2012年7月31日火曜日

とうさんねこのすてきなひみつ










「とうさんねこのすてきなひみつ」(メアリー・チャルマーズ/作 あきのしょういちろう/訳 童話館出版 2006)

夏の暑い日、お兄ちゃんのリトル・グレイと、ジョナサンが遊んでいると、ガの子どもたちがやってきて、「ぼくたち、ピクニックにいくんだよ!」といいました。リトル・グレイとジョナサンは、いそいでうちに帰り、お父さんにいいました。「ガの子どもたち、ピクニックにいくんだよ。ぼくたちはいかないの?」「きょうはだめだね。とても忙しいんだ」と、父さんネコはいいました。

次の日、「わたしたちピクニックにいくのよ!」と、家族と一緒に自動車に乗ったウサギのポリーが、手を振って通りかかります。リトル・グレイとジョナサンは、「どうしてぼくたちはいかないの?」と父さんにいいますが、父さんは、「そのまえにやっておかなくてはならんことがあるからさ」とこたえます。父さんには、なにか考えがあるようなのですが──。

1980年に「おとうさんのおくりもの」として、福音館書店から刊行されたものの新訳です。ページの上部に絵があり、その下に文章があるという構成。絵は、おそらく鉛筆書きに、ところどころ色をおいたもの。色をおかない部分が、絵に広がりをあたえています。さて、父さんネコは家族に内緒で、こっそりあるものをつくっていました。それが完成したある日、ネコの家族はついに、川にピクニックにでかけることになり…とお話は続きます。やさしい父さんネコのたくらみが楽しい読物絵本です。小学校低学年向き。

あなたのひとり旅











「あなたのひとり旅」(M.B.ゴフスタイン/画 谷川俊太郎/訳 現代企画室 2012)

《何年も何年も幸せだったふたり
 とうとうひとりひとり
 あなたがあっちへ呼ばれてしまって
 悲しみの苦しさに
   心が引き裂かれる

 ああ あなた!
 私のあなた!》

「Your Lone Journey」という歌に、ゴフスタインが絵をつけた絵本です。絵は、クレパスで描かれたものでしょうか。ゴフスタインの絵はじつにシンプル。登場人物の顔さえ描いてありませんが、にもかかわらず、夫を亡くした妻の悲しみが強くつたわってきます。また、構成の力により、歌詞がくっきりと立ち上がってくるところも見逃せません。総じて、これ以上は考えられないほど完成度の高い一冊です。小学校高学年向き。

2012年7月27日金曜日

かわせみのマルタン










「かわせみのマルタン」(リダ・フォシェ/文 フェードル・ロジャンコフスキー/絵 いしいももこ/訳編 童話館出版 2003)

人里はなれた美しい谷間は〈わたし〉の王国でした。ところが、カワセミのマルタンがやってきてから、王国はすっかりかれのものとなりました。

細いハシバミの枝にとまったマルタンは、その枝の下を泳いでいくカワハゼを、水中にもぐってぱくりと呑みこみます。また、用心深いマルタンは、針より鋭いトゲをもつみにくいナマズや、針さしのような格好をしているトゲウオなどは攻撃しません。

〈わたし〉の願いはただひとつ、この神秘的なカワセミの姿をみたいということ。カワセミの漁場はわかりましたが、そのすみかはどこなのでしょう。でも、ある日、〈わたし〉は妻のマルチーヌとともに、土手に穴を掘ろうとしているマルタンをみつけます──。

〈わたし〉による、カワセミの観察記といった内容の絵本です。でも、ただの観察記ではありません。魚や、水のなかの生きものや、カワウソや、カワネズミのことまで記された本書は、豊かな谷間の博物誌となっています。絵は、色彩の美しい版画調のもの。このあと、タマゴをかえし、ヒナを育てるマルタン夫妻の暮らしが、季節の移り変わりとともに生き生きとえがかれます。巻末に、本書は福音館書店より1965年に刊行されたものを、翻訳を見直して復刊したものだと記されています。作者たちが手がけた絵本はほかに、「野うさぎのフルー」「りすのパナシ」があります。小学校高学年向き。

2012年7月26日木曜日

ろばのナポレオン











「ろばのナポレオン」(レギーネ・シントラー/文 エレオノーレ・シュミート/絵 うえだまにこ/訳 福音館書店 1995)

