「ぼくの図書館カード」(ウイリアム・ミラー/文 グレゴリー・クリスティ/絵 斉藤規/訳 新日本出版社 2010)
〈ぼくは、母さんの話を聞くのがとても好きだ。南部の農場で母さんは生まれ、そこで育った。母さんは農場や村のことについてたくさんの話をしてくれた〉
〈奴隷だったおじいさんは、主人のいる農場から逃げ出し、北軍に加わって、南部の反乱軍とたたかった〉
〈ぼくは面白い話を自分の力で読みたいと思った。でも、貧しかったから、家に本はなかった〉
〈ぼくは学校にはほとんどいかなかった。勉強は母さんが時間があるとき、新聞の漫画のページを、大きな声でゆっくりと、ことばがはっきりとわかるように読んでくれただけだった〉
〈ぼくはひとりで本が読めるようになっても、自分の本をもつことはなかった。本は高価で買うゆとりなどなかったんだ。そして、図書館から本を借りることもできなかった。町の図書館は、公園や運動場と同じように、黒人の利用が禁止されていた〉
17歳のとき、テネシー州の北西にあるメンフィスという町に移った〈ぼく〉は、そこで仕事をしてお金をため、さらにシカゴに移ろうと考えます。〈ぼく〉はメンフィス中を歩きまわって、やっとメガネ屋で下働きの仕事をみつけ、そこで、本が読みたくてたまらないことをわかってくれる白人のひとに出会います──。
アメリカの黒人作家リチャード・ライトの自伝、「ブラックボーイ」(岩波文庫 2009)をもとにした絵本です。このあと、職場のフォークさんが貸してくれたカードを手に、〈ぼく〉は怪しまれないかとどきどきしながら図書館で本を借りてきます。
〈その夜、夢中で本を読んだ。夜が明けはじめるまで、ディケンズ、トルストイ、スティーブン・クレインを読んだ。本には、肌の色が白いにもかかわらず、ぼくのように苦しい境遇にあるひとびとが描かれていた。ぼくが追いもとめる自由を、同じように望んでいるひとびとがいた〉
絵は、水彩でざっとえがいた臨場感のあるもの。本を読むことにより、自由への力を得た少年の、胸を打つ読物絵本です。小学校高学年向き。