2010年5月28日金曜日

猫と悪魔











「猫と悪魔」(ジェイムズ・ジョイス/作 丸谷才一/訳 ジェラルド・ローズ/絵 小学館 1976)

ボージャンシーは古い小さな町で、ロアール川の岸辺にありました。ロアール川はフランスにしてはとても広い川で、あっちの岸からこっちの岸まで、1000歩も歩かなくてはなりません。昔は橋がなかったので、ボージャンシーのひとたちは、舟に乗って川を渡らなければなりませんでした。

さて、悪魔はいつも新聞を読んでいたので、ボージャンシーのひとたちが、橋がなくて困っていることを知っていました。そこで、悪魔は市長さんのところにでかけていって、「橋をかけてあげましょう」といいました。「ただし、一番はじめに橋を渡る者が、わたしの家来になることです」。

本書は、文豪ジェイムズ・ジョイスが孫に書き送った物語を絵本にしたもの。語り口は軽妙で、話はトンチがきいています。アップを多用し、たっぷり間をとったクライマックスが、話を大いに盛り上げます。

また、本書の副題は〈歴史的假名づかひの絵本〉。訳者である丸谷才一さんの主義により、「歴史的仮名づかいを採用し」「漢字を大いに使い」「分かち書きをおこなわない」という表記になっています。巻末には、「表記についてのあとがき」という一文があり、丸谷さんが自説を述べているのですが、その文章には、思わずうなずいてしまうような説得力があります。大澤正佳さんによる解説も充実し、絵本としては、なんとも独特な一冊になっています。

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