2013年2月28日木曜日

パオアルのキツネたいじ















「パオアルのキツネたいじ」(蒲松齢/原作 心怡/再話 蔡皋/絵 中由美子/訳 徳間書店 2012)

昔むかし、パオアルという男の子が、お父さんとお母さんと一緒に古い屋敷に暮らしていました。お父さんが泊まりがけででかけたある日の真夜中、ギィーッと、表の戸が開いて、怪しい人影が入りこんできました。翌朝、お母さんは、真っ青な顔をして、なんだかぼんやりし、黒髪を振り乱して、布団のなかで泣いたり笑ったりするようになりました。

「きっとなにかがとりついているんだ。絶対そいつをやっつけてやるぞ」と、パオアルはレンガと漆喰で窓を全部ふさぎます。明かりを消して見張っていると、家のなかから、お母さんが泣いたりわめいたりする声が聞こえてきます。「そこにいるのはだれだ!」と、パオアルが怒鳴ると、家のなかから黒い影がピューッと飛びだし、パオアルは影にむかって包丁を振り下ろし──。

巻末の訳者あとがきによれば、本書は、中国の古典「聊斎志異」中の一篇、「商人の子」(原題:賈児)をもとにしています。蔡皋 (サイ コウ) は、「なみだでくずれた万里の長城」をえがいたひと。絵は、黒と鮮やかな色の対比が美しい水彩。さて、パオアルが包丁を振り下ろした地べたには、キツネの尻尾の先が落ちています。血の跡を追うと、荒れはてた屋敷の庭にたどり着きますが、怪しいものはみつかりません。何日かして、お父さんが帰ってきますが、お母さんはお父さんをみても、まるきり知らないひとだとでもいうように、大声でわめきたてます。あのキツネはまだお母さんにとりついているにちがいないと、パオアルは再び荒れはてた庭に向かいます──。賢くて勇気のある、パオアルの活躍をえがいた一冊です。小学校中学年向き。

2013年2月27日水曜日

魔術師ガザージ氏の庭で



  「魔術師ガザージ氏の庭で」(クリス・バン・オールスバーグ/作 へんみまさなお/訳 ほるぷ出版 1981)

ヘスター嬢は、アラン・ミッツ少年に、自分が帰るまで愛犬のフリッツの面倒をみてくれるように頼みました。そこで、アランはずっと番をして、フリッツの鋭い歯から、家具類を守りました。午後になり、散歩にでかけたアランとフリッツは、横道に入る白い橋を渡りました。橋から少しいくと立札があり、そこにはこんなことが書かれていました。「絶対に、どんなわけがあっても、この先の庭にイヌを入れてはいけない!」

立札の最後には、「引退した魔術師アブドゥル・ガザージ」と記されています。立札の後ろには、つる草におおわれた壁と、開いたままの門があります。アランがもどろうとすると、フリッツはすごい力で引っ張り、首輪を切って、門のなかに入っていってしまいます──。

オールズバーグは「急行「北極号」」や「2匹のいけないアリ」などの作者。見開きの左ページに文章、右ページに絵がある構成で、絵はモノクロ。オールズバーグの緻密で幻想的な作風が、本書でも堪能できます。このあと、アランはフリッツを追いかけ、庭のなかに入っていき、ガザージ氏の大邸宅を訪れます。お話は、ページをめくるたびに思いがけない展開をみせながら続いていきます。なお、本書は「アブドゥル・ガサツィの庭園」(C.V.オールズバーグ/絵と文 村上春樹/訳  あすなろ書房 2005)と、タイトルを変えて出版されており、画像はこちらをつかっています。1980年度コールデコット・オナー賞受賞。小学校中学年向き。













2013年2月26日火曜日

うさぎのにんじん













「うさぎのにんじん」(なかがわりえこ/文 やまわきゆりこ/絵 ブッキング 2008)

 なにができるかしら──と、ウサギが畑に種をまくと、ニンジンがたくさんとれました。アヒルやブタやゾウと一緒に、ひと口ニンジンを食べたら、からだの色がすっかりニンジン色になってしまいました。

ウサギは、からだをタオルで拭いたり、せっけんで洗ったりします。でも、ニンジン色はとれません──。

中川季枝子さんと山脇百合子さんは、「ぐりとぐら」をつくったひとたち。本書も、「ぐりとぐら」同様、親しみやすい作品になっています。さて、ほかの動物たちは、からだがニンジン色になっても気にしません。「このニンジンとても美味しいんですもの」と、食べ続けます。そして、お腹いっぱいになって、「ごちそうさま」というと──。幼児向き。

ねえ、どれがいい?















