2012年10月31日水曜日

しゃっくりがいこつ












「しゃっくりがいこつ」(マージェリー・カイラー/作 S.D.シンドラー/絵 黒宮純子/訳 セーラー出版 2004)

目がさめると、ガイコツはしゃっくりがでていました。いつものようにシャワーを浴び、歯をみがいて、骨のお手入れをしても、しゃっくりはとまりません。ハロウィーンのカボチャ提灯づくりをして、落葉かきをして、オバケとキャッチボールをしても、まだしゃっくりはとまりません。

ガイコツは、オバケのアドバイスを聞き、しゃっくりをとめるさまざまな方法をためすのですが──。

絵を描いたシンドラーは「マグナス・マクシマス、なんでもはかります」を描いたひと。写実的な作風ですが、本書では、しゃっくりのとまらないガイコツをユーモラスにえがいています。このあと、ガイコツは友だちのオバケのいうがままに、息をとめてみたり、砂糖を食べてみたり、指で目玉を押してみたり、逆立ちして水を飲んでみたりしてます。逆立ちして水を飲むと、目から水がこぼれ落ちてしまったりする、ナンセンスな展開がおかしい一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月29日月曜日

がいこつ












「がいこつ」(谷川俊太郎/詩 和田誠/絵 教育画劇 2005)

《ぼくはしんだらがいこつになりたい
 がいこつになってようこちゃんとあそびたい

 ぶらんこにのるとかぜがすうすうとおりぬけて
 きっといいきもちだとおもう

 ようこちゃんはこわがるかもしれないけれど
 ぼくはようこちゃんとてをつないでいたい》

ガイコツになっても昔のことは忘れない。悲しかったこと、おかしかったこと。みんな、じろじろぼくをみるだろうし、いじめるだろうけれど、でもぼくは平気だ──。

谷川俊太郎の詩と、和田誠の絵から成る一冊です。絵は、色鮮やかなもの。このあとも、ガイコツになりたいと願う男の子の、せつない想いが語られます。小学校低学年向き。

2012年10月27日土曜日

ぼくのウサギ












「ぼくのウサギ」(イヴォンヌ・ヤハテンベルフ/作 野坂悦子/訳 講談社 2007)

アルノは、家のなかのものは、もうみんな絵に描いてしまいました。描いていないのは、ウサギの絵だけ。「ウサギくん、じっとしてて!」。大きな紙に一番きれいなサインペンをつかってウサギの絵を描こうとすると、ウサギはひょーんと窓から逃げだしてしまいました。

ウサギを追いかけて、アルノは庭やベンチをのぞいてみます。街にでて、イヌを連れた女の子に訊いても、「ウサギなんてみなかったわ」といわれてしまいます──。

絵は、クレパスで描いた絵をコラージュした、シンプルで洗練されたもの。ウサギをさがして、アルノはペットショップにいったり、丘にいったり、海岸にいったりします。丘にはたくさんのウサギがいるのですが、アルノのウサギはみつかりません。アルノは、ほかのウサギではなく、自分のウサギがいいのです。前の見返しにくらべて、後ろの見返しに絵が1枚増えているところが洒落ています。小学校低学年向き。

2012年10月26日金曜日

パイがいっぱい












「パイがいっぱい」(和田誠/作 文化出版局 2002)

マザーグースの訳者でもある和田誠さんがつくった、言葉あそびでいっぱいの歌の絵本です。巻末の文章いわく、「マザーグースのようないくつかの要素と言葉遊びを日本語の中に生かすことができないか、と考えて作ったのがこの本です」。例として、「おどろき もものき」を引用してみましょう。

《おどろき もものき さんしょのき
 うそつき わるがき きゅうけつき
 はやおき はみがき せんめんき
 あにきは のんき おおいびき》
 ……

ほかにも、韻を踏んだり、しりとりをしたり、数え歌があったり、和田さん発明による「てれこ言葉」による歌があったりと、載せられた歌は多種多様。ユーモラスな和田さんの絵とともに、大変愉快な一冊となっています。小学校低学年向き。

2012年10月25日木曜日

うっかりもののまほうつかい












「うっかりもののまほうつかい」(エヴゲーニイ・シュワルツ/作 オリガ・ヤクトーヴィチ/絵 松谷さやか/訳 福音館書店 2010)

