「まほうつかいのむすめ」(アントニア・バーバー/文 エロール・ル・カイン/絵 中川千尋/訳 ほるぷ出版 1993)
昔むかし、世界のてっぺんにある白く冷たい国に、ひとりの魔法使いとその娘がすんでいました。魔法使いは娘を宮殿のある谷からだそうとはしませんでした。代わりに、谷をあたたかな珊瑚の海にしたり、鬱蒼とした密林にしたりしました。でも、そのうち、娘はひとりでいることをさびしいと思うようになりました。
魔法使いは、娘の話し相手にもなりません。代わりに本を渡します。たくさんの物語を読んだ娘は、この世に幸せや、悲しみや、苦しみや、愛などがあることを知ります。そして、本のなかのひとたちが、みな名前をもつように、幼いころもっていたはずの名前を思いだそうとします。
カバー袖の文章によれば、本書はベトナム戦争の孤児であった養女ジェマのベトナム名をヒントに書かれたそうです。また、ジェマの希望で、ル・カインの絵がつけられることになったということです。ル・カインによる絵は、装飾性の強いもの。物語にあわせて、東洋風の意匠や技法がつかわれています。さて、このあと娘は、魔法使いに自分の名前をたずねます。魔法使いは、おまえは昔、一輪のバラだった、一匹の魚だった、一頭の子ジカだったといって、次つぎと娘の姿を変えていきます。でも、娘の心はおさまりません。そして、小鳥の姿になった娘は、力のかぎり飛んで谷を越えていき──と、物語は続きます。幻想的な美しい読物絵本です。小学校中学年向き。
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