2011年8月31日水曜日

ヌードル










「ヌードル」(マンロー・リーフ/文 ルドウィッヒ・ベーメルマンス/絵 福本友美子/訳 岩波書店 2003)

ヌードルは、庭に穴を掘っていました。鼻の先から尻尾までがこんなに長くて、頭のてっぺんから足までがこんなに短いヌードルには、穴掘りはけっこう大変でした。骨の匂いを嗅ぎつけたヌードルは、どんどん穴を掘り、ついに骨をみつけました。鼻先で骨にふれながら、ヌードルは大きな声で、「ぼくのからだがこんなかたちじゃなかったらいいのになあ。そうしたら、この骨だってもっと楽に掘りだせるのに」といいました。

ヌードルが骨を丸ごと掘りだして外にでると、小鳥みたいな羽根のはえた白い犬がいます。それは犬の妖精でした。じつは、ヌードルが掘りだしたのは、願いのかなう骨だったのです。「どんな大きさで、どんなかたちがよろしいの?」と、犬の妖精はいうのですが──。

「はなのすきなうし」などで高名なマンロー・リーフと、「げんきなマドレーヌ」(ルドウィッヒ・ベーメルマンス/作 瀬田貞二/訳 福音館書店 1972)などのマドレーヌ・シリーズで高名なベーメルマンスによる絵本です。ベーメルマンスのさっと描いたような絵が、とても魅力があります。このあと、犬の妖精にしばしの猶予をもらったヌードルは、動物園にいき、シマウマ、カバ、ダチョウ、キリンの意見を聞きいてまわります。少し長めの絵本ですが、最後まで楽しく読むことができるでしょう。小学校低学年向き。

2011年8月30日火曜日

おおきなあかいなや












「おおきなあかいなや」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 フェリシア・ボンド/絵 えくにかおり/訳 偕成社 2001)

広びろした緑の牧場の、大きな赤い納屋のそばに、鳴きかたをおぼえたばかりのピンクの子ブタと、大きな馬が一頭と、かわいい小さな子馬が一頭いました。それから、屋根には、金色の空飛ぶ馬の風見も一頭いました。

牧場にはほかに、ヒツジ、ロバ、ガチョウ、ヤギがいます。トウモロコシ畑ではネズミの赤ちゃんが生まれ、納屋のなかには、オンドリとメンドリと、大きな雌牛と小さな子牛がいて、チャボが玉子を生んでいます──。

大きな赤い納屋に暮らす動物たちの一日をえがいた絵本です。まだこのほかにも、イヌやネコがいて、みんな一日中牧場で遊び、日が暮れると納屋にもどって眠ります。「もしもねずみにクッキーをあげると」などをえがいた、フェリシア・ボンドによるていねいな絵が、一日という時間がたったことを実感させてくれます。小学校低学年向き。

2011年8月29日月曜日

こぐまくんのハーモニカ












「こぐまくんのハーモニカ」(ジョン・セバスチャン/作 ガース・ウィリアムズ/絵 三木卓/訳 リブリオ出版)

こぐまくんのお母さんはお話を書くひと、お父さんはハーモニカを演奏するひとでした。いつもの年のように、新しいハーモニカが届くと、お父さんは1本1本試し吹きをはじめました。そして、この年、お父さんは自分でつかうハーモニカを1本、こぐまくんにくれました。こぐまくんがそっと、いろんな吹きかたをしてみると、へんてこな音のなかから、ときどき短いメロディのようなものがあらわれました。「そうやって、きみがずうっと吹いていけば、きみのなかにある音楽が、ますます鳴りだすようになる」と、お父さんはいいました。

練習にはげんだこぐまくんは、やがてひとから、「大人になったらお父さんみたいになれるかもしれないぞ」といわれるようになります。そういわれて、はじめのうちは喜んでいたこぐまくんでしたが、だんだんと気が重くなってきます──。