昔、あるところに、イワン・イワーノヴィッチ・シードロフという学者がいました。魔法使いでもあり、機械づくりの名人でもある、イワン・イワーノヴィッチは、自分でつくった数かずの発明品のなかでも、ロボ君が大のお気に入りでした。ロボ君は、大きさはネコくらいで、イヌのようにあとからついてきて、人間のようにおしゃべりができました。

ロボ君は、ごはんのしたくもするし、玄関のドアもあけます。夜になると、自分でからだをバラバラにして眠り、朝になると元通りになって、イワン・イワノーヴィッチを起こします。さて、あるときロボ君と森に散歩にでかけたイワン・イワノーヴィッチは、荷馬車に麦を積んで粉引き小屋にむかう男の子に出会います。イワン・イワノーヴィッチが魔法使いだと知った男の子が、「ぼくの馬をネコにできますか」というと、イワン・イワノーヴィッチは「できるとも!」と、馬に動物を小さくする魔法のレンズをむけて──。

作者のエウゲーニイ・シュワルツはロシアのひと。絵を描いたオリガ・ヤクトーヴィッチは「かもむすめ」をえがいたひとです。さて、このあと、魔法のレンズの威力で、馬はネコになってしまいます。それをみて、ロボ君は驚きます。動物を大きくするレンズはこわれてしまったので、ガラス工場(こうば)に直しにだしてあったのです。「馬はネコになったけど、力は馬のままだから、荷車を引っ張れる」と、イワン・イワーノヴィッチは泣きだした男の子をなだめ、ひと月たったら動物を大きくするレンズをネコに向けると約束するのですが──。巻末の著者紹介によると、本書は2008年に亡くなったオリガ・ヤクトーヴィッチの最後の作品だということです。「かもむすめ」のかっちりした作風とはちがって、鉛筆と水彩でえがかれた柔らかみのある絵柄が、よくお話にあっています。小学校中学年向き。

2012年10月23日火曜日

びっくりドラゴンおおそうどう!












「びっくりドラゴンおおそうどう!」(ジャック・ケント/作 なかがわけんぞう/訳 好学社 1984)

朝、ビリィが目をさますと、部屋のなかに子ネコくらいの大きさの可愛いドラゴンがいました。大急ぎでお母さんに知らせると、「ドラゴンなんかいるはずありません!」と、お母さんはあきれたようにいいました。

ビリィはそばによってきて、うれしそうに尻尾を振るドラゴンを無視し、服を着替え、顔を洗って、朝ごはんを食べにいきます。ドラゴンもついてくるのですが、そのときドラゴンはイヌくらいの大きさになっていて──。

作者のジャック・ケントは、「ふとっちょねこ」などを描いたひと。マンガ風の、ユーモラスで親しみやすい作風のもち主です。さて、このあとお母さんはあくまでドラゴンを無視し続けます。すると、ドラゴンはどんどん大きくなり、ついには家いっぱいの大きさになってしまいます。もちろん最後はハッピーエンド。目をそらし続けると、いったいなにがを起こるのか。そんなことを物語っているような一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月22日月曜日

おやすみなさいのほん












「おやすみなさいのほん」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 ジャン・シャロー/絵 いしいももこ/訳 福音館書店 1992)

《よるに なります。
 なにもかも
 みな ねむります。
 おひさまは
 ちきゅうの むこうがわに
 かくれます。

 どこの いえにも
 あかりが つきます。
 そとは
 くらく なります。》

小鳥たちは、みな歌うことも飛ぶこともやめ眠ります。海の底では、小さな魚たちが目をぱっちり開けたまま眠ります。野原のヒツジたちは、一緒にかたまって眠り、サルやライオンや野ネズミたちは、みな森のなかで眠ります──。

古典的名作絵本の一冊です。絵は、太い描線におそらく色鉛筆(クレパス?)で色を塗った、大変落ち着きがあるもの。このあと、帆かけ舟も自動車も飛行機も、カンガルーも子ネコも静かになって眠ります。「子どもがほんとうに眠たくなる不思議な絵本」と、長谷川摂子さんがどこかに書いていたと思います。幼児向き。

2012年10月20日土曜日

ゆきだるま












「ゆきだるま」(レイモンド・ブリッグズ/作 評論社 1978)

文字のない、コマ割りによる絵だけの絵本です。

朝、男の子が目をさますと、外は雪景色。さっそく、外にでて雪だるまをつくります。帽子をかぶせて、マフラーを巻き、ミカンを鼻に、石炭を目とボタンにして、さあ完成。そして夜。目をさました男の子が家のドアを開けると、雪だるまは帽子をとって挨拶をします──。

