「木ぼりのオオカミ」(萱野茂/文 斎藤博之/絵 小峰書店 1998)
わたしは石狩川のほとりで生まれました。お父さんは狩りの名人だったので、わたしも小さいころから弓や狩りの仕方を習いました。おかげで、ひとりで遠い狩りにでかけられる男になりました。ある年の秋、わたしは遠い川上にいってみたくてたまらなくなりました。夢中で舟をこぎ、気づいたときは見知らぬ場所にきていましたが、幸い村をみつけ、一軒の特別大きな家に泊めもらうことができました。その家には、白いひげのおじいさんと、おばあさんと、それに息子さんが住んでいました。3人とも大変親切なひとたちでしたが、なにか心配ごとがあるらしく、とても悲しそうな顔をしていました。
〈わたし〉は、もっともっと川上にいきたいと思い、どんどん山奥に駆けていきます。すると、ぽつんと小さな一軒の家があり、子どもを抱いた美しい女のひとがいます。じつは、この女のひとは〈わたし〉が最初に訪れた家のひとで、ある事情からここで暮らしていたのです。この家には毎晩クマがやってくるのですが、兄からもらった木彫りのオオカミがクマを追い払ってくれたと女のひとは話します。どうか家に連れ帰ってほしいといわれ、夜、〈わたし〉が眠らずに外の様子をうかがっていると──。
アイヌの民話をもとにした絵本です。巻末の解説によると、アイヌのひとびとは、自分の手でつくった4つ足がついていて頭のあるものには、すべて魂が入っているのだと信じていたそうです。特にお守りは、ふだんは決してひとに見せず、肌身はなさずもっているもので、精神のよいひとに心をこめてつくってもらったものは、ほんとうに魂が入っていてお守りの役目をはたしてくれると信じていたということです。
このあと、クマは〈わたし〉に退治されるのですが、その晩、枕元にクマの神があらわれ、なぜこんなことをしたのか話します。その哀切な告白は胸を打ちます。小学校高学年向き。
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