ハーモニカを吹くことに悩むこぐまくんのお話です。絵は白黒の2色。ガース・ウィリアムズは、ハーモニカを吹くこぐまくんを大変可愛らしくえがいています。こぐまくんが悩んでいたのは、自分がいつもお父さんとくらべられることでした。こぐまくんは、自分がお父さんのようになりたいのかよくわかりません。そんなこぐまくんに、お父さんは優しいことばをかけます。ハーモニカを通して親子の機微をえがいた、素敵な一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月26日金曜日

サンタのなつやすみ












「サンタのなつやすみ」(レイモンド・ブリッグズ/作 さくまゆみこ/訳 あすなろ書房 1998)

夏のバカンスをフランスですごそうと決めたサンタクロースは、ソリをキャンピングカーに改造し、ペットたちをホテルに入れて、フランスにやってきます。バードウオッチングやお絵かきを楽しみますが、フランス料理がお腹にあわず、食あたりに。それに、フランスの朝ごはんは、クロワッサンにコーヒーだけなのです。そこで、サンタは、水のきれいなスコットランドをめざします──。

サンタクロースはどんな風に夏をすごしているのかをえがいた絵本です。コマ割りされたマンガの体裁をしています。サンタクロースも、普通の旅行者のように、旅先でお腹をこわしたり、文句をいったりしているのが可笑しいです。このあと、スコットランドを訪れたサンタクロースでしたが、あまりの寒さに閉口し、次はラスベガスをめざします。どこへいっても、子どもたちだけがサンタの正体を見破ります。小学校低学年向き。

2011年8月25日木曜日

もうぜったいうさちゃんてよばないで












「もうぜったいうさちゃんってよばないで」(G.ソロタレフ/作 すえまつひみこ/訳 リブリオ出版 2000)

あるところに、「うさちゃん」と呼ばれている子ウサギがいました。ほんとうの名前は、ジャン・ニンジンスキーといいましたが、だれもその名前で呼んではくれません。おじいさんに相談してみると、「わしら大人からみると、子どもはみんな小さくて、そりゃあかわいいもんじゃ、大きくなれば、うさちゃんじゃなくて、うささんとかジャンとか呼ばれるようになろうて」と、おじいさんはいいました。

おじいさんにこういわれたものの、ジャンは納得ができません。どうすれば、「うさちゃん」と呼ばれないようになるのか考えたすえ、「世界一のものすごいワルのウサギになればいいんだ」とひらめきます。そこで、銀行強盗をするのですが、警察につかまり、刑務所に入れられてしまいます。

「うさちゃん」と呼ばれたくなかった子ウサギのお話です。絵は、漫画風のユーモラスなもの。お話はこのあと、刑務所で出会ったちびのジムと一緒に、ジャンは刑務所を脱走して…と続きます。奇想天外なストーリーが楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月24日水曜日

ネズミはひとり森のなか












「ネズミはひとり森のなか」(トニー・ジョンストン/文 ダイアン・スタンレー/絵 小川仁央/訳 評論社 1987)

森のなかの小さな家に、小さなネズミが住んでいました。ネズミはいつもひとりぼっちで、チーズやミツバチのロウでできたロウソクを、コリコリかじっていました。ときどき森をみて、「森のなかにはだれがいるんだろう。ほかのネズミでいっぱいかしら」と思いました。でも、恥ずかしがりやのネズミは、森にでていくことはしませんでした。

あるとき、ネズミのところにコオロギがやってきて、二人は友だちになります。コオロギはネズミに、外にはたくさん木があって、仲良しの友だちがいて、雪があるのだと説明します。そして、夜にむかってコオロギがうたうと、どこからか楽しそうなさざめきが、ネズミの耳に聞こえてきます──。

ひとりぼっちのネズミをえがいた絵本です。文章は詩的でリズミカル。おそらく色鉛筆でえがかれた絵は、ぐっと色調をおさえ、モノクロに近い印象でえがかれています。楽しそうなざわめきは、ハトとウサギとリスによる聖歌隊で、ネズミとコオロギをたずねてきたのだとわかります。とても静かな、クリスマス絵本の一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月23日火曜日

ラルーシとひつじのぼうや












「ラルーシとひつじのぼうや」(サゾン・スラザーコフ/文 ベーラ・フレーブニコワ/絵 松谷さやか/訳 福音館書店 2001)