「スノーマン」というタイトルでも知られた絵本です。アニメーションにもなっています。絵は、おそらく色鉛筆でえがかれた、あたたかみのあるもの。雪だるまもあたたかそうにみえるのが不思議です。さて、このあと男の子は、雪だるまを家のあちこちに案内します。雪だるまはあたたかいものが苦手なので、ストーブではなく冷蔵庫にあたったりします。そして終盤、雪だるまは男の子を連れて空へと舞い上がります。冬のひと晩のできごとをえがいた美しい絵本です。レイモンド・ブリックスの作品はほかに、「サンタのなつやすみ」などがあります。小学校中学年向き。

2012年10月19日金曜日

ノアのはこ船











「ノアのはこ船」(ピーター・スピアー/作 松川真弓/訳 評論社 1986)

あらそいごとを尻目に、神の恵みをうけて暮らしていたノアは、神の言葉を聞き、巨大な箱船をつくりました。箱舟には、家族と、たくさんのつがいの動物たちを乗せました。そのうちに、大雨が降り、大洪水が起こって、地上のものをなにもかも呑みこんでしまいました──。

ノアの箱船伝説をもとにした絵本です。ほとんど文字がなく、お話はコマ割りされた絵によって進みます。本書には、ノアが神の言葉を聞く場面はありません。ブドウをつくっていたノアは、突然巨大な箱船をつくります。おそらく、お話は自明のものとされているのでしょう。見所は、大変よくえがかれたディティールです。草食動物は歩いて船に乗りますが、肉食動物はオリに入れてはこびこまれます。箱船のなかは、動物たちの排泄物だらけ。船内には、池がつくられていて、カバや水鳥が暮らし、ビンのなかにはさまざまな虫が飼われています。そして、箱船はついにアララト山頂に到着。箱船は打ち捨てられ、ノアはまたブドウづくりにはげみます。小学校中学年向き。

2012年10月18日木曜日

ぐりとぐら










「ぐりとぐら」(中川李枝子/文 大村百合子/絵 福音館書店 1967)

 野ネズミのぐりとぐらは、大きなカゴをもって、森の奥へでかけました。

《ぼくらの なまえは ぐりと ぐら
 このよで いちばん すきなのは
 おりょうりすること たべること
 ぐり ぐら ぐり ぐら》

2匹が話しながらいくと、道の真ん中に、とても大きなタマゴが落ちていました。タマゴをみつけた、ぐりとぐらは、目玉焼きにしようか、玉子焼きにしようかと話しあったすえ、カステラをつくることにします。でも、タマゴはあんまり大きくて、もち帰れそうにありません。そこで、2匹はおナベをもってきて、ここでカステラをつくることにします──。

ほとんど、絵本の代名詞となっているような1冊、「ぐりとぐら」です。手元の本の奥付をみると、1967年第1刷、2009年第177刷となっています。さて、このあと、いったんうちに帰ったぐりとぐらは、一番大きなおナベと、小麦粉、バター、牛乳、砂糖、ボール、泡立て器、それにエプロン2枚とマッチをもって、タマゴのところにやってきます。げんこつでは割れなかったので、石でタマゴを割り、牛乳と砂糖と小麦粉を入れて、ボールでよくかき混ぜて、おナベにバターをよく塗って、材料を入れて焼けるのを待っていると、じき森じゅうの動物たちがやってきます──。みんなで美味しいものを食べ、最後にタマゴのカラで、ちょっとしたものまでつくる、大変幸福感に満ちた1冊です。小学校低学年向き。

2012年10月16日火曜日

おいらはトムベエ










「おいらはトムベエ」(中沢けい/文 オリガ・ヤクトーヴィチ/絵 福音館書店 2003)

ネコのトムベエは、最初はトムでしたが、いたずら好きなので、いつのまにかトムベエになりました。お絵描きしているニイナちゃんのところにいくと、「トムベエったら、じゃましないで」とニイナちゃんにいわれました。でも、ニイナちゃんとお母さんがお使いにいったので、トムベエはニイナちゃんが描いていたトリの絵にさわってみました。

トムベエが、前足でトリに色を塗ってみると、トリは紙から抜け出して宙を飛んできます。驚いたトムベエは、窓から逃げ出したトリを追いかけて──。

絵を描いたオリガ・ヤクトーヴィチは、「かもkむすめ」などを描いたひと。写実的な画風で、淡い色づかいが魅力的です。文章は本来〈おいら〉という、トムベエの1人称。このあと、外にでたトムベエは、スズメやカラスにからかわれたり助けられたりしながら、紙のトリを追いかけます。見返しに、松居身紀子による抽象画がつかわれています。小学校低学年向き。

