2012年9月28日金曜日

八郎












「八郎」(斎藤隆介/文 滝平二郎/絵 福音館書店 1980)

昔、秋田の国に八郎という山男がすんでいました。八郎の腕や肩や胸はあんまり大きくて、見ている者は、つい気持ちよくなってしまいました。八郎は、まだまだ大きくなりたくて、山から浜へでかけていっては、海にむかって叫びました。八郎が駆け出すと、八郎の頭に巣をつくっているヒワやムクやヤマガラが、八郎の頭のまわりを飛びまわり、それはきれいなながめでした。

ある日、八郎は海をみて泣いている子どもに出会います。毎年毎年、海が荒れると塩水をかぶって、お父の田んぼがだめになってしまうと、子どもは八郎に訴えます。そこで、八郎は山をもちあげ、浜まではこび、やあーっと海に放り投げます──。

「花さき山」にゲスト出演している、八郎の絵本です。全編白黒の、大変力感に富んだ絵は、おそらく版画でえがかれたもの。文章は民話風のもので、冒頭はこんな風です。

《むかしな、秋田のくにに、八郎って山男が住んでいたっけもの。八郎はな、山男だっけから、せぇがたあいして高かったけもの。んだ、ちょうどあら、あのかしの木な、あのぐらいもあったべせ。》

このあと、田んぼを呑みこもうとやってきた大波を、八郎は身を挺してふせぎます。絵も文章も、じつに力強い一冊です。小学校中学年向き。

花さき山












「花さき山」(斎藤隆介/文 滝平二郎/絵 岩崎書店 1969)

あやは、祭りのごちそうの山菜をとりに、山に入りました。奥へ奥へといくうちに、道に迷い、不思議な花が咲く場所にやってきました。すると、山んばがあらわれて、花の由来を語りはじめました──。

この花は、ふもとの村の人間がやさしいことをすると、ひとつ咲く。あや、きのうおまえは、妹のそよが祭りの赤いべべを買ってくれと泣いて、おっ母を困らせたとき、「おらはいらねえから、そよさ買ってやれ」といったべ。おまえの足元に咲いている赤い花、それはおまえがきのう咲かせた花だ──。

絵は、おそらく版画。絵本にはめずらしく、黒を一面につかっており、それが神秘的な印象をだしています。文章は、山んばによる1人称の、民話風のもの。このあと、あやが山から下りると、紙面は白くなり、語り口は3人称に変わります。あやは、もう一度花さき山にいこうとするのですが、しかし山はみつかりません。でも、花さき山の花は、あやの胸に宿ります。初版は1969年、手元の2007年刊行の本は132刷。ロングセラーを続ける創作民話絵本です。小学校低学年向き。

2012年9月27日木曜日

リンゴのたび










「「リンゴのたび」(デボラ・ホプキンソン/作 ナンシー・カーペンター/絵 藤本朝巳/訳 小峰書店 2012)

父さんは、リンゴの木を育てるのが大好きでした。だから、住みなれたアイオワをはなれて、オレゴンにいくことがきまったとき、リンゴの木を置き去りにしていくことなんて、とてもできませんんでした。父さんは、とてつもなく大きな箱をこしらえると、その箱を頑丈な馬車にきっちりとはめこみました。そして、そこに肥えた土を入れ、くだものの苗木を植えました。

父さんと、その家族は、苗木を積んだ馬車を牛に引かせ、一路オレゴンへと旅立ちます。途中、イカダでプラット川を渡ろうとして、あやうく苗木を落としそうになったり、ようやく川を渡り切ったと思ったら、大風が吹いて、苗木を吹き飛ばされそうになったりしながら、家族は力をあわせて、西へ西へと向かいます──。

副題は「父さんとわたしたちがオレゴンにはこんだリンゴのはなし」。絵は、のびやかな水彩。物語は、娘のデリシャスの1人称で陽気に語られます。「父さんは、だれもやったことのないような、くだものの大ぼうけんをやらかそうっていうわけ」。このあとも、しっかり者のデリシャスは、大風で飛んでいってしまった品じなをみつけたり、草原で「じんじんこうらすぞう」とたたかったり、よく家族とリンゴを守ります。デリシャスの活躍が楽しい、痛快な1冊です。小学校中学年向き。

2012年9月26日水曜日

おじさんのかさ












「おじさんのかさ」(佐野洋子/作 講談社 1992)

おじいさんは、とても立派なカサをもっていました。でかけるときは、いつももち歩きました。カサが濡れるので、少しくらいの雨は濡れたまま歩きました。たくさん雨が降ると、雨宿りして、雨がやむのを待ちました。

おじさんは、雨のなかを急ぐときは、カサが濡れないようにしっかり抱いて走ります。雨がやまないときは、知らないひとのカサに入れてもらいます。そんなおじさんでしたが、ある日、公園で休んでいると雨が降ってきて──。

絵は、全体に青っぽい水彩です。このあと、男の子がカサに入れてと、おじさんのところにやってくるのですが、おじさんは聞こえないふりをします。すると、男の子は友だちの、女の子のカサに入れてもらい、2人は「あめが ふったら ポンポロロン あめが ふったら ピッチャンチャン」と、うたいながら帰っていきます。それをみていたおじさんは、「あめが ふったら ポンポロロン。──ほんとかなあ」と、カサをさす決心をします。おじさんの、子どもでも可笑しくなるような、子どもっぽい振る舞いが、とても楽しい一冊です。小学校低学年向き。

2012年9月24日月曜日

マウルスと三びきのヤギ










「マウルスと三びきのヤギ」(アロワ・カリジェ/作 大塚勇三/訳 岩波書店 1975)

夏のあいだだけ、シチューナさんの家に泊まっているヤギ飼いのマウルスは、毎朝、村のヤギたちをあずかって、山の牧場に連れていきました。シチューナさんの飼っているシロ、アカ、チビの3匹のヤギたちは、マウルスのお気に入りでした。なかでもチビが特別好きで、特別すてきな鈴を首にぶら下げてやりました。その鈴は、本当に澄み切った音で鳴りひびき、チリンチリン!と鳴る音は、ずっと遠くまで聞こえました。

さて、きょうもマウルスは村のヤギをあつめて、山の牧場に連れていきます。しばらくして、ヤギの数をかぞえると、シロ、アカ、チビの3匹がいなくなっています。マウルスは、イヌのチロを連れて3匹をさがしにいくのですが──。

「ウルスリのすず」などで高名な、スイスの絵本作家カリジェによる絵本です。右ページにタテ書きの文章、左ページに絵という構成で、絵は水彩でえがかれています。このあと、雨が降りだした山を、マウルスは3匹をさがして駆けまわります。マウルスがぶじ家に帰り、ベッドに入って夢をみるまで、しっかりとした語り口でえがかれている傑作読物絵本です。小学校中学年向き。

2012年9月22日土曜日

ティリーのねがい












「ティリーのねがい」(フェイス・ジェイクス/作 小林いづみ/訳 こぐま社)

あるところに、人形の家がありました。人形の家には木の人形の家族が住んでいました。下の台所では、料理番が食事のしたくをしながら、メイドのティリーに用事をいいつけていました。ティリーは毎朝5時に起きて、かまどをきれいにし、火をおこさなくてはいけませんでした。一日中はいたり、拭いたり、磨いたり、こすったりして、そのあいだ、料理番は小言をいったり、怒鳴ったり、命令したりしていました。

あるとき、ティリーは、料理番に一日中あれこれ指図されるのはもううんざりと思います。そして、編みものと裁縫道具をカバンに入れ、カサをもち、人形の家をあとにします──。

ページの上部に絵があり、下部に文章があるという構成です。絵は、細部がていねいにえがかれたもの。このあと、人形を家をでたティリーは、自分の家になりそうな場所をさがしにいきます。途中出会った、クマのぬいぐるみのエドワードの協力を得て、温室に置かれた箱をみつけ、そこをきれいな家につくりかえます。負けん気が強く、格言好きのティリーが、細ごましたものをつかって家をととのえていくさまがじつに楽しくえがかれています。小学校中学年向き。

2012年9月20日木曜日

ノミちゃんのすてきなペット












「ノミちゃんのすてきなペット」(ルイス・スロボドキン/作 三原泉/訳 偕成社 2011)

ノミちゃんはトラが大好きです。クマもライオンもゾウも、困った顔のハイエナも大好きです。シマウマもカンガルーも、牧場のウマもヒツジもウシもみーんな大好きです。

ある日、ノミちゃんはママに、「うちに動物がいたらいいなって思うの。お願い! 一匹飼ってもいい?」といいました。「いいわよ」とママはいいました。「でも、うちはあんまり広くないでしょ。どんな動物がいいか、よく考えてね」

「たくさんのお月さま」などで高名な、ルイス・スロボドキンによる作品です。絵は、さっとえがかれた線に、水彩で色づけしたもの。大きくとった余白が魅力的です。このあと、ノミちゃんは、クマがいい、トラがいい、ラクダがいいといいますが、もちろんママは困ります。「もっと小さくて飼いやすい動物はないかしら」と、ママがいうと、ノミちゃんは考えに考えて――。大きい動物ばかり思いつくノミちゃんですが、最後、納得のいく結末が待っています。小学校低学年向き。

2012年9月19日水曜日

せみとりめいじん












「せみとりめいじん」(かみやしん/作 奥本大三郎/監修 福音館書店 2001)

まだセミをとったことのない、てっちゃんは、セミとり名人のごんちゃんに、セミのとりかたを教えてもらいました。「セミとり網は小さくて、獲物がつるんと入らなくちゃだめなんだ」「そんなのどこで売ってるの」「なにいってるんだ。自分でつくるんだよ。ビニール袋でね」

桜の木は樹液が甘くて、セミは大好きなんだ。セミは目がいい。網は低くもって近づく。そして、あちこち振り回さない。もし途中でセミが鳴きやんだら、そのままうごくな。次に鳴きはじめるまでちょっと待て──。

タイトル通り、セミとりについてえがかれた一冊です。絵は、おそらく色鉛筆と水彩でえがかれたもの。「網は少し上のほうからセミの頭にかぶせるようにするのがこつ」「網に入って鳴き騒ぐオスは、早く静かにさせよう。仲間が警戒するから羽をつかんで落ち着かせるんだ」といった、ごんちゃんのアドバイスは非常に具体的。はたして、てっちゃんはセミをとることができるでしょうか…。巻末に載せられた、「セミを採ろう」という奥本大三郎さんの文章も味わいがあります。小学校低学年向き。

どこへいってた















「どこへいってた」(マーガレット・ワイズ・ブラウン/文 バーバラ・クーニー/絵 うちだりさこ/訳 童話館出版 1996)

《ねこ ねこ
 どこへ いってた?
 あっち きょろきょろ
 こっち きょろきょろ
 ぶらぶらしてた

 りす りす
 どこへ いってた?
 くるっくるっ
 ぐるっぐるっ
 おどってた》

マーガレット・ワイズ・ブラウンは「おやすみなさいおつきさま」の作者として、バーバラ・クーニーは「ルピナスさん」の作者として、大変高名です。絵は、白と黒と赤の3色のみですが、3色とは思えないほどの表現力をみせています。このあとはくり返し。「さかな さかな どこで およぐ?」「ことり ことり どこを とぶ?」…。最後、カラスがみごとにお話をしめくくります。小学校低学年向き。

2012年9月15日土曜日

とべ!ちいさいプロペラき









「とべ!ちいさいプロペラき」(小風さち文 山本忠敬/絵 福音館書店 2000)

ある飛行場の格納庫に、はじめて空に飛び立つ日を待つ小さなプロペラ機がいました。ある日のこと、格納庫のドアがいっぱいに開き、遠い外国からたくさんのお客さんを乗せてきた、大きなジェット機が入ってきました。「みてみろよ、あのでっかいエンジンを。おまえがテントウムシにみえちまうな」と、パイロットのおじさんがいうと、プロペラ機は恥ずかしくてたまらなくなりました。

夜、プロペラ機とジェット機は話をします。「あなたはなんて堂どうとしているんでしょう」と、プロペラ機がいうと、ジェット機はこういいます。「元気をおだし、プロペラ君。広い空では、ぼくらの大きさのことなど忘れてしまうよ」

乗りもの絵本の第一人者、山本忠敬さんによる絵本です。「のろまなローラー」はデザイン風にえがかれていましたが、本書はより写実風にえがかれています。それでも、必要なことだけをえがき、画面がぜんたいに澄んでいる作風は変わりません。このあと、ジェット機が飛んでいったあと、いよいよプロペラ機が飛び立ちます。プロペラ機が離陸する場面が、思わず手に汗を握ります。小学校低学年向き。

2012年9月13日木曜日

のろまなローラー









「のろまなローラー」(小出正吾/作 山本忠敬/絵 福音館書店 1979)

ローラーが重い車がうごかしながら、道をいったりきたりしていました。すると、後ろからトラックがやってきて、「じゃまだよ、じゃまだよ。どいたり、どいたり」といって、ローラーを追いこしていきました。

立派な自動車や、小型の自動車も、のろまなローラーを馬鹿にしながら追いこしていくのですが──。

名高い乗りもの絵本です。絵は、背景はピンクの線画。乗りものは、カラーでデザイン的にえがかれています。このあと、ローラーがでこぼこの坂道をのぼっていくと、さっき追いこしていったトラックが、パンクして停まっています。立派な自動車も、小型の自動車もパンクをしていて、ローラーは、「それはなんともお気の毒」と声をかけて通りすぎます。しばらくすると、パンクの直った自動車たちに、ローラーはまた追いこされるのですが、そのとき自動車たちがローラーにかける言葉は、もう馬鹿にした調子ではありません。自分の職務にはげむローラーが印象的な一冊です。小学校低学年向き。

2012年9月12日水曜日

しまうまのしゃっくり










「しまうまのしゃっくり」(デーヴィッド・マッキー/作 矢川澄子/訳 徳間書店 1995)

真面目で、ふざけたことのきらいなシマウマのゼブ君は、動物たちに遊びに誘われても、めったに仲間入りしませんでした。ところが、ある日、しゃっくりが止まらなくなってしまいました。ゼブ君は、「散歩でもしよう。そのうち止まるさ」と散歩にでかけました。

動物たちはゼブ君に、「息をとめて、目をつむって、あいうえおをおしまいからいうんだ」とか、「ひざのあいだに首を突っこんで、お水をコップ1杯反対側から飲むのよ」など、いろんなしゃっくりの止めかたを教えます。

「ぞうのエルマー」シリーズで有名な、デビッド・マッキーによる絵本です。絵は、厚塗りの水彩で、ところどころコラージュの手法もつかっているようです。。このあと、しゃっくりのためにシマが片寄り、パンダみたいな姿になってしまったゼブ君は、動物たちの提案をひとつひとつ実践してみることにします。やっているうちに、ゼブ君はだんだん可笑しくなってきて…とお話は続きます。しゃっくりのためにシマが片寄ってしまったという、秀逸なアイデアの一冊です。小学校低学年向き。

2012年9月11日火曜日

おにのここづな








「おにのここづな」(さねとうあきら/文 かたやまけん/絵 教育画劇 2000)

昔、あるところに、うめという美しい娘がいました。あるとき、たきぎ拾いにでたきり、うちにもどらなかったので、「おらあ、うめがみつかるまでもどらねえから」と、お父は山に入っていきました。それから、長いあいだ山のなかをさがし歩き、とうとう海がみえるあたりまできたとき、川のほとりに見覚えのある着物が干してあるのに気がつきました。ものかげにかくれて様子をみていると、岩屋の奥からひとりの女がでてきました。

女はうめで、お父はたまらず飛び出します。うめは、大鬼にさらわれてここに連れてこられたといいます。岩屋には、うめの息子のこづながいて、「もうじき父ちゃんの大鬼がもどってくる。声をだすと食われちまうから静かにしてろ」と、おじいを大きな長持ちのなかにかくします──。

「日本の民話絵本」シリーズの一冊です。絵は、色づかいの美しい、水気の多い水彩。このあと、大鬼が帰ってきて「人間くせえ」といいだします。「おらに赤ん坊ができただけだ」と、うめがウソをつくと、大鬼は、それはめでたいといって仲間をあつめ、宴会をはじめます。そのあいだ、こづなは長持ちの上にすわって、おじいを守り通します。そして、宴会が終わったあと、3人は海から船で逃げだそうとするのですが…とお話は続きます。笑話めいた場面があったり、最後は蚊の由来譚となったりと、内容は盛りだくさん。賢くて勇気のあるこづなが印象的な一冊です。小学校低学年向き。

わたしのて










「わたしのて」(ジーン・ホルゼンターラー/文 ナンシー・タフリ/絵 はるみこうへい/訳 童話館出版 2002)

わたしには2本の手があります。わたしの手はこんなことができます。ボタンをとめる、ファスナーをしめる、ひもを結ぶ──。わたしの手はブラシやクシをもったり、手を鳴らしたり、音楽をかなでたりできます。

手はいろんなことができる、ということを絵本にした作品です。絵は、線画に一律に色が塗られたシンプルなもの。さまざまな手の表情が、アップで、じつに実感をこめてえがかれています。まだまだ手は、絵を描いたり、ハサミで紙を切ったり、のりで貼ったりと、いろんなことができます。手というテーマに真正面からとり組んだ、みごとな一冊です。小学校低学年向き。

2012年9月8日土曜日

きつねのよめとり









「きつねのよめとり」(大友康夫/作 福音館書店 1990)

昔、あるところに、おっ母と娘が暮らしていました。娘は器量よしで、長い髪をなにより自慢にしていました。ある晩、ニワトリが騒ぐので、おっ母にいわれて娘が駆けつけると、鳥小屋の前にじさまギツネがいました。「この古ギツネ、いだましい(かわいい)ととこを1羽でもとってみろ。ただではすませねえぞ」と、娘がにらみつけると、