朝早く、ウシのお乳をしぼりにいったおばあちゃんは、「ラルーシ、赤ん坊が生まれたよ」と、羊の赤ん坊を抱いて帰ってきました。ラルーシはベッドから飛び起きました。羊の赤ん坊は、ぶるぶるふるえて、まだちゃんと立てません。「ラルーシ、あたたかい家のなかで、しばらく面倒をみてやってくれ」と、おばあちゃんがいいました。

羊の坊やは、ラルーシのあとをどこにでもついていくようになります。ラルーシがどこにかくれてもみつけてしまいますし、こっそりお使いにでかけても、必ずあとからやってきます──。

女の子と羊の赤ちゃんの交流をえがいた絵本です。絵は、色鉛筆かもしくはパステルでえがかれた涼しげなもの。奥付の著者紹介によれば、作者のサゾン・スラザーコフは、西シベリアのアルタイ生まれで、アルタイ民族の生活のテーマに作家活動をしているそうです。そして、本書の原作は、ロシアの詩人ステュアルトにより、アルタイ語からロシア語に翻訳されたということです。女の子と羊の坊やのやりとりが楽しい、美しく品のある一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月22日月曜日

あるきだしたゆきだるま












「あるきだしたゆきだるま」(ミラ=ローベ/文 ヴィンフリート=オプゲノールト/絵 ささきたづこ/訳 偕成社 1984)

庭に、お古の帽子をかぶり、ニンジンの鼻をつけた雪だるまが立っていました。あたたかな家のなかでは、みんながお茶を飲み、クッキーを食べていました。窓から、雪だるまがさびしそうに立っているのをみつけたリーザは、庭にでて、雪だるまにひと口、自分のお茶を飲ませてあげました。

お茶を飲んだときから、雪だるまは、普通の雪だるまではなくなります。まず、お腹があたたかくなり、頭もかっかと熱くなります。そして、なんだかじっとしていられなくなり、足をあげて歩きはじめます──。

お茶を飲んだ雪だるまが歩きだす、という絵本です。絵は、細部まで詳しくえがかれた漫画風の線画に、水彩で着色したもの。このあと、雪だるまはまず町にいきますが、あんまりにぎやかすぎるので、こんどは野原にでかけます。雪だるまは野原を気に入るのですが、暖かくなると溶けてしまうので、川を流れる氷の上に乗り、一年中氷があるという、白クマのいるあたりにでかけます──。にぎやかな絵と、話の展開が楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月19日金曜日

ひとりぼっちのこねずみ











「ひとりぼっちのこねずみ」(エゴン・マチーセン/作 おおつかゆうぞう/訳 福音館書店 1986)

子ねずみの〈ねずお〉は、食べものを見つけられず、すっかりくたびれてしまいました。ある日のこと、かわいくてやさしい〈ねずこ〉が、しょんぼりしている〈ねずお〉の前を通りがかりました。「ぼく、ろくに食べていないんだ。ここにはなんにもないんだよ」と、〈ねずお〉がいうと、〈ねずこ〉がこたえました。「ちゃんとしたネズミなら、そんなことはいわないわ。あなたがもっとよくまわりを見てみれば、きっとなにかがみつかるはずよ。わたしは自分の穴のなかで、あなたがくるのを待ってるわ」

〈ねずこ〉が去り、はじめはすねていた〈ねずお〉ですが、ぴょんと立ち上がると、自分にむかってこういいます。「ちゃんとネズミらしくやってみろよ」。そして、いつもよりずっと遠くのほうまで、食べものを探しにでかけます──。

「ちゃんとネズミらしくやろう」と奮起した〈ねずお〉のお話です。このあと、牛小屋をみつけた〈ねずお〉は、そこで具合よくやるすべを身につけます。ページのなかにいくつも絵が描かれ、その前後に文章がつけられた、画文一致の体裁です。一見、稚拙にみえる絵が、読み進めるうちに味わい深いものに変わっていきます。小学校低学年向き。

