「ハンナのひみつの庭」(アネミー・ヘイマンス/作 マルフリート・ヘイマンス/作 野坂悦子/訳 岩波書店 1998)
家出をしたハンナは、水路をはさんだ家のむかいにある、ママの庭で暮らすことにしました。弟のルッチェ・マッテに頼んで、死んだママの部屋から、バスケットやテーブルセットや鏡台や長椅子をもってきてもらいました。ハンナは、パパやルッチェ・マッテのぶんの料理をつくり、犬やヤギに送り届けてもらいました。あるとき、大きな風が吹いて、吹きとばされたパパが庭に転がりこんできました──。
世の中には非常に紹介しにくい本があり、この絵本はそんな本のひとつです。訳者、野沢悦子さんによるこの絵本についての文章を紹介しましょう。
「『ハンナの秘密の庭』は、家族の問題をとりあげた作品です。主人公ハンナの反抗と自立が、この物語の大切なテーマ、いわば縦糸になっています。そこに、自分だけの世界にとじこもっていたハンナ、弟のルッチェ・マッテ、パパの3人が、ママの死を受け入れ、「かべ」を乗り越えて、ふたたび出会うまでの過程が、横糸として織り込まれているのです。〈秘密の園〉という古典的なイメージを使いながら、非常に現代的なテーマを感じさせる作品だと思います」
ママの庭は、水路をはさんだ、家のむかい側にあり、入り口はレンガでふさがれ、周りは壁にかこまれています。壁には穴が開いており、ハンナはそこから庭に入りこんで、ママの声を聞きながら暮らしはじめます。いっぽう、ルッチェ・マッテは字の練習をするために読んだおとぎ話にでてくるローザ姫を、ハンナとごっちゃにしてしまいます。また、ハンナの指示でいろいろなものをとってくるためにママの部屋に入ったルッチェ・マッテは、そこでママと話をします。書類仕事に没頭しているパパは、ハンナやルッチェ・マッテに心をむけません。
物語は、ハンナとルッチェ・マッテの視点からえがかれます。そして、この絵本は白黒のコマ割りによるページと、ママの部屋とママの庭が描かれたページ、それに見開きのカラーページの3つにより構成されています。見開きのカラーページでは、家からママの庭に、ママの部屋のいろいろなものが、そしてパパが、はこばれていきます。
ぜんたいに幻想味のある、静かで複雑な味わいの素晴らしい絵本です。最後に、ママを慕うハンナのことばを引用しておきましょう。
「ママは 消えていない
ママの声は いまも 聞こえる
サワサワとそよぐ 風のなか
カサカサという 草のなか
木立ちのなかで ママは 歌っている
愛されて 死んだ人たちは
みんな 歌いつづける」
小学校高学年向き。
0 件のコメント:
コメントを投稿