ロバのナポレオンは、きょうも石垣のなかで静かに立っていました。そばを通るひとたちは、みんなナポレオンと仲良しで、やさしくなでていくひともたくさんいました。ナポレオンのところに、毎日、大きなカラスが一羽くるようになり、みんなは「カラスは不幸せをもってくるんだぞ」などといいましたが、ナポレオンはいつも、「きみの巣におつかい」といって、干し草をひと口あげました。

さて、ある日のこと、ナポレオンの飼い主のマーラが病気になってしまいます。お金がなくなり、とうとうナポレオンをお百姓に売り渡してしまいます。お百姓のところで重い荷物をはこぶことになったナポレオンは、夜になると疲れて、悲しくて、すぐ眠ってしまいます。すると、ある朝、「やっとみつけた」と、あのカラスがやってきて──。

スイスの絵本です。素朴な、あたたかみのある絵は、おそらく色鉛筆と水彩で描かれたもの。このあと、ナポレオンはやってきたカラスにまた干し草をあげようとするのでいすが、するとカラスこういいます。「わたしの巣はもうできあがったのよ。でも、あなたの贈りものは頂くわ。いいことにつかえるから」。そして、カラスはマーラのところに飛んでいきます。悲しい目にあったナポレオンでしたが、最後はまた幸せにな暮らしにもどります。小学校低学年向き。

2012年7月25日水曜日

賢者のおくりもの










「賢者のおくりもの」(オー・ヘンリー/文 リスベート・ツヴェルガー/画 矢川澄子/訳 1983 富山房)

あしたはクリスマスなのに、デラの手元には、1ドル87セントしかありませんでした。夫のジムに、なにかふさわしいものをあげたいのですが、週20ドルの収入ではどうにもなりません。デラは、髪をふりほどき、姿見に写しました。デラの髪とジムの金時計は、2人のなによりの自慢です。街へでたデラは、20ドルで髪を売り、あちこちの店をまわって、ジムの金時計にふさわしいプラチナの時計鎖を21ドルで買ってきました。

家に帰ったデラは、短くなった髪をととのえ、料理をし、ジムが帰ってくるのを待ちます。いつもとおなじように、時間通りに帰ってきたジムは、デラの顔を穴があくほどみつめます──。

ご存知、O・ヘンリの「賢者のおくりもの」です。話は有名ですが、じっさいに読んでみると、饒舌な語り口が印象に残ります。ツヴェルガーはここでも端正な仕事をしています。登場人物のしぐさを絵にすることに徹し、比喩を絵にしたりすることはありません。その繊細な筆づかいは、2人の品格をいっそう高めています。小学校高学年向き。

2012年7月24日火曜日

時計つくりのジョニー










「時計つくりのジョニー」(エドワード・アーディゾーニ/作 あべきみこ/訳 こぐま社 1998)

ジョニーは手先が器用で、ものをつくるのが上手でした。でも、お父さんもお母さんも、ジョニーのことを器用だとは思ってはいませんでした。ジョニーがかなづちやノコギリをつかいはじめると、お父さんたちは必ず、「あの子ときたら! また馬鹿なことをやってる」というのでした。さて、ジョニーには「船の模型のつくりかた」「テーブルと椅子のつくりかた」「大時計のつくりかた」という、3冊のお気に入りの本がありました。なかでも、一番気に入っているのは、「大時計のつくりかた」でした。ある日、もう100回目くらいにこの本を広げているとき、ジョニーは突然、「ぼくも大時計つくろう」と思いました。

大時計をつくろうと決心したジョニーでしたが、お母さんにそれをいうと、「大時計なんかつくれっこないでしょ」といわれてしまいます。お父さんにいうと、「なにをくだらんことを」。学校の先生にいうと、「あなたはまだ小さいんだから、そんなむずかしいことはできませんよ」。おかげで、ほかの子どもたちにも馬鹿にされ、いじめられてしまうのですが、スザンナだけはジョニーをはげましてくれます──。

「チムとゆうかんなせんちょうさん」などで高名な、アーディゾーニによる絵本です。このあと、ジョニーは木で箱をつくり、ボール紙で文字盤をつくります。あちこちの店をたずねたあげく、鍛冶屋のジョーに頼んで振り子をつくってもらい、歯車や鎖を手に入れます。そして、いじめっ子の妨害や、お父さんたちの無理解にもめげず、ジョニーはついに大時計を完成させます。絵と文章がぴたりとあい、お話は起承転結が気持ちよく整った、申し分のない読物絵本です。小学校中学年向き。

2012年7月23日月曜日

ジュリアスはどこ?

