2013年5月31日金曜日

沖釣り漁師のバート・ダウじいさん















「沖釣り漁師のバート・ダウじいさん」(ロバート・マックロスキー/作 わたなべしげお/訳 童話館出版 1995)

バート・ダウじいさんは、沖釣りの漁師でした。年をとって引退しましたが、まだ2そうの舟をもっていました。そのうちの1そうは、もう古くてあちこちから水がもれるので、真っ赤に塗って前庭に置きました。そして、舟べりまでたっぷり土を入れて、夏にはゼラニュームとスイートピーを植えました。

もう1そうは、うごいたり止まったりする気まぐれエンジンのついた《潮まかせ号》でした。やっぱり水もれがしましたが、バートじいさんはひまさえあれば、この自慢の舟の手入れをしました。ペンキ塗りを頼まれるたびに、残ったペンキをもらってきて《潮まかせ号》に塗っていたので、《潮まかせ号》は大変カラフルになりました。

さて、ある朝、いつものように気短かな妹に起こされたバートじいさんは、朝食をとると、友だちのおしゃべりかもめと一緒に沖にでます。そこで、釣り糸をたらすと、思いがけないものがかかって──。

「サリーのこけももつみ」「すばらしいとき」などで知られるマックロスキーによる絵本です。絵は、明快な色づかいの水彩。海の感じがじつに素晴らしいです。さて、バートじいさんの釣り針にかかったのは、なんとクジラの尻尾でした。じいさんはなんとかクジラをなだめ、針をはずし、穴の開いたところにバンソウコウを貼ってやります。ところが、にわかに天気が悪くなり──と、バートじいさんの冒険はまだまだ続きます。小学校中学年向き。

ハーキン















「ハーキン」(ジョン・バーニンガム/作 あきのしょういちろう/訳 童話館出版 2003)

キツネのハーキンは、小さな山の上に、家族と一緒に暮らしていました。ハーキンの父さんと母さんは、子ギツネたちに、「この山だけで遊びなさい」と、うるさくいいきかせていました。「谷へ降りたりしたら、狩人にみつかって、ここまであとをつけられて、みんな無事でいられなくなるからね」。でも、ハーキンは山の上で遊ぶのにあきあきしていました。

こっそり谷にでかけるようになったハーキンは、沼を渡る秘密の小道をみつけ、そこを通ってウサギやニワトリをつかまえてくるようになります。ですが、ある夜、森の番人にみつかってしまい──。

副題は「谷へおりたきつね」。「ガンビーさんのドライブ」などで高名なジョン・バーニンガムの作品です。バーニンガムの経歴のなかでは、初期の作品にあたります。のちの作風にくらべると、絵柄もお話も密度があります。さて、このあと、キツネの一家は、狩人がやってきてみんな殺されてしまうとおびえます。いっぽう森の番人は、キツネをみつけたことを地主に報告。地主はキツネ狩りをすることにします。そこで、ハーキンは、「なんとしても狩人たちをここから遠くへ誘いださなくては」と、野原で狩人たちが近づいてくるのを待ち──。ハーキンの機転と勇気が痛快な一冊です。小学校中学年向き。

2013年5月29日水曜日

アルフィーのいえで















「アルフィーのいえで」(ケネス・M・カドウ/文 ローレン・カスティーヨ/絵 佐伯愛子/訳 ほるぷ出版 2012)

お気に入りの靴をよそにあげちゃうとママがいったので、アルフィーはその靴をはいて家出をすることにしました。「その靴で家出はどうかしら。もう小さいんじゃない?」と、ママはいいましたが、アルフィーの決心は変わりません。

「家出をしたらのどが乾くかもしれないわ」と、ママが水筒に水を入れてくれ、アルフィーはそれを受けとります。「夜はとっても暗いわよ」と、懐中電灯も受けとります。それから、替えの電池も受けとって──。

男の子のちょっとした家出を扱った絵本です。絵は、柔らかな色調の親しみやすいもの。このあと、アルフィーはママの協力を得て、バッグにクラッカーとピーナツバターを入れ、クマのぬいぐるみのバディに読んであげるための絵本を3冊えらんで、いよいよ家をでるのですが──。小学校低学年向き。

2013年5月28日火曜日

たんじょうびおめでとう!















