2012年11月17日土曜日

クリスマスのまえのばん












「クリスマスのまえのばん」(クレメント・C・ムーア/文 わたなべしげお/訳 ウィリアム・W・デンスロウ/絵 福音館書店 1996)

《クリスマスの まえのばんのことでした。
 いえのなかは ひっそりと しずまりかえり
 なに ひとつ
 ねずみ いっぴき うごきません。

 セントニコラスが はやく くるように と
 ねがいを こめて
 だんろの そばに くつしたが
 だいじそうに かけられています。

 こどもたちは ベッドの なかで
 すやすやと ねむり
 ゆめの なかで いろいろな
 さとうがしが おどっています。》

冒頭の「はじめに」によれば、クレメント・C・ムーアが1822年のクリスマスの前夜、自分の子どもたちを喜ばせようと「セントニコラスの訪れ」という物語詩を書き、これが「クリスマスのまえのばん」としてよく知られるアメリカの古典となったということです。そして、80年後の1902年、「オズの魔法使い」の挿絵で知られる、ウィリアム・W・デンスロウが姪のために絵本に仕立てたのが本書。全体の調子は実に陽気です。煙突を通ったセントニコラスは、文字通り暖炉から飛び出します。

さて、古典である「クリスマスのまえのばん」には、いろいろな訳があります。ここでは、ツヴェルガーが絵を描いた「クリスマスのまえのばん」(江國香織/訳 BL出版 2006)をみてみましょう。












《クリスマスのまえのばんのことでした。
 いえじゅうがしんとして、だれも、それこそねずみいっぴき、
 めざめているものはありませんでした。
 セント・ニコラスがやってきたばあいにそなえて、
 だんろのそばにはくつしたが、ちゃんとつるしてありました。

 こどもたちはきもちよさそうによりそって、ベッドにおさまっていました。
 それぞれのこころのなかで、あまいさとうがしたちが
 おどってもいるのでしょう。》

江國香織さんの訳は、ツヴェルガーのひんやりとした絵によくあった、涼しげなもの。また、江國訳では、詩は〈わたし〉の1人称で語られています。こちらの本では、セントニコラスは陽気に暖炉から飛び出したりはしません。少しはにかんだような顔をして、うつむきかげんに歩いてきます。小学校低学年向き。

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