「ジュリアスはどこ?」(ジョン・バーニンガム/作 たにかわしゅんたろう/訳 あかね書房 1987)

ジュリアスは、食事どきになっても、いつも姿をみせません。朝食はお父さんとお母さんと一緒に食べたものの、椅子3つと古いカーテンとほうきで部屋に小さなうちをつくったので、「サージンをのせたトーストとロールパンにバター、それにトマト、プティング抜き」を食べるどころではないのです。そこで、お父さんのトラウトベックさんは「サージンをのせたトーストとロールパンにバター、それにトマト、プティング抜き」をお盆にのせて、ジュリアスの部屋にもっていきます。

晩ごはんは、「子ヒツジのキャセロールと皮つきのジャガイモと、バターをのせブロッコリと食後のローリーポーリー・プティング」。でも、ジュリアスは、世界の反対側にいくための穴を掘っているので、食事にはこれません。そこでトラウトベックの奥さんは、「子ヒツジのキャセロールと皮つきのジャガイモと、バターをのせブロッコリと食後のローリーポーリー・プティング」を、穴を掘っているジュリアスにもっていってやります──。

食事のメニューがくり返される、楽しい一冊です。トラウトベックさんや奥さんが食事をはこぶ場面では、なぜかネコやウシやハゲワシがついてきます。そして、見開き一面で、うちをつくったり、穴を掘ったり、ピラミッドに登ったりしているジュリアスの食事を、ひと口せしめていきます。見開きには、ジュリアスの空想がえがかれているのですが、そこに食事が置かれているのが可笑しいところです。このあと、トラウトベックさんと奥さんは、アフリカやロシアのどこかやチベットの近くの山の頂上にいるジュリアスに、いろんな食事を届けます。本書の冒頭には、とにかくたくさんでてくる料理の説明が載せられています。小学校低学年向き。

2012年7月20日金曜日

鼻のこびと











「鼻のこびと」(ヴィルヘルム・ハウフ/作 リスベート・ツヴェルガー/絵 池内紀/訳 太平社 1999)

昔、ドイツのとある町に、ひとりの靴屋がいました。靴屋には、野菜売りをしている女房と、ヤーコプという名前のひとりの男の子がいました。ある日のこと、野菜売場に年寄りの女がやってきました。汚い指で野菜をつかんでは鼻に近づけ、くんくん匂いをかいでいくので、ヤーコプが怒って注意すると、「わたしのこの鼻が気に入ったらしいが、おまえも顔の真ん中に、あごまでたれるような長い鼻をつけたらどうかね」と、ばあさんはこたえました。「そんなに頭をふらふらさせないでよ」と、ヤーコプがいうと、「ならば、首なしになればいい」と、ばあさんはいいました。

さて、ヤーコプはばあさんが買った6個のキャベツを、家まではこぶことになります。町はずれの、こわれかけた家のなかはとても豪勢。天井と壁は大理石、家具はとびきりの木でつくられていて、黄金や宝石でかざられています。ばあさんが、ポケットから笛をとりだし、ひと吹きすると、2本足で立つ人間の服を着たネズミやリスがあらわれて、ばあさんとヤーコプの世話をはじめます。スープをごちそうになったヤーコプは、ソファの上で眠ってしまい、自分がリスになってばあさんにお勤めする夢をみるのですが──。

絵本というより、美しい挿画のついた読物といった感じの、読物絵本です。作者のハウフは、若くして亡くなったドイツの作家。「隊商」(岩波書店 1979)の作者として有名です。訳者あとがきで、池内紀さんは、「ゲーテは3倍以上長生きしたが、ハウフのようなキレのいい物語はつくれなかった」と書いています。絵は、繊細なタッチでえがかれた美しい色あいの水彩。このあと、ヤーコプは、夢のなかで靴磨きから台所の係にまで出世します。7年たったある日、ばあさんの家にきてはじめて食べたスープと同じ匂いのする草の匂いをかぎ、するとクシャミをして目をさまします。その後、町へもどると、現実でも7年が経過していて、自分は長い鼻をもつ、首のない小人になったことをさとります。両親もヤーコプのことがわからず、ヤーコプはリスだったころの腕を生かし、国王の料理人になり…と、物語は続きます。美しい挿画とともに語られる、密度のある不思議な物語が大変魅力的。最初と最後の絵は対になっています。小学校高学年向き。

