2013年6月30日日曜日

ことば















「ことば」(アン・ランド/作 ポール・ランド/作 長田弘/訳 ほるぷ出版 1994)

《ことばって 何だとおもう?
 かんがえていることを ちゃんと いいあわらすもの。
 それが ことば。
 わすれているものを はっきりと おもいだすもの。
 それが ことば。》

ことばは耳で聞くもの。目でみるもの。本や人形や椅子みたいに、物の名前もことば。鳥やイヌやクマみたいに、動物の名前もことば。感じたことを感じたとおりにいうのもことば。飛び上がる、走る、いっぱい楽しむ、君にできることをいいあわらすのもことば──。

ことばのもつ、さまざまな性質について紹介した絵本です。絵はシンプルでセンスに富んだコラージュ。文章もまた簡潔。話かけるような文章で、ことばのいろいろな面に触れています。知りたいとたずねることができるのもことば。長いことば。短いことば。、ゴロゴロとカミナリの音をあらわすのもことば。叫ぶのもことば、ささやくのもことば──。ことばという、不思議なものについての考察はまだまだ続きます。小学校低学年向き。

2013年6月27日木曜日

きょだいなきょだいな















「きょだいなきょだいな」(長谷川摂子/文 降矢なな/絵 福音館書店 1994)

《あったとさ あったとさ
 ひろい のっぱら どまんなか
 きょだいな ピアノが あったとさ

 こどもが 100にん やってきて
 ピアノの うえで おにごっこ
 ……》

野原に巨大なものがあらわれては、子どもたちがそれと触れあう――という絵本です。コラージュでえがれた絵は、巨大感がじつによくでています。また、100人の子どもたちのしぐさが細かく描き分けられているのも楽しいです。このあと、野原には、巨大なせっけんや、トイレットペーパーや、ビンや、泡だて器などが出現。ページーをめくるたびに、思いがけないものがあらわれます。お話会でもよくつかわれる一冊です。小学校低学年向き。

クマくんのふしぎなエンピツ















「クマくんのふしぎなエンピツ」(アンソニー・ブラウン/作 田村隆一/訳 評論社 1993)

ある日、ちびクマくんはお散歩にでかけました。そこに、2人のハンターがあらわれました。ハンターは、ちびクマくんを捕まえようと飛びかかりましたが、ちびクマくんがエンピツでひもを描くと、ハンターはそのひもに引っかかって転んでしまいました。

ハンターたちは、投げ縄や鉄砲や落とし穴など、さまざまな方法でちびクマくんを捕まえようとします。でも、ちびクマくんはそのたびに、描いたことが本当になるエンピツをつかって、危ういところを脱します。

描いたことが本当になるという、「はろるどとむらさきのくれよん」などと同趣向の絵本です。ちびクマくんは、さっと絵を描いて、ハンターたちの手から逃れます。絵は、デフォルメのきいた、イラスト風のもの。背景がやけにシュールです。黙もくと、でも鮮やかに危機を乗り越えていく、ちびクマくんの姿がなんともユーモラスです。小学校低学年向き。

本書は、「くまさんのおたすけえんぴつ」(さくまゆみこ/訳 BL出版 2012)のタイトルでも出版されています。冒頭の訳文をならべてみましょう。

「クマくんのふしぎなエンピツ」

《ある日 ちびクマくんは お散歩。
そこに 二人のハンター。
ちびクマくん 見つけられちゃった。
あぶなーい! ちびクマくん。
アッというまに ちびクマくん 白い紐を描きだす。
やった ちびクマくん!》

「くまさんのおたすけえんぴつ」

《あるひ、くまさんは さんぽに でかけました。
でも、かりを していた ハンターたちが
くまさんを みつけてしまいました。
あっ、たいへん! くまさん きをつけて!
くまさんは いそいで、まほうの えんぴつを つかいます。
やったね、くまさん!》

2013年6月25日火曜日

スイミー















「スイミー」(レオ・レオニ/作 谷川俊太郎/訳 好学社 1979)

