小さな緑のスプーンと、小さな青いベッドをもっています。

《自分のものを持つのがうれしい…、そして、それを自分で使うのはもっとうれしい…、そんな時期の子どもにぴったりの絵本です》

と、カバー袖に記されています。幼児向き。

2012年11月11日日曜日

もじゃもじゃペーター












「もじゃもじゃペーター」(ハインリッヒ・ホフマン/作 ささきたづこ/訳 ほるぷ出版 1985)

ハインリッヒ・ホフマンによる歴史的な絵本です。巻末に、その由来が載せられていますので、引用してみます。

《もともと開業医として、診察時にむずかる子をなぐさめるために、お話をしたり絵を描いて見せたりするのが得意だったホフマンは、1844年のクリスマスの一週間ほど前、3歳になる息子に贈る適当な絵本を本屋で見つけることができなかったので、かわりに1冊のノートを買ってきて、自分で絵を描き、詩をそえて絵本をつくった。それが出版者カール・F・レーニングの眼にとまり、「もじゃもじゃペーター」を含む6編の話からなる初版が1845年に出版されるやいなや、1ヶ月のうちに1500部を売りつくす大評判をおさめた》

ところで、本書は、「ぼうぼうあたま」(教育出版センター)というタイトルでも出版されました。初版は1936年、第3版は1992年。巻末に記された文章によれば、新版編集者の財団法人五倫文庫というのは、千葉県御宿町の町立博物館のなかにある文庫なのだそう。で、なぜ、この文庫が編集者として名をつらねているのか。この文庫の設立は1892年。当時の御宿村立尋常高等小学校の校長、伊藤鬼一郎が、毎年使用される教科書を保存したことによりはじまったのだといいます。収集は次第に、台湾、朝鮮、中国へと広がり、息子の伊藤庸二がドイツに留学すると、ドイツの教科書も加わります。そして、この伊藤庸二が、甥のために「ぼうぼうあたま」を翻訳して送ったのが、そもそものはじまり。のちに、長男の誕生記念として出版したのが、本書の初版だということです。

物語風の詩と素朴な絵とから成った本書は、ナンセンスで、いささか残酷で、教訓的で、リズミカル。表題となっている「もじゃもじゃペーター」と「ぼうぼうあたま」を引用してみましょう。

「もじゃもじゃペーター」
《ごらんよ ここにいる このこを
 うへえ! もじゃもじゃペーターだ
 りょうての つめは 1ねんも
 きらせないから のびほうだい
 かみにも くしを いれさせない
 うへえ! と だれもが さけんでる
 きたない もじゃもじゃペーターだ!》

「ぼうぼうあたま」
《ちょっと ごらん
 この こども
 ちぇっ!
 ストルーベルペーターめ
 りょうほ の おてて に
 ながい つめ
 いちねん にねん も
      きらせない
 かみ も ぼうぼう
      きらせない
 ちぇっ!
  きたない ペーターめ》

この2冊は、つかわれている絵も、レイアウトもちがうのですが、印刷のぎつい「ぼうぼうあたま」よりも、稚拙な味わいのある「もじゃもじゃペーター」のほう絵が、よりオリジナル版であるようです。また、「もじゃもじゃペーター」は右ページにだけ印刷がされています。「もじゃもじゃペーター」の、カバー袖の文章によれば、ホフマンは、自分の描いた絵が、きれいに修整されたりしないように、職人たちをきびしく監督したということです。小学校中学年向き

2012年11月9日金曜日

ノアの箱舟










「ノアの箱舟」(アーサー・ガイサート/作 小塩節/訳 小塩トシ子/訳 こぐま社 1989)

ノアとその息子たちは、神さまに箱船をつくれと命じられました。箱船には、ノアと、ノアの妻と、ノアの3人の息子とその妻たちが乗り、そして地上のあらゆる生きものが、ひとつがいずつ乗るのです。ある晩、動物たちは、箱船に向かって旅をはじめました。そして、動物たちが箱船のもとに到着したとき、空には一片の雲があらわれました。