2012年7月19日木曜日

灰かぶり











「灰かぶり」(グリム/原作 スベン・オットー/絵 矢川澄子/訳 評論社 1986)

昔、ある金持ちの奥さんが病気になり、娘をひとり残して亡くなりました。金持ちは、2人の娘をもつ新しい妻をめとりました。この2人の娘たちは、きれいで色白でしたが、心根はいやしくて真っ黒でした。まま母とまま姉さんたちは、娘に灰色のぼろを着せて、木靴をあてがい、朝から晩まではたらかせました。娘にはベッドもなかったので、夜はかまどの灰のなかで寝ていました。おかげで、いつもむさくるしく、灰まみれだったので、娘はいつしか「灰かぶり」と呼ばれるようになりました。

あるとき、父さんが大きな市にでかけることになり、姉さんたちは、きれいな着物や、真珠と宝石をおみやげにほしいといいます。ですが、灰かぶりは、「帰り道で、一番先に父さんの帽子にさわった小枝を1本折ってきて」といいます。灰かぶりにいわれたとおり、父さんがはしばみの枝をもって帰ると、灰かぶりは母さんのお墓にいき、その小枝を植えて泣きだします。小枝は立派な木になり、真っ白な小鳥が1羽やってきて、灰かぶりの望みをなんでも聞きとどけてくれるようになります──。

グリム童話をもとにした絵本です。「灰かぶり」とは、「シンデレラ」のことですが、マーシャ・ブラウンの「シンデレラ」とは、細部がいろいろちがっています。まず、灰かぶりを助けてくれるのは白い小鳥で、仙女ではありません。灰かぶりの靴はガラスではなく純金ですし、物語の後半、靴をはこうと姉さんたちはナイフでつま先を切り落とします。また、ラストでは、姉さんたちは報いを受け、目が見えなくなってしまいます。絵は、空間がよく表現された上品な水彩。物語に真実味をあたえています。小学校中学年向き。

おやすみなさいおつきさま









「おやすみなさいおつきさま」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 クレメント・ハード/絵 せたていじ/訳 評論社 1979)

大きな緑の部屋のなかに、電話がひとつ、赤い風船がひとつ、雌ウシが月を飛びこす絵がひとつと、3匹のクマが椅子にすわっている絵がひとつ、子ネコが2匹に、手袋がひとそろい、人形の家が一軒に、子ネズミが1匹、クシとブラシにおかゆがひと椀、そしてウサギのおばあさんがベッドの子ウサギに、静かにおしと小さい声でいっています──。

名高い古典絵本の1冊です。カラーと白黒のページが交互にくる構成。前半、部屋のなかのいろいろなものがとりあげられ、後半、それらのものひとつひとつに「おやすみ」をいっていきます。そして、巻末にいくにしたがい、だんだんと部屋が暗くなっていきます。絵をよくみると、ネズミやネコが場所を変えているのがわかりますし、ベッド脇の時計から、何時から何時までのお話だったのか知ることができます。部屋の絵のひとつに、同じ作者たちによる「ぼくにげちゃうよ」の絵が飾られているのは、読者へのサービスでしょう。だんだん夜が深まっていくさまをえがいた、素晴らしい作品です。幼児向き。

ちっちゃなかいぞく

「ちっちゃなかいぞく」(デニス・トレ/作 アレイン・トレ/作 麻生九美/訳 評論社 1979)

心のやさしいニコラスは、ちっちゃな海賊でした。ニコラスが好きなのは、船のそばにやってくる魚にエサをあげたり、マストのてっぺんの見張り台に花を植えたりすることでした。獲物がなくてひまな日、海賊たちはラム酒を飲んで海の歌をうたうのですが、ニコラスは空の酒ビンのなかにちっちゃな船をつくりました。

ニコラスは、上陸するたびに脱走しましたが、いつも失敗します。海賊たちは利口なニコラスを、絶対手放すもんかと思っているのです。ニコラスの一番の友だちは、毎日絵を描いている引退した老水夫でしたが、「ごくつぶしめ」と親分にいわれ、船を降りることになります。そこで、別れの記念に、老水夫はニコラスの背中に、宝のありかをあらわす地図をえがいてくれます。ですが、海賊の子分がそれをこっそりのぞいていて──。

