「クリスマスのまえのばん」(クレメント・C・ムーア/文 わたなべしげお/訳 ウィリアム・W・デンスロウ/絵 福音館書店 1996)
《クリスマスの まえのばんのことでした。
いえのなかは ひっそりと しずまりかえり
なに ひとつ
ねずみ いっぴき うごきません。
セントニコラスが はやく くるように と
ねがいを こめて
だんろの そばに くつしたが
だいじそうに かけられています。
こどもたちは ベッドの なかで
すやすやと ねむり
ゆめの なかで いろいろな
さとうがしが おどっています。》
冒頭の「はじめに」によれば、クレメント・C・ムーアが1822年のクリスマスの前夜、自分の子どもたちを喜ばせようと「セントニコラスの訪れ」という物語詩を書き、これが「クリスマスのまえのばん」としてよく知られるアメリカの古典となったということです。そして、80年後の1902年、「オズの魔法使い」の挿絵で知られる、ウィリアム・W・デンスロウが姪のために絵本に仕立てたのが本書。全体の調子は実に陽気です。煙突を通ったセントニコラスは、文字通り暖炉から飛び出します。
さて、古典である「クリスマスのまえのばん」には、いろいろな訳があります。ここでは、ツヴェルガーが絵を描いた「クリスマスのまえのばん」(江國香織/訳 BL出版 2006)をみてみましょう。
《クリスマスのまえのばんのことでした。
いえじゅうがしんとして、だれも、それこそねずみいっぴき、
めざめているものはありませんでした。
セント・ニコラスがやってきたばあいにそなえて、
だんろのそばにはくつしたが、ちゃんとつるしてありました。
こどもたちはきもちよさそうによりそって、ベッドにおさまっていました。
それぞれのこころのなかで、あまいさとうがしたちが
おどってもいるのでしょう。》
江國香織さんの訳は、ツヴェルガーのひんやりとした絵によくあった、涼しげなもの。また、江國訳では、詩は〈わたし〉の1人称で語られています。こちらの本では、セントニコラスは陽気に暖炉から飛び出したりはしません。少しはにかんだような顔をして、うつむきかげんに歩いてきます。小学校低学年向き。
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