「かわせみのマルタン」(リダ・フォシェ/文 フェードル・ロジャンコフスキー/絵 いしいももこ/訳編 童話館出版 2003)
人里はなれた美しい谷間は〈わたし〉の王国でした。ところが、カワセミのマルタンがやってきてから、王国はすっかりかれのものとなりました。
細いハシバミの枝にとまったマルタンは、その枝の下を泳いでいくカワハゼを、水中にもぐってぱくりと呑みこみます。また、用心深いマルタンは、針より鋭いトゲをもつみにくいナマズや、針さしのような格好をしているトゲウオなどは攻撃しません。
〈わたし〉の願いはただひとつ、この神秘的なカワセミの姿をみたいということ。カワセミの漁場はわかりましたが、そのすみかはどこなのでしょう。でも、ある日、〈わたし〉は妻のマルチーヌとともに、土手に穴を掘ろうとしているマルタンをみつけます──。
〈わたし〉による、カワセミの観察記といった内容の絵本です。でも、ただの観察記ではありません。魚や、水のなかの生きものや、カワウソや、カワネズミのことまで記された本書は、豊かな谷間の博物誌となっています。絵は、色彩の美しい版画調のもの。このあと、タマゴをかえし、ヒナを育てるマルタン夫妻の暮らしが、季節の移り変わりとともに生き生きとえがかれます。巻末に、本書は福音館書店より1965年に刊行されたものを、翻訳を見直して復刊したものだと記されています。作者たちが手がけた絵本はほかに、「野うさぎのフルー」や「りすのパナシ」があります。小学校高学年向き。
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