広い海に、小さな魚の兄弟たちが暮らしていました。みんな赤いのに、スイミーという名前の1匹の魚だけが真っ黒でした。ある日、お腹をすかせた、おそろしいマグロがやってきました。マグロはひと口で赤い魚たちを一匹残らず飲みこんでしまい、逃げられたのはスイミーだけでした。

一匹だけになってしまったスイミーは、海の底をさまよいます。でも、海には素晴らしいものがたくさんあり、スイミーはだんだん元気をとりもどしていきます──。

本書は、「あおくんときいろちゃん」とともに、レオ・レオニの代表作。副題は「ちいさなかしこいさかなのはなし」。このあと、海のなかでさまざまなものをみたスイミーは、岩かげにいるスイミーそっくりの小さな赤い魚をみつけます。「でてこいよ。みんなで遊ぼう。面白いものがいっぱいだよ」と、スイミーは声をかけますが、「だめだよ。大きな魚に食べられてしまうよ」と、小さな赤い魚たちはこたえます。「でも、いつまでもそこにじっとしているわけにはいかないよ」と、スイミーは考えに考えて──。小学校低学年向き。

余談ですが、作中にでてくる「いせえび」は、原書では、「Lobster」。絵はもちろん、ロブスターとしてえがかれているので、文章とちぐはぐになっています。本書が出版された当時、ロブスターということばはまだ一般的ではなく、それで「いせえび」と訳したのかもしれません。

2013年6月24日月曜日

化石をみつけた少女















「化石をみつけた少女」(キャサリン・ブライトン/作 せなあいこ/訳 評論社 2001)

1810年、イギリスのドーセット州、ライム・リージスの海岸で、メアリーと弟のジョーは、きょうも母さんの店で売る“掘りだしもの”をさがしていました。父さんが亡くなってから、2人はこうして家を助けていました。ある日、嵐がきて、大きな波が窓を破って流れこみ、店の品物はみんな流されてしまいました。「大丈夫。ジョーとあたしで、またすぐにいいものをたくさんみつけてくるから」と、メアリーは母さんをなぐさめました。

店は、丘の上に住むアークライトさんが修理にきてくれることになります。メアリーとジョーは海岸にでかけ、崖で大きな化石をみつけます。2人で腕を伸ばして計ると、6メートルくらいあります。どうやったら、このワニみたいな化石を崖からとりだせるのか。メアリーはアークライトさんに足場を組んでもらうことにします──。

副題は「メアリー・アニング物語」。実在した、メアリー・アニングのエピソードをもとにした作品です。コマ割りされた、マンガ風の絵本で、絵は明快な水彩。メアリーは、なにごとにも動じない女の子としてえがかれています。さて、このあと、アークライトさんに足場を組んでもらったメアリーは、大きな化石を掘りだします。翌朝、店には化石をみにきたひとたちの長い行列ができています。メアリーとジョーは、ひとりにつき1ペニーを受けとり、ひさしぶりにあたたかい食事ができるだけのお金をもうけます。その夜、領主のヘンリー・ヘンレイ卿がやってきて、2人にこの化石はワニではないと告げます。「これは、科学者たちがイクチオサウルスと呼ぶ生きものの化石だよ。きみたちはすごい発見をしたんだ」──。カバー袖には、日本の子どもたちがみつけた化石についても記されています。小学校高学年向き。

さるとわに















「さるとわに」(ポール・ガルドン/作 きたむらよりはる/訳 2004)

森のなかを流れる川のほとりに、高いマンゴーの木が生えていました。この木には、たくさんのサルたちがすみついていました。川では、お腹がぺこぺこのワニたちが、泳いだり、ひなたぼっこをしたりしていました。ある日、だれよりもお腹をすかせた若いワニが、年をとったワニにいいました。「おれはサルをつかまえて、食べてやりたいと思ってるんだ!」「おまえは丘の上を歩きまわれないし、サルどもは水のなかにきやしない、そのうえ、あいつらはおまえよりもすばしっこいんだよ」と、年よりワニがいうと、若いワニはこたえました。「なるほど、すばっしっこいだろう。しかし、おれはずっとずっと利口なんだ。みててごらん!」

