2011年12月9日金曜日

ヴァレンカのちいさな家

「ヴァレンカのちいさな家」(ベルナデッテ・ワッツ/作 いけだかよこ/訳 ほるぷ出版 1992)

昔、ロシアの森にヴァレンカという名前のおばさんが住んでいました。ヴァレンカはいつでも、聖母マリアさまと、赤ちゃんのキリストさまがえがかれたイコンに、森の花を飾りっていました。ある日、幸せに暮らしているヴァレンカのもとへ、大勢のひとたちがやってきました。「西のほうが戦争だ。兵隊がどんどんこっちにやってくる。荷物をまとめていますぐ逃げよう。さもないと、ひどい目にあうぞ」。すると、ヴァレンカはいいました。「わたしも逃げてしまったら、だれが疲れた旅人の世話をする。森で迷子になった子どもたちを、だれが助けてやる。冬になって、雪がつもり、氷が張ったら、だれがけものや鳥たちにえさをやる」──。

次の日、小屋に火をつけられたヤギ飼いのピョートルが、ヤギと一緒にヴァレンカの家にやってきます。その次の日、村も畑もめちゃくちゃにされた絵描きのスチェバンを、ヴァレンカは家に誘います。その夜、ヴァレンカの家に、逃げる途中両親とはぐれてしまった、ハトを抱いた小さな女の子が訪れます。ヴァレンカは毎晩、「兵隊にこの家がみえないほど高い壁をつくってください」と神さまにお祈りをします──。

作者のベルナルデ・ワッツは、「ヘンゼルとグレーテル」(岩波書店 1985)や「まつぼっくりのぼうけん」などで高名な、バーナデット・ワッツのこと。本書はワッツの処女作です。このあと物語は、神さまがみんなのお祈りにこたえてくれ、すべてが満足のいくラストを迎えるのですが、そこに至るまでの迫真さには大変なものがあります。絵は、おそらくクレパスをつかってえがかれたもの。作中にも登場した、イコンのような絵柄です。小学校中学年向き。

2011年12月8日木曜日

ゆきとくろねこ











「ゆきとくろねこ」(竹下文子/作 おおの麻里/絵 岩崎書店 2008)

《なんだろう
 あさから おちつかない
 うちの なかは しずかだ
 でも なんとなく いつもと ちがう

 すずめの うわさでは
 なにかが やってくるらしい
 とおい きたのくにから くるらしい
 でも それは なんだか わからない
 きいても おしえてくれない》
 ──

黒ネコがはじめて雪と出会う絵本です。いつもと同じようでいて、なにかちがうと思い続ける黒ネコは、このあと、とうとう雪に出会います。絵は、シンプルなイラスト風のもの。黒ネコがキャットフードを食べている顔など、よく特徴をとらえています。文章は人称がないため、最初だれが語っているのかと戸惑いますが、読んでいくうちに、黒ネコが語っているのだと察することができます。雪が降るまでの落ち着かなさに、この語り手の不明瞭さも、ひと役買っているように感じられます。小学校低学年向き。

2011年12月7日水曜日

急行「北極号」










「急行「北極号」」(C.V.オールズバーグ/作 村上春樹/訳 あすなろ書房 2003)

ずいぶん昔、まだ子どものころ、クリスマス・イブの夜に、ぼくはサンタのそりの音が聞こえないかとベッドで耳をすませていました。すると、夜も更けてから、しゅうっという蒸気の音と、金属がきいいっときしむ音が聞こえてきました。スリッパをはき、ローブをはおって外にでると、車掌が、「みなさん、ご乗車くださーい」と大きな声で叫びました。「どこへいくんですか」とたずねると、「どこって、もちろん北極点さ。これは急行『北極号』だもの」と、車掌はこたえました。

ぼくが列車に乗りこむと、なかはパジャマやナイトガウンを着た子どもたちでいっぱい。列車は、暗い森を抜け、高い山をこえて、北極点の町へむかいます──。

クリスマス絵本の一冊です。夜、列車に乗って北極点の町にいくというアイデアがなにより秀抜です。絵は、おそらくパステルをつかってえがかれたもの。オールズバーグは、ありえない世界を、劇的な構図と大変な画力でみせてくれます。物語はこのあと、北極点に着き、「クリスマスのプレゼントになにがほしいのかな」とサンタにたずねられた〈ぼく〉がサンタの鈴をお願いして…と続きます。クリスマスの夜の幻想をえがいた、オールズバーグの代表作です。1980年度コールデコット賞受賞作。小学校中学年向き。

2011年12月6日火曜日

おおいそがし、こいそがし











「おおいそがし、こいそがし」(ユンクビョン/文 イテス/絵 小倉紀蔵/訳 黛まどか/訳 平凡社 2003)