2011年8月18日木曜日

とっときのとっかえっこ












「とっときのとっかえっこ」(サリー・ウィットマン/文 カレン・ガンダーシーマー/絵 谷川俊太郎/訳 童話館 1995)

ネリーのおとなりさんのバーソロミューおじいさんは、ネリーが赤ちゃんだったころ、毎日ネリーをカートに乗せて、1ブロック先のプリングルさんの菜園まで散歩に連れていってくれました。バーソロミューは、いつもオリバーさんの家の前にくると、「つかまれ、ネル! でこぼこだぞ!」といいました。すると、ネリーはいつも、「でこぼこ!」と叫びました。

歩けるようになると、ネリーはバーソロミューの手をほどこうとするようになります。助けてもらいたくないのです。ですから、バーソロミューはいざというときしか手を貸さないようにします。そのうち、ネリーは学校にいくようになり、バーソロミューはそのぶん衰えてきます。バーソロミューがいやがるので、ネリーはいざというときしか手を貸さないようにします──。

老人と女の子の交流をえがいた絵本です。このあと、ひとりででかけたバーソロミューは、階段で転び、病院にいき、車イスに乗ってもどってきます。「これで散歩はおしまいだな」というバーソロミューを、こんどはネリーが散歩に連れだします。絵は、漫画風の、ところどころに着色された線画。歳月が、ひとの役割を変えることをえがいた、美しい絵本です。小学校低学年向き。

2011年8月17日水曜日

ちいさいじどうしゃ












「ちいさいじどうしゃ」(ロイス・レンスキー/作 わたなべしげお/訳 福音館書店 2005)

スモールさんは、ぴかぴかの、赤くて小さい自動車をもっているのが自慢です。自動車は、庭の奥の車庫に入っています。スモールさんは、作業服を着て、小さい自動車に油を注し、タイヤに空気を入れ、ラジエーターに水を入れて、お天気のいい日はドライブにでかけます。

町にでかけたスモールさんは、ガソリンを入れたり、新聞を買ったりします。帰り道、雨に降られ、パンクまでしてしまいますが、スモールさんはスペアタイヤと交換します。

「スモールさんの絵本」シリーズの一冊です。スモールさんは、山高帽に赤い蝶ネクタイをした紳士で、自動車の整備をするときは、ちゃんと作業服に着がえます。お行儀のよいスモールさんと同じように、この小さめの絵本は、ページの左側が文章、右側が絵と、ほとんどレイアウトが変わることはありません。絵柄もおだやかで端正な、品のある一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月16日火曜日

すえっこおおかみ










「すえっこおおかみ」(ラリー・デーン・ブリマー/文 ホセ・アルエゴ/絵 アリアンヌ・デューイ/絵 まさきるりこ/訳 あすなろ書房 2003)

あるとても気持ちのいい夏の朝、大きな灰色の父さんオオカミは、子どもたちがひなげしの原っぱで遊んでいるのをみていました。ところが、1匹だけほかの子どもたちのように遊んでいない子がいることに気づきました。それは、一番小さな末っ子オオカミでした。大きく枝を張ったナラの木にかくれて、そこからこっそりほかの子どもたちをみているのです。「どうしておまえは兄さんや姉さんたちと一緒に遊ばないのだね」と、父さんオオカミが訊くと、末っ子オオカミはドングリをいじりながらいいました。「だって、フランキー兄ちゃんがぼくのこと、真っ直ぐ転がれないからだめだっていうんだ──」

いっぺんやってみせてごらんと、父さんオオカミがいうと、末っ子オオカミはボールのように丸くなり、ジグザグと曲がりくねって転がっていきます。それをみた父さんオオカミは、ちょっと考えてから「それでいいんだ」とこたえます。「まっすぐ転がるのは大きくなってからだ」

いろいろとうまくいかない末っ子オオカミのお話です。父さんオオカミは、悩みの多い末っ子に、そのつど慰めをあたえます。絵は、ふにゃっとした線に水彩で色づけしたもの。柔らかい描線が、ユーモラスな味わいをだしています。小学校低学年向き。