動物たちは次つぎに到着し、雲も次つぎにあらわれます。箱船は徐々に建造され、いよいよ雨が降りはじめます──。

ノアの箱船伝説をもとにした絵本です。絵は、すみずみまでみたくなる緻密な銅版画。訳文も、重厚な銅版画にふさわしい、簡潔で力強いものです。さて、大洪水が起こり船が陸地をはなれると、箱船を清潔にたもつために、ノアの一家は懸命にはたらきます。そして、ついに雨が上がった場面では、洗濯物とともに、箱船の屋根でくつろぐノアの一家がえがかれます。読んでいて、乾いた風を感じるような思いがします。小学校中学年向き。

2012年11月8日木曜日

川のぼうけん












「川のぼうけん」(エリザベス・ローズ/文 ジェラルド・ローズ/絵 ふしみみさを/訳 岩波書店 2012)

高い山のてっぺんに、雨つぶが降りました。雨つぶたちは土の割れ目を下り、草木の根本をまわって、やがて石の上をちょろちょろ走る小さな流れになりました。いつのまにか雨が上がり、弧をえがいて飛ぶタカに、流れは声をかけました。「タカさん、一緒に海にいこうよ。ぼく、大きな川にんりたいんだ」

流れはやがて小川になり、滝になり、干上がりそうになったと思ったら嵐のおかげで勢いを増し、一路海へと向かいます。

エリザベスとジェラルドの、ローズ夫妻は、「ウィンクルさんとかもめ」「おおきなかしの木」の作者です。絵は、少ない色数をたくみにつかった、大変生き生きしたもの。本書は、川のはじまりから海にいたるまでを物語風に追ったものですが、同じ題材をあつかった絵本として、「川はながれる」などが思い出されます。どちらの絵本も、読み終えると、川の冒険にすっかりつきあった気持ちになります。小学校中学年向き。

2012年11月7日水曜日

えんぴつくん












「えんぴつくん」(アラン・アルバーグ/文 ブルース・イングマン/絵 福本友美子/訳 小学館 2008)

昔、あるところに、1本のエンピツがありました。どこにでもある、なんてことのないエンピツでしたが、ある日、むくっと起き上がると、ぶるっとからだを震わせ、男の子をひとり描きました。「名前をつけて」と、男の子がいったので、バンジョーと名づけました。すると、「じゃあ、ぼくにイヌを描いて」とバンジョーはいいました。

エンピツ君は、イヌを描き、ネコを描き、2匹が走り回る家を描きます。みんながお腹がすいたというので、リンゴと骨とネコ缶を描くのですが、みんな、これじゃ食べられい、だって白黒だものといいだして──。

エンピツ君が書いた絵が、どんどん本当になっていくという絵本です。絵は、もちろんエンピツと水彩でえがかれたもの。みんなに、「白黒だもの!」といわれたエンピツ君は、ちょっと考えて、絵の具の筆を描きます。キティ(絵の具の筆の名前)のおかげで、世界はすっかりカラフルになるのですが、こんどはみんな、自分の容姿や格好に文句をいいはじめます。そこで、エンピツ君は消しゴムを描くと消しゴムは調子にのって、世界をどんどん消しはじめ──と、お話は続きます。みんなからの要望を、とんちを効かせて乗り切る、エンピツ君の活躍が楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2012年11月6日火曜日

せかいをみにいったアヒル












「せかいをみにいったアヒル」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 イーラ/写真 ふしみみさを/訳 徳間書店 2009)

ある日、アヒルは世界をみにいこうと思いました。そうだよ、クワッ、グワッ。まだ、だれもアヒルをみたことがないかもしれないだろう? アヒルは水浴びをして、翼をばさばさやり、身支度をととのえると、海を泳いで砂浜にたどり着きました。

アヒルは、砂漠で一匹のイヌと出会います。生まれてはじめてアヒルをみたイヌは大喜び。動物園にはいろんな動物がいるとイヌから聞いたアヒルは、カメの背中に乗り、さっそく町に向かいます。