「たんじょうびおめでとう!」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 レナード・ワイスガード/絵 こみやゆう/訳 長崎出版 2011)

ある春の日、深い森のなかで、イモムシ、ミツバチ、リス、ブタ、それからウサギが生まれました。みんなは少しずつ大きくなって、次の春、1歳になりました。そして、自分たちが一番ほしいプレゼントをもらいました。

イモムシくんのもらったプレゼントはなにかな──? それは、お母さんがくれた美味しそうなリンゴ。次は小さなミツバチくん。プレゼントは一体なにかな──?

マーガレット・ワイズ・ブラウンと、レナード・ワイスガードのコンビは、「きんのたまごのほん」など、数かずの名作をえがいています。本書の絵は大変鮮やか。このあとは、「プレゼントは一体なにかな?」のくり返しです。ミツバチくんのお母さんがもってきてくれたのは、蜜のたくさん入ったキンギョソウ。では、小さなリスちゃんや、小さなブタくん、それから小さなウサギちゃんがもらったプレゼントは一体なにかな──? 小学校低学年向き。


ゆうこのキャベツぼうし















「ゆうこのキャベツぼうし」(やまわきゆりこ/作 福音館書店 2008)

ゆうこが畑のそばを歩いていると、畑のおばさんが大きなキャベツをくれました。キャベツをかかえて歩いていると、お日様が照ってきたので、キャベツの葉っぱを1枚はがし、帽子にしてかぶりました。でも、キャベツは大きすぎて、前がよくみえなくなり、どしん!とこぐまにぶつかってしまいました。

ゆうこはこぐまに、「こぐまさんもかぶる?」と訊くと、こぐまは「うん、かぶりたい」とこたえます。こぐまもキャベツ帽子をかぶって、2人で歩いていくと、こんどはこぶたちゃんとつねこちゃんに出会って──。

作者のやまわきゆりこさんは、「ぐりとぐら」の画家として高名です。このあと、うさぎとも会い、みんなでキャベツ帽子をかぶって、おおかみおにをして遊びます。すると、本物のおおかみがあわられて──と、お話は続きます。やまわきゆりこさんらしい、やさしいお話の絵本です。小学校低学年向き。

2013年5月24日金曜日

むらの英雄















「むらの英雄」(クーランダー/原作 レスロー/原作 わたなべしげお/文 にしむらしげお/絵 瑞雲舎 2013)

昔、アディ・ニハァスという村の12人の男たちが、粉をひいてもらうために、マイ・エデカという町へいきました。その帰り道、森のなかを通りがかったとき、ひとりの男が、仲間が12人そろっているかどうか気になりはじめました。そこで、みんなを呼びとめて人数を数えましたが、自分を数え忘れたため、11人しかいませんでした。

「大変だ! だれかがいないぞ」というわけで、こんどは別の男がみんなを数えます。でも、この男も自分を数え忘れたので、やっぱりひとりいないということになり──。

エチオピアの昔話をもとにした絵本です。奥付によれば、本書はペンギン社から1983年に出版されたものの新装版。お話は、「山の上の火」(岩波書店 1963)のなかの1編、「アディ・ニハァスの英雄」をもとにしたもののようです。絵は、黒青赤の3色をつかった版画風のもの。シンプルな絵柄が昔話らしさをかもしだしています。このあと男たちは、いなくなった男は道に迷い、ヒョウに食われてしまったのだと話しあいます。「ものすごく大きなヒョウだったなあ」「あいつは武器ももたないで勇敢にたたかったじゃないか」などと、失った仲間のことを悲しみながら村にもどると──と、お話は続きます。なんとも間の抜けた、それでいて愉快な一冊です。小学校低学年向き。