2011年8月15日月曜日

ふくろうくん












「ふくろうくん」(アーノルド・ローベル/作 三木卓/訳 文化出版局 1976)

冬の雪の降る夜、ふくろうは暖炉のそばにすわって、バタつきパンとお豆の入った熱いスープを食べていました。すると、玄関で大きな音がしました。ふくろうはドアを開けましたが、ただ雪と風だけでした。暖炉のそばにすわりなおすと、また大きな音がして、ドアを開けると、やっぱりだれもいませんでした。「ははあ、かわいそうな冬がぼくんちの玄関を叩いていたんだな。きっと暖炉のそばにすわりたいんだろうよ」。そして、ふくろうはドアを開けていいました。「さあ、冬くん、お入りよ。入ってちょっとあったまったらどう」──。

「がまくんとかえるくん」シリーズで高名な、アーノルド・ローベルの絵本です。このあと、ふくろうは、入ってきた冬に暖炉の火を消されたり、お豆のスープを凍らされたり、部屋のなかを雪の下敷きにされたりと、さんざんな目に遭います。本書は、こうした短いお話が5つ収められています。収録作を載せておきましょう。

「おきゃくさま」
「こんもりおやま」
「なみだのおちゃ」
「うえとした」
「おつきさま」

ふくろうくんは、涙でお茶をわかそうとして、次から次へと悲しいことを考えようとしたり、1階と2階に同時にいようとして、階段を降りたりのぼったりします。登場人物はいつもふくろうくんひとり。子どものひとり遊びをそのまま絵本にしたような、愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2011年8月12日金曜日

ちいさな島











「ちいさな島」(ゴールデン・マクドナルド/文 レナード・ワイスガード/絵 谷川俊太郎/訳 童話館出版 1996)

大きな海のなかに、小さな島がありました。島をめぐって風が吹き、鳥たちが飛びました。島の上を雲がすぎ、魚が泳ぎ、霧が海からやってきて、小さな島をおだやかに湿ったかげにかくしました──。

春がすぎ、夏がきて、海からロブスターたちがあがってきて、岩のかげで脱皮し、アザラシたちは日当たりのいい岩根で寝ころび、赤ちゃんを育てます。そんなある日、ピクニックにやってきた家族と一緒に、一匹の黒い子猫がやってきます──。

作者のゴールデン・マクドナルドは、「おやすみなさいおつきさま」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 クレメント・ハード/絵 せたていじ/訳 評論社)や、「まいごになった子ひつじ」の作者として高名です。じつは、ゴールデン・マクドナルドという名は、レナード・ワイズ・ブラウンの筆名です。物語はこのあと、子猫と島が意味深い問答をかわし、子猫は自分もひとつの小さな島ではないかと考えます。絵は、色あいの濃い具象画。島の四季や1日が美しくえがかれた、思索に富んだ一冊です。1947年コールデコット賞受賞。小学校低学年向き。

2011年8月11日木曜日

アラヤト山の女神

「アラヤト山の女神」(ヴィルヒリオ S.アルマリオ/再話 アルベルト E.ガモス/絵 あおきひさこ/訳 ほるぷ出版 1982)

フィリピンのルソン島に、アラヤト山という美しい山がありました。昔、このアラヤト山をおさめていたのは、マリア・シヌクァンという女神でした。マリア・シヌクァンは慈しみ深い、公平な女神として知られていたので、ひとびとや動物たちは、なにか困ったことがあると、アラヤト山の上にある女神の法廷にやってきました。

ある日、ムクドリのマルティネスが泣きながら女神のもとにやってきます。「女神さま、きのうの夜のことです。馬のカバーヨが突然走りだして、わたしの巣を踏みつぶしてしまったのです」。それを聞いたマリア・シヌクァンは、馬のカバーヨを呼んで事情を聞いてみると──。