「ねえ、どれがいい?」(ジョン・バーニンガム/作 まつかわまゆみ/訳 2010)

《もしもだよ、
 きみんちの まわりが かわるとしたら、
 大水と、
 大雪と、
 ジャングルと、
 ねえ、どれが いい?
 もしもさ、
 ぞうに おふろの おゆを のまれちゃう、
 たかに ごはんを たべられちゃう、
 ぶたに ずぼんを はかれちゃう、
 かばに ふとんを とられちゃうとしたら、
 ねえ、どれが いい?》

ジョン・バーニンガムは、「ガンビーさんのドライブ」「ひみつだから!」などをえがいた、イギリスの高名な絵本作家。本書は、さまざまなシチュエーションをならべて、「ねえ、どれがいい?」と読者に問いかける絵本です。そのシチュエーションはありえないことばかり。

《どれなら 食べられる?
 くもの シチュー、
 かたつむりの おだんご、
 虫の おかゆ、
 へびの ジュース。》

とか、

《ねえ、どれが いい?
 へびに まかれるのと、
 魚に のまれるのと、
 わにに 食べられるのと、
 さいに つぶされるのとさ。》

とか。
あまりのナンセンスさに吹き出しながら、でもつい真剣になって、「どっちがいいかな」と選んでしまいます。お話会の定番絵本の一冊です。小学校低学年向き。

2013年2月22日金曜日

りんごのきにこぶたがなったら
















「りんごのきにこぶたがなったら」(アーノルド・ローベル/文 アニタ・ローベル/絵 佐藤凉子/訳 評論社 1980)

ある日のこと、お百姓とおかみさんは市場にでかけました。すると、12匹の子ブタが売られていました。お百姓はそれをみるなり、「みんなまとめて買っちまおう」といいました。「こんなにたくさん子ブタを買ったら、世話をするのが大変」と、おかみさんはいいましたが、「おまえとおれと2人で面倒をみればどってことないさ」と、子ブタをぜんぶ買って、農場へつれて帰りました。

ところが、お百姓ときたら大変な怠け者だったのです。「トウモロコシの種まきを手伝っておくれよ。子ブタたちのえさにするんだから」と、おかみさんがいっても、「きょうはおまえひとりでやってくれよ。」というばかりで──。

アーノルド・ローベルと、アニタ・ローベルは夫妻。本書は2人の共作です。アーノルド・ローベルは「がまくんとかえるくん」シリーズなど、アニタ・ローベルは「毛皮ひめ」などをえがいています。さて、このあと、怠け者のお百姓は、「庭に子ブタが咲いたら手伝う」といいだします。そこで、おかみさんは庭に子ブタが咲いたようにみせかけるのですが、それでもお百姓は手伝おうとしません。「リンゴの木にブタがなったら」「空から子ブタが降ってきたら」と、お百姓はいいだし、そのたびにおかみさんは、リンゴに子ブタを実らせたり、空から子ブタを降らせたりします。ですが、それでもお百姓はベッドにもぐりこんだまま。そこで、とうとうおかみさんは──。小学校低学年向き。

あかいかさ
















「あかいかさ」(ロバート・ブライト/著 ほるぷ出版 1975)

女の子が赤いカサをもって歩いています。外はいい天気です。カサなんてもってくるんじゃなかった。でも、だんだん雲がでて、ついに雨が降ってきます。すると、子イヌが1匹、カサに入れてとやってきます。それから子ネコが2匹。ニワトリが3羽に、子ウサギが4匹──。

17×13センチと小振りなサイズの絵本です。作者のロバート・ブライトは、「おばけのジョージー」「げんきなグレゴリー」を描いたひと。「てぶくろ」と同趣向のお話で、女の子のカサに、どんどん動物たちが入ってきます。絵は、線画に、カサだけ赤く色がつけられたもの。このあと、女の子のカサには、子ヒツジやヤギや、それからクマまで入ってきます。幼児向き。

2013年2月20日水曜日

ゆきのひ














「ゆきのひ」(加古里子/作 福音館書店 1980)

風に乗って白いものが空から降ってきました。雪は、道にも畑にも降り、だんだん山も林も白くなっていきました。りっちゃんのお母さんは野菜をむろにしまいました。とよちゃんのおじいさんは、雪がこいをしっかりしました。大人のひとたちは、少しぐらいの雪でも、いつもと変わらずはたらいています。

