2013年1月31日木曜日

おかえりなさいおにいちゃん












「おかえりなさいおにいちゃん」(ルイス・バウム/文 スーザン・バーレイ/絵 もきかずこ/訳 ほるぷ出版 1991)

きょう、いよいよジョーイお兄ちゃんが帰ってきます。お兄ちゃん、いまなにしてるの。夜明け前で、寒くてふるえてる? お兄ちゃん汽車に乗り遅れちゃだめよ。絶対きょう帰ってきてね。

〈わたし〉は学校をお休みします。ママは家中をピカピカにし、パパも会社を休んで車を洗います。ねえ、いまお兄ちゃんはどこらへんかしら──。

妹の〈わたし〉が、遠くの学校から帰ってくるお兄ちゃんを待ちこがれる、という絵本です。ページの上部に絵があり、その下に文章があるという構成。絵は、線画に水彩で着色された、内容によくあった、あたたかみのあるもの。このあと、お兄ちゃんの歓迎パーティーのために、〈わたし〉はお母さんとお父さんと一緒に買いものにでかけ、そのあと車でお兄ちゃんを駅まで迎えにいきます。小学校低学年向き。

2013年1月30日水曜日

ああ、たいくつだ!











「ああ、たいくつだ!」(ピーター・スピアー/作 松川真弓/訳 評論社 1989)

「なにかしなさいよ、退屈だなんてなにいってるの!」と、2人の兄弟はお母さんに家を追いだされました。納屋にいった2人は、そこでプロペラをみつけました。本で飛行機の仕組みをみて、さっそく材料あつめにかかりました。

乳母車から車輪をはずし、シーツに窓にイスに木材。2人はせっせと飛行機を組み立てていきます。

男の子2人(双子?)が、飛行機をつくるお話です。ピーター・スピアは「ノアのはこ船」などの作者。精緻な絵柄が、着ちゃくとつくり上げられていく飛行機に、みごとなリアリティをあたえています。このあと、両親に怒られた2人は、飛行機の材料をことごとく元にもどします。このていねいな展開も見ものです。小学校中学年向き。

2013年1月29日火曜日

ねずみくんのチョッキ












「ねずみくんのチョッキ」(なかえよしを/文 上野紀子/絵 ポプラ社 1978)

ねずみくんが、お母さんが編んでくれたチョッキを着ていると、アヒルがやってきていいました。「いいチョッキだね。ちょっと着せてよ」。アヒルは、ねずみくんのチョッキを着ていいました。「すこしきついが、似合うかな」。すると、こんどはサルがやってきて、アヒルにいいました。「いいチョッキだね。ちょっと着せてよ」──。

「ねずみくんの絵本」シリーズの1冊です。文章はタテ書き。右ページに文書があり、左ページに絵があるという構成です。絵は、白黒で、チョッキにだけ赤がつかわれています。このあと、アザラシ、ライオン、馬、ゾウがやってきて、ねずみくんのチョッキを着ます。おかげでチョッキは伸びに伸びてしまい──。きついチョッキを着た動物たちの表情がおかしいです。小学校低学年向き。

2013年1月28日月曜日

はんじさん

「はんじさん」(ハーヴ・ツェマック/文 マーゴット・ツェマック/絵 こばしげお/訳 富山房 1975)

裁判所に囚人が連れてこられました。

《こいつは しゅうじん だい1ごう。
 こいつを さいばん してください!》

ぼろを着て、義足をつけた囚人は、「わたしはみたままいっただけ。悪いことをしたなんて知らなかった」と、判事に判事に訴えます。

《おそろしい ものが こっちのほうへ、
 まいにち まいにち だんだん ちかく。
   めは ぎらぎらと おっかなく
   おっぽは けだらけ
 はんじさん、みんなで おいのり しましょうよ!》

しかし、判事は囚人の訴えをしりぞけ、判決を下します。

《このおとこは うそつきだ。
 こいつを ろうやに ほうりこめ!》

副題は「しょうしんしょうめいうそのおはなし」。ハーヴ・ツェマックとマーゴット・ツェマックは「ダフィと小鬼」の作者として高名です。本書は、左ページにリズミカルな詩文があり、右ページに絵があるという構成。このあと、2~5号までの囚人が、判事の前に連れてこられます。みんな、「おそろしいものが、こっちのほうへやってくる」と、口ぐちにいうのですが、判事は聞き入れません。すると、大変なことが起こります。最後、ちょっと怖いところがある絵本です。小学校中学年向き。