フィリピンの民話をもとにした絵本です。このあと、「カエルのパラカーが大声で叫んだので、びっくりして走りだしたのです」という、馬のカバーヨの話を聞いた女神は、今度はカエルのパラカーを呼んで話を聞きます。こんな具合に、女神は、カメのパゴン、ホタルのアリタップタップ、蚊のラモックから事情を聞くことになります。物語はたんにムクドリの巣がこわれた原因をさぐるだけではありません。なぜ、蚊は耳元でぶんぶんいうのかといった、それぞれの動物の特徴にたいする由来譚ともなっています。絵は、おそらく色鉛筆でえがかれたもの。南国風の、色彩の濃い、美しい絵柄が魅力的です。西アフリカの民話をもとにした、同じ題材をあつかった絵本、「どうしてカはみみのそばでぶんぶんいうの?」(ヴェルナ・アールデマ/文 レオ・ディロン/絵 ダイアン・ディロン/絵 やぎたよしこ/訳 ほるぷ出版 1976)と読みくらべるのも面白いでしょう。小学校中学年向き。

2011年8月10日水曜日

マックマウスさん












「マックマウスさん」(レオ=レオニ/作 谷川俊太郎/訳 好学社 2010)

ある日、鏡をみた町ネズミのティモシーは、自分が人間のような不思議な姿になっているのに気づきました。建物から飛びだして、町の外に逃げだしたティモシーは、そこで野ネズミたちに出会いました。野ネズミのスピニーは、ティモシーの尻尾をみてティモシーをネズミと認め、ティモシーにマックマウスという名前をつけました。

さて、野ネズミの仲間になるためには、いくつかの試験を受けて野ネズミ免許をとらなくてはいけません。そこで、ティモシーは試験を受けることになるのですが──。

あおくんときいろちゃん」や「スイミー」などで高名なレオ=レオニの絵本です。このあと、ティモシーは、ちくちくベリーを食べるテスト、ヒースの草原まで走っていってもどってくるテスト、そして木のぼりテストを受けます。が、結果はかんばしくありません。ところが、そのとき事件が起こって…と、物語は続きます。レオ=レオニ独特の、明快なコラージュにより、どことなく不思議な物語が語られます。小学校低学年向き。

2011年8月9日火曜日

しずかに! ここはどうぶつのとしょかんです










「しずかに! ここはどうぶつのとしょかんです」(ドン・フリーマン/作 なかがわちひろ/訳 BL出版 2008)

あるところに、カリーナという女の子がいました。カリーナは土曜日の朝、必ず図書館へいきました。男の子たちのあいだにすわって、動物がたくさんでてくる本を読んでいたカリーナは、「動物たちも本を読みたいかもしれないな」と、ぼんやり考えごとをはじめました。

わたしが図書館のひとだったら、動物だけが図書館に入れる特別な日をつくるのに。カウンターにすわって、じっと待つと、最初にくるのはだれかしら。あ、カナリアさんが一番乗り。次はだれかと思ったら、まあ、ライオンさん──。

女の子が、動物だけが図書館に入れる日というのを想像する絵本です。このあと、ゾウ、クジャク、カメ、キリン、ヤマアラシ、サル、ウマ、ウシが図書館にやっってきます。そして、ネズミがやってきて、ちょっとした騒動がもち上がります。絵は、色の鮮やかさが印象的。イスにすわって、机で本を読む動物たちが、なんとなく可愛らしいです。カリーナの想像の世界は、簡略化されてえがかれ、それまで3人称だった文章は1人称になります。。小学校低学年向き。

よるとひる












「よるとひる」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 レナード・ワイスガード/絵 ほしかわなつよ/訳 童話館出版 2009)

あるところに、白いネコと黒いネコがいました。白いネコは昼がこよなく好きで、黒いネコは夜がこよなく好きでした。白いネコは、日だまりに丸くなっているのが好きでしたし、黒いネコは夜のしじまを歩くのが好きでした。でも、白いネコが眠っているので、黒いネコは夜、いつもひとりでした。そこで、ある夜、黒いネコは白いネコを起こしました。

黒いネコに起こされた白いネコは、もうすぐ夜も明けることだし、昼を楽しんでみてはどうかと黒いネコに提案します。そこで、黒いネコは白いネコと昼をすごし、白いネコは黒いネコと夜をすごすことにします──。