グーテンベルクのふしぎな機械















「グーテンベルクのふしぎな機械」(ジェイムズ・ランフォード/作 千葉茂樹/訳 あすなろ書房 2013)

1450年ごろ、ドイツのマインツ市に、不思議なものが登場しました。それは、ぼろきれと骨、まっ黒なススと植物の種からできていて、茶色のコートを身にまとい、金が散りばめられていました。

物乞いの服や、ご婦人の下着、紳士のシャツなどからあつめたぼろきれを細かく切りきざみ、水で洗って水車の力で叩いてほぐし、ドロドロにします。このパルプと呼ばれるものを、すのこですくい上げ、押しつぶし、乾燥させ、動物の骨や皮や角やひづめなどを煮てつくった、あたたかい糊にひたし、もう一度押しつぶして乾燥させると、固くなって、風に吹かれるとパリパリカサカサ音を立てます。ぼろきれと骨からつくられたこのシート、一体なんでしょう? そう、それは紙──。

グーテンベルクがつくった、印刷機と呼ばれるふしぎな機械と、その機械でつくった本についてえがいた知識絵本です。絵は、おそらくCGをつかったもの。さて、本をつくるには、まず紙と革と金箔とインク、それから活字と印刷機が必要です。すべての準備が整ったところで、いよいよグーテンベルクが登場。活字を組み、インクをつけ、巨大な木のねじのハンドルをまわして、紙に印刷していきます──。当時の紙やインクの製造法から、印刷機のつかいかたまで、よく調べられた一冊です。小学校高学年向き。

2013年5月22日水曜日

エイプリルと子ねこ

「エイプリルと子ねこ」(クレア・ターレイ・ニューベリー/作 ゆあさふみえ/訳 1986)

アメリカのニューヨークに、エイプリルという女の子がいました。お父さんが「ネコ1匹アパート」と呼ぶ狭いアパートに、お父さんとお母さんと、シバという名前の黒ネコと一緒に暮らしていました。お父さんはシバに、「子どもを生むんじゃないぞ」と、しょっちゅういいきかせていました。

ところが、ある日、シバは3匹の子ネコを生みます。エイプリルは大喜び。1日中子ネコをながめますが、アパートに4匹のネコはおけません──。

ネコの絵本作家として名高い、ニューベリーによる1冊です。本書は、文章はタテ書きの読物絵本。絵は、黒と赤の2色でえがかれています。子ねこの可愛らしさはさすがのひと言。このあと、エイプリルのうちでは、子ネコを1匹だけ手元におき、シバとほかの子ネコをだれかにあげることになります。そして、ある日、お母さんの友だちと、小さな男の子がうちにやってきます。エイプリルは、いちばん気に入っているブレンダがもらわれてしまうのではないのかと、気が気でなくなってしまうのですが──。小学校中学年向き。

2013年5月21日火曜日

かえでの葉っぱ














「かえでの葉っぱ」(デイジー・ムラースコヴァー/文 関沢明子/訳 出久根育/絵 理論社 2012)

大きな崖に、カエデの木が1本立っていました。そのてっぺんには、1枚の大きな葉っぱがついていました。「ぼくが木から落ちるときは、うんと遠くまでいくんだ」と、葉っぱは思っていました。ある日の午後、葉っぱは木からふわりとはなれました。でも、すぐ下の大きな石のあいだに落ちてしまいました。

葉っぱは、ハンマーで石を叩いて銀をさがしている少年に出会います。少年は、「いつかもどってきて話を聞かせてよ」と、葉っぱを風にのせて放します──。

チェコの童話をもとにした絵本です。水彩でえがかれた景色は、大変美しくえがかれています。このあと、葉っぱは風にはこばれ、さまざまな土地を旅します。季節は冬になり、春になり、また秋になって、少年のもとにもどってきます。お話と絵がよくあった、叙情あふれた一冊です。大人向き。