海浜物語

「海浜物語」(やしまたろう/作 白泉社 1983)

日本の南のはしの島に、都会の物音がまったく届かない海浜がありました。ある日、近くの町のバレエ学校の子どもたちが、その砂丘にやってきました。浜辺の静けさは、子どもたちに浦島太郎の話を思いださせました。「あれは、ここでおこったのかもね」と、ひとりがいうと、「カメだってくるしねえ」と、別の子がいいました。

八島太郎は「からすたろう」の作者。おそらく、パステルをつかってえがかれた絵は、大変深みがあります。この絵本は、枠物語になっており、このあと浦島太郎の話が語られます。そして最後、再び子どもたちにもどり、物語に納得のいかない一番小さい子が、「きれいな箱からは、なにかもっといいものがでてこなくちゃ」とつぶやいて終わります。複雑な味わいのある、品のある一冊です。小学校低学年向き。

2013年1月25日金曜日

ぼくたちとたいよう

「ぼくたちとたいよう」(アリス・E・グッディ/文 アドリエンヌ・アダムズ/絵 友田早苗/訳 文化出版局 1982)

ある夏の朝、ぼくと妹はとても早く起きました。外にでると、丘の上から太陽が昇りました。後ろをむくと、ぼくたちの長い影ができていました。「ほらっ、影をみてごらん。ぼくが太陽の光をとめている。太陽の光は、ぼくのからだを通らないんだ」。そして、ぼくは両耳の横に人差し指を立てて、ツノのはえた巨人の影をつくりました。

ぼくと妹は、1日遊んで家に帰ります。夜、お母さんが太陽についてお話をしてくれます。

絵は、繊細な味わいのパステル画。お母さんは、子どもたちに、地球は丸くて大きいボールのようなかたちをしていること、地球はいつもぐるぐる回っていること、太陽はくもりの日にも、いつもはるか彼方で輝いていること、地球がまわって反対側になると、そこは夜になることなどを話します。そこで、〈ぼく〉と妹は、懐中電灯とリンゴを太陽と地球にして、お母さんがいったことを確かめます。太陽についてえがかれた、落ち着きのある科学絵本です。小学校中学年向き。

2013年1月24日木曜日

ミシュカ











「ミシュカ」(マリー・コルモン/文 フョードル・ロジャンコフスキー/絵 みつじまちこ/訳 新教出版社 2012)

ぬいぐるみの子グマ、ミシュカは朝、目をさますと、なにもかもいやになってしまいました。ご主人のエリザベットは、おもちゃがいっぺんに25個もないと機嫌よく遊ばないのです。それに、あきるとすぐに部屋のすみに投げたりするのです。そこで、ミシュカは子ども部屋をでていくことにしました。

雪のなかを歩いていったミシュカは、途中、小鳥のキクイタダキに会ったりしながら、森のなかに入っていきます。たまたま、びんに入ったハチミツをみつけて食べ、木に登って眠っていると、2羽のガンの話が聞こえてきます。「今夜はクリスマス・イブだね」「みんな、なにかひとついいことをしなくちゃいけないのよ」

絵を描いたロジャンコフスキーは、「かわせみのマルタン」などをえがいたひと。カラーページと白黒ページが交互にくる構成で、水彩でえがかれたカラーページは臨場感があります。さて、このあと、「ぼくもなにかいいことをしなくちゃ」とミシュカが考えながら歩いていると、プレゼントを配っているトナカイに出会います。ミシュカはトナカイを手伝って、子どもたちにプレゼントを配って歩くのですが──と、お話は続きます。子グマのミシュカが自分にできることを考える、クリスマスの読物絵本です。小学校中学年向き。

2013年1月22日火曜日

ゆきのプレゼント












「ゆきのプレゼント」(ベアトリス・シェンク・ド・レーニエ/文 ライナー・チムニク/絵 矢川澄子/訳 童話屋 1986)