夜と昼をともにすごす、白いネコと黒いネコのお話です。マーガレット・ワイズ・ブラウンの文章は詩的で、レナード・ワイズガードの絵は、それによくあった静かな印象のもの。特に、夜の場面が心に残ります。小学校低学年向き。

2011年8月6日土曜日

キャベツくん












「キャベツくん」(長新太/作 文研出版 2005)

キャベツくんが歩いてくると、ブタヤマさんに会いました。「こんにちは」と、キャベツくんがあいさつすると、ブタヤマさんが、「あのね、おなかがすいてフラフラなんだ。キャベツ、おまえを食べる!」といって、キャベツくんをつかまえました。

ブタヤマさんにつかまったキャベツくんが、「ぼくを食べるとキャベツになるよ」というと、突然、空に鼻がキャベツになったブタヤマさんがあらわれます。空をみたブタヤマさんは、「ブキャ!」と驚いてしまいます──。

お話会の定番絵本のひとつです。このあと、ブタヤマさんが、「ヘビがきみを食べたらどうなるんだ?」と訊くと、キャベツくんは、「こうなる!」といい、すると空にキャベツのお団子みたいなヘビがあらわれます。あとはくり返しです。タヌキ、ゴリラ、カエル、ライオン、ノミ、クジラがキャベツくんを食べたら一体どうなるのか、その姿がえがかれます。キャベツくんが「こうなる!」といって、ページをめくったときの、その予想外のキテレツさが楽しいです。文章はタテ書き。キャベツくんとブタヤマさんが少しずつ移動しているところも見どころです。小学校低学年向き。

2011年8月4日木曜日

ねこといぬとたからの玉











「ねこといぬとたからの玉」(藤かおる/文 梶山俊夫/絵 太平出版社 2001)

昔、村はずれの、川と海が一緒になるあたりに、一軒のわらぶき屋根がありました。そこには、じいとばあとネコとイヌが、貧しかったけど仲良く暮らしていました。ある日、海に釣りにでかけたおじいさんは、大きな金の魚を釣り上げました。すると、金の魚は目に涙を浮かべていいました。「わたしは竜宮の王子です。命を助けてくれたら、竜宮の宝の玉をあげます」。かわいそうに思ったじいは、金の魚を海に返してやりました。

さて、次の日の朝、ひとりの立派な若者がやってきて、じいに宝の玉を渡していきます。「玉に手をおいて、ほしいものをだせといえば、願いがかないます」。そこで、玉に手をおいて、「玉よ、家をだせ」といってみると、わらぶき屋根が消え、大きな屋敷があらわれます──。

韓国・朝鮮の民話をもとにした絵本です。このあと、玉にコメや味噌や小判をださせたじいは、村一番の長者になりますが、それを不審に思った川むこうの欲張りばあが、じいのところにやってきて、玉をすりかえてしまいます。欲張りばあが自分の家を屋敷にすると、じいの家はもとのわらぶき小屋にもどってしまい、ネコとイヌは玉をとりもどしに川を渡り、欲張りばあの屋敷にむかって…と、後半はネコとイヌの活躍へと続きます。おそらく、同じ民話をもとにした絵本に、「いぬとねこ」(ソジョンオ/再話 シンミンジェ/絵 おおたけきよみ/訳 光村教育図書 2007)があります。読みくらべてみるのも面白いでしょう。小学校低学年向き。

2011年8月3日水曜日

マウス一家のむすめたちのさんぽ












「マウス一家のむすめたちのさんぽ」(カーラ・カスキン/作 星川菜津代/訳 童話館出版 2005)

ある日、お母さんネズミのミセス・マウスは、双子の娘、チーズ・ビットとトッツィ・ロールに、「わたしたちは夕食まえにしておかなくてはならない大切なことがありますよ」といいました。ミセス・マウスが帽子をかぶり、ショッピングカートを押して玄関をでると、2人の娘たちが追いかけました。途中、タマゴをあたためているミセス・ロビンに、ミセス・マウスはたずねました。「どこにいけば美味しいイチゴがみつかるかしら」。ミセス・ロビンはイチゴがなっているところへの道を教えてくれました。すると、ミセス・マウスは、ミセス・ロビンの耳になにかをささやきました。「ねえねえ、お母さんなんていたの?」と、娘たちがたずねましたが、ミセス・マウスは謎めいて笑うだけで、先をいそいでいってしまいました。