《山あいの村にすんでいるマル。
 マルの村には、秋がひとあしはやくやってくる。
 秋がくると、うちじゅうみんな、
 おおいそがし、こいそがし。

 おにわに、 けいとうの花がまっかにさくころ、
 じいちゃんはとうもろこしを干すのに、
 ばあちゃんはごまの実をとるのに、
 おおいそがし、こいそがし。

 だんだん畑にそばの花がまつしろにさくころ、
 ばあちゃんはとうがらしを干すのに、
 マルはにわとりを追いまわすのに、
 おおいそがし、こいそがし。》

副題は「韓国の四季の絵本・秋」。韓国の山あいにある村の、農家の情景をえがいた一冊です。絵は、おそらく色鉛筆と水彩でえがかれたもの。細やかなタッチで、動植物がいきいきと描かれています。また、引用したとおり、文章は分かち書きされていません。このあとも、マルは、田んぼのスズメを追い払ったり、朝早く栗ひろいにいったり、稲刈りの手伝いをしたりと、ほんとうに大忙し。とうがらしを干したり、キムチをつくったりするところが、韓国らしいところでしょうか。小学校低学年向き

2011年12月5日月曜日

はい、このひとがママです!

「はい、このひとがママです!」(ダイアン・グッド/作 なかやまのぶこ/訳 文化出版局  1992)

駅に着いたとき、急に風が吹いてきて、ママの帽子がどこかに飛んでいってしまいました。ママは、「帽子をさがしてくるわ。ここからうごいちゃダメよ」と、子どもたちにいいました。

こうして、姉弟はママを待ちますが、ママはなかなかもどってきません。泣いていると、おまわりさんがやってきて、「ママはどんなひと?」と訊いてきます。「ママは世界中でいちばんきれいなひと」とこたえると、おまわりさんは、「一緒にさがしにいこうね」と姉弟を連れて、ママをさがしにでかけます――。

ママとはぐれてしまった姉弟が、ママをさがすお話です。このあと、ページをめくるたびに、姉弟は女のひとと対面します。まず最初はお金持ちのご婦人。「ママはとっても力もちなの。自分の荷物は自分ではこべるわ」。で、次の場面はキオスクの前。新聞を肩にのせたお姉さんに、「ママは新聞を読まないの。本が好きなの」。そこで、次は本屋さん。「ママはひそひそ話なんてしないもの。みんなママの声は素敵ねってほめてくれるの」。そして、次は劇場へ…と物語は続きます。絵は水彩。駅をゆきかう群集がみごとにえがき分けられています。おまわりさんと姉弟がママをさがす場面では、よく見るとママの姿が見受けられます。じつは、姉弟とママはいきちがってばかりいたのだとわかる仕掛けになっています。小学校低学年向き。

2011年12月2日金曜日

ピエールとライオン












「ピエールとライオン」(モーリス・センダック/作 じんぐうてるお/訳 富山房 1986)

ある朝、お母さんはピエールに、「おはよう、ぼうや、私の宝」といいました。すると、ピエールは、「ぼく、知らない!」といいました。お母さんが、「なにが食べたい?」と訊いても、「後ろむきに腰かけちゃだめ」といっても、ピエールは「ぼく知らない!」というばかり。とうとう、お母さんはピエールを置いて出ていってしまいました──。

本書の副題は、「はじまりのうたといつつのおはなし」。「はじまりのうた」というのは、本書の内容をうたにしたものです。引用してみましょう。

《おとこのこが ひとり
 なまえは ピエール
 このこが いうのは ただひとつ
 「ぼく知らない!」
 どうぞ みなさん およみなさい
 きちんと よめば
 おしまいに
 ためになること かいてある》

「いつつのおはなし」とあるように、お話はぜんぶで5章に分かれています。このあと、お父さんがピエールのご機嫌をとろうとするのですが、上手くいかず、お母さんと一緒にでていってしまい、するとピエールのところにライオンがやってきて…と物語は続きます。センダックの芝居がかった絵が、お話を楽しい読みものにしています。小学校低学年向き。

2011年12月1日木曜日

わたしの庭のバラの花












「わたしの庭のバラの花」(アーノルド・ローベル/文 アニタ・ローベル/絵 松井るり子/訳 セーラー出版 1993)

《これはわたしの庭の
 バラの花でねむるハチ。

 これはわたしの庭のバラの花でねむる
 ハチに日かげをつくっている
 すっとのびたタチアオイ。

 これはわたしの庭のバラの花でねむる
 ハチに日かげをつくっている
 すっとのびたタチアオイのわきの
 まるいオレンジいろのきんせんか。》

作者たちは夫婦。アーノルド・ローベルは「がまくんとかえるくん」シリーズや、「とうさんおはなしして」の作者、奥さんのアニタ・ローベルはの「ちいさな木ぼりのおひゃくしょうさん」などの作者です。本書は、マザーグースの「これはジャックのたてたいえ」や、「これはのみのぴこ」のような、積み上げ歌の絵本です。最後、積み木がくずれるように、なにもかもご破産になって、また最初にもどります。ラストの展開に驚いてしまう一冊です。小学校中学年向き。