2010年5月6日木曜日

おだんごぱん












「おだんごぱん」(瀬田貞二/訳 脇田和/画 福音館書店 1989)

昔むかし、なにかおいしいものを食べたくなったおじいさんが、おばあさんに、おだんごぱんをつくってくれないかといいました。「うちには小麦粉がありませんわ」と、おばあさんがいうと、「粉箱をごしごしひっかいて、粉をあつめりゃどっさりあるさ」と、おじいさんがこたえました。そこで、おばあさんは粉箱をごしごしかいて、粉をあつめて、おだんごぱんをつくりました。そして、おだんごぱんをかまどからだし、窓のところにおいて、冷やしておきました。ところが、おだんごぱんはじっとしているうちにさみしくなって、転がって、家の外にでてしまいました。

このあと、おだんごぱんは、ウサギやオオカミやクマに出会い、食べられそうになりますが、どの相手からもうまく逃げだします。が、最後に出会ったキツネに──。

ロシアの昔話を絵本にしたものです。逃げだすとき、おだんごぱんはこんな歌をうたいます。

「ぼくは、てんかの おだんごぱん。
ぼくは、こなばこ ごしごし かいて、
あつめて とって、それに クリーム 
たっぷり まぜて、バターで やいて、
それから、まどで ひやされた。
けれども ぼくは、おじいさんからも、
おばあさんからも、にげだしたのさ。
おまえなんかに つかまるかい」

くり返しが楽しい、お話会の定番絵本のひとつです。小学校低学年向き。

以下は余談。松居直さんの講演録を読んでいたら、丸谷才一さんの「日本語のために」(新潮社 1974)という本で、瀬田貞二訳「おだんごぱん」が大いにほめられていると書かれていました。そこで、図書館で取り寄せで読んでみたところ、その文章、「最初の文体」によれば、丸谷さんが読んだのは、井上洋介さんが絵を描いた「こどものとも」(1960年2月号)で、読んであげた息子さんともども大変気に入り、何度も読んだあげく新しい本を買い直したそうです。瀬田貞二訳を引用したのち、丸谷さんはこう褒めちぎっています。

「どうです、いい文章でしょう。力がこもっていて、言葉がいちいち生きている。もたもたした余計な言葉はちっともないし、すっきりと歯切れがいい。お団子パンの歌う短い自叙伝が、委曲をつくしているくせに頭によくはいり、じつに威勢がいいけれど、いかにもこの子供(?)の子供っぽさをうまい具合にとらえているあたりを味わって下さい」

丸谷さんは、お子さんに絵本を買ってあげると、文章のあまりにひどいところは直してから読んであげていたそうです。でも、「おだんごぱん」だけは、朱を入れる必要がまったくなかったとのこと。「こどものとも」200号までのうち、丸谷さんが唸ったのは、「おだんごぱん」ただ一冊でした。さらに、丸谷さんは、なにもあらゆる絵本の文章が名文でなければならないといっているのではない、と断ってこう続けています。

「わたしは、子供に与える文章というのはぜったい、上手下手はともかくとして、生きのいい、生気にみちた、文章でなければならないと思っている」

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