2013年5月20日月曜日

あめのひのおはなし















「あめのひのおはなし」(かこさとし/作 小峰書店 1997)

きょうは朝から雨が降っていました。お母さんがおでかけでいないので、さあちゃんとゆうちゃんは、おばあちゃんとお留守番をしていました。夕方になり、2人はカサをさしてお母さんを迎えにいきました。

小川のところにくると、カエルちゃんがでてきて、「さあちゃん、ゆうちゃん、一緒に連れてって」といいます。カエルちゃんと一緒にいくと、こんどは池のところで、「わたしも連れてって」とアヒルちゃんがでてきます──。

かこさとしさんは、「からすのパンやさん」などの作者として高名です。絵には、独特の愛嬌があります。さて、このあと、タヌキくんやクマどんもあわられて、みんなで一緒に丘の上のバス停にいき、バスを待ちます。でも、バスはなかなかやってこなくて──と、お話は続きます。後ろの見返しの絵が、なんとも嬉しい気持ちにさせてくれます。小学校低学年向き。

2013年5月19日日曜日

つるにょうぼう















「つるにょうぼう」(矢川澄子/再話 赤羽末吉/絵 福音館書店 1979)

よ平という貧しいひとり暮らしの若者がいました。冬のはじめのある日、ふいにばさばさと音がして、どこからか一羽のツルが舞い降りてきました。翼に矢を受けて、苦しそうにしているツルを、よ平はていねいに介抱してやりました。

その夜、よ平の家の戸をたたく者があります。戸を開けると、ひとりの美しい娘が立っています。「女房にしてください」という娘を、よ平は家に入れるのですが──。

日本の民話「鶴の恩返し」をもとにした絵本です。このあと、女房がきたので、よ平の家の貧しさはいっそうつのります。そこで、女房はよ平にのぞき見しないようにお願いし、部屋にこもって上等のはたを織ります。2人はしばらく暮らしますが、冬はまだまだ続き、女房はもう一度はたを織ります。もうこれきりと思っていたところ、となりの男にうながされ、よ平はお金のことばかり考えるようになってしまいます。そんなよ平のために、女房はもう一度はたを織ろうとするのですが──と、お話は続きます。赤羽末吉さんの絵は、北国の感じをみごとにだしています。小学校低学年向き。

サリーとライオン















「サリーとライオン」(クレア・ターレー・ニューベリー/作 さくまゆみこ/訳 光村教育図書 2000)

昔むかし、サリーという名前の女の子がいました。サリーは、お人形と、お人形の家と、ままごとセットと、車のついたシマウマをもっていました。でも、サリーが本当にほしいのはライオンでした。ある日、買い物にでかけたお母さんが、おみやげにライオンの赤ちゃんをもってきてくれました。

大喜びのサリーは、さっそくハーバートと名前をつけて、赤ちゃんライオンと遊びます。でも、日がたつにつれハーバートはずんずん大きくなって──。

女の子とやさしいライオンの交流をえがいた一冊です。作者のクレア・ターレー・ニューベリーは、猫がでてくる絵本の作家として高名。本書は、水彩のにじみを生かしたほかの絵本とはちがい、シンプルな線画にわずかに着色をほどこしたもの。でも、しぐさのとらえかたのうまさは変わりません。このあと、大きくなったハーバートはみんなに怖がられ、牛乳屋さんも八百屋さんもお肉屋さんも、サリーのお友達も、おばあさんもおじいさんも、みんな家にこなくなってしまいます。そこで、ハーバートは山の牧場で暮らすことになるのですが──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年5月15日水曜日

ライオンとネズミ















「ライオンとネズミ」(ラ・フォンテーヌ/文 ブライアン・ワイルドスミス/絵 わたなべしげお/訳 らくだ出版 1983)

ある日、ネズミがライオンの足のあいだを、知らずに歩いてしまいました。けれども、ライオンはネズミを傷つけず、逃がしてやりました。ネズミが、「いつか必ずご恩返しをいたします」とお礼をいうと、ライオンは笑いました。「ジャングルの王様のこのわしに、あんなちびがどうやって恩返しをするつもりかな?」

