
「ちへいせんのみえるところ」(長新太/作 ビリケン出版 1998)
曇り空の下に地平線のみえる草原があります。「でました」ということばとともに、男の子があらわれます。つぎの「でました」では、ゾウが。その次の「でました」では、なんと火山が。その次の「でました」では──。
文章は「でました」の一語のみ。ページをめくると、「でました」のことばとともに、次から次へと奇想天外なものがあらわれます。子どもに読んで聞かせると、なぜか大受けします。おそらく、長新太さんの最高傑作の一冊です。小学校低学年向き。
以下は余談。
ミネルヴァ書房から発刊されている雑誌「発達」の2004年夏号(99号)には、「子どもと本の出会い」という大変読みごたえのある特集が掲載されています。そのなかの一編、佐々木宏子さんによる「新しい絵本と子どもの発達」に、「ちへいせんのみえるところ」を読んだ男の子の反応が紹介されています。
1歳2ヶ月になるその男の子が「ちへいせんのみえるところ」に出会ったのは外出先の喫茶店。母親がその店に置いてあったこの絵本をなにげなくみせたところ、最初こそ無反応でしたが、「でました」とともに絵本のなかに男の子があらわれると、突然大笑いをしたそうです。その後、「でました」とページをめくるたびに笑いは爆発的になり、喫茶店の客に、なにごとかと思われたそう。
佐々木さんが、この男の子の様子をみる機会を得たのがそれからひと月後。男の子が「ちへいせん…」に惹かれるのは、「でました」という言葉のリズムではないかと考えた佐々木さんは、母親に図鑑風の絵本で「でました」といって読んでもらいます。ですが、男の子は不思議そうな顔をするだけでした。
ところが、「ちへいせん…」を読んでもらうと、その男の子は「でました」という言葉にあわせて、「身体をギュッと締め、さもおかしそうに「アハッ」とか「キエッ」という奇声に近い声を上げていました」
「とくに、象や鯨、氷の上のペンギン、水たまりのなかの小さな魚などの場面になると、「そうだこれなんだよなこれが現れたんだよ、おかしいじゃないか」といわんばかりの表情で、そのページをドンと手でたたきました」
…そう、「ちへいせん…」を読むと、「そうだこれなんだよなこれが現れたんだよ、おかしいじゃないか」といいたくなります。
なお、絵本作家の五味太郎さんと編集者小野明さんによる絵本についての対談集、「絵本をよみつづけてみる」(平凡社 2000)にも、「ちへいせん…」をとり上げた1章があります。
0 件のコメント:
コメントを投稿