雪はずんずん降って、もうりっちゃんたちの長靴がすっぽりもぐるぐらいになります。馬にもわらやむしろをはかせ、自動車のタイヤには鎖を巻きつけます──。

ひと昔前の、雪国の様子をえがいた絵本です。かこさとしさんの絵は、細部までよくえがかれ、見どころがたくさんあります。このあと、りっちゃんは雪山へでかけたり、町にでかけたりします。雪がたくさん積もったので、雪おろしをしたり、かまくらをつくって遊びます。やがて、吹雪がきて、電線が切れ、線路が雪で埋まってしまい、りっちゃんのお父さんも、とよちゃんのおじいさんも、スコップやシャベルをもって助けにいきます──。小学校低学年向き。


2013年2月19日火曜日

ウォーレスはどこに?











「ウォーレスはどこに?」(ヒラリー=ナイト/作 きじまはじめ/訳 講談社 1983)

ウォーレスは、美しい長いオレンジ色の毛と、きらきら光る黒い目をもったオランウータンです。小さな動物園にすんでいて、とてもにこにこしてご機嫌なので、ウォーレスの檻はいつも笑っているひとたちに囲まれています。

ある日、お洒落な見物人の服をちょっと着てみたいと思ったウォーレスは、檻の扉が開いているのをみつけました。「2、3時間なら、だれもなんとも思わないさ」と、ウォーレスは貯金箱をもって、檻から抜けだして──。

絵のどこかにいるウォーレスをみつけるという、「ウォーリーをさがせ」(マーティン・ハンドフォード/作 唐沢則幸/訳 フレーベル館 1987)や、「とこちゃんはどこ」と同趣向の絵本です。物語と、見開きの絵が交互にあらわれるという構成。絵には建物やひとが細ごまとえがかれていて、そのどこかにウォーレスがいます。さて、デパートにでかけたウォーレスは、背広を新調し、帽子をえらんでいるところを、飼育係のフランビーさんにみつかります。そして、動物園にもどるのですが、フランビーさんから恐竜の話を聞くと、こんどは自然博物館にでかけます。その後もウォーレスは、ピクニックにいったり、サーカスをみたり、野球場にでかけたり──。絵をよくよくみると、どの絵にも登場する三毛猫や水玉の服を着た女の子いて、ついウォーレス以外のひとたちまでさがしてしまいます。読み終わるのに、大変時間がかかる一冊です。小学校低学年向き。

2013年2月18日月曜日

マディーのダンス















「マディーのダンス」(クレア・ジャレット/作 かけがわやすこ/訳 小峰書店 1999)

「おゆうぎ会をしましょう」と、ラム先生がいいました。マディーが思い切って、「お姫さまのダンスをしてもいい?」と訊くと、「すてき」とラム先生も喜んでくれました。ところが、マディーはうまく踊れません。よろけて転んでしまいました。

庭にすわって、マディーがしょんぼりしていると、空から虹色のパラシュートをつけたイヌが降りてきます。「ぼくポメロイ」と、イヌは名乗り、マディーの話を聞いて、「ぼくが助けてあげられるかもしれないよ」と、いいだします──。

作者のクレア・ジャレットは「キャサリンとライオン」の作者。線画に色鉛筆で色をつけた、親しみやすい絵をえがきます。このあと、ポメロイはマディーにダンスを教え、パラシュートを切り、きれいなドレスに仕立てます。そして、ポメロイに支えられ、マディーは舞台でみごとなダンスを披露します。小学校低学年向き。

2013年2月15日金曜日

なんげえはなしっこしかへがな















「なんげえはなしっこしかへがな」(北 彰介/文 太田 大八/絵 銀河社 1979)

《なんげえ はなしっこ しかへがな(話してやろうかな)
 山の中の くりの木さ、なん千なん万って、実っこ なったど。
 そごさ、からすぁ とんできて、ガアって ないだっきゃ(ないたら)、
 くりの実ぁ ひとつ、ポタンって おぢだど。
 まんだ(また)、からすぁ ガアって ないだっぎゃ、
 くりの実ぁ ひとつ、ポタンって おぢだど。》