2012年10月15日月曜日

のらねこボタン












「のらねこボタン」(トム・ロビンソン/文 ペギー・ベイコン/絵 光吉夏弥/訳 大日本図書 1988)

オスネコは、路地の奥のそのまた奥の、石炭がらを入れる灰入れの缶のなかで生まれました。生まれて6週間目にやっと目が開きましたが、まだうまく歩くことができません。でも、転がることはできたので、灰入れの缶から転がりでました。そして、食べられるものならなんでも食べて、夜はまた灰入れの缶によじ登って眠りました。

オスネコはだんだん大きく強くなります。耳はちぎれ、顔はひっかかれ、尻尾は折れという姿になりますが、オスネコはいまや路地の王様になり──。

カバー袖の、「作者と作品について」によれば、作者のトム・ロビンソンは建築家で、友人と開いた建築事務所にあらわれたのが、この野良ネコだったそうです。1ページごとに絵があり、絵の下に文章があるといった構成で、黒一色の絵は、おそらくパステルかコンテでえがかれたもの。ネコのしぐさや特徴などが、素晴らしい実在感でえがかれています。さて、路地の王様となったオスネコですが、このあと、別のネコを追いかけて木に登り、そこから降りられなくなってしまいます。消防自動車が助けにきたのをみたオスネコは、近くの窓に飛びこみ、その家の地下室にあった灰入れの缶でひと眠りするのですが、じきその家の家族にみつかって──と、お話は続きます。「のらねこボタン」というタイトルは、家の女の子がオスネコにつけた名前からきています。とても読みやすい、読物絵本です。小学校低学年向き。

2012年10月13日土曜日

せんをたどって












「せんをたどって」(ローラ・ユンクヴィスト/作 ふしみみさを/訳 講談社 2007)

線をたどって、朝の街へ。ひとびとは目をさましたばかり。大通りを走り抜け、信号や標識のあいだを通って、海を渡り、海底に潜り──。

はじめから終りまで、ひと筆書くでえがかれた、「せんをたどって」シリーズの1冊です。ただし、すべての絵がひと筆書きでえがかれているわけではありません。たとえば海中の絵のなかの、何匹かの魚やカニがひと筆書きでえがかれているといった具合です。そして、ページ中に、「ひとでは なんびき いるかな?」といった文章が記されます。絵はセンスの良いグラフィカルなもの。朝からはじまった線の旅は、海や空や森を越え、夜になり、裏表紙にいたって終わります。同趣向の絵本に、「どうぶつどみちいっぽんみち」があります。小学校低学年向き。

2012年10月12日金曜日

北京(ぺきん)











北京(ぺきん)(于大武/作 文妹/訳 ポプラ社 2012)

おもに、清の時代の北京を中心に、街の真ん中をつらぬく中軸線に沿い、南から北にむかって街の様子をえがいた絵本です。副題は「中軸線上につくられたまち」

まず、北京の入口である永定門(えいていもん)からスタート。真っ直ぐ進んで、正陽門(せいようもん)に。正陽門の門前は、北京で一番にぎやかな場所だったそうで、たくさんのお店が並んでいます。正陽門の内側には、皇帝と皇后だけが御路(ぎょろ)が伸びており、その先が天安門。端門(たんもん)を通り、午門(ごもん)を通って紫禁城へ──。

絵は、端正で色鮮やかなもの。構図は斜め上からで、カメラが進んでいくように、中軸線の上をずっと進んでいきます。このあとは、皇帝一族の庭園である御花園(ぎょかえん)を通り、時代は現代になって、鳥の巣(北京国家体育場)と、水立方(北京国家水泳センター)をのぞみます。

本書は解説が充実しています。本文では触れなかった正陽門の門前のお店が、ひとつひとつ紹介されます。建物はわかりやすく色分けされ、それぞれ名称が記されます。大変見所の多い知識絵本です。小学校高学年向き。

2012年10月11日木曜日

だるまちゃんとかみなりちゃん










「だるまちゃんとかみなりちゃん」(加古里子/作 福音館書店 1968)