ご存知、「ライオンとネズミ」のお話です。こちらの「ライオンとネズミ」はイソップが原作でしたが、本書はラ・フォンティーヌをもとにしたようです。絵は、おそらく水彩やクレパスをつかってえがかれたもの。色彩が大変鮮やかで、文章はとてもシンプル。素晴らしい完成度の一冊です。小学校低学年向き。

まさかさかさま動物回文集















「まさかさかさま動物回文集」(石津ちひろ/文 長新太/絵 河出書房新社 2007)

回文とは、上から読んでも下から読んでも同じ文章のこと。本書は、動物をテーマにした回文が載せられた絵本です。

《よるおきぬたぬきおるよ。

 だっころばろこつだ

 よったとらふらふらとたつよ

 そうわかくないおいおいなくかわうそ》

などなど。
ページ下に、「夜起きぬタヌキおるよ」と、漢字カナ混じりで記してあるのが親切です。長新太さんの絵もとんちが効いて、楽しい一冊になっています。小学校低学年向き。

2013年5月13日月曜日

洪水のあとで















「洪水のあとで」(アーサー・ガイサート/作 小塩節/訳 小塩トシ子/訳 こぐま社 1994)

ずっと昔、大洪水がおこり、世界をおおいつくしました。ノアは箱舟をつくり、そのなかに地上のすべての動物を、ひとつがい乗せました。雨はようやくやみ、空には虹がかかりました。洪水がひくと、箱舟はアララト山の上にとり残されました

ノアとその家族は山から下りることにします。箱舟の一部を切り、それでスロープをつくります。箱舟を地上に下ろし、ひっくり返して家にし、土地の肥えた谷間に種をまき、生きものたちが次第に増えていきます──。

「ノアの箱舟」の続編です。「ノアの箱舟」は白黒でしたが、本書はカラー。絵は、おそらく銅版画に色づけしたもの。生きものはどんどん増え、ほかの土地にも広がっていき、いつのまにか地上は生きものでいっぱいになります。家族たちも新しい土地に移り、雨が降るとノアとその妻は苦労した昔のことを思い出します。小学校中学年向き。

2013年5月10日金曜日

満月をまって















「満月をまって」(メアリー・リン・レイ/文 バーバラ・クーニー/絵 掛川恭子/訳 あすなろ書房 2000)

父さんは、次の満月がくるまでのあいだに、かごをつくり、ハドソンまで売りにいきます。うちには馬車も荷馬車もないので、歩いていかなくてはいけません。帰りが遅くなっても、お月さまが道を照らしてくれます。

〈ぼく〉は父さんが一緒にハドソンに連れていってくれる日を心待ちにしています。でも、父さんは、「もっと大きくなったらな」と、ひとりでいってしまいます。でも、〈ぼく〉が9歳になったと、「一緒にきてもいいだろう」と、父さんはいってくれます──。

100年以上前、ニューヨーク州のハドソンからそう遠くない、コロンビア郡の山間に、かごをつくって暮らすひとたちがいました。本書は、そのひとたちをえがいた絵本です。このあと、父さんと一緒にハドソンにでかけた〈ぼく〉は、みるものすべてに驚きます。ところが、帰り道、母さんにハドソンのことをなんて話そうかと考えながら歩いていると、広場にいた男のひとに、「おんぼろかご、くそったれかご」と、心ないことばを浴びせられます。〈ぼく〉は深く傷つくのですが──。

著者あとがきによれば、100年前にはもう、そのひとたちがいつごろからそこに住み着き、かごをつくっていたのか、本人たちにさえわからなくなっていたそう。そして、1950年代になると、かごに代わって、紙袋や段ボール箱やビニール袋がつかわれるようになり、最後までかごをつくり続けていた女性も、1996年に亡くなったということです。小学校高学年向き。

