2012年8月31日金曜日

かいつぶり










「かいつぶり」(石部 虎二/作 須川 恒/監修 福音館書店 2003)

カイツブリはハトぐらいの大きさの水鳥です。水にもぐったかと思うと、思わぬところからぽかっと浮かび上がってきます。くちばしに、きらりと光る小魚を食わえていることもあります。

カイツブリは夫婦でひとつの縄張りをもっています。となりにすむカイツブリは入ってきたときは、縄張りの境目まで追い返して、そこでにらめっこをしてから別れます。ところが、きょうはちがいました。ふた組の夫婦が入り乱れて、大げんかになったのです──。

〈わたし〉による、カイツブリの観察記です。絵は、線画に水彩で着色したもの。カイツブリが非常に愛情深くえがかれており、また塗り残した部分が、空間に広がりをあたえています。さて、カイツブリの夫婦たちが大げんかをしたのは、巣にタマゴがあるからでした。このあと、ヒナがかえり、カイツブリの子育てが記されます。「かわせみのマルタン」などとくらべると、作者のカイツブリに対する距離感はいつも一定で、近づいたり、はなれたりすることはありません。こんなところも面白いところです。小学校中学年向き。

エリーちゃんのクリスマス









「エリーちゃんのクリスマス」(メアリー・チャルマーズ/作 おびかゆうこ/訳 福音館書店 2009)

エリーちゃんは、イヌのハリーと一緒に、クリスマス用の木をソリに乗せてはこんできました。ウサギのアリスと、ネコのヒラリーが、エリーちゃんたちの帰りを待っていました。あたたかいココアを飲んだあと、みんなでクリスマスツリーの飾りつけをしました。でも、てっぺんに飾るお星さまがありません。そこで、エリーちゃんはお星さまをさがしにでかけました。

作者のメアリー・チャルマーズは、「とうさんねこのすてきなひみつ」を描いたひと。正方形の小振りなクリスマス絵本で、エリーちゃんをはじめ、みな可愛らしくえがかれています。さて、このあとお星さまをさがしにでかけたエリーちゃんは、女のひとにショウガ入りのクッキーをもらったり、青いカケスに森の出口を教えてもらったりします。でも、だれもお星さまをもっていません。でも、そこへサンタさんがあらわれて…とお話は続きます。小学校低学年向き。

2012年8月29日水曜日

せんろはつづくよ










「せんろはつづくよ」(M.W.ブラウン/文 J.シャロー/絵 与田凖一/訳 岩波書店 1979)

2台の小さな機関車は、西にむかって出発します。ぱふぱふ、ちゃぐちゃぐ。1台の機関車は、最新式の機関車です。もう1台の機関車は、古い、小さな機関車です。2台の機関車は長いトンネルを抜け、鉄橋を渡り、雨のなかを走ります──。

線画と、少し色のついた絵が、交互にくる構成です。絵はこの上なくシンプルですが、じつに味があります。最新式の機関車には男の子が、小さな古い機関車のほうには女の子が乗っていて、ともに西をめざして進んでいきます。文章は調子のついた、いささか古めかしさを感じさせるものですが、ぱふぱふ、ちゃぐちゃぐと走る機関車の旅によくあっています。幼児向き。

2012年8月28日火曜日

ちびゴリラのちびちび









「ちびゴリラのちびちび」(ルース・ボーンスタイン/作 いわたみみ/訳 ほるぷ出版 1978)

ちびちびという小さな可愛いゴリラがいました。みんな、ちびちびのことが大好きでした。お母さんも、お父さんも、おばあさんも、おじいさんも、大好きでした。ひらひら飛んでいるピンクのチョウも、緑のオウムも、赤いサルも、みんなゴリラのちびちびのことが大好きでした──。

小さいゴリラちびちびのお話です。絵はシンプルで深みのある、力強いもの。でっかいヘビも「ちびちびは可愛いな」と思っていましたし、のっぽのキリンもいつもそばにいて、ちびちびを助けます。でも、ある日、ちびちびはどんどん大きくなりはじめて…と、お話は続きます。大きくなったちびちびに対しても、みんなの気持ちが変わらないところが嬉しいところです。小学校低学年向き。