心やさしい、ちっちゃな海賊ニコラスのお話です。絵は、マーカーでさっと描いたような、可愛らしいもの。このあと、ニコラスを追っかけた親分は海に落ち、心やさしいニコラスは海に飛びこんで親分を助けます。おかげで、背中の地図は消えてしまい、親分はニコラスを船から降ろしてくれて、自由になったニコラスは、ひとまずおじいさんが教えてくれた宝島にいって…とお話は続きます。絵もお話も明快、明朗、大変愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2012年7月13日金曜日

おおかみのこがはしってきて











「おおかみのこがはしってきて」(寮美千子/文 小林敏也/絵 パロル舎 1999)

《ちいさな おおかみのこが はしってきて
 こおりの うえで つるんと ころんだ。

   ねえ どうして ころんだの?

 それはね こおりが えらいからだよ。
 おおかみよりも ずうっとね。

 でも こおりは とけちゃうよ。
 ねえ どうして?

 それはね おひさまが えらいからだよ。
 こおりよりも ずうっとね。》

アイヌの民話をもとにした絵本です。解説が記された付録の紙によれば、本書のお話は、さまざまなバージョンをもとに、ひとつの新しい話に仕立て直したものだということです。絵は、少ない色数を巧みにつかった、版画調のもの。文様をうまくとりいれ、絵が単調になるのをふせいでいます。お話は、ほとんど父と子の問答です。お日様よりも雲がえらく、雲よりも風がえらく、風よりも山がえらく…と、お話は進みます。話のつくりは、「ねずみの嫁入り」によく似ていますが、「ねずみの嫁入り」が「強い」というニュアンスであるのに対し、本書は「えらい」と語られているところがちがっていると、解説は指摘しています。本文には、ところどころ、アイヌ語によるルビが振られています。小学校中学年向き。

2012年7月12日木曜日

ブレーメンのおんがくたい











「ブレーメンのおんがくたい」(グリム/原作 ハンス・フィッシャー/作 せたていじ/訳 福音館書店 1980)

昔、あるところに1匹のロバがいました。からだが弱って、だんだん仕事ができなくなってきたので、もうこれ以上エサをやることはないと飼い主は思っていました。それに気がついたロバは、町の音楽隊に入れてもらおうと、家を飛びだし、ブレーメンの町をめざしてでかけました。

ブレーメンにいく途中、ロバは年をとったイヌと、ネズミのとれなくなったネコ、スープにされそうなオンドリと出会い、みんなでブレーメンの町をめざします。

ご存知、「ブレーメンの音楽隊」のお話です。「ブレーメンの音楽隊」の絵本はいくつもありますが、本書が代表作でしょう。このあと、夜になり、大きな木の下で休むことにした一行は家をみつけ、いってみるとそこにはドロボウたちがいて…と、お話は続きます。フィッシャーの軽妙な絵はここでも健在。お話をよく引き立てています。小学校低学年向き。

おおかみと七ひきのこやぎ









「おおかみと七ひきのこやぎ」(グリム/原作 フェリクス・ホフマン/作 せたていじ/訳 福音館書店 1967)

昔、あるところに、子ヤギを7匹育てているお母さんヤギがいました。お母さんヤギが子ヤギたちを可愛がることといったら、どのお母さんにも負けないくらいでした。ある日、食べものをさがしに森へいくお母さんヤギは、子ヤギたちにいいました。「オオカミにくれぐれも気をつけておくれ。あいつがうちに入りこんだが最後、おまえたちは丸ごと食べられちまうからね。でも、しわがれ声と、足の黒いのに気をつければ、すぐにわかるだろうよ」

さて、お母さんヤギがでかけると、オオカミがやってきてこういいます。「開けておくれ子どもたち、お母さんだよ、食べものをもってきたよ」。でも、子ヤギたちは、そのしわがれ声を聞いて、すぐオオカミと見抜きます。そこで、オオカミは雑貨屋にでかけ、大きな白墨を買うとそれを食べ、声をきれいにします──。

グリム童話をもとにした絵本です。ホフマンは、

「ねむりひめ」

など、多くの傑作をえがいた絵本作家。このあと、声はきれいでも足は真っ黒だと、オオカミを追い返した子ヤギたちでしたが、前足に練り粉と粉をつけたオオカミにだまされ、ドアを開けてしまい…と、お話は続きます。登場人物たちの擬人化や造形がじつに絶妙。また、お母さんヤギのりりしさが印象的です。小学校低学年向き。