おならをしたかかさま















「おならをしたかかさま」(水谷章三/文 太田大八/絵 ほるぷ出版 1991)

昔むかし、ある大きなお屋敷で、殿さまが大勢のお客を呼んでお酒を飲んだりうたったりしていました。それが、あんまり長く続くので、女のひとたちはみな、くたびれてしまいました。殿さまの横にすわっていた、お腹の大きい奥方もくたびれて、ついプイとおならをしてしまいました。

殿さまは、おならをした奥方をひどく怒ります。そして、奥方をひとり舟に乗せ、夜の海に流してしまいます──。

日本の民話をもとにした絵本です。「金の椿」「金の瓜」「金の茄子」という話として語り継がれ、本書では福井県につたわる話をつかったとあとがきにあります。さて、このあと、ある小さい島に流れ着いた奥方は、島のひとたちに良くしてもらい、男の子を生み、育てます。12歳になった男の子は、「うちにはどうしてととさんがおらんのや?」とたずね、奥方が島にくることになった事情を話すと、男の子は殿さまに会いにひとり海にこぎだして──。最後、男の子はとんちをきかせ、みごと殿さまをやりこめます。小学校中学年向き

あめあめふれふれもっとふれ















「あめあめふれふれもっとふれ」(シャーリー・モーガン/文 エドワード・アーディゾーニ/絵 なかがわちひろ/訳 のら書店 2005)

もう3日のあいだ、雨は降り続けていました。男の子は雨をみつめてため息をつきました。黄色いレインコートを着て、消防士みたいに大きくて格好いい長靴をはいて外にでたいなあ。女の子も雨をみてため息をつきました。青いレインコートを着て、赤い、つやつやの長靴をはいて、外にでたいなあ。でも、きっと、お母さんがだめというに決まってる。だから、男の子も女の子も外にでたいとはいいませんでした。

3日のあいだ、男の子と女の子は家のなかでできる遊びはみんなやってしまいました。窓辺に立って、外をぼんやりみているほかに、なんにもすることがないのです──。

雨が降り続き、退屈している男の子と女の子をえがいた読物絵本です。絵を描いたエドワード・アーディゾーニは、「チムとゆうかんなせんちょうさん」の作者として高名です。さて、このあと、女の子は庭に雨が降って喜んでいる隣のおばさんになりたいなあと思います。男の子は、雨のなか新聞を配達しているお兄さんになりたいなあと思います。通りをゆく車をながめたり、ミミズを食べる小鳥や、その小鳥をねらうネコや、そのネコを追いかけるイヌをながめているあいだに、雨は小降りになってきます。小学校中学年向き。

2013年5月7日火曜日

ほんとにほんとにほしいもの















「ほんとにほんとにほしいもの」(ベラ B.ウィリアムズ/作 佐野洋子/訳 あかね書房 1998)

あと三日で、わたしの誕生日です。この前は、びんにたまったお金で、バラ柄の椅子を買いました。こんどは、わたしの誕生日のために、また半分くらいにたまったお金をつかうことになりました。町に買いものにいくとき、おばあちゃんが大きな声でいいました。「ローザ、ほんとにほんとに好きなものを買うんだよ!」

母さんと一緒に町にでたわたしは、みんながもっているローラースケートを買おうとします。でも、母さんがお金を払おうとしたとき、急にローラースケートがほんとにほんとにほしいものかわからなくなってしまいます。

「かあさんのいす」の続編に当たる絵本です。絵は前作同様、にぎやかで親しみやすい水彩。さて、前作ではびんに貯めたお金でソファを買いましたが、こんどは〈わたし〉の誕生日になにか買うことになります。でも、〈わたし〉は「ほんとにほんとに好きなもの」がなかなか決められません。このあと、デパートにいき洋服とサンダルをえらび、それからナップザックを買おうとしますが、それでも決められず、とうとう〈わたし〉は泣きだしてしまいます──。もちろん最後には、わたしのほんとにほんとにほしいものがみつかります。小学校中学年向き。