2012年8月27日月曜日

赤ずきん










「赤ずきん」(グリム/著 フェリクス・ホフマン/絵 大塚勇三/訳 福音館書店 2012)

昔、あるところに小さなかわいい女の子がいました。あるとき、おばあさんは、この子に赤いビロードのずきんをやりました。そのずきんはとてもよく似合うので、女の子はいつもそれをかぶっていました。そこで、みんなは、この子のことを赤ずきんと呼びました。

さて、ある日、お母さんが赤ずきんにお使いを頼みます。「ちょっとおいで赤ずきん。このお菓子とブドウ酒のびんを、おばあさんのうちまで届けてちょうだい。おばあさんは病気で弱っていらっしゃるから、これで元気づけてあげるのよ」。そして、赤ずきんは村から30分くらいかかる森のなかにある、おばあさんの家にむかうのですが──。

「おおかみと七ひきのこやぎ」などで名高い、ホフマンによる絵本です。冒頭の文章によれば、この絵本は、ホフマンがはじめての女の子の孫スザンヌのために、1973年に制作した手稿絵本をもとに、「グリム童話2」(ホフマン/編・画 大塚勇三/訳 福音館書店)の文章によって、再構成したものだとのこと。もともとが手稿絵本のためか、絵は一見下書きのようで、完成度は高くありません。ですが、「ホフマンはこの場面をこんな風に絵にしたのか」と、興味深く読める一冊になっています。小学校中学年向き。

2012年8月25日土曜日

おおきななみ










「おおきななみ」(バーバラ・クーニー/作 かけがわやすこ/訳 ほるぷ出版 1991)

ブッシュウィック通りにある赤いレンガづくりの大きな家が、ハティーが住んだなかでおぼえている一番古い家でした。パパがママのために建てた家で、ひとつひとつの部屋にちがう木がつかってありました。ドイツからアメリカに渡ってきて、弟のハインリッヒおじさまとブルックリンで材木商をはじめたパパは、なんでも最高のものをママに贈らないと気がすまないのでした。

さて、「大きくなったら、わたしもきれいな花嫁さんになるの」と、お母さんの写真をみて、姉のフィフィはいいますし、「ぼくはパパの会社で、パパと一緒にはたらいて、うんとお金をもうけるんだ」とヴォリーはいいます。でも、ハティーが「わたしはペインター(絵を描くひと)になるの」というと、「女の子が家にペンキを塗るペインター(ペンキ屋)になるわけないでしょ」と2人ははやしたてます。ハティーが考えていたのは、家のことなんかではありません。空に浮かんでいるお月さまや、梢を渡っていく風や、海で荒れ狂う大波のことを考えていたのです──。

バーバラ・クーニーの作品のなかでは、「ルピナスさん」のような、女性の人生についてえがかれた作品の一冊です。巻末の訳者あとがきによれば、クーニー自身の母親をモデルにしているとのこと。大変裕福な家庭だったらしく、当時のお金持ちの暮らしぶりが興味深くえがかれています。家には家族のほかに、料理人のクララ・ギーゼックと、「ちびネズミ」というあだ名のクララの娘、それにお手伝いのメアリー・ワーグナーが住んでいます。ちびネズミはハティーの絵をみて「すごく上手ね」といってくれます。夏になると、海辺の町ファーロッカウェイにある夏の家に、家族みんなで移ります。ときどき、パパが家族を自分のヨットに乗せて海に連れだしたときは、ハティーはいつも舳先に立っています。そして、家に帰ると自分の部屋にかけ上がり、絵の具箱を引っ張りだして、部屋の壁をたちまち絵でいっぱいにしてしまいます。ハティーが画家になる決心をする場面は、大変な美しさです。小学校高学年向き。

2012年8月23日木曜日

天の火をぬすんだウサギ










「天の火をぬすんだウサギ」(ジョアンナ・トゥロートン/作 山口文生/訳 評論社 1987)