ダコタのちっちゃな古い田舎の家に、ちいばあさんと、ちいじいさんという、ちっちゃなお年寄りの夫婦がすんでいました。ニワトリが少しいるほか、2人はほんとに2人ぼっちでした。外は毎日雪降りで、「あんたとニワトリだけだなんて、さびしいったらありゃしない。大勢呼んでパーティーでもしたいのに」と、ちいばあさんはいいました。

ラジオでは、KMベーカリーのコマーシャルをやっています。「次のパーティーには、KMのチョコレート・ケーキをどうぞ。コツコツ・コッコッコ。これがKM配達人の合図です」。風がひどくなったかと思うと、電線が切れたらしく、ラジオも明かりも消えてしまいます。ちいばあさんがローソクに火をともし、ちいじいさんがヒヨコを家に入れるため、鳥小屋にでかけると、だれかがドアをノックして──。

文章を書いたベアトリス・シェンク・ド・レーニエは、「ともだちつれてよろしいですか」の作者。絵を描いたライナー・チムニクは、「クレーン男」などの作者として、それぞれ高名です。チムニクは、この絵本でもその簡潔な線で、独特の世界をつくりだしています。さて、ちいばあさんが玄関にでてみると、そこには男のひとがひとり立っています。雪で車が立往生してしまったという男のひととその家族を、ちいばあさんは喜んで招き入れます。そのあと、車3台ぶんのひとたちと、バスの運転手とその乗客と、ちいじいさんがはこんできたヒヨコがやってきて、うちのなかはとてもにぎやかになり──と、お話は続きます。最後は大変盛り上がる、愉快な読物絵本です。小学校中学年向き。

2013年1月21日月曜日

だんごだんごどこいった

「だんごだんごどこいった」(大江ちさと/文 大田大八/絵 トモ企画 1988)

あるところに、じいさまとばあさまがいました。あるとき、庭はきをしていたじいさまは、1本の稲の穂をみつけました。ばあさまがその稲穂を石臼でひいて粉にし、じいさまがふるいで振るい、2人は団子を3つつくりました。

さて、できた団子をじいさまがひとつ、ばあさまがひとつ食べ、最後のひとつを互いに譲りあっていたところ、団子はころころ転がって、ネズミの穴に入ってしまいます。そこで、じいさまは団子をさがしに、ネズミの穴に入っていきます──。

おそらく、日本の民話をもとにした絵本です。絵を描いた太田大八さんは、「やまなしもぎ」の作者として高名。文章は民話調で、2人が団子をつくる場面はこんな風です。

《二つにすれば ちっと大きすぎ
 四つにすれば ちっと小さすぎ
 しょうねえ、とおもって 三つにしましたと。》

さて、このあとネズミの穴に入ったじいさまは、そこで地蔵さまに出会います。団子のことをたずねると、地蔵さまは「ころげてきたども おれ くうでしもうだでや」とこたえます。そして、じいさまにあやまった地蔵さまは、ある提案をもちかけます──。「おむすびころりん」のような話かと思ったら、突然地蔵さまがでてくる愉快なお話です。小学校低学年向き。

2013年1月18日金曜日

しっぺいたろう










「しっぺいたろう」(香山美子/文 太田大八/絵 教育画劇 2000)

旅の坊さんがある村にやってきました。秋のとり入れがすんだばかりなのに、村のひとびとは皆うつむいていました。訳をたずねると、村のばあさまが、「この村では、とり入れがすむと、山の社の神様に娘をひとりとられますじゃ」といいました。

「これはきっと化け物のしわざにちがいない」と、坊さんは山の社にいき、様子をうかがいます。すると、真夜中をすぎたころ化け物たちがあらわれます。化け物たちは、「しっぺいたろうはおるまいな」と、あたりを見回してから踊りだします──。