だるまちゃんが外に遊びにいこうとしたら、雨が降ってきました。カサをさしてでたら、変なものが落ちてきました。そして、ぴかぴか、ごろごろ、がらがら、どしんと、小さなかみなりちゃんが落ちてきました。

落ちてきたかみなりちゃんは、木の枝に引っかかってしまった変なもの(浮き輪)をとってほしいと、だるまちゃんにいいます。だるまちゃんは、飛び上がったり、飛び跳ねたり、かみなりちゃんを肩車したりしますが、それでも変なものには届きません。そこで、だるまちゃんは、カサを投げて変なものを落とそうとするのですが──。

「だるまちゃん」シリーズの一冊です。作者のかこさとしさんは、「あなたのいえ わたしのいえ」「マトリョーシカちゃん」など、多くの傑作をえがいています。さて、このあと、投げたカサは、変なものと一緒に木にぶら下がってしまい、あてが外れただるまちゃんとかみなりちゃんがべそをかいていると、そこに、かみなりちゃんのお父さんのかみなりどんが、雲を運転してあらわれます。カサと変なものをとってくれたかみなりどんは、だるまちゃんを雲に乗せて、かみなりの国に連れていってくれます──。どこもかしこも鬼の意匠がほどこされた、かみなりの国がまた楽しい、じつに愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月9日火曜日

へんてこへんてこ











「へんてこへんてこ」(長新太/作 佼成出版社 1988)

森を通ってずっといった山のなかに、川があり、そこに橋がありました。その橋を渡ると、からだがニューッと伸びてしまうので、人間たちは怖がって、橋を渡りませんでした。ネコがその橋を渡ると、ネーコーという感じになりました。橋を渡りきると、ネコのからだはスーッと元通りになりました。

動物たちは次つぎに橋を渡り、イヌはイーヌーに、タヌキはターヌーキーに、ブタはブーターになってしまいます。

「ごろごろにゃーん」などで高名な長新太による絵本です。絵は、ぺたぺたという感じで塗られた水彩。このあとはくり返しです。ゾウがきて、トリが降りてきて、夕方になると星が降りてきます。タイトル通りのへんてこさですが、不思議におだやかな感じのする一冊です。小学校低学年向き。

2012年10月6日土曜日

おふろだ、おふろだ!












「おふろだ、おふろだ!」(わたなべしげお/文 おおともやすお/絵 福音館書店 1986)

《まあ、ひどい どろんこ!
 まて まて。
 さあ、つかまえた!

 シャワーを あびて、
 かたまで しずむ。

 あったまったら、せなかを ごしごし。
 こんどは ぼくが あらってあげる。》

砂場で遊んで泥だらけになったくまくんは、お父さんと一緒にお風呂に入ります──。

渡辺茂男さんと、大友康男さんのコンビによる、「くまくん」シリーズの一冊です。必要最小限のことだけがえがかれた絵は、あたたかさに満ちています。幼児向き。

以下は余談です。渡辺茂男さんの、児童書についての本「心に緑の種をまく」(新潮社 2007)には、本書についての面白い逸話が記されています。それによれば、アメリカで「おふろだ、おふろだ!」が出版されることになったとき、アメリカの編集者は、「アメリカでは、体を洗うのはバスタブのなか。外で洗うのは間違いだ」と、大友さんに描き直しを要求したのだそう。けっきょく、討論のすえ、アメリカ版のくまくん父子はバスタブのなかで体を洗うことになったということです。

2012年10月5日金曜日

わたしとあそんで












「わたしとあそんで」(マリー・ホール・エッツ/作 よだじゅんいち/訳 福音館書店 1980)

《あさひが のぼって、くさには つゆが ひかりました。
 わたしは はらっぱへ あそびに いきました。

 ばったが 一ぴき、くさの はに とまって、むちゅうで あさごはんを たべていました。

「ばったさん、あそびましょ」 わたしが つかまえようとすると、ばったは とんでいってしまいました。》

〈わたし〉は、カエルやカメやリスやカケスやウサギやヘビと遊ぼうとしますが、みんな逃げていってしまいます。そこで、池のそばでじっとしていると──。

「もりのなか」で高名なマリー・ホール・エッツによる絵本です。すでに古典となり、お話会などでもよくつかわれます。絵は、柔らかい味わいの線画に、少しだけ色がつけられた、非常に魅力に富んだもの。このあと、じっとしている〈わたし〉のところに、動物たちがもどってきます。「ああ わたしは いま、とっても うれしいの」という、末尾近くのことばが耳に残ります。小学校低学年向き。