2012年7月10日火曜日

シンデレラ










「シンデレラ」(マーシャ・ブラウン/作 まつのまさこ/訳 福音館書店 1990)

昔、あるところに、だれもみたことがないほど、うぬぼれやで高慢ちきな女と2度目の結婚をしたひとがいました。この奥さんには、性質がなにからなにまで自分そっくりの、いやな娘が2人いました。男のひとのほうにも、娘がひとりいましたが、それは亡くなったお母さんにそっくりな、やさしい気だてのよい娘でした。

小さい娘があんまりいい子なので、自分の娘たちがいっそういやらしくみえ、どうにも我慢ができなくなったお母さんは、シンデレラ(灰むすめ)に、家の仕事をみんな押しつけるのですが──。

ご存知、グリム童話のシンデレラのお話です。シンデレラの絵本といえば、おそらく本書が代表作となるでしょう。このあと、王子様が舞踏会を開くことになり、代母である仙女が仕立ててくれた馬車に乗って、シンデレラはお城にむかいます。文章はタテ書き。リズミカルな文章で記された読物絵本です。小学校中学年向き。

ことば











「ことば」(アン・ランド/作 ポール・ランド/作 長田弘/訳 ほるぷ出版 1994)

《ことばって 何だとおもう?
 かんがえていることを ちゃんと いいあらわすもの。
 それが ことば。
 わすれているものを はっきりと おもいだすもの。
 それが ことば。

 ことば は みみで きくもの。
 めで みるもの。
 え に かくことだって できるんだ。
 ほん や にんぎょう や いす みたいに
 もの の なまえ も ことば。
 とり や いぬ や くま みたいに
 どうぶつ の なまえ も ことば。》

ことばは好きなひとたちの名前。感じたことを感じた通りにいうのもことばだし、知りたいことをたずねるのもことば。ぴかぴかとか、きらきらとか、光を浴びて楽しそうに輝いていることばもあれば、こっそりとか、げっそりとか、夜そっくりな暗ーいことばもある──。

ことばについて、さまざまな考えを記した絵本です。絵は、切り絵による、グラフィック・アート調のもの。シンプルでカラフルな絵が、ことばとはどんなものかを考えるのにひと役買っています。小学校低学年向き。

2012年7月6日金曜日

もこもこもこ











「もこもこもこ」(谷川俊太郎/作 元永定正/絵 文研出版 1977)

《しーん
 もこ
 もこもこ にょき
 もこもこもこ にょきにょき
 ぱく
 もくもぐ
 つん
 ぽろり》

文章は擬音だけ。なので、こうやって引用しても、なにがなんだかわかりません。絵は、どんな画材をつかっているのか。大変鮮やかで、めりはりがあります。まず、しーんとしている紫の地平線が、もこっとふくらみます。“もこ”はどんどん大きくなり、そのとなりににょきっと別のふくらみがあらわれます。“もこ”はもこもこ、“にょき”はにょきにょきと大きくなりますが、大きくなった“もこ”は、“にょき”をぱくっと食べてしまいます。すると、“もこ”のからだに、つんとこぶができ、それがぽろりと下に落ちます…。こう説明しても、やはり本書の面白さはつたわりません。世の中には、とにかく読まなければわからない本というのがあって、さしずめこの本はその筆頭といえるでしょう。1977に出版された、ロングセラーです。幼児向き。

2012年7月5日木曜日

あつさのせい?








「あつさのせい?」(スズキコージ/作 福音館書店 1994)

とても暑い日、駅のプラットホームで、ウマのはいどうさんは、帽子をとって汗をぬぐっていました。すると、電車がやってきたので、急いでヒヒンと飛び乗りました。が、帽子をベンチに置き忘れてしまい、そこをキツネのとりうち君が通りがかりました。「おっ、カッコイイ帽子」と、帽子をちょっとかぶってみたとりうち君は、駅のトイレで鏡を見、自分のイカス姿にボーッとしてしまって、トイレにかごを置き忘れてしまいました──。

登場人物が、次つぎと忘れものをし、別の登場人物がそれを拾っては、別のものを忘れて…という仕掛けで話が進む絵本です。絵は、おそらく水彩による厚塗り。スズキコージの密度の濃い、ナンセンス味のある絵が、お話とよくあっています。このあと、キツネのとりうち君が忘れたかごを、ブタの三吉(さんきち)が拾います。かごにはお風呂の道具が入っていたので、一週間も風呂に入っていない三吉は、さっそく銭湯にでかけていきます。でも、銭湯をでるときシャンプーを忘れてしまい、そのシャンプーをウシの山口さんが拾って…と、お話は続きます。絵本の体裁は横長、文章は絵の横にタテ書きで記されていて、舞台や映画を思わせます。裏表紙に映画の撮影風景がえがかれているのは、映画のような感じをねらったと作者が種明かしをしているのでしょう。小学校低学年向き。

いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー










「いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー」(ジョン・バーニンガム/作 たにかわしゅんたろう/訳 あかね書房 1988)

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは、お勉強をしに、学校へでかけていきます。途中、1匹のワニがマンホールからあらわれて、ジョンのカバンに噛みついてはなしません。手袋を片っぽ投げつけて、ワニはやっとカバンをはなしてくれます。学校についたジョンが、遅れた事情を先生に説明すると、先生は怒ってこういいます。「このあたりでは、下水にワニなどすんでおらん。居残りして、もうワニの嘘はつきません、手袋もなくしませんと、300回書くこと」

ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは、茂みからでてきたライオンにズボンを破られたり、高潮にのまれたりしては、学校に遅刻し、先生に罰をいいつけられます──。

「ガンビーさんのふなあそび」「ひみつだから!」などで名高い、ジョン・バーニンガムによる絵本です。子どもの内面をえがくことに長けているバーニンガムは、何冊もの傑作をものしましたが、本書はそのなかの一冊です。このあと、ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは、ついになにごともなく、学校にたどり着いくのですが、すると先生が困ったことになっていて…と、お話は続きます。最後の意趣返しが痛快な一冊です。小学校低学年向き。

2012年7月3日火曜日

ずどんといっぱつ














「ずどんといっぱつ」(ジョン・バーニンガム/作 わたなべしげお/訳 童話館 1995)

シンプは、だれがみたってみにくいメスの子イヌでした。だれももらい手がいなかったので、とうとうある日、飼い主のおじさんに、町はずれのごみ捨て場に捨てられてしまいました。
夜になると、たくさんのネズミが姿をあらわしました。「おなかがぺこぺこ」とシンプがいうと、ネズミの一匹がパンをひと切れ差しだしていいました。「朝になったらでていくんだぞ。おれたちネズミだけでも、ここの暮らしはきついんだ。おまえに分けてやる食べものなんぞないからな」

夜が明け、町にむかったシンプは、ゴミ捨て場でノラネコに追いかけられ、野犬狩りの男につかまって車に放りこまれます。なんとか野犬収容所から逃げだしたシンプは、夜、サーカスのテントにたどり着きます──。

「ガンビーさんのふなあそびや」「ひみつだから!」などで名高い、ジョン・バーニンガムによる絵本です。バーニンガムにはいくつかの作風がありますが、本書は「ボルカ」風の、物語性の強いもの。このあと、ピエロのおじさんに拾われたシンプは、サーカスをクビになりそうなピエロのために、大砲に入って打ち出される芸を披露しようとします。最後はもちろん大団円。捨てイヌシンプの活躍が楽しい一冊です。小学校低学年向き。

和菓子の絵本










「和菓子の絵本」(平野恵理子/作 あすなろ書房 2010)

タイトル通り、和菓子についての知識絵本です。和菓子といえば、あんこを皮にくるんで、蒸したり、焼いたり、揚げたりしてつくるおまんじゅう。それから、お米の粉を練って、丸めてつくるお団子。桜もち、わらびもち、くずもちといったもち菓子に、おせんべい。きんつばやあんこ玉といった、あんこ菓子。寒天をつかった、羊かんやところてん。はたまた、いろんなアメに、カステラや丸ボウロといった南蛮菓子も。

和菓子につかわれる材料や、職人さんによる和菓子のつくりかた、それから、自分でつくるお団子や白玉、おはぎ、どら焼きのつくりかたも載っています。さらに、月ごとの和菓子や、お祝いごとの和菓子、日本各地の和菓子に、和菓子の歴史、後ろの見返しには索引もついていて、この一冊で和菓子について、ひと通りの知識が得られます。

また、水彩でえがかれたたくさんの和菓子の絵は、どれもみな美味しそう。和菓子のつくりかたに登場する、なんだかつまらなそうな、それでいて楽しそうな顔をした男の子が可愛らしいです。読み終えたあと、和菓子を食べたくてたまらなくなる一冊です。小学校高学年向き。