昔、地上には火がありませんでした。山の上には火があり、天のひとたちが守っていましたが、天のひとたちは火をくれませんでした。木の葉が落ちて、冷たい風が吹いてくると、「だれが火をとってくる?」と動物たちはいいあいました。強いのは野牛だし、もの知りはオオカミ、クマは勇敢で、ヤマネコはけんか好きです。でも、一番賢いのはウサギでした。ウサギは、燃えやすいマツヤニを羽根に塗りつけて、きれいな羽根飾りをつくると、それをかぶり、天のひとが住む山へでかけました。

さて、天のひとたちはウサギをみて、「あいつはウソつきだ。だまされちゃいけないぞ」といいます。でも、ウサギは「新しい踊りを教えてあげにきましたよ。この踊りをおどれば、トウモロコシは畑にいっぱい、網のなかには魚がどっさりとれますよ」といって、うまく村に入りこみます。そして、踊りを教えるふりをして焚き火に近づいていき、羽根飾りに火をつけ、すかさず山をかけ降ります──。

カバー袖の文章によれば、本書のストーリーは、北米インディアンにつたわる「火の起源伝説」の代表的な2つの話をもとにつくったということです。絵は、味わいのある水彩。このあと、天のひとたちは、ウサギを追いかけて、大雨やみぞれや雪を降らせ、カミナリを落とします。ですが、マツヤニを塗った羽根飾りは明るく燃え続け、消えることがありません。疲れたウサギは羽根飾りをリスに渡し、炎のためリスの尻尾は丸まってしまいます。この先は、動物たちによる羽根飾りのリレーとなり、動物たちがなぜいまのような姿になったのかという由来譚となります。このストーリーは「まじょのひ」を思い起こさせます。似た話が世界のあちこちにあるというのは、本当に面白いことです。小学校中学年向き。

2012年8月22日水曜日

こぐまちゃんのみずあそび









「こぐまちゃんのみずあそび」(森比左志/文 わだよしおみ/文 わかやまけん/絵 こぐま社 1971)

花に水をあげるのは、こぐまちゃんの仕事です。面白いね、ジョウロに水がいっぱいだ。こぐまちゃんは、金魚さんやアリさんにも水をあげます。すると、しろくまちゃんがホースをもってやってきます。こぐまちゃんもホースをもってきて、2人で水のかけあいっこ。面白い、面白い。冷たい、冷たい──。

こぐまちゃんシリーズの一冊です。大変なロングセラーで、本書の場合、初版は1971年。手元にあるのは、2009年発行の130刷。絵は、太い描線でえがかれた、非常に様式化されたもの。このあと、こぐまちゃんとしろくまちゃんは、水あそびでできた川に葉っぱを浮かべて、ボートに見立てて遊んだりします。幼児向き。

2012年8月21日火曜日

ぼくからみると










「ぼくからみると」(高木仁三郎/文 片山健/絵 福音館書店 1995)

夏休みのある日、昼すぎのひょうたん池で、よし君が釣りをしていました。そこに、しょうちゃんが自転車に乗ってやってきました。しょうちゃんからは、前を走っている白いイヌのお尻がみえ、左手に釣りをしているよし君がみえます。よし君からは、釣り竿の先にとまったトンボがみえます。さらに、池のなかの魚からみると──。

昼すぎのひょうたん池に起こるできごとを、さまざまな視点からえがいた一冊です。絵は、おそらく油絵。厚塗りの力のこもったものです。このあと、「かいつぶりのお母さんからみたら」「空から舞い降りるトンビからみたら」「巣にかけもどるカヤネズミのお父さんからみたら」…と、視点が次つぎに移り変わっていきます。大変ドラマチックですが、同時にいつもと同じ夏の一日であるところが魅力的です。小学校低学年向き。

2012年8月20日月曜日

月へ










「月へ」(ブライアン・フロッカ/作 日暮雅通/訳 偕成社 2012)

アメリカのフロリダ州。3人の男たちは、特別にあつらえた服にぴったりと身を包み、重い手袋をつけ、大きな丸いヘルメットをかぶりました。すべてがうまくいけば、これから一週間になる旅にでかけるのです。