カラスが鳴くたびにクリは落ちますが、クリは何千何万とあったので、みんな落ちるまで1年と3日かかったということです──。

本書は、青森に生まれた著者が、小さいころ毎晩のようにおばあさんから聞いた「果てなし話」を再話したものとのこと。おばあさんに昔話も何度もせがんでいると、話すのにあきてきたおばあさんは、「そうすればなんげえ話っこだぞ」といって、語りだす──。それが、「果てなし話」といわれる昔話だったそうです。

《「…ガア ポタン。ガア ポタン。ガア ポタン」と、いつまでたっても同じ言葉のくり返しですから、子どもは「まだ終わらねえの」というと、「くりの実ぁ、何千何万もあるんだ。まだ20より落ちてねえんだよ。ガア ポタン…」と続けるもので、「あと、いい」と子どもたちはこたつを飛びだします。それが「果てなし話」のねらいなわけです。》

本書には、引用した冒頭の「くりの実」のほかに、「なぎくらべ」「へび」「くまんばぢ」「かっぱ」「かみなりさまのふんどし」「鬼ばば」の全7話が収録されています。ちなみに、「かっぱ」は、おやじかっぱが、八万八千八百八十八匹の子かっぱに、泳ぎを教えるというもの。子かっぱが、1匹ずつ、ドボンドボンと川に飛びこんでいきます。また、「かみなりさまのふんどし」は、空から落ちてきたフンドシを、畑仕事をしていた田吾作が引っ張るという話。

《かみなりさまの ふんどしぁ、
 なげくて なげくて、
 みんな ふっぱり おわるまで、
 十年ど九十三日 かがったどせ。》

引用したとおり、本書は津軽弁で書かれています。でも、だからといって津軽弁のまねをして読むことはないと、巻末の文章で著者は記しています。

《熊本の人は熊本の、京都の人は京都のアクセントやイントネーションで、この「なんげえはなしっこ」を読んで(語って)やってください。昔話とは、親が子に語ってやる時、なによりも生々と子どものこころへ浸透していくものなのです。》

ニワトリが道にとびだしたら

「ニワトリが道にとびだしたら」(デビッド・マコーレイ/作 小野耕世/訳 岩波書店 1988)

ある日、1羽のニワトリが道に飛びだしました。それに驚いたウシたちが、突然走りだし、古ぼけた橋の上に押しよせました。すると、橋がこわれ、ウシたちは汽車の上に墜落しました。

汽車には、刑務所にはこばれる途中の「やけくそダン」という泥棒がいて、ダンはこれはちょうどいいと、盗んだものをもって逃げだします。でも、キイチゴのとげで袋が破れ、盗んだものが次つぎとこぼれていってしまいます。

デビッド・マコーレイは「キャッスル」(岩波書店 1980)など、建築物の図解をした本の作者として高名です。本書の絵は、メリハリのある色づけをされた、厚塗りの、ユーモラスなもの。このあと、「やけくそダン」が落としていった金時計を、カササギがくわえて飛んでいきます。ですが、金時計はカササギには重すぎ、途中で放してしまいます。すると、時計は給水タンクのなかに落ち、パイプをつまらせて──と、事態はドミノ倒しのように進んでいきます。絵と文章がはなれているところがあり、意味がとりにくいところがあるのですが、何度かみていくと、脈絡がのみこめてきます。また、絵のあちこちに、「やけくそダン」の逃亡がえがかれているのがみえてきます。どんどんつながっていく出来事は、めぐりめぐって、最後、冒頭につながります。小学校中学年向き。

2013年2月13日水曜日

ぼくはねこのバーニーがだいすきだった















「ぼくはねこのバーニーがだいすきだった」(ジュディス・ボースト/文 エリック・ブレグバッド/絵 なかむらたえこ/訳 偕成社 1979)

〈ぼく〉の大好きなネコのバーニーが、金曜日に死んでしまいました。〈ぼく〉は、テレビもみないで、夕ごはんも食べないで泣きました。あした、バーニーのお葬式をすることになり、〈ぼく〉はお母さんにいわれ、バーニーのいいところを10個思い出すことにしました。

次の日、お父さんとお母さんがバーニーを庭に埋めると、〈ぼく〉は、バーニーのいいところを10個話します。「バーニーは勇敢でした。利口で、茶目で、きれい好きでした。抱くとふわっと柔らかくて、それにすごーくハンサムでした。小鳥を食べたことはあるけれど、でも、それだってたったのいっぺんだけでした。バーニーが、ぼくの耳のそばでごろごろノドを鳴らすのを聞いていると、とってもいい気持ちでした。バーニーがぼくのおなかに乗っかって眠ると、おなかがぽかぽかあたたかくなりました」