若いワニはいく日もかけて、サルたちの様子を調べあげ、だれよりもすばしっこい1匹のサルに目をつけます。ワニは、あれこれ考えたすえ、サルをつかまえる良い方法を思いつきます。

インドの寓話集、「ジャータカ物語」の1編をもとにした作品です。作者のポール・ガルトンは、「ねずみのとうさんアナトール」「ふくろのなかにはなにがある?」など、さまざまな絵本をえがいています。その作風は、物語をよくつたえる明快なもの。さて、このあと、ワニは果物がたくさん実っている島にいってみないかと、サルを誘います。「ぼくは泳げないんだよ」とサルはいいますが、おれの背中に乗っていけばいいと、ワニはこたえます。そして、サルはワニの背中に乗ってしまい──と、お話は続きます。サルが機転をきかせてワニを出し抜くさまが楽しい一冊です。小学校低学年向き。

まよいみち

「まよいみち」(安野光雅/作 福音館書店 1989)

たくさんの枝がついた木も、必ずどこかがつながっています。切れているところはありませんし、枝の先と先とがくっついてしまうこともありません。そして、2本の木からどんどん枝をだしていけば、どんなむずかしい迷い路でもつくることができます──。

本書は迷路についての絵本です。ただの迷路で遊ぶ絵本ではありません。さまざまな迷路を紹介し、考察をくわえています。考察は迷路から──やはり切れたところのない──ひと筆書きへ。「あやとりでつくったかたちは必ずひと筆書きができるはずです」。木の枝やあやとりといった身近なものから、迷路やひと筆書きを紹介する、その紹介の仕方が見事です。安野光雅さんの、綿密で明快な作風がよく味わえる一冊です。小学校低学年向き。

2013年6月19日水曜日

野うまになったむすめ















「野うまになったむすめ」(ポール・ゴーブル/作 じんぐうてるお/訳 ほるぷ出版 1980)

昔、バッファローを追って、あちこち移り住んでいるひとびとがいました。この村に、馬の大好きな娘がいました。娘は、馬の大好きな草を知っていましたし、冬の吹雪から馬を守ってやれる場所も知っていました。それに、馬がけがをすると手当てしてやりました。毎日、娘は水くみとたきぎあつめの手伝いを終えると、馬たちと一緒に、一日中草原ですごしました。

ある日、いつものように馬たちとともにいた娘は、毛布を広げて横になると、眠りこんでしまいます。そのうち、黒雲が広がり、稲妻が光り、落雷によって大地が揺れうごきます。娘は一頭の馬に飛び乗り、驚いた馬の群れは風のように走りだして――。

ネイティブ・アメリカンの世界をもとにした一冊です。絵は、素朴さを保ちながら様式化された、色鮮やかな水彩。さて、このあと、馬たちは走り続け、娘は見知らぬ場所にたどり着きます。いっぽう、村人たちは姿を消した娘と馬たちをさがしまわります。そして、1年がたち、村の2人の狩人は、美しい牡馬にひきいられた野馬のなかに、娘がいるのをみつけます。2人の狩人は急いで村に帰り、男たちは足の速い馬に乗って、野馬の群れを追いかけます。ですが、牡馬がぐるぐるまわってたたかうので、なかなか娘に近づけずません――。神話のような、美しい読物絵本です。物語の最後に、作者はこう記しています。「これは昔の話だ。しかし、いまでも馬とわたしたちが親戚だと思うと楽しい気持ちになってくる」。1979年度コールデコット賞受賞作。小学校中学年向き。

2013年6月18日火曜日

とってもいいひ















「とってもいいひ」(ケビン・ヘンクス/作 いしいむつみ/訳 BL出版 2008)

小鳥は羽根が抜けてしまいました。子イヌのひもは、庭の柵にからまってしまいました。子ギツネは、お母さんとはぐれてしまいました。それから、子リスのドングリは、池に落ちてしまいました。まっったく、なんて悪い日なんでしょう。