3人の乗る小さな宇宙船の名は、司令船コロンビアと、月着陸船イーグル。ロケットの名はサターン5型。30階建てのビルと同じ高さで、重さは3000トン。宇宙飛行士たちは、コロンビアのシートに空を見上げるように、仰向けになって横たわります。船長のニール・アームストロングが左、司令船パイロット、マイケル・コリンズが右、月着陸船パイロット、バズ・オルドリンが真ん中です。

発射台の近くには、発射管制センターがあり、遠くヒューストンには飛行管制センターがあります。ロケットや宇宙船のあらゆる部分をチェックしたデータが送られ、続行か中止かの声がかかります。「続行」「続行」「続行」。データをみつめるひとたちは、次つぎにこたえます。アポロ11号、発射準備完了──。

はじめて人類が月に降り立った、アポロ11号についての絵本です。副題は「アポロ11号のはるかな旅」。絵は、線画に水彩で着色した、具体的で親しみやすいもの。このあと、発射されたサターン5型は、1段ロケット、2段ロケットを切り離しながら飛び続け、ぶじ地球周回軌道にのります。そして、司令支援船と月着陸船をドッキングさせ、月へむかって旅立ちます。前の見開きには、絵をつかったアポロ11号の旅についての細かい説明が、また後ろの見開きには、文章によるアポロ計画全体の解説が載せられています。月へむかうアポロ11号の旅が迫力と臨場感をもってえがかれています。小学校高学年向き。

2012年8月18日土曜日

うできき四人きょうだい









「うできき四人きょうだい」(フェリクス・ホフマン/作 寺岡 寿子/訳 福音館書店 1997)

昔、貧乏な男に4人の息子がいました。4人が大きくなると男はいいました。「わしには、おまえたちに分けてやれるようなものはなんにもない。だから、よその土地へいって仕事をおぼえてくるがいい」。そこで、4人は杖をもち、お父さんに別れを告げて、一緒に町をでていきました。道が4つに分かれているところにくると、一番上のお兄さんがいいました。「4年たったら、またここで会おう。そのあいだ、めいめい運だめしをするんだ」。そして、4人はそれぞれの道へ分かれていきました。

さて、一番上のお兄さんは泥棒に出会い、この男のところで腕利きの泥棒になります。2番目のお兄さんは、腕利きの星のぞきに、3番目のお兄さんは腕利きの狩人に、そして、一番末の弟は、腕利きの仕立屋になります──。

「おおかみと七ひきのこやぎ」など、数かずの優れた絵本を残したホフマンによる一冊です。原作はグリム童話。さて、このあと故郷にもどってきた息子たちの腕前を、お父さんは試します。木のてっぺんにあるアトリの巣にタマゴはいくつあるか。2番目の兄さんが望遠鏡でタマゴの数をかぞえ、1番目の兄さんが親鳥に気づかれずにタマゴを盗みだし、3番目の兄さんが1発の銃弾で5つのタマゴを割り、末の弟がタマゴも、タマゴのなかのヒナもすっかり縫いあわせます。そして、1番上の兄さんがタマゴを巣にもどし、2、3日すると、首すじに縫いあわせたあとの、赤いすじがついたヒナがかえります。それからまもなく、王様のお姫さまが竜にさらわれて、4人はいまこそ腕のみせどころと、お姫さまを助けにいき…と、お話はまだまだつづきます。小学校中学年向き。

2012年8月16日木曜日

かあさんふくろう










「かあさんふくろう」(イーディス・サッチャー・ハード/作 クレメント・ハード/絵 おびかゆうこ/訳 偕成社 2012)

母さんフクロウは、28日のあいだ毎日ずっと巣穴でタマゴをあたためていました。そのあいだ、父さんフクロウが毎晩食べものをはこんできてくれました。ある日、母さんフクロウはお尻の下がもぞもぞするのに気づきました。まもなく、タマゴが割れて、ぜんぶで4羽のヒナが生まれました。

母さんフクロウは、羽毛がまだほんの少ししか生えていない、濡れたからだのヒナたちを、自分の羽で乾かし、あたためます。夜になると、父さんフクロウとともに狩りにでかけます。あたりが暗くても、フクロウの目はよくみえます。頭に突きでた羽は、耳のようにみえますが、ほんとうの耳は頭の横にあります。母さんフクロウは、なにも気づかないモグラをかぎ爪でつかむと、リンゴの木にある巣にもどります──。