「日本の民話えほん」シリーズの1冊です。太田大八さんは、「やまなしもぎ」などをえがいたひと。この絵本でも、物語をよくつたえる、みごとな仕事をしています。さて、このあと坊さんは、化け物たちが怖がっていた「しっぺいたろう」をさがしにでかけます。丹波の国に着き、くたびれ果てて、道の地蔵さまのわきで眠っていると、「しっぺいたろう」という声が聞こえてきます。坊さんが目を開けると、目の前に子ウシのような白い大きな犬がいます。しっぺいたろうは、ひとではなく犬だったのです。坊さんは、飼い主のじいさまと孫からしっぺいたろうを借り、村にもどって──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年1月17日木曜日

かわいいめんどり












「かわいいめんどり」(木島始/作 羽根節子/絵 福音館書店 1998)

昔、森のはずれの小さな家に、かわいいメンドリがたった1羽ですんでいました。ある日、買いものにでかけると、1匹のキツネが待ち伏せをしていました。メンドリは、キツネは飛びかかってくると、さっと木のてっぺんに飛び上がりました。

キツネは、「これから動物たちはみんな仲良しになるときまったから降りておいで」とメンドリに話しかけます。ところが、「あんたのきらいな猟師のところのイヌが1匹こちらにかけてくるわ」と木の上にいるメンドリがいうと、キツネは一目散に逃げだします──。

副題は「イギリスとタジクの民話から」。絵は、おそらくクレパスでえがかれたもの。メンドリがエプロンをしているのが可愛らしいです。さて、次の日、キツネはまたメンドリを待ち伏せします。メンドリは、また木のてっぺんに逃げるのですが、キツネは木のまわりをぐるぐるまわり、それをみていたメンドリは目がまわって、木から落ちてしまいます。キツネは大喜びでメンドリを袋に入れるのですが──と、お話は続きます。最初と最後に、メンドリの歌がでてきます。小学校低学年向き。

2013年1月16日水曜日

100リラのシトロン












「100リラのシトロン」(八百板洋子/文 太田大八/絵 フレーベル館 2000)

昔、あるところに3人の兄弟がいました。3人とも、お城のお姫さまが大好きでした。でも、だれもお姫様に打ち明ける勇気はありませんでした。3人はヒツジ1頭もない貧しい若者でしたし、お姫さまはそれはそれはきれいだったのです。

ある日、3人は大きな月桂樹の木の下で約束します。「どこか遠くにはたらきにいこう。100リラお金を貯めて、2年たったらまたこの木の下で会おう。そして、お姫さまに結婚を申しこもう」

トルコの昔話をもとにした絵本です。巻末の文章によれば、このお話は、イスタンブールからおよそ600キロ南に位置するウスパルタ出身のラマザン・アイテキンさんから、八百板さんが直接聞いた話だそうです。絵を描いた太田大八さんは「やまなしもぎ」など、数かずの絵本を手がけています。タイトルになっているシトロンとは、柑橘類の果物のこと。さて、このあと、3人の兄弟は、それぞれヒツジ飼いをしたり、仕立屋ではたらいたり、靴屋の手伝いをしたりして100リラをかせぎます。そして、そのお金で、1番上の兄は一番会いたいひとが映る鏡を、2番目の兄は空飛ぶじゅうたんを、末の弟は香りをかぐと死んだひとが生き返る不思議なシトロンを、それぞれ買って、月桂樹の下で再会します。「うできき四人きょうだい」といった、似たお話と読みくらべてみるのも面白いでしょう。小学校低学年向き。

2013年1月15日火曜日

へんてこりんなサムとねこ












「へんてこりんなサムとねこ」(エヴァリン・ネス/作 猪熊葉子/訳 佑学社 1981)

ある島に、小さな女の子がすんでいました。女の子はサマンサといいましたが、いつもサムと呼ばれていました。サムは、やたらにうそをつくくせがありました。死んだお母さんのことを人魚だといいますし、家には年寄りネコのバングスしかいないのに、ライオンと赤ちゃんカンガルーがいるといいましたし、戸口に置いてあるぼろぼろの足ふきマットを、竜の引っ張る戦車だといいました。

サムの友だちのトーマスは、サムがいうことならなんでも信じます。トーマスは毎日きまった時間にやってきて、赤ちゃんカンガルーをみせてとサムにいいます。そのたびに、サムはカンガルーはどこそこにでかけたといって、トーマスにさがさせます。

