「ありがとう、フォルカーせんせい」(パトリシア・ポラッコ/作・絵 香咲弥須子/訳 岩崎書店 2001)
トリシャが5才になったとき、家族はいつもの儀式をしました。おじいちゃんは、トリシャにもたせた本の上にハチミツをたらしました。「ハチミツは甘い、本も甘い、読めば読むほど甘くなる!」と、家族はうたいました。
でも、トリシャはぜんぜん文章が読めるようになりません。好きなのは絵を描くことと、ぼんやりすること。それから、おばあちゃんと裏の森を散歩すること。わたし、みんなとちがうのかな、頭が悪いのかなと、トリシャは悩みます。月日は流れ、おじいちゃんとおばあちゃんは亡くなり、家族はママの仕事の都合でカリフォルニアに引っ越しをすることになります。新しい学校では、先生も友だちも、わたしの頭が悪いってことに気がつかないかもしれないと、トリシャは思うのですが──。
LD(学習障害)についての絵本です。似たテーマを扱った絵本に「よめたよリトル先生」があります(こちらはADHD)。本書は「よめたよリトル先生」と同様、自伝的な絵本ですが、LDを克服する過程よりも、それ以前の辛く苦しい気持ちにより焦点が当てられています。絵は、鉛筆による線画に、おそらくマーカーで色を塗ったもの。人物のしぐさや表情がよくとらえられ、生き生きとえがかれています。このあと、学校をずる休みしがちになった5年生のトリシャの前に、フォルカー先生があらわれます。フォルカー先生は、いじめっ子からトリシャを助け、トリシャの置かれた状況を見抜き、「きみは必ず読めるようになる」とはげまして、一緒に特訓をします。巻末には、「おうちの方、先生方へ」と題された、日本LD学会会長の上野一彦さんによる文章が記されています。ところで、トリシャがハチミツをかけている本は、どうもディケンズの「大いなる遺産」のようにみえますがどうでしょう? 小学校中学年向き。
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