ミセス・マウスと娘たちは、イチゴのなっているところへいき、ショッピングカートの半分まで一杯にします。このあと、ウサギに木の葉を、リスに木の実を、カタツムリに貝がらを、カメに野の花の咲いているところを教えてもらいます。

どれがぼくかわかる」などで高名なカスキンによる一冊です。絵はイラスト風のかわいらしいもの。カラーと白黒の画面が交互にくる構成です。イチゴをとる場面などはカラーで、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、ストロベリーといった、さまざまな種類のイチゴが紹介されます。なぜ、ミセス・マウスは夕食まえにイチゴをとりにいったりしたのか、そしてミセス・ロビンになにを耳打ちしたのかは、物語の最後で明かされます。礼儀正しいミセス・マウスと、双子の娘たちのやりとりが楽しい、幸福な味わいの読物絵本です。小学校中学年向き。

まじょのスーパーマーケット












「まじょのスーパーマーケット」(スーザン・メドー/作 ひがしはるみ/訳 フレーベル館 1996)

きょうはハロウィンです。魔女に扮したヘレンは、犬のマーサにかぶりものを着せ、黒ネコに変装させました。お菓子をあつめてまわろうと、外にでましたが、通りにはおばあさんがひとり歩いているだけでした。すると、おばあさんのコートのポケットからなにかが落ちたので、ヘレンはそれを拾い、おばあさんを追いかけました。

おばあさんのポケットから落ちたのは、「ほうきいっぽんむりょうサービスけん」。おばあさんは、薄気味悪い路地の奥のドアに入っていき、ヘレンも勇気をだして入っていくと、そこはスーパーマーケットで──。

もちろん、このスーパーマーケットは魔女のスーパーマーケット。野菜売場には「毒サボテン」、肉売場には「味つけヘビ」などが売られ、それにモップもちりとりもないのに、ホウキだけがやたらたくさん並べられています。最初、ヘレンはこのスーパーマーケットの奇妙さに気がつきませんでしたが、探していたおばあさんがホウキにまたがって飛び立つと、「まさか、ここって…」と気がつきます。絵は、水彩と色鉛筆でえがかれたマンガ風のもの。スーパーマーケットの商品が細かくえがかれているのが見どころです。「魔女のスーパーマーケット」という発想が楽しい一冊です。小学校中学年向き。

2011年8月2日火曜日

まじょのひ









「まじょのひ」(大塚勇三/再話 渡辺章人/画 福音館書店 1997)

南のほうにあるブーゲンビルという島では、火をもっていたのは、山のなかほどに住む何人かの魔女たちだけでした。海のそばの村のひとたちは、火がないので、食べものを煮たり焼いたりできませんでしたし、寒い夜にはふるえていなければなりませんでした。村のひとたちは、火だねを分けてもらいたいと、何度も魔女たちのところへ使いをだしましたが、魔女たちはどうしても火をわけてくれませんでした。

村のひとたちは話あったすえ、村で一番利口なイヌを呼び、魔女たちの火をもってきてくれるように頼みます。イヌは友だちの緑の羽根のオウム、ふさふさした尻尾のクスクス、長い尻尾のカエル、それにブタを呼んで、一緒に魔女の火をとりにいってくれるように頼みます──。

パプア・ニューギニアの昔話をもとにした絵本です。タイトルの「まじょのひ」は、「魔女の火」という意味でしょう。このあと、物語は、イヌの計画にしたがい、魔女の住みかへと続く道のあちこちに、オウム、クスクス、カエル、ブタがかくれ、イヌは魔女たちのところへいって…と続きます。また、この物語は「どうやって人間が火を手に入れたか」という話だけではなく、どうしてカエルには尻尾がないのか、どうしてクスクスの尻尾には毛がないのか、オウムの胸はなぜ赤いのか、といった由来譚にもなっています。小学校低学年向き。