絵を描いたのは、「おやすみなさいおつきさま」で名高い、クレメント・ハード。おそらく版画でえがかれたもので、「おやすみなさいおつきさま」とはひと味ちがった味わいが楽しめます。また、文章はフクロウの生態をていねいに描いています。さて、このあとも、木の枝から落ちてアライグマに襲われそうになったヒナを助けたりしながら、母さんフクロウと父さんフクロウの子育ては続きます。巻末には、かこさとしさんによる、「この本のこと」という文章が載せられており、本書の魅力をよくつたえています。

「ふくろうをえがいても、正しい姿や生態がうしなわれていては、科学絵本としては困ります。正確でまちがいのないふくろうがえがけていても、美しさや楽しさがその本がつたわってこなくては、子どもの絵本とはいえません。この本には、それがあるのです」

小学校中学年向き。

2012年8月15日水曜日

太陽へとぶ矢










「太陽へとぶ矢」(ジェラルド・マクダーモット/作 じんぐうてるお/訳 ほるぷ出版 1978)

昔、太陽の神は、ほとばしる命のちからを1本の矢に変えて、大地に向かって飛ばしました。命の矢は、ある村のひとりの娘に当たり、娘は男の子を産みました。男の子はすくすく育ちましたが、村のほかの子どもたちは、父親のいない男の子を、「やあい、親なし子!」と追いたてました。そこで、ある日男の子は、「ぼくはお父さんをさがしにいく」とお母さんにいって、広い世の中にでかけていきました。

さて、男の子はまずトウモロコシづくりに出会いますが、トウモロコシづくりは畑の世話をするばかりで、返事をしてくれません。次に、ツボづくりのところへいきますが、ツボづくりは粘土をこねるばかりで返事をしてくれません。それから、矢づくりのところにいきますが、矢づくりも返事をしてくれません。でも、矢づくりは賢い年寄りだったので、男の子が太陽の神の息子だと気づきます──。

カバー袖の文章によれば、アメリカのプエブロインディアンの神話をもとにした絵本です。絵は、非常に様式化されたもの。太陽についての物語らしく、黄色の背景が鮮やかです。このあと、矢づくりは、男の子を矢に変えて太陽に飛ばします。男の子は太陽の神と出会いますが、太陽の神は、「おまえがほんとうに私の息子かどうか、まだわからないぞ」と、息子に試練を下します…。1975年度コールデコット賞受賞。小学校中学年向き。

サンタクロースのおくりもの










「サンタクロースのおくりもの」(E・クラーク/作 J・オームロッド/絵 戸田早紀/訳 金の星社 1994)

クリスマスイブの夜、年老いたロバが森に向かって歩いていました。森のなかには、雨や風がしのげる小さなほら穴があると聞いていました。クリスマスイブだというのに、さびしくてたまらないロバは、悲しそうに長い長い鳴き声をあげました。

教会の時計が12時を打ちはじめたとき、ロバは鈴の音とひづめの音が大空を渡っていくのを耳にします。それから、毛皮のコートを着て重い荷物をかついだひとがあらわれます。「わたしはサンタのおじさんとも、サンタクロースとも呼ばれているよ」と、そのひとはロバに話しかけます──。

クリスマス絵本の1冊です。絵は、ときおりコマ割りされる、線画に彩色したもの。銀色に光る塗料がつかわれていて、それが夜の感じをうまくかもしだしています。このあと、ロバはサンタクロースにつきあい、背中に荷物をのせて、幸せな気持ちで丘をのぼり、一軒の家にたどり着きます。そして最後に、サンタクロースがロバに贈ったものがなんだったかのかがわかります。小学校中学年向き。

2012年8月13日月曜日

ニニのゆめのたび











「ニニのゆめのたび」(アニタ・ローベル/作 まつかわまゆみ/訳 評論社 2012)

