「おやゆびこぞう」(フェリックス・ホフマン/絵 大塚勇三/訳 ペンギン社 1979)
昔むかし、子どものいない、貧しいお百姓の夫婦がいました。ある晩、おかみさんがいいました。「たったひとりでも、子どもあったらねえ。その子がとてもちっちゃくて、親指くらいしかなくっても、あたしはちっともかまわない。そんな子だって、あなたとふたりで、心から可愛がってやるのにねえ」。すると、おかみさんのからだの具合がおかしくなって、7ヶ月たつと、ひとりの子どもが生まれました。その子は親指くらいの大きさしかなかったので、2人は「おやゆびこぞう」と名づけました。
さて、親指こぞうは、利口な、すばしっこい子どもに育ちますが、からだの大きさだけは生まれたときのままでした。ある日のこと、森へ木を切りにいく支度をととのえたお百姓が、「あとから、だれかが車をもってきてくれたらいいんだがなあ」とひとりごとをいうと、親指こぞうが叫びました。「車ならぼくがもっていってあげる。母さんが馬を車につけてくれさえすれば、ぼくは馬の耳のなかにすわって、どっちにいったらいいか馬に怒鳴ってやるよ」
親指こぞうの道案内で、車はちゃんとお父さんのもとに届きます。が、声がするのにだれもいない車を不思議に思った2人の男が、お父さんのところに訪ねてきます。2人は親指こぞうを見るなり、見せ物にしてお金をもうけようとたくらみ、お父さんに、そのおちびさんを売ってくださいともちかけます。もちろん、お父さんは、「これは、なにより可愛いわしの子だ。世界中の金をもらったって売るもんか」といいますが、親指こぞうは、お父さんの耳もとに上がりこんでささやきます。「父さん、かまわないからぼくを売っちまってよ。ぼく、きっともどってくるから」。そして、たくさんのお金と引きかえに、親指こぞうは売られてしまうのですが──。
グリム童話の「おやゆびこぞう」をもとにした絵本です。危機また危機を、機転をきかせて乗りこえていく親指こぞうの活躍が、大変痛快です。また、ホフマンの絵が素晴らしく、何度も読み返せる絵本になっています。小学校低学年向き。
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