2012年7月20日金曜日

鼻のこびと











「鼻のこびと」(ヴィルヘルム・ハウフ/作 リスベート・ツヴェルガー/絵 池内紀/訳 太平社 1999)

昔、ドイツのとある町に、ひとりの靴屋がいました。靴屋には、野菜売りをしている女房と、ヤーコプという名前のひとりの男の子がいました。ある日のこと、野菜売場に年寄りの女がやってきました。汚い指で野菜をつかんでは鼻に近づけ、くんくん匂いをかいでいくので、ヤーコプが怒って注意すると、「わたしのこの鼻が気に入ったらしいが、おまえも顔の真ん中に、あごまでたれるような長い鼻をつけたらどうかね」と、ばあさんはこたえました。「そんなに頭をふらふらさせないでよ」と、ヤーコプがいうと、「ならば、首なしになればいい」と、ばあさんはいいました。

さて、ヤーコプはばあさんが買った6個のキャベツを、家まではこぶことになります。町はずれの、こわれかけた家のなかはとても豪勢。天井と壁は大理石、家具はとびきりの木でつくられていて、黄金や宝石でかざられています。ばあさんが、ポケットから笛をとりだし、ひと吹きすると、2本足で立つ人間の服を着たネズミやリスがあらわれて、ばあさんとヤーコプの世話をはじめます。スープをごちそうになったヤーコプは、ソファの上で眠ってしまい、自分がリスになってばあさんにお勤めする夢をみるのですが──。

絵本というより、美しい挿画のついた読物といった感じの、読物絵本です。作者のハウフは、若くして亡くなったドイツの作家。「隊商」(岩波書店 1979)の作者として有名です。訳者あとがきで、池内紀さんは、「ゲーテは3倍以上長生きしたが、ハウフのようなキレのいい物語はつくれなかった」と書いています。絵は、繊細なタッチでえがかれた美しい色あいの水彩。このあと、ヤーコプは、夢のなかで靴磨きから台所の係にまで出世します。7年たったある日、ばあさんの家にきてはじめて食べたスープと同じ匂いのする草の匂いをかぎ、するとクシャミをして目をさまします。その後、町へもどると、現実でも7年が経過していて、自分は長い鼻をもつ、首のない小人になったことをさとります。両親もヤーコプのことがわからず、ヤーコプはリスだったころの腕を生かし、国王の料理人になり…と、物語は続きます。美しい挿画とともに語られる、密度のある不思議な物語が大変魅力的。最初と最後の絵は対になっています。小学校高学年向き。

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