飼いネコが亡くなったことを悲しむ男の子の絵本です。絵は線画。全体に品があります。最初、〈ぼく〉は、バーニーのいいところを9個しか思い出せません。でも、このあと、お父さんとのやりとりで、〈ぼく〉は10個目のいいところをみつけます。小学校低学年向き。

2013年2月12日火曜日

イワーシェチカと白い鳥












「イワーシェチカと白い鳥」(I.カルナウーホワ/再話 松谷さやか/訳 M.ミトゥーリチ/絵 福音館書店)

昔あるところに、年をとったお父さんとお母さんと、イワーシェチカという小さな息子が暮らしていました。ある日のこと、イワーシェチカは「池へ魚釣りにいかせてよ。舟と舟をこぐかいをつくってよ」と、お父さんとお母さんにいいました。「おまえはまだ小さいから魚釣りなんてとても無理だ」と、お父さんはいいましたが、息子はいうことをききません。そこで、お父さんは木をけずって舟とかいをつくってやり、お母さんは白いシャツを着せて、腰に赤い帯をしめてやりました。

さて、イワーシェチカは舟に乗り、魚釣りをはじめます。お母さんやお父さんが呼ぶと、岸にもどり、釣った魚を渡し、ごちそうを食べ、汚れたシャツをとり替えて、また魚釣りにもどります──。

ロシアの昔話をもとにした絵本です。絵を描いたミトゥーリチは、「なぞなぞ100このほん」をえがいたひと。本書の絵も、透明感あふれる素晴らしいものです。物語はこのあと、ロシアの昔話によくでてくる、魔女のバーバ・ヤガーが登場します。お母さんの真似をしたものの、しゃがれ声のためイワーシェチカに気づかれてしまったバーバ・ヤガーは、鍛冶屋にやさしい声がでるようにしてもらいます。そして、まんまとイワーシェチカをつかまえ、娘のアリョンカにペチカでこんがり焼くようにいうのですが──。お話はこのあとも二転三転。楽しい読物絵本です。小学校中学年向き。

2013年2月8日金曜日

南の国へおもちゃの旅










「南の国へおもちゃの旅」(ハンス・ウルリッヒ・シュテーガー/作 ささきたづこ/訳 童話館出版 1996)

クマのぬいぐるみのテオドールは、年をとって、片方の目と耳がなくなってしまいました。代わりに帽子をかぶせてもらいましたが、ある日、とうとうゴミ箱に捨てられてしまいました。トラックではこばれたゴミ捨て場で、テオドールはガスパールという木馬と出会いました。2人は、テオドールが夢にみた、白い塔のある南の海辺の小さな村をめざして、旅をすることにしました。

海辺の村の名前はトリピティといいます。2人が南にむかって歩いていくと、途中、木のウシに出会います。それから、自動車にはねられて、首の鈴をなくしたという人形のフローラも一緒になり、皆でトリピティをめざします。

絵は、線画に水彩で着色された活気のあるもの。横長の大きな画面を見事につかいこなしています。このあと、レージーという人形や、おもちゃのキツツキ、トラクターと運転手のミーシャ、マトリョーシュカ人形のバブーシュカ、踊り子人形や、アクロバット人形のアリ、こわれた楽器にジプシー人形のサーシャが加わって、一行は南の村にむかいます。文章は〈ぼく〉、テオドールの1人称。旅情にあふれた楽しい読物絵本です。小学校中学年向き。

ロバートのふしぎなともだち












「ロバートのふしぎなともだち」(マーガレット・マヒー/文 スティーブン・ケロッグ/絵 うちだりさこ/訳 ほるぷ出版)

ある日、学校からの帰り道、ロバートの後ろを1匹のカバがついてきました。ロバートが家に着くと、カバも家に入ろうとしました。ロバートはお母さんがいやがるだろうと思って、カバをしっしと追いだしました。すると、カバは芝生のなかの金魚の池に寝そべりました。

次の日、ロバートが学校にいくと、カバも一緒についてきます。そして、学校の帰り、振り返ってみると4匹のカバがついてきます。ロバートはびっくりしたり、喜んだり。ぼくってカバがついてくる男の子なんだよな──。

