2010年8月18日水曜日

2ひきのいけないアリ












「2ひきのいけないアリ」(C.V.オールズバーグ/作 村上春樹/訳 あすなろ書房 2004)

1匹のアリが、きらきら光る美しいクリスタルを抱えて巣にもどってきました。それを召し上がった女王アリがいいました。「こんなにおいしいものは、生まれてこのかた食べたことがありません。私が望むのは、これをもっと食べることです」。そこで、アリたちはクリスタルをみつけたアリを先頭に、夕暮れ前に巣穴を出発しました。

アリたちは森のなかを行進し、果てしない壁を這いのぼり、窓から人家に侵入して、みんなでクリスタルをもち帰ります。ところが、2匹のアリは帰ろうとしません。「ぼくらはここに残って、毎日好きなだけクリスタルを食べることもできるんだよね」と、2匹はうごけなくなるまでクリスタルを食べ、お腹いっぱいになって眠ってしまいます。すると──。

絵は版画風(版画?)でグラフィカル。オールズバーグの用いる構図は、いつも静かでありつつ劇的です。このあと、単独行動をとった2匹のアリたちは、矢継ぎ早に災難に出くわします。絵も文章も、はっきり書かずにほのめかす手際が大変巧みです。小学校中学年向き。

余談ですが、本書には村上訳以前に、木島始さんによる翻訳、「くいしんぼうのあり」(ほるぷ出版 1989)があります。作者名も「C.V.オールズバーグ」ではなく、「クリス・バン・オールスバーグ」という表記なので、ネットなどでは検索しづらいかもしれません。木島さんと村上さんの訳文はだいぶちがっていますので、冒頭をくらべてみましょう。

村上訳
「ニュースは、トンネルからトンネルへと、アリたちの世界をかけめぐりました。一ぴきの探しアリが素晴らしいものを見つけて、巣に戻ってきたのです。きらきらと光る美しいクリスタルをひとつ抱えていました。探しアリがそのクリスタルを女王アリに差しあげると、女王様はこりっとひとかじりし、それからあっという間に丸ごと召しあがってしまいました。」

木島訳
「すごいしらせが やってきた
食べものさがしに いったアリが
きれいな きらきら光るもの もってきて
女王アリに はいどうぞと さしだしたら
女王は かりり かりかりかりっと 食べてしまった」

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