「おやすみなさいおつきさま」で高名な、マーガレット・ワイズ・ブラウンと、「二ひきのこぐま」などの写真絵本を手がけたイーラによる一冊です。本書も写真絵本。たくみな編集により、次つぎに動物たちと出会うアヒルの旅が、ユーモラスにえがかれています。さて、このあと動物園にでかけたアヒルは、ライオンやトラと会ったり、ニワトリと合唱したりします。大胆不敵なアヒルと、動物たちとのやりとりが楽しい絵本です。小学校低学年向き。

2012年11月3日土曜日

リリィのさんぽ












「リリィのさんぽ」(きたむらさとし/作 平凡社 2005)

リリィは、子イヌのニッキーと散歩をするのが大好きでした。少しくらい暗くなっても、ニッキーと一緒なら、ちっとも怖くありません。きょうもリリィはニッキーと一緒に散歩にでかけ、途中買いものをして、おばさんのお家の前を手を振りながら通り、橋を渡って家に帰りました。

リリィは散歩の途中、星を見上げたり、川のカモに挨拶をしたりします。でもそのとき、ニッキーは、風景のなかに恐ろしい顔をみつけたり、化けものに出会ったりしていたのです──。

きたむらさとしは、「ぼくはおこった」の作者。ユーモラスでマンガ風な絵柄が特徴です。散歩中、風景の一部が顔になっていたり、化けものがあらわれたりいて、ニッキーが怖い思いをしているのに、リリィはのんきに歩いているのが可笑しいところです。表紙にも、よくみると不思議な顔が隠されています。小学校低学年向き。

2012年11月2日金曜日

おいっちにおいっちに












「おいっちにおいっちに」(トミー・デ・パオラ/作 みらいなな/訳 童話屋 2012)

おじいちゃんは、ぼくの一番の親友でした。おじいちゃんの名前はボブ。ぼくの名前、ボビーの「ボ」は、おじいちゃんからもらいました。ぼくがよちよち歩きのとき、おじいちゃんは歩き方を教えてくれました。「あんよは上手。おいっちに、おいっちに」。ある日、ぼくとおじいちゃんは、階段の下にある納戸から、古い積み木をみつけました。積み木は全部で30個。うまく積み上がるときもあれば、くずれるときもありました。30個目の、ゾウの積み木をのせたとき、おじいちゃんがくしゃみをしたので、積み木はくずれてしまいました。ぼくはそれをみて大笑いしました──。

ぼくは、おじいちゃんのひざにのってお話を聞いたり、一緒に花火をみにいったりします。ところが、ある日、おじいちゃんは脳の病気になって入院していまいます。

「神の道化師」などで高名な、トミー・デ・パオラによる絵本です。このあと、退院してきたおじいちゃんは、じっとしているきりで、ボビーはなんだか怖くなってしまいます。「おじいちゃんはなにもかも、全部わからなくなってしまったのよ」と、お母さんはいうのですが、ボビーはそんなことあるもんかと思います。そして、階段の下の納戸から積み木を引っ張りだして、おじいちゃんの前で積み木を積んでいきます。おじいちゃんとぼくの友情をえがいた、美しい絵本です。小学校低学年向き。

2012年11月1日木曜日

あそぼうよ












「あそぼうよ」(五味太郎/作 偕成社 2001)

小鳥がキリンに「あそぼうよ」というと、キリンは「あそばない」とこたえます。顔をそらしたり、木に頭を突っこんだり、ゾウのかげにかくれたりするキリンに、小鳥は何度も「あそぼうよ」といい続けるののですが──。

「みんなうんち」など、多くの著書をもつ五味太郎さんによる絵本です。言葉はほとんど、「あそぼうよ」「あそばない」だけ。にもかかわらず、小鳥とキリンのあいだに親しいものを感じさせます。キリンのデザインなど、絵柄も秀逸。ラストも気が利いています。小学校低学年向き。

2012年10月31日水曜日

しゃっくりがいこつ












「しゃっくりがいこつ」(マージェリー・カイラー/作 S.D.シンドラー/絵 黒宮純子/訳 セーラー出版 2004)