2013年5月2日木曜日

はたらきもののあひるどん















「はたらきもののあひるどん」(マーティン・ワッデル/作 ヘレン・オクセンバリー/絵 せなあいこ/訳 評論社 1993)

アヒルどんはとてもはたらき者でした。ご主人が大変なのらくらどんだったので、いつもはたらかなければなりませんでした。アヒルどんが畑からメウシをひいて帰ってきても、ご主人は「しっかりやっているかね?」と訊くだけでした。ヒツジを丘から連れてきても、メンドリを小屋に入れても、ご主人は同じことを訊くだけでした。そして、そのたびにアヒルどんは「ぐわっ!」とこたえるのでした。

ご主人は一日中ベッドに寝転がっているせいで、すっかり太り、一方はたらきづめのアヒルどんは、げっそりやせてしまいます──。

ヘレン・オクセンバリーは、「あかちゃんがやってくる」の絵を描いたひと。本書では、親しみやすく美しい水彩をえがいています。このあと、アヒルどんを放ってはおけないと、メウシやヒツジやメンドリたちは会議を開き、衆議一決。みんなはご主人の部屋に忍びこみ──と、お話は続きます。前の見返しにえがかれた冬の風景が、後ろの見返しでは美しい緑の風景となっています。小学校低学年向き。

そらにげろ















「そらにげろ」(赤羽末吉/作 偕成社 1979)

ほとんど文章のない絵本です。。旅人が歩いていると、オオカミがやってきて、旅人にとびかかろうとします。すると、旅人の着物から、鳥の柄たちが飛びだします。旅人は、鳥たちを追って海岸を走り、富士山を越え、山を突き破って──。

赤羽末吉さんは、「つるにょうぼう」や「スーホの白い馬」などをえがいた絵本作家の巨匠。本書は、富士山を越えるところや、山を突き破るところなど、赤羽さんのもつナンセンスな味わいがよく発揮されています。このあと、秋の月が照るなか、旅人と鳥たちはともに眠り、雨が降ると、旅人はフキの葉をカサにして追いかけ、鳥たちは頭巾をかぶって逃げていきます。雪山で旅人が谷間に落ちると、鳥たちは一致団結して旅人を助け、そしてまた追跡劇がはじまります。小学校低学年向き。

2013年5月1日水曜日

くったのんだわらった














「くったのんだわらった」(内田莉莎子/再話 佐々木マキ/絵 福音館書店 1978)

牧場の草のなかに、ヒバリの夫婦が巣をつくりました。ヒバリの奥さんはタマゴを生み、あたためはじめました。ところが、ある日、モグラが巣のすぐそばの地面を掘りはじめ、巣はぐらぐらと揺れだしました。「あなた、早くモグラを追い出してくださいな。これでは危なくてタマゴを抱いていられないわ」。そこで、ヒバリは、オオカミにモグラを追いだしてもらおうと、森へ飛んでいきました。

ヒバリが頼むと、オオカミは、「ごちそうをたらふく食わせてくれたら追い払ってやろう」といいだします。ヒバリは困りましたが、なんとかなるだろうと、オオカミと一緒に村にいき──。

ポーランドに民話をもとにした絵本です。絵は、佐々木マキさん独特のディフォルメがほどこされた、かたちのはっきりとした水彩。さて、ヒバリとオオカミが村にいってみると、村のひとたちは一軒の村にあつまり、結婚式のお祝いをしています。部屋に入ってきたヒバリをみて、村人たちは、「幸せな鳥だ、つかまえろ」と、ヒバリを追いかけはじめます。ヒバリがうまく村人たちを誘い出したすきに、オオカミは結婚式のごちそうを次から次へのたいらげます。ところが、森へ帰るとオオカミは、「たらふく食べたらのどが乾いた。ビールを飲ませてくれたら、モグラを追っ払ってやろう」といいだして──。ずうずうしいオオカミの申し出を、機転をきかせ、ヒバリはうまく解決にみちびきます。小学校低学年向き。