2012年3月30日金曜日

ありがとう、フォルカーせんせい












「ありがとう、フォルカーせんせい」(パトリシア・ポラッコ/作・絵 香咲弥須子/訳 岩崎書店 2001)

トリシャが5才になったとき、家族はいつもの儀式をしました。おじいちゃんは、トリシャにもたせた本の上にハチミツをたらしました。「ハチミツは甘い、本も甘い、読めば読むほど甘くなる!」と、家族はうたいました。

でも、トリシャはぜんぜん文章が読めるようになりません。好きなのは絵を描くことと、ぼんやりすること。それから、おばあちゃんと裏の森を散歩すること。わたし、みんなとちがうのかな、頭が悪いのかなと、トリシャは悩みます。月日は流れ、おじいちゃんとおばあちゃんは亡くなり、家族はママの仕事の都合でカリフォルニアに引っ越しをすることになります。新しい学校では、先生も友だちも、わたしの頭が悪いってことに気がつかないかもしれないと、トリシャは思うのですが──。

LD(学習障害)についての絵本です。似たテーマを扱った絵本に「よめたよリトル先生」があります(こちらはADHD)。本書は「よめたよリトル先生」と同様、自伝的な絵本ですが、LDを克服する過程よりも、それ以前の辛く苦しい気持ちにより焦点が当てられています。絵は、鉛筆による線画に、おそらくマーカーで色を塗ったもの。人物のしぐさや表情がよくとらえられ、生き生きとえがかれています。このあと、学校をずる休みしがちになった5年生のトリシャの前に、フォルカー先生があらわれます。フォルカー先生は、いじめっ子からトリシャを助け、トリシャの置かれた状況を見抜き、「きみは必ず読めるようになる」とはげまして、一緒に特訓をします。巻末には、「おうちの方、先生方へ」と題された、日本LD学会会長の上野一彦さんによる文章が記されています。ところで、トリシャがハチミツをかけている本は、どうもディケンズの「大いなる遺産」のようにみえますがどうでしょう? 小学校中学年向き。

2012年3月29日木曜日

さとうねずみのケーキ












「さとうねずみのケーキ」(ジーン・ジオン/文 マーガレット・ブロイ・グレアム/絵 わたなべしげお/訳 アリス館 2006)

昔、トムという名前のケーキ職人が、王様のお城の台所ではたらいていました。トムはすぐれたケーキ職人でしたが、それを知っているひとはだれもいませんでした。というのも、まだ見習いのトムは、けっしてケーキを焼かせてもらえなかったからです。

夜、みんなが台所から引き上げると、トムは小麦の貯蔵庫にすむ白いネズミのティナのために、小さいケーキをいくつか焼いてやります。ティナはとても賢いネズミで、トムが「そらいけ」というと、とんぼ返りをし、「とまれ」というと、ぴたっと止まり、オルゴールを鳴らすと踊りだします。そして、ある日、「料理長が来週をもって引退することになったため、料理人のケーキコンテストをすることになった」と、台所に王様のおふれが貼りだされ──。

「どろんこハリー」で高名な、ジーン・ジオンとマーガレット・ブロイ・グレアムの夫妻よる絵本です。このあと、ケーキコンテストのために、トムは白砂糖のネズミをたくさん飾った、立派なケーキをつくります。ですが、同僚たちの悪ふざけのために、ケーキのてっぺんにいたネズミの女王がこわれてしまいます。そこで、トムはティナを女王の代わりにして…とお話は続きます。少し長めのお話ですが、ケーキの上のティナがこれからどうなってしまうのかと、最後まで手に汗握って読むことができる、読物絵本です。小学校低学年向き。

2012年3月28日水曜日

よじはんよじはん











「よじはんよじはん」(ユンソクチュン/文 イヨンギョン/絵 かみやにじ/訳 福音館書店 2007)

小さな女の子が、となりの店にいっていいました。「おじさん、おじさん、いま何時。母さんが聞いてきてって」「4時半だ」と、おじさんはこたえました。

女の子は「よじはん、よじはん」といいながら、うちにもどります。ですが、ニワトリが水を飲んでいるところにでくわし、ちょっと見ていくことにします。それから、アリがものをはこんでいくところを見物したり、トンボについていったりして──。

「ふしぎなかけじく」や「あかてぬぐいのおくさんと7にんのなかま」などをえがいたイ・ヨンギョンによる絵本です。巻末には、訳者の神谷丹路さんによる解説がついています。それによれば、文を書いたユン・ソクチュンは、植民地時代、韓国朝鮮の民族の心を守ろうと努力した韓国を代表する童詩作家だそう。絵は、おそらく夏の終わりごろと思われる風景を、情感をもってえがいたもの。家にもどったとき、もう日が暮れかけているのですが、女の子が引け目を感じていないところが愉快です。幼児向き。

2012年3月27日火曜日

くまおとこ












「くまおとこ」(グリム/原作 フェリクス・ホフマン/絵 酒寄進一/訳 福武書店 1984)

昔、ひとりの若者がいました。戦争のあいだ、兵隊として勇敢にたたかっていました。でも、戦争が終わると兵隊をやめることになりました。「どこへでもいってしまえ」と隊長はいいました。