目がさめると、ガイコツはしゃっくりがでていました。いつものようにシャワーを浴び、歯をみがいて、骨のお手入れをしても、しゃっくりはとまりません。ハロウィーンのカボチャ提灯づくりをして、落葉かきをして、オバケとキャッチボールをしても、まだしゃっくりはとまりません。

ガイコツは、オバケのアドバイスを聞き、しゃっくりをとめるさまざまな方法をためすのですが──。

絵を描いたシンドラーは「マグナス・マクシマス、なんでもはかります」を描いたひと。写実的な作風ですが、本書では、しゃっくりのとまらないガイコツをユーモラスにえがいています。このあと、ガイコツは友だちのオバケのいうがままに、息をとめてみたり、砂糖を食べてみたり、指で目玉を押してみたり、逆立ちして水を飲んでみたりしてます。逆立ちして水を飲むと、目から水がこぼれ落ちてしまったりする、ナンセンスな展開がおかしい一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月29日月曜日

がいこつ












「がいこつ」(谷川俊太郎/詩 和田誠/絵 教育画劇 2005)

《ぼくはしんだらがいこつになりたい
 がいこつになってようこちゃんとあそびたい

 ぶらんこにのるとかぜがすうすうとおりぬけて
 きっといいきもちだとおもう

 ようこちゃんはこわがるかもしれないけれど
 ぼくはようこちゃんとてをつないでいたい》

ガイコツになっても昔のことは忘れない。悲しかったこと、おかしかったこと。みんな、じろじろぼくをみるだろうし、いじめるだろうけれど、でもぼくは平気だ──。

谷川俊太郎の詩と、和田誠の絵から成る一冊です。絵は、色鮮やかなもの。このあとも、ガイコツになりたいと願う男の子の、せつない想いが語られます。小学校低学年向き。

2012年10月27日土曜日

ぼくのウサギ












「ぼくのウサギ」(イヴォンヌ・ヤハテンベルフ/作 野坂悦子/訳 講談社 2007)

アルノは、家のなかのものは、もうみんな絵に描いてしまいました。描いていないのは、ウサギの絵だけ。「ウサギくん、じっとしてて!」。大きな紙に一番きれいなサインペンをつかってウサギの絵を描こうとすると、ウサギはひょーんと窓から逃げだしてしまいました。

ウサギを追いかけて、アルノは庭やベンチをのぞいてみます。街にでて、イヌを連れた女の子に訊いても、「ウサギなんてみなかったわ」といわれてしまいます──。

絵は、クレパスで描いた絵をコラージュした、シンプルで洗練されたもの。ウサギをさがして、アルノはペットショップにいったり、丘にいったり、海岸にいったりします。丘にはたくさんのウサギがいるのですが、アルノのウサギはみつかりません。アルノは、ほかのウサギではなく、自分のウサギがいいのです。前の見返しにくらべて、後ろの見返しに絵が1枚増えているところが洒落ています。小学校低学年向き。

2012年10月26日金曜日

パイがいっぱい












「パイがいっぱい」(和田誠/作 文化出版局 2002)

マザーグースの訳者でもある和田誠さんがつくった、言葉あそびでいっぱいの歌の絵本です。巻末の文章いわく、「マザーグースのようないくつかの要素と言葉遊びを日本語の中に生かすことができないか、と考えて作ったのがこの本です」。例として、「おどろき もものき」を引用してみましょう。

《おどろき もものき さんしょのき
 うそつき わるがき きゅうけつき
 はやおき はみがき せんめんき
 あにきは のんき おおいびき》
 ……

ほかにも、韻を踏んだり、しりとりをしたり、数え歌があったり、和田さん発明による「てれこ言葉」による歌があったりと、載せられた歌は多種多様。ユーモラスな和田さんの絵とともに、大変愉快な一冊となっています。小学校低学年向き。

2012年10月25日木曜日

うっかりもののまほうつかい












「うっかりもののまほうつかい」(エヴゲーニイ・シュワルツ/作 オリガ・ヤクトーヴィチ/絵 松谷さやか/訳 福音館書店 2010)