なぜかカバに好かれる男の子のお話。絵は、線画に、大きな余白を残しながら、ところどころ彩色したもの。リアリティがありつつユーモラスなカバの絵が見ものです。さて、このあとカバの数はどんどん増え、とうとう7匹になってしまいます。そこで、お父さんは電話帳を引き、「お子さま専門」と広告をだしている魔女のキャシー・スクィン夫人にきてもらい、カバに好かれないようにする薬をもらって──と、お話は続きます。小学校中学年向き。

2013年2月6日水曜日

かかしのペーター












「かかしのペーター」(バーナデット/作 ささきたづこ/訳 西村書店 1989)

夏のあいだ、ペーターは小麦畑の真ん中に立って、畑の見張りをしていました。秋になり、小麦が刈りとられると、ペーターの仕事は終わりました。でも、お百姓の子どもたちは、みんなペーターのことが大好きでした。お姉さんのラウラは、ペーターの帽子にきれいな羽根をさしてくれましたし、妹のカトリンは、赤いスカーフを首に巻いてくれました。弟のフルーリンは、ペーターに手袋をはめてくれました。

冬になると、畑に遊びにきていた子どもたちもこなくなります。ペーターの羽根は、カラスにを引っこ抜かれてしまいます。子どもたちが遊びにきてくれないんだと、やってきたウサギにペーターがいうと、「それじゃ、お百姓の家に遊びにいこうよ」と、ウサギはこたえます。でも、ペーターは歩けません──。

バーナーデット・ワッツは「ヨリンデとヨリンゲル」などの作者。おそらく、水彩と色鉛筆でえがかれたと思われる、ていねいな絵が魅力的です。このあと、雨が降り、ペーターはとうとう地面に倒れてしまいます。しかし、じき春がきて、ペーターは子どもたちにみつけてもらいます。物語は本を閉じたあと、裏表紙にまでつながっていきます。小学校低学年向き。

2013年2月5日火曜日

キャサリンとライオン












「キャサリンとライオン」(クレア・ジャレット/作 かけがわやすこ/訳 小峰書店 1996)

キャサリンが目をさましたら、ライオンがいました。ライオンはにこにこ笑っていました。「おはよう、ライオンさん」と、キャサリンはいいました。キャサリンは、大好きなジャングルジムや、生まれたばかりの妹の話をライオンにしてあげました。

朝食のあと、キャサリンはライオンを幼稚園に連れていきます。子どもたちはライオンをみて大喜び。幼稚園で、ライオンは子どもたちと一緒にすごします。

絵は、線画に色鉛筆で色をつけたもの。単純な線でえがかれたライオンは、じつに味があります。大きくて、あまりしゃべらないライオンは、1日が終わりキャサリンが眠るまで、ずっとそばにつきそいます。小学校低学年向き。

2013年2月4日月曜日

にわのわに












「にわのわに」(多田ヒロシ/著 こぐま社 1985)

《うまがまう
 くまためしに しめたまく

 よきつきよ
 ねつきいいきつね

 みがかぬかがみ
 ぼくえくぼ》

回文をならべた絵本です。ちゃんと場面になっているものもあれば、絵があってかろうじて意味がとれるものなどいろいろあります。かろうじての代表はこう。


《いないな いないな いない》

場面になっているものにはこんなのもあります。

《わるいてっさくね くさってるわ》

絵は、マンガ風のユーモラスなもの。思わず何度も読んでしまう、ことば遊び絵本の一冊です。

2013年2月1日金曜日

かさもっておむかえ










「かさもっておむかえ」(征矢清/作 長新太/絵 福音館書店 1977)

夕方になって、急に雨が降りはじめたので、かおるはお父さんをむかえに駅にいきました。駅はひとでいっぱいでしたが、お父さんの姿はありませんでした。電車は次つぎと到着し、そのうち駅のなかはがらんとして、待っているのはかおるひとりになりました。外はもうすっかり暗くなり、かおるは待ちくたびれてベンチにすわりました。

すると、オレンジ色のトラネコが、だれを待っているんだいと、かおるにたずねてきます。「お父さんよ」と、かおるがいうと、「それだったら、お父さんがいつも地下鉄から乗り換える駅までいったらどう? ぼくが一緒にいってやる」と、ネコがいって──。

絵を描いた長新太は「ちへいせんのみえるところ」などで高名です。このあと、かおるはネコと一緒に、緑色の車両に乗りこみます。そこは動物専用車両で、クマやオオトカゲやカバやイノシシがいます。かおるは、本当にお父さんに会えるのか心配になってくるのですが──。最初と最後に「あめふりのうた」がでてきます。小学校低学年向き。