若者は旅を続け、荒れ地にある木立ちにたどり着きます。そこで、ひと休みしていると、緑の服を着て、片足が馬の足をした男があらわれます。男は、若者の勇気をためすため、若者にクマをしかけます。若者がなんなくクマを退治すると、こんな話をもちかけます。「からだを洗わず、ひげをそらず、髪をとかさず、爪を切らずに7年のあいだすごすのだ。お祈りもしてはいけない」。若者が思いきってやってみるというと、男はポケットからほしいだけのお金がでてくる緑の服を脱ぎ、若者に渡します。さらに、クマの皮をはいで、これがマントだといいます。「寝るときも脱いではならん。おまえはクマ男になるのだ」

グリム童話をもとにした絵本です。片足が馬の足をした男は、もちろん悪魔。このあと、何年かたち、クマ男はひどい風体になりますが、どこへいっても「わたしのために祈っておくれ」と頼みながら、貧しいひとにほどこしをしてまわります。あるとき、宿に払うお金がなくて困っているおじいさんを助けると、おじいさんの3人の娘をを紹介され、クマ男をいやがらない末の娘と結婚することになります。クマ男は指輪を2つに折り、娘に渡してこういいます。「わたしはまだ3年のあいだ旅を続けなくてはなりません。3年してもどってこなければ、わたしのことを忘れてください」──。ホフマンは本書でも素晴らしい仕事をしています。小学校低学年向き。

川をはさんでおおさわぎ











「川をはさんでおおさわぎ」(ジョーン・オッペンハイム/作 アリキ・ブランデンバーグ/絵 ひがしはじめ/訳 アリス館 1981)

昔、「川のほとりのウィンロック」と呼ばれる小さな村がありました。川には古ぼけた木の橋がかかり、村人は川の東と西に分かれてくらしていました。村には、鍛冶屋がひとり、仕立屋がひとり、医者がひとり、煙突掃除屋がひとり、靴屋がひとり、お百姓がひとり、パン屋がひとり、はた織り屋がひとり、それにきこりがひとり住んでいました。

川の東側に暮らす村人と、西側に暮らす村人は、あまり仲が良くありません。いつも、けんかばかりしています。ある晩、嵐が吹き荒れて橋がこわれてしまうのですが、東の村人も西の村人も橋を直そうとしません。おかげで、東の村人も、西の村人もおだやかに暮らすのですが──。

川の両岸に住む村人たちが、仲たがいをやめて仲良く暮らすという絵本です。このあと、パン屋は煙突掃除をしなければならないと思うのですが、煙突掃除屋は川の向こう岸にいます。そのころ、煙突掃除屋は靴をだめにしてしまうのですが、靴屋は川の向こう側にいます。この調子で、仕事を頼みたい相手はみんな向こう岸にいて…とお話は続きます。絵は、輪郭線のはっきりした、絵本らしいもの。必要な相手がみんな川の向こう側にいるという、くり返しが楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2012年3月23日金曜日

マッチうりの女の子












「マッチうりの女の子」(ハンス・クリスチャン・アンデルセン/作 スベン・オットー/絵 乾侑美子/訳 童話館 1994)

大みそかの夕方、ひとりの貧しい女の子が、雪の降る町を歩いていました。女の子は帽子をかぶらず、足ははだしでした。その足は、寒さのせいで赤や青のまだらになっていました。すりきれたエプロンのなかにはマッチをたくさん入れ、手にもひとたば握っていました。その日一日中、だれも女の子のマッチを買ってくれませんでしたし、だれも銅貨一枚さえくれませんでした。

家に帰る気にはなりません。1本のマッチも売っていないのですから、きっとお父さんにぶたれるでしょう。女の子は、一軒の家のかげに身をよせます。マッチを1本すると、あたたかな明るい炎が燃え上がり、女の子はまるで鉄のストーブの前にすわっているような気分になります──。

アンデルセン童話「マッチ売りの少女」をもとにした絵本です。絵を描いたスベン・オットーも、アンデルセンと同国のデンマークのひと。水彩でえがかれたその絵は、品があり、情感に満ちています。絵本化されたアンデルセン童話のなかでも、出色の一冊です。小学校低学年向き。

2012年3月22日木曜日

クリスマス人形のねがい












「クリスマス人形のねがい」(ルーマー・ゴッデン/文 バーバラ・クーニー/絵 掛川恭子/訳 岩波書店 2001)

クリスマスイブの朝、小さな田舎町にある、ブロッサムさんのおもちゃの店では、おもちゃたちが「どんなことがあっても今日中に買ってもわらなくちゃ」と、ささやきあっていました。みんなはだれかに買ってもらえるよう願いごとをし、お人形のホリーも同じように願いごとをしました。

さて、とある大きな町の町はずれに、セント・アグネスという名前の大きな家がありました。そこに、アイビーという、6歳になる女の子が住んでいました。ほかの男の子や女の子たちは、みんなクリスマスのあいだ預かってくれる親切なおばさまやおじさまの家にいったのですが、アイビーのことはだれも招いてくれませんでした。「いいもん、あたしアップルトンのおばあちゃんのところにいくんだもん」と、アイビーはいいました。でも、ほんとうはアイビーにおばあちゃんなんていませんでした。

アイビーは「幼子の家」というところにいかされることになります。ところが途中、アップルトンの駅で、アイビーはスーツケースもなにも忘れたまま降りてしまいます──。

「人形の家」(岩波書店)などで高名なルーマー・ゴッデンと、「ルピナスさん」をえがいたバーバラ・クーニーによる読物絵本です。このあと、警官のジョーンズさんやその奥さんが登場し、物語は思いもかけないほうに進んでいきます。そして、「これは、ねがいごとのお話です」という冒頭の一文からはじまったように、願いごとはなにもかもかなって大団円をむかえます。その物語はこびの見事さにはほれぼれします。小学校高学年向き。