昔、あるところに、イワン・イワーノヴィッチ・シードロフという学者がいました。魔法使いでもあり、機械づくりの名人でもある、イワン・イワーノヴィッチは、自分でつくった数かずの発明品のなかでも、ロボ君が大のお気に入りでした。ロボ君は、大きさはネコくらいで、イヌのようにあとからついてきて、人間のようにおしゃべりができました。

ロボ君は、ごはんのしたくもするし、玄関のドアもあけます。夜になると、自分でからだをバラバラにして眠り、朝になると元通りになって、イワン・イワノーヴィッチを起こします。さて、あるときロボ君と森に散歩にでかけたイワン・イワノーヴィッチは、荷馬車に麦を積んで粉引き小屋にむかう男の子に出会います。イワン・イワノーヴィッチが魔法使いだと知った男の子が、「ぼくの馬をネコにできますか」というと、イワン・イワノーヴィッチは「できるとも!」と、馬に動物を小さくする魔法のレンズをむけて──。

作者のエウゲーニイ・シュワルツはロシアのひと。絵を描いたオリガ・ヤクトーヴィッチは「かもむすめ」をえがいたひとです。さて、このあと、魔法のレンズの威力で、馬はネコになってしまいます。それをみて、ロボ君は驚きます。動物を大きくするレンズはこわれてしまったので、ガラス工場(こうば)に直しにだしてあったのです。「馬はネコになったけど、力は馬のままだから、荷車を引っ張れる」と、イワン・イワーノヴィッチは泣きだした男の子をなだめ、ひと月たったら動物を大きくするレンズをネコに向けると約束するのですが──。巻末の著者紹介によると、本書は2008年に亡くなったオリガ・ヤクトーヴィッチの最後の作品だということです。「かもむすめ」のかっちりした作風とはちがって、鉛筆と水彩でえがかれた柔らかみのある絵柄が、よくお話にあっています。小学校中学年向き。

2012年10月23日火曜日

びっくりドラゴンおおそうどう!












「びっくりドラゴンおおそうどう!」(ジャック・ケント/作 なかがわけんぞう/訳 好学社 1984)

朝、ビリィが目をさますと、部屋のなかに子ネコくらいの大きさの可愛いドラゴンがいました。大急ぎでお母さんに知らせると、「ドラゴンなんかいるはずありません!」と、お母さんはあきれたようにいいました。

ビリィはそばによってきて、うれしそうに尻尾を振るドラゴンを無視し、服を着替え、顔を洗って、朝ごはんを食べにいきます。ドラゴンもついてくるのですが、そのときドラゴンはイヌくらいの大きさになっていて──。

作者のジャック・ケントは、「ふとっちょねこ」などを描いたひと。マンガ風の、ユーモラスで親しみやすい作風のもち主です。さて、このあとお母さんはあくまでドラゴンを無視し続けます。すると、ドラゴンはどんどん大きくなり、ついには家いっぱいの大きさになってしまいます。もちろん最後はハッピーエンド。目をそらし続けると、いったいなにがを起こるのか。そんなことを物語っているような一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月22日月曜日

おやすみなさいのほん












「おやすみなさいのほん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 ジャン・シャロー/絵 いしいももこ/訳 福音館書店 1992)

《よるに なります。
 なにもかも
 みな ねむります。
 おひさまは
 ちきゅうの むこうがわに
 かくれます。

 どこの いえにも
 あかりが つきます。
 そとは
 くらく なります。》

小鳥たちは、みな歌うことも飛ぶこともやめ眠ります。海の底では、小さな魚たちが目をぱっちり開けたまま眠ります。野原のヒツジたちは、一緒にかたまって眠り、サルやライオンや野ネズミたちは、みな森のなかで眠ります──。

古典的名作絵本の一冊です。絵は、太い描線におそらく色鉛筆(クレパス?)で色を塗った、大変落ち着きがあるもの。このあと、帆かけ舟も自動車も飛行機も、カンガルーも子ネコも静かになって眠ります。「子どもがほんとうに眠たくなる不思議な絵本」と、長谷川摂子さんがどこかに書いていたと思います。幼児向き。