でも、そのあと、子リスは大きなドングリをみつけ、子ギツネが振り返るとちゃんとお母さんがいて、子イヌのひもも元通りになり――。

悪いことばかりかと思ったらそうではなかった――という絵本です。絵は、くっきりとした輪郭線でえがかれた水彩。作者のケビン・ヘンクスは、「オリーブの海」(代田亜香子/訳 白水社 2005)などの児童文学も書いています。このあと、お話には女の子が登場。きょうはとってもいい日よと、宣言するようにママにいって終ります。小学校低学年向き。

100ぴきのいぬ100のなまえ















「100ぴきのいぬ100のなまえ」(チンルン・リー/作 きたやまようこ/訳 フレーベル館 2002)

ここは、わたしとイヌたちの家です。最初、1匹だったイヌは、いまでは100匹になりました。可愛いうちの子を紹介しましょう。

最初の子は〈もわもわ〉。それから、〈ジンジャー〉と、〈ババロワ〉。これで3匹。それから、〈マンマ〉と、4匹の子どもたち。〈マフィン〉〈マシュマロ〉〈マロン〉〈マコロン〉。これで8匹。それから――。

タイトル通り、100匹のイヌが登場する絵本です。絵は、色鉛筆と水彩でえがかれた軽みのあるもの。作者のチンルン・リーは台湾のひとです。さて、100匹のイヌと暮らすのが夢だった〈わたし〉によるイヌの紹介は、まだまだ続きます。〈そっと〉〈さっぱり〉〈きっちり〉〈ぺったん〉〈うっかり〉〈ぼんやり〉〈しらたま〉〈ちゃんと〉〈なっとく〉〈どっこい〉。これでもまだ18匹。食事のお皿は全部で100枚。ブラッシングは毎日1匹10回するから、合計1000回。100匹のイヌと遊ぶときは大騒ぎ。じつににぎやかな一冊です。小学校低学年向き。

2013年6月15日土曜日

きたかぜとたいよう















「きたかぜとたいよう」(ラ・フォンテーヌ/文 ブライアン・ワイルドスミス/絵 わたなべしげお/訳 らくだ出版)

ある朝、北風と太陽はウマに乗った旅人をみかけました。旅人は、新しいコートを着ていました。「わしがその気になれば、あのコートを脱がせることくらいたやすいことだ」と、北風がいいました。「きみにはできないと思うがね」と、太陽がいいました。

北風はびゅーびゅーと風を吹きつけて、ひとびとの帽子を吹き飛ばし、動物たちを怖がらせ、港の船を沈めます。でも、旅人はコートを脱ぐどころか、風に飛ばされないように、前をしっかりあわせてしまいます。

ラ・フォンティーヌの寓話をもとにした絵本です。ブランアン・ワイルドスミスは「おかねもちとくつやさん」などさまざまな作品を手がけています。その作風は、大胆で、にぎやかな色づかいが特徴。本書では、北風と太陽を力強く擬人化しているのが印象的です。さて、このあとのお話はご存知の通り。太陽が明るく輝き、花が開き、チョウが舞って――。バーナデットの「きたかぜとたいよう」と読みくらべるのも面白いでしょう。小学校低学年向き。

2013年6月13日木曜日

ねむりひめ















「ねむりひめ」(グリム兄弟/原作 フェリクス・ホフマン/絵 せたていじ/訳 福音館書店 1978)

昔、ある国に王様とお妃がおりました。2人はいつまでたっても子どもができませんでした。ところが、あるときお妃が水浴びをしていると、1匹のカエルがあらわれていいました。「あなたの望みは必ずかなう。1年たたないうちに娘ごが生まれますぞ」

カエルのことば通り、お妃は女の子を生みます。その子があまりに可愛いので、王様はじっとしていられません。宴会を開き、そこに運をさずけてくれるという占い女たちも呼ぶことにします。ですが、金の皿がたりなかったため、国に13人いる占い女のうち、ひとりは招待しないことにします──。