絵は、黒の線画に、茶色と青緑を薄くのせたもの。絵も、レイアウトも大変みごとです。このあと、サムはトーマスに、「カンガルーはあたしの人魚のお母さんを訪ねに青岩にいった」といいます。でも、青岩への道は、潮が満ちると水に浸かってしまうのです。そのうち、外は嵐になってきて──と、物語は続きます。空想好きの女の子の振る舞いをよく捕らえた、印象深い読物絵本です。コールデコット賞受賞。小学校低学年向き。

2013年1月12日土曜日

まほうつかいのむすめ












「まほうつかいのむすめ」(アントニア・バーバー/文 エロール・ル・カイン/絵 中川千尋/訳 ほるぷ出版 1993)

昔むかし、世界のてっぺんにある白く冷たい国に、ひとりの魔法使いとその娘がすんでいました。魔法使いは娘を宮殿のある谷からだそうとはしませんでした。代わりに、谷をあたたかな珊瑚の海にしたり、鬱蒼とした密林にしたりしました。でも、そのうち、娘はひとりでいることをさびしいと思うようになりました。

魔法使いは、娘の話し相手にもなりません。代わりに本を渡します。たくさんの物語を読んだ娘は、この世に幸せや、悲しみや、苦しみや、愛などがあることを知ります。そして、本のなかのひとたちが、みな名前をもつように、幼いころもっていたはずの名前を思いだそうとします。

カバー袖の文章によれば、本書はベトナム戦争の孤児であった養女ジェマのベトナム名をヒントに書かれたそうです。また、ジェマの希望で、ル・カインの絵がつけられることになったということです。ル・カインによる絵は、装飾性の強いもの。物語にあわせて、東洋風の意匠や技法がつかわれています。さて、このあと娘は、魔法使いに自分の名前をたずねます。魔法使いは、おまえは昔、一輪のバラだった、一匹の魚だった、一頭の子ジカだったといって、次つぎと娘の姿を変えていきます。でも、娘の心はおさまりません。そして、小鳥の姿になった娘は、力のかぎり飛んで谷を越えていき──と、物語は続きます。幻想的な美しい読物絵本です。小学校中学年向き。

2013年1月10日木曜日

ハリネズミかあさんのふゆじたく












「ハリネズミかあさんのふゆじたく」(エヴァ・ビロウ/作 佐伯愛子/訳 フレーベル館 2007)

ハリネズミの夫婦には、元気な男の子が10匹いました。おかげで、ハリネズミ母さんには、休むひまなんてありませんでした。毎日毎日、ぼうやたちのツンツンした毛にブラシをかけたり、鼻をかんでやったり、立派なハリネズミになるようにしつけをしたりしていました。

さて、夏のあいだ、はだしで丘を駆けまわっていたぼうやたちでしたが、秋になり、冷たい雨が降りだすと、はだしの足は毎日びしょ濡れ。おかげで、ぼうやたちはカゼをひいてしまいます。そこで、ハリネズミ母さんは、冬がくる前に、ぼうやたちの靴をそろえようと思うのですが──。

作者のエヴァ・ビロウはスウェーデンのひと。19×16センチの小振りな絵本で、絵は赤、青、黒の3色。赤を中心にしたページと、青を中心にしたページが交互にくる構成になっています。シンプルで、洗練され、かつ親しみやすい、大変みごとな絵柄です。このあと、子どもたちの靴をつくるため、ハリネズミ母さんは、しまいこんでいたヘビの皮を、ウサギのところにもっていきます。ウサギは、歯でヘビの皮を切ってくれるのですが、あいにく10足ぶんしかとれません。皮を靴のかたちにするために、キツツキにクギを打ってもらうと、クギは5足分しかなく──と、お話は続きます。結末も気が利いている、じつに素敵な一冊です。小学校低学年向き。

もりのがっしょうだん












「もりのがっしょうだん」(たかどのほうこ/文 飯野和好/絵 教育画劇 2003)

春の祭典で、森の守り神さまにささげる歌をうたうために、クマ、キツネ、アナグマ、ハリネズミの、4匹の子どもたちが、残って練習することになりました。それぞれ別の学校に通っているみんなは、自分たちの先生の悪口をいいあうようになりました。