2012年10月20日土曜日

ゆきだるま












「ゆきだるま」(レイモンド・ブリッグズ/作 評論社 1978)

文字のない、コマ割りによる絵だけの絵本です。

朝、男の子が目をさますと、外は雪景色。さっそく、外にでて雪だるまをつくります。帽子をかぶせて、マフラーを巻き、ミカンを鼻に、石炭を目とボタンにして、さあ完成。そして夜。目をさました男の子が家のドアを開けると、雪だるまは帽子をとって挨拶をします──。

「スノーマン」というタイトルでも知られた絵本です。アニメーションにもなっています。絵は、おそらく色鉛筆でえがかれた、あたたかみのあるもの。雪だるまもあたたかそうにみえるのが不思議です。さて、このあと男の子は、雪だるまを家のあちこちに案内します。雪だるまはあたたかいものが苦手なので、ストーブではなく冷蔵庫にあたったりします。そして終盤、雪だるまは男の子を連れて空へと舞い上がります。冬のひと晩のできごとをえがいた美しい絵本です。レイモンド・ブリックスの作品はほかに、「サンタのなつやすみ」などがあります。小学校中学年向き。

2012年10月19日金曜日

ノアのはこ船











「ノアのはこ船」(ピーター・スピアー/作 松川真弓/訳 評論社 1986)

あらそいごとを尻目に、神の恵みをうけて暮らしていたノアは、神の言葉を聞き、巨大な箱船をつくりました。箱舟には、家族と、たくさんのつがいの動物たちを乗せました。そのうちに、大雨が降り、大洪水が起こって、地上のものをなにもかも呑みこんでしまいました──。

ノアの箱船伝説をもとにした絵本です。ほとんど文字がなく、お話はコマ割りされた絵によって進みます。本書には、ノアが神の言葉を聞く場面はありません。ブドウをつくっていたノアは、突然巨大な箱船をつくります。おそらく、お話は自明のものとされているのでしょう。見所は、大変よくえがかれたディティールです。草食動物は歩いて船に乗りますが、肉食動物はオリに入れてはこびこまれます。箱船のなかは、動物たちの排泄物だらけ。船内には、池がつくられていて、カバや水鳥が暮らし、ビンのなかにはさまざまな虫が飼われています。そして、箱船はついにアララト山頂に到着。箱船は打ち捨てられ、ノアはまたブドウづくりにはげみます。小学校中学年向き。

2012年10月18日木曜日

ぐりとぐら










「ぐりとぐら」(中川李枝子/文 大村百合子/絵 福音館書店 1967)

 野ネズミのぐりとぐらは、大きなカゴをもって、森の奥へでかけました。

《ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
 このよで いちばん すきなのは
 おりょうりすること たべること
 ぐり ぐら ぐり ぐら》

2匹が話しながらいくと、道の真ん中に、とても大きなタマゴが落ちていました。タマゴをみつけた、ぐりとぐらは、目玉焼きにしようか、玉子焼きにしようかと話しあったすえ、カステラをつくることにします。でも、タマゴはあんまり大きくて、もち帰れそうにありません。そこで、2匹はおナベをもってきて、ここでカステラをつくることにします──。

ほとんど、絵本の代名詞となっているような1冊、「ぐりとぐら」です。手元の本の奥付をみると、1967年第1刷、2009年第177刷となっています。さて、このあと、いったんうちに帰ったぐりとぐらは、一番大きなおナベと、小麦粉、バター、牛乳、砂糖、ボール、泡立て器、それにエプロン2枚とマッチをもって、タマゴのところにやってきます。げんこつでは割れなかったので、石でタマゴを割り、牛乳と砂糖と小麦粉を入れて、ボールでよくかき混ぜて、おナベにバターをよく塗って、材料を入れて焼けるのを待っていると、じき森じゅうの動物たちがやってきます──。みんなで美味しいものを食べ、最後にタマゴのカラで、ちょっとしたものまでつくる、大変幸福感に満ちた1冊です。小学校低学年向き。