よく知られたグリム童話「ねむりひめ」をもとにした絵本です。「ねむりひめ」の絵本は数多くありますが、もっとも知られていているのは、ホフマンのえがいたこの本でしょう。さて、このあと、招待されなかた占い女が宴会にあらわれて、「姫は15歳になったらつむに刺されて倒れて死ぬぞ!」と、呪いのことばを吐いて去っていきます。ほかの占い女も、その呪いを消すことはできません。ですが、「100年のあいだ眠ってしまわれる」ほどに、軽くすることはできました。そして、王様は国中のつむを焼くよう命じるのですが、15歳になった姫はある日、城の古い塔のなかで、麻糸をつむいでいるおばあさんに出会い、そのつむを手にし、とたん城中が眠りに落ちて──。小学校低学年向き。

余談ですが、表紙の王様は大きな手で姫を抱いています。姫も父親に抱かれて安心しきっているようです。本書を評した文章には、姫を抱く王様の大きな手が、王様の愛情を強く感じさせる──としばしば語られています。

2013年6月12日水曜日

機関車トーマス














「機関車トーマス」(ウィルバート・オードリー/作 レジナルド・ダルビー/絵 桑原三郎/訳 清水周裕/訳 ポプラ社 2005)

トーマスは、6つの車輪と、ずっぐりむっくりのドームをつけた小さな機関車でした。遠くへいく大きな機関車のために、客車をそろえたり、お客の降りた空っぽの客車を引っ張ったりするのが、トーマスの仕事でした。いたずら好きのトーマスは、よくはたらくのは自分だけだと思っていたので、待避線で居眠りしている大きな機関車に会うと、そっと近づいては、「ピーピーピー、ピッピー。怠け者、起きろ」と、びっくりさせて喜びました。

さて、ある朝、釜の火が消えてしまって、思うように蒸気の上がらないトーマスは、あくびをしながら客車をつないで駅に引っ張っていきます。もう出発の時刻がきているので、大きな機関車のゴードンは、大急ぎで客車をつなぎ、駅を出発します。ところが、あわてていたゴードンはトーマスを切りはなすのを忘れていて――。

「汽車のえほん」シリーズの一冊です。「機関車トーマス」シリーズといったほうが通りがいいまもしれません。文章を読むのがまだおぼつかない子(特に男の子)も、一所懸命見入っている姿をよくみかけます。

本書はシリーズ2巻目。カバー袖の文章によれば、1943年、病気になった息子のクリフォードのために、牧師のウィルバート・オードリーが、機関車のお話をつくって聞かせたのがそのはじまりとのことです。本書には、「トーマスとゴードン」「トーマスの列車」「トーマスと貨車」「トーマスときゅうえん列車」の4つのお話が収録されています。細部までよくえがかれた絵と、お調子者で失敗ばかりするトーマスの活躍が楽しい一冊です。幼児向き。

2013年6月11日火曜日

7日だけのローリー















「7日だけのローリー」(片山健/作 学研マーケティング 2007)

ある朝、家の前にみたことのないイヌがいました。お父さんとぼくは、だれかこのイヌを知っているひとがいないか、イヌを連れて家の周りをまわってみました。でも、知っているひとはいませんでした。

〈ぼく〉のうちで一週間、イヌの世話をすることになります。一週間たっても飼い主があらわれなければ、保健所に連れていきます。イヌは、通るひとにみえるように、うちの前にある空き家の軒下を借りて、そこにつないでおきます。近所のひとたちが、インターネットで知らせたり、ポスターをつくってあちこちに貼ったりしてくれます――。

7日間だけ迷子イヌの世話をすることになった男の子のお話です。片山健さんは、「タンゲくん」「むぎばたけ」などをえがいたひと。にじみを生かした、それでいてにごりのない、にぎやかな水彩をえがきます。さて、イヌの世話をはじめて3日目、〈ぼく〉は散歩の途中、女のひとにイヌの名前を訊かれて黙ってしまいます。そこで、お母さんと相談し、ローリーという、お母さんの好きな歌手の名前を内緒でつけることにします。でも、4日たっても、5日たっても飼い主はあらわれず――と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年6月10日月曜日

しあわせハンス















「しあわせハンス」(グリム/原作 フェリクス・ホフマン/絵 せたていじ/訳 福音館書店 1978)