クマ、キツネ、アナグマの子たちは、息を弾ませて先生の悪口をいいあいます。でも、ハリネズミの子のヤサシヴィッチ先生は、いい先生だったので、いうことはなにもありません。ですが、3匹と仲良しになれたのがうれしかったハリネズミの子は、声を張り上げて先生の悪口をいいだします──。

絵は水彩。さて、明日が祭典という、最後の練習の日、合唱団の先生はこういいます。「きみたちは本当に美しい声でうたえるようになった。しかし、森の守り神さまにささげるこの歌は、美しい声だけではなく、慎み深い美しい心でうたうことが大切なのだ」。その夜、ハリネズミの子は、罪を犯した者が穴を掘って洗いざらい打ち明けると、その罪は許されるという「おゆるしづか」に向かいます──。物語の最後に、子どもたちがうたう歌がでてきます。子どもの気持ちをよく捕らえた読物絵本です。小学校低学年向き。

2013年1月9日水曜日

ゼラルダと人喰い鬼












「ゼラルダと人喰い鬼」(トミー・ウンゲラー/作 たむらりゅういち/訳 あそうくみ/訳 評論社 1977)

昔むかし、あるところに、ひとりぼっちの人喰い鬼がいました。童話にでてくる人喰い鬼のように、とても残酷で、朝ごはんに子どもを食べるのがなによりも大好きでした。毎日子どもをさらいにやってくるので、町のひとたちは、小さな息子や娘を、地下室や地下の酒蔵にかくさなければなりませんでした。町から遠くはなれた、谷間の森の開拓地には、ひとりのお百姓さんが、ひとり娘のゼラルダと暮らしていました。ゼラルダはお料理が大好きで、6つになるまでには、煮たり、焼いたり、揚げたり、蒸したりできるようになっていました。

さて、年に一度、お百姓さんは、作物を売りに町にいきます。ですが、たまたま気分が悪くなり、ゼラルダがひとりで町にいくことになります。荷馬車をあやつり町にむかうゼラルダを、腹ぺこの人喰い鬼が、崖の上で待ち伏せしていて──。

「すてきな三にんぐみ」で名高い、ウンゲラーによる絵本です。絵は、マンガ風の水彩。このあと、あせった人喰い鬼は崖から転落、気を失ってしまいます。人喰い鬼のことなど、ちっとも知らないゼラルダは、この怪物を介抱し、馬車に積んでいた作物をつかって、得意の料理をごちそうします。ゼラルダの料理がすっかり気に入った人喰い鬼は、「料理をつくってくれたら黄金をやろう」と、ゼラルダを自分の城に招きます。料理好きの女の子が、恐ろしい人喰い鬼をすっかり籠絡してしまう、なんとも楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2013年1月7日月曜日

がまどんさるどん












「がまどんさるどん」(大江和子/文 太田大八/絵 童話館出版 2010)

あるところに、がまどんとさるどんがいました。さるどんは、いつも忙しげにそこらを走りまわり、がまどんはバッタラ、クッタラと、田んぼ道をゆっくり歩いていました。あるとき、がまどんは道で稲穂をみつけました。これでだんごをつくって、さるどんと食べようと、稲穂を家にもちかえると、さるどんは、いっぺんに食ってしまうのはもったいない、この穂を田んぼにまこうといいました。

さて、拾った稲穂をで田んぼづくりをすることにした2人でしたが、さるどんは頭が痛い、腹が痛いといって、ちっともはたらきません。田んぼの仕事は、みんながまどんがやり、おかげで秋になりお米がとれるのですが──。

民話をもとにしたと思われる絵本です。文章はタテ書き。右ページに文章があり、左ページに絵がある、端正な構成です。文章も民話調。田んぼをつくろうという、さるどんの提案は、こんな具合です。

「やいや、がまどんやれ、一ぺんにくうでしまうなんだあ もったいねえ。このほを 田んぼにまいて 寄り合い田 つくろうで」

物語はこのあと、お米をみたとたん元気になったさるどんが、山の上でもちをつこうといいだして──と、続きます。もちろん、さるどんの提案にはウラがあるのですが、しかし最後は《はたらかざる者食うべからず》に落ち着きます。小学校低学年向き。