2011年3月19日土曜日

あかりの花












「あかりの花」(肖甘牛(シャオカンニュウ)/採話 君島久子/再話 赤羽末吉/絵 福音館書店 1985)

昔むかし、ある村にトーリンという若者が住んでいました。トーリンは毎日山へいき、だんだん畑をつくっていました。ある夏の日、山ではたらいていると、トーリンの額からひと粒の汗がこぼれ落ちました。汗は地面を転がって、ぽとんと岩のくぼみに落ちました。すると、そこから緑の茎がすうっと伸びて、真っ白なユリの花が咲きました。ユリは風にゆられながら歌をうたい、この日からトーリンは山へいくのが楽しみになりました。

ところが、ある朝、トーリンが山へいってみると、ユリの花が踏み倒されていました。トーリンはユリの花を助けおこし、うちにもち帰ると、石臼のなかに植えて窓のそばに置きました。ユリの花は毎日美しい歌声を聞かせてくれました。十五夜の晩、トーリンが明かりの下で竹かごを編んでいると、突然、明かりの灯心が大きくゆらめき、ぱっと赤い花になってひらきました。そして、なかから美しい娘があらわれました。

トーリンと娘は、一緒に畑仕事をするようになります。夜、トーリンが竹かごを編むと、娘は刺繍をし、市が立つ日には作物や竹かごや刺繍を売って、2人はいつしか裕福になります。そのため、トーリンは毎日毎日ぶらぶら遊び歩くようになり──。

中国苗(みゃお)族につたわる民話をもとにした絵本です。巻末には、「この絵本は、1967年「母の友」誌上に発表された「あかりの花」(君島久子/再話 赤羽末吉/絵)をもとに、君島・赤羽両氏による、中国貴州省苗族地区取材をへて作られました」とあります。だんだん畑の感じや、登場人物の衣装などは、取材が生かされたところかもしれません。このあと、娘はトーリンに愛想をつかし、月の世界に去ってしまうのですが、話はそこで終わりません。トーリンは心を入れ替えます。この絵本も、数多い赤羽末吉さんの、傑作のうちの一冊といえるでしょう。小学校低学年向き。

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