余談ですが、堀内誠一さんは、この絵本の女の子を「絵本のジョコンダ(モナリザ)」と呼んだそうです。

2012年10月4日木曜日

せいめいのれきし











「せいめいのれきし」(バージニア・リー・バートン/作 いしいももこ/訳 岩波書店 1979)

副題は、「地球上にせいめいがうまれたときからいままでのおはなし」。左ページに説明文があり、右ページには、その時代が劇場でくり広げられる光景としてえがかれています。構成も劇を模したものとなっており、生命の誕生から、現代のいまこのときまでが、5幕の劇として展開します。目次を引用してみましょう。

プロローグ(銀河系の説明から前カンブリア代の原生代まで)
1幕 古生代(カンブリア紀から二畳紀まで)
2幕 中生代(三畳紀から白亜紀まで)
3幕 新生代(始新世から氷河時代まで)
4幕 現世(有史以前からアメリカでの白人の暮らしまで)
5幕 このごろのひとびとの生活
エピローグ

劇場の舞台には、天文学者や地質学者といった、さまざまな案内人(ナレーター)があらわれますが、5幕においてはバートン本人があ登場します。そこにえがかれている光景は、バートンが実際に住んでいた家だということです。また、時間の進みかたが徐々に遅くなり、最後にいたって、ついに「いま」とつながる構成は見事のひとことに尽きます。バートンの伝記「ヴァージニア・リー・バートン」(バーバラ・エルマン/著 宮城正枝/訳 岩波書店 2004)によれば、バートンはこの作品を完成させるのに、8年の歳月をかけたということです。まさに、バートン畢生の大作というべき一冊です。小学校高学年向き。

2012年10月2日火曜日

名馬キャリコ










「名馬キャリコ」(バージニア・リー・バートン/作 せたていじ/訳 岩波書店 1974)

はるか西部のサボテン州に、キャリコという馬がいました。みめうるわしくはありませんでしたが、頭はめっぽう切れましたし、足の早さはとびきりでした。キャリコは、カウボーイのハンクの馬でした。オオカミの群れから、赤ん坊のキャリコを助けてくれたのがハンクだったので、キャリコはその恩を忘れず、ハンクのためならこの世の果てまでいくつもりでした。

さて、平和なサボテン州に、ある日、5人組の悪漢たちがあらわれます。悪漢たちは、太った牛をひと群れ盗みだし、ふくろ谷にかくしてしまいます。それに気がついたサボテン州のカウボーイたちは、悪漢たちのボス、すごみやスチンカーに賞金をかけるのですが──。

「ちいさいおうち」で高名な、バージニア・リー・バートンによる、西部劇風の絵本です。小振りで横長の体裁で、絵は白黒、マンガのようにコマ割りされ、コマの下に文章が書かれています。また、紙の色が次つぎに変わっていくのも、特徴のひとつです。このあと、キャリコが頭をつかって、一度はスカンチーを捕まえるのですが、スカンチーはまんまと脱獄、一味とともに馬車強盗をたくらんで──と、ストーリーは波乱万丈、まだまだ続きます。バートンのデザインのセンスと、動きの表現のうまさが堪能できます。ちなみに、キャリコはメスの馬です。小学校中学年向き。

2012年10月1日月曜日

おがわのおとをきいていました












「おがわのおとをきいていました」(スズキコージ/作 学研マーケティング 2005)

はるかはるか北の国のお話。はなめんちゃんは、今度こそ目の前の小川を飛びこえようと思っていました。前に、この小川を飛びこえようとしたときは、小川に落っこちてしまったのです。

深く息を吸い、はなめんちゃんが小川を飛びこえようとすると、「がんばれえ」と小さな声がします。向こう岸のキリギリスが応援してくれたのです。それから、トノサマガエルが顔をだして、「へえ、助走なしでこの小川を飛びこえるつもりかい」と、はなめんちゃんに話かけてきて──。

「あつさのせい?」など、数かずの作品をえがいたスズキコージによる絵本です。絵は、おそらく水彩の厚塗り。じつにエネルギッシュな画風です。このあと、はなみんちゃんはトノサマガエルに、「うるさいわねえ、わたしはいまこそこの小川を飛びこえるの。どいてちょうだい」と、いい返したあと、フナたちの声援をうけながら、はっと向こう岸にむかってジャンプして──。最後まで読んだとき、タイトルの意味がわかるしかけになっています。小学校低学年向き。