奉公して7年がたったハンスは、主人にお給金として金のかたまりをひとつもらい、自分の家をめざして旅にでました。すると、馬に乗った男に出会いました。馬に乗れば道がはかどると思ったハンスは、金のかたまりと交換し、馬を手に入れました。

馬に乗ったハンスは、最初こそ幸せいっぱいでしたが、いざ馬を走らせようとすると、道に投げだされてしまいます。ちょうどそこへ、牝ウシを引いた農夫がやってきて――。

グリム童話をもとにした絵本です。作者のホフマンは、「おおかみと七ひきのこやぎ」など、数かずの傑作をえがいています。本書では、ハンスの旅は、左から右に進んでいき、出会ったひとびとは背を向けて、舞台から退場していきます。背景はなく、文章はページ下に、字幕のように一列にならんでいて、物語をにごらせることなく、じつに巧みにみせています。瀬田貞二さんの訳はリズミカル。《しゅじんがこたえていうことに、「よくやってくれたからにゃ、たんまりやらねばなるまいよ」》――という具合です。さて、このあとハンスは、牝ウシをブタと、ブタをガチョウと、ガチョウを砥石と交換します。わらしべ長者の逆をゆくような、愉快な一冊です。小学校低学年向き。

2013年6月9日日曜日

かもさんおとおり















「かもさんおとおり」(ロバート・マックロスキー/作 わたなべしげお/訳 福音館書店 1980)

カモのマラードさんと、マラード奥さんは、巣をつくる場所をさがしていました。ボストンの公園の池でひと晩休んだあと、議事堂の上を飛び、ルイスバーグ広場を越えて、チャールズ川の中州に降りました。マラードさんと奥さんは、ここに巣をつくることに決めました。

マラードさんと奥さんの羽根は生え変わり、飛ぶことができなくなります。でも、泳ぐことはできるので、川岸の公園までいき、派出所のおまわりさんからピーナツをもらいます。そのうち、奥さんは8つのタマゴを生み、8羽のヒナ生まれます──。

「すばらしいとき」「サリーのこけももつみ」で知られる、ロバート・マックロスキーの代表作。すでに古典となった一冊です。白黒の2色でえがかれた絵は、素晴らしく生き生きしています。このあと、マラードさんは、1週間後、奥さんや子どもたちと公園の池で落ちあうことにして、川の様子をしらべにでかけていきます。奥さんは、子どもたちにもぐりかたや泳ぎかた、一列にならんで歩くことなどを教え、いよいよ子どもたちを連れて公園に向かいます。おまわりさんの助けを借りながら、奥さんと8羽のヒナたちは一列にならび、道路を渡り、街角を進んでいきます。小学校低学年向き。

1ねんに365のたんじょう日プレゼントをもらったベンジャミンのおはなし















「1ねんに365のたんじょう日プレゼントをもらったベンジャミンのおはなし」(ジュディ=バレット/文 ロン=バレット/絵 まつおかきょうこ/訳 偕成社 1980)

きょう、4月6日はベンジャミンの誕生日です。9歳になったベンジャミンのために、パーティーが開かれました。パーティーが終わり、みんなが帰ったあと、ベンジャミンは、プレゼントの包みを開けるときどんなに楽しかったかを思いだしながら椅子にすわっていました。でも、もうすぐ誕生日が終わり、次の誕生日が365日たたないとやってこないことを考えると悲しくなりました。

ベンジャミンは、プレゼントにもらった鳥かごを、もう一度包み直します。そして次の日の朝、新しいプレゼントをもらったように包みを開きます──。

自分に毎日プレゼントを贈ったベンジャミンのお話です。絵は、線画に少しだけ色を置いた味わいのあるもの。さて、プレゼントにもらったものを全部包み直し、開け直してしまったベンジャミンは、こんどは家のなかのものを包んで自分にプレゼントすることにします。最初に包んだのは、ズボンつり。翌朝包みを開けると、ズボンつりが前よりもっと素敵に思えます。それから、枕や電灯やカーテンや椅子やテレビを包んでいき──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年6月5日水曜日

バラライカねずみのトラブロフ















「バラライカねずみのトラブロフ」(ジョン・バーニンガム/作 せたていじ/訳 童話館出版 1998)

トラブロフは、ある宿屋で生まれました。宿屋には、夜ごと楽士たちがきました。楽士たちはジプシーで、田舎をめぐり歩き、演奏をしてお礼をもらっていました。トラブロフはいつも、じっと腰をおろして、音楽に聴きほれ、ときには寝に帰ることを忘れることもありました。ある晩、トラブロフは、大工ネズミのナバコフじいさんに呼ばれ、どうしてそんなに音楽ばかり聴いているのかとたずねられました。「好きでたまらないからです」とこたえると、ナバコフじいさんはバラライカをつくってくれました──。

さて、バラライカをつくってもらったトラブロフでしたが、弾くのはなかなか簡単でないことがわかります。たまたま知りあったジプシーじいさんが、今晩ここを去るというので、トラブロフは家族に内緒でジプシーたちのそりに忍びこみ、旅にでようと決心します──。

バラライカは、200年ほど前にできた、ギターによく似たロシアの楽器です。作者のジョン・バーニンガムは、「ガンビーさんのドライブ」などの作者として高名。初期の作風である濃厚さをもつ本書は、雪深い田舎の感じがよくでています。このあと、トラブロフは、ジプシーじいさんから熱心にバラライカの弾きかたを教わります。いっぽう、トラブロフのお母さんは、トラブロフがいなくなったため、心配のあまり病気になってしまいます。そこで、トラブロフの妹が兄をさがしにでかけて──と、お話は続きます。小学校低学年向き。

2013年6月4日火曜日

ぼくねむくないよ















「ぼくねむくないよ」(アストリッド・リンドグレーン/文 イロン・ヴィークランド/絵 ヤンソン由実子/訳 岩波書店 1990)

ラッセは絶対に寝たくない、5歳の男の子でした。お母さんが、「もう寝る時間よ」というと、ラッセは「あとちょっとだけ」といいました。そして、台所のテーブルからちょっとだけ4回飛び降りたり、くつ下の穴に指を入れて、もっと大きくならないかとのぞいたりしました。

しまいに、お母さんはこの「ちょっとだけ」がまんできなくなり、ラッセをつかまえて、服を脱がせ、ベッドに入れてしまいます。そのあいだ中、ラッセは「ぼく眠くないよ!」と叫び続けます──。

「長くつ下のピッピ」などで高名なリンドグレーンの文章による絵本です。絵は、親しみやすい水彩。さて、ラッセのすぐ上の階には、ロッテンおばあさんというひとが住んでいました。ラッセがロッテンおばあさんのうちに遊びにいったある晩、おばあさんはラッセに「このメガネをかけてみたいかい?」とたずねます。ロッテンおばあさんのメガネは、世界一ふしぎなメガネで、これをかけたラッセは、森のなかに暮らす、クマやウサギや小鳥やネズミの子どもたちの、夜眠るところを目にします。お話はちょっと長めですが、読みやすい読物絵本です。小学校低学年向き。

2013年6月3日月曜日

ぶんぶんぶるるん















「ぶんぶんぶるるん」(バイロン・バートン/作 てじまゆうすけ/訳 ほるぷ出版 1975)

ぶんぶんぶるるんと、ミツバチが飛んできて、牡ウシをちくりと刺しました。牡ウシは跳ねまわり、おかげで牝ウシはご機嫌ななめ。ミルクしぼりのおばさんを、ミルクと一緒に蹴飛ばしました。

蹴飛ばされたおばさんは、怒っておじさんに八つ当たり。いらいらしたおじさんは、ラバのお尻をひっぱたき、ラバはヤギの家を蹴りこわして──。

どんどん話がつながっていく絵本です。絵は、黒い描線にはっきりした色がつけられた、遠目のきくもの。このあと、ヤギ、イヌ、ガチョウ、ネコ、小鳥と続き、最後にまたミツバチにもどります。みんなの不満がどんどんつながっていくさまをえがいた、ユーモラスな一冊です。小学校低学年向き。