ネコのニニは、毎日窓から向かいの建物や、道路を走る車を見下ろしていました。ある日、放りだされたたくさんの荷物をみて、「あら、いやだ」と思いました。「みんなどこかにでかけるみたい。わたしは置いてけぼり?」。ニニは、バッグの上にすわりこんだり、本の山に登ったりしたあと、大きな黒いカバンをみつけました。ニニは隠れようとしましたが、失敗し、黒いカバンに入れられてしまいました。

ジッパーがジィィィィと閉まったあと、ニニはしばらくニャオーウと鳴いていましたが、いつしか眠ってしまいます――。

アニタ・ローベルはアーノルド・ローベルの奥さんで、「わたしの庭のバラの花」などをえがいたひとです。絵は、色を塗る音が聞こえてきそうな厚塗り。ネコのニニが非常に愛情深くえがかれています。このあと、ニニは夢のなかで、雲に乗り、気球でただよい、ヨットで海を渡ったりします。そして、目がさめたとき到着したところは…。最後まで読んだあと、裏表紙をみると一段と愉快な気持ちになります。小学校低学年向き。

2012年8月10日金曜日

アナンシと6ぴきのむすこ










「アナンシと6ぴきのむすこ」(ジェラルド・マクダーモット/作 しろたのぼる/訳 ほるぷ出版 1980)

ずっと昔、クモのアナンシには6匹の息子がいました。1番目の息子は、どんな遠いところの事件でもすぐみつける「じけんみつけ」。2番目の息子は、「どうろづくり」。3番目の息子は、川の水を飲み干すことができる「川のみほし」。なんでもできる4番目の息子は「てじなし」。5番目の息子は「石なげじょうず」。6番目の、たいそうからだの柔らかい息子は「ざぶとん」といいました。

さて、あるとき長い長い旅にでたアナンシは、道に迷い、魚に食べられてしまいます。「じけんみつけ」がさっそく気がつき、「どうろつくり」が道をつくって、息子たちは父親のもとに駆けつけます。

アフリカ、ガーナのアシャンティ族の民話をもとにした絵本です。青や紫といった鮮やかな色をした紙の上に、非常に様式化された登場人物たちが配置されています。このあと、「川のみほし」が川の水を飲み干し、「てじなし」が素早く魚の腹を引き裂いてアナンシを助けだすのですが、こんどは、アナンシはハヤブサにさらわれてしまって…とお話は続きます。後半はお月さまの由来譚となっています。また、同じくアナンシが活躍する絵本に「おはなしおはなし」(この本ではアナンセ)があります。小学校低学年向き。

2012年8月9日木曜日

ヨッケリなしをとっといで






「ヨッケリなしをとっといで」(フェリックス・ホフマン/作 おかしのぶ/訳 架空社 2000)

《ヨッケリ なしを とっといで
 だけど なしは おちたくないよ

 すると おやかた いぬに いった
 ぱくっと ヨッケリ かんどいで

 いぬは ぱくっと かみたくないよ
 ヨッケリ なしを とりたくないよ
 なしは まだまだ おちたくないよ

 すると おやかた ぼうに いった
 ごつんと いぬを ぶっといで》
……

「おおかみと7ひきのこやぎ」などの作者として高名なホフマンによる絵本です。本書の副題は「スイスのわらべうた」。このわらべうたは、積み上げ話になっています。親方の命令で、このあと炎や水や子ウシや肉屋があらわれるのですが、みんないうことをきかないので、とうとう親方が登場し、すると話は急転直下、クライマックスをむかえます。積み上げ話を絵本にするため、横長の紙面がじつに効果的につかわれています。小学校低学年向き。

2012年8月8日水曜日

うちがいっけんあったとさ










「うちがいっけんあったとさ」(ルース・クラウス/文 モーリス・センダック/絵 わたなべしげお/訳 岩波書店 1978)

《うちが いっけん あったとさ──
 りすの うちでは ありません
 ろばの うちでも ありません
 ──しりたかったら さがしてごらん──
 どこの とおりに あるのかな
 どこの よこちょうに あるのかな──
 ぼくだけ しってる うちなのさ。》

そのうちには、とても素敵なベッドがあり、とても素敵な棚があり、壁は落書きするため、テーブルはぽんと両足のせるため──。

「にんじんのたね」などの作者、ルース・クラウスによる詩に、センダックが絵をつけた絵本です。二人の作品には「あなはほるものおっこちるとこ」があります。茶色の紙に、ぼうやの〈ぼく〉だけが、白抜きに青いオーバーオール姿でえがかれ、〈ぼく〉以外はみな、ひと筆書きのような、ユーモラスな線画でえがかれています。さて、〈ぼく〉は、どこにいくにもサルにスカンク、カメにウサギに大男にライオンじいさんを連れていきます。ライオンじいさんは椅子の詰めものが大好きで、もぐもぐ食べてしまうし、サルはとんぼ返りをして、天井にとんとん足跡をつけていきます。ところで、「ぼくだけしっているうち」は、一体どこにあるのでしょう。渡辺茂男さんの訳文もじつにみごと。詩と絵が一体となって踊っているような、素晴らしくリズミカルな一冊です。小学校低学年向き。

2012年8月7日火曜日

7ひきのいたずらかいじゅう








「7ひきのいたずらかいじゅう」(モーリス・センダック/作 なかがわけんぞう/訳 好学社 1980)

《こりゃ たいへん!かいじゅう 7ひき でてきたぞ

 1ばんめは そらを とびまわり、
 2ばんめは じめんに もぐる。

 3ばんめは まちへ のそ のそ のそ やってきて、
 4ばんめは きのはを ぜんぶ たべちゃうぞ》

センダックによる、小さな、軽みのある絵本です。横長の紙面に、おそらく色鉛筆でえがかれた絵が、ときどきコマを割りながら続いていきます。絵は、さっと描かれたのも。、町のひとたちが大砲でかいじゅうに応戦しているものの、弾が届いた様子はみられません。7匹のかいじゅうの特徴はそれぞれユニーク。6番目は屋根の上で寝坊し、7番目は自分の頭を自分で引きちぎります。「かいじゅうたちのいるところ」とはひと味ちがう、センダックのさっぱりした仕事がみられます。小学校低学年向き。

2012年8月6日月曜日

木はいいなあ











「木はいいなあ」(ジャニス・メイ・ユードリイ/文 マーク・シーモント/絵 さいおんじさちこ/訳 偕成社 1977)

《木が たくさん あるのは いいなあ。
 木が そらを かくしているよ。

 木は 川べりにも たにそこにも はえる。
 おかの うえにも はえる。

 木が たくさん はえると、森になる。
 森は いつも いきいき している。

 たった 一ぽんでも、木が あるのは いいなあ。
 木には はっぱが ついている。
 はっぱは なつじゅう、そよかぜの なかで、
 ひゅる ひゅる ひゅるーっと、くちぶえを ふいているよ。》

タイトル通り、「木はいいなあ」ということを語った絵本です。原題は「A TREE IS NICE」。タテに長い絵本で、カラーと白黒が交互にくる構成です。カラーは大変鮮やかで、生き生きとした線でえがかれた親しみやすい水彩が、さまざまな光景をみせてくれます。木はいいなあ、枝にすわってじっと考えることもできるし、海賊ごっこもできる。リンゴの木だったら木に登ってリンゴをとる。棒切れも木からとれる。棒切れで砂に絵を描くんだ…と、木の賛歌はまだまだ続きます。「こんなにはっきり作品の意図を素直に表している絵本の文は珍しいと思います。そのままついていっただけで、この絵を描くことができました」と、ユードリイの文章について、マーク・シーモントはカバー袖にある文章のなかで述べています。1957年度コールデコット賞受賞。小学校低学年向き。

2012年8月4日土曜日

かいじゅうたちのいるところ













「かいじゅうたちのいるところ」(モーリス・センダック/作 じんぐうてるお/訳 富山房 1975)

ある晩、マックスはオオカミのぬいぐるみを着ると、いたずらをはじめて、大暴れ。お母さんが、「このかいじゅう!」と怒ると、マックスも「おまえを食べちゃうぞ!」といい返します。とうとう、マックスは夕ごはん抜きで寝室に放りこまれてしまいました。

マックスが寝室に放りこまれると、寝室ににょきりにょきりと木が生えてきて、あたりはすっかり森や野原になります。マックスは船に乗り、1年と1日航海して、かいじゅうたちのいるところに到着します──。

センダックの代表作です。絵は、線画に色づけしたもの。登場人物は、マックスとかいじゅうたちのみ。お母さんはセリフだけの登場です。部屋のなかに木が生えてくると、絵は紙面いっぱいに広がります。かいじゅうたちの造形は、50年たったいまでも、まったく色あせていません。このあと、マックスはかいじゅうたちの王様になるのですが、さみしくなって、うちに帰りたくなり…と、物語は続きます。絵本の歴史に残る一冊ですが、そんなことより、いま読んでもとても面白い絵本です。1964年コールデコット賞受賞作。小学校低学年向き。

以下は余談です。「かいじゅうたちのいるところ」は1966年にも日本語訳されています。そのときのタイトルは、「いるいるおばけがすんでいる」(ウエザヒル翻訳委員会/訳 ウエザヒル出版社 1966)。奥付をみると監修委員は、木下一雄、黒崎義介、坂元彦太郎、ハル・ライシャワー、三島由紀夫。翻訳・編集委員は、園一彦、坂出寿栄、阪井妙子、M・ウエザビー、R・フリードリック。さて、どんな訳なのか冒頭を引用してみましょう。

《あたりが くらく なりました
 マックスぼうやの せかいです
 「こんやは なにを しようかな
 おおかみごっこを してみよう」

 「さあどうだ! おおかみぼうやの マックスだ!」

 「まあ こわい!」
 おかあさんが ふるえます
 びっくりぎょうてん ふるえます

 「たべちゃうぞ!」

  ぼうやが あまり さわぐので
 とうとう ぼうやは ねどこべや

 「ばんごはんも あげません!」

 ぼうやは ひとりで おこります
 おへやで ぷんぷん おこります》

ちなみに原文はこんな風です。

《The night Max wore his wolf suit and made mischief of one kind

and another

his mother called him “WILD THING!”
and Max said “I'LL EAT YOU UP!”
so he was sent to bed without eating anything.》

2012年8月2日木曜日

あなた










「あなた」(谷川俊太郎/文 長新太/絵 福音館書店 2012)

《ずっとまえ
 わたしは おかあさんの
 おなかにいた

 でもいま わたしは わたし
 おかあさんは おかあさん
 あなたとは よばないけど
 おかあさんも あなたの ひとり》

名作「わたし」と同じ作者たちによる一冊です。女の子の〈わたし〉が、〈あなた〉について、考えをめぐらせます。友だちのさっちゃんは〈あなた〉。〈わたし〉とは顔もちがうし、背丈もちがう。〈わたし〉がひとりしかいないように、〈あなた〉もひとりしかいない…。絵は、晩年の長新太さんが好んだ、オレンジとピンクが強い画面。〈わたし〉の考えはどんどん伸びて、〈あなた〉は世界や未来に広がっていきます。小学校低学年向き。

2012年8月1日水曜日

ぼくのライトとたんぽぽ











「ぼくのライトとたんぽぽ」(ウイリー・ウェルチ/作 マーク・シーモント/絵 よこやままさこ/訳 ドレクみわ/訳 ブック・グローブ社  1996)

夏の土曜日は、みんなで校庭にいって野球をします。いちばん強くて、走るのが早い子がショートや一塁をやります。でも、ぼくの守る場所はいつもライト。ライトはだれだって守れるのです。ぼくは、外野のタンポポが大きくなっていくのをみながらライトを守ります──。

マーク・シーモントは「はなをくんくん」などの作者として高名です。絵は水彩。ちょっとしょぼくれた感じの男の子が、余白を生かしたレイアウトのなかで、たくみにえがかれています。文章は〈ぼく〉の独白。このあと、みんなが突然〈ぼく〉のほうをみて、空を指さします。すぐに態度を入れ替えてしまう〈ぼく〉が、ほほえましいです。小学校中学年向き。