「エミリー」(マイケル・ビダード/文 バーバラ・クーニー/絵 掛川恭子/訳 ほるぷ出版 1993)
わたしたちが引っ越してきて、まだまもないある日、一通の手紙がドアの郵便受けから投げこまれました。わたしは客間でピアノの練習をしているママのところへ手紙をもっていきました。ママが手紙を開けると、ピアノのキーの上に小さな花がぱらぱらと落ちました。それは、わたしの家のむかいの黄色い家に住んでいる女のひとからのからの招待状でした。
黄色い家に住んでいる女のひとは、町のひとたちから“なぞの女性(ひと)”と呼ばれています。20年近くも家の外にでたことがなく、知らないひとがくると、たちまちどこかに隠れてしまうからです。そのひとは、小柄でいつも白い服を着て、花が好きで、詩を書いています。「詩ってなあに」と、〈わたし〉が訊くと、パパはこう答えます。「ママがピアノを弾くのを聞いてごらん。同じ曲を何度も何度も練習しているうちに、あるとき不思議なことが起こって、その曲が生きもののように呼吸しはじめる。聞いているひとはぞくぞくっとする。口ではうまく説明できない、不思議な謎だ。それと同じことをことばがするとき、それを詩というんだよ」
アメリカの女流詩人、エミリー・ディキンソンを題材にした絵本です。ほとんど家のなかに引きこもって暮らしていたエミリーは、たくさんの詩を手近な紙に書きつけていました。没後、その詩が大量にみつかり(じつに1800編といいます)エミリーはにわかにアメリカの重要な詩人のひとりとなったのでした。このあと、〈わたし〉は、ママと一緒にむかいの黄色い家を訪れます。エミリーは姿をみせず、妹さんが応対してくれます。ママがピアノを弾いているあいだ、〈わたし〉がこっそり部屋を抜け出すと、階段の上に白い服を着た女のひとが座っています。「それ詩なの?」と、エミリーのひざの上にある紙をみて〈わたし〉がたずねると、エミリーはこたえます。「いいえ。詩はあなた、これは詩になろうとしているだけ」。同じく、エミリー・ディキンソンを題材とした児童書に、「エミリ・ディキンスン家のネズミ」(エリザベス・スパイアーズ/〔著〕 クレア・A.ニヴォラ/絵 長田弘/訳 みすず書房 2007)があります。こちらは、エミリーとネズミの交流をえがいた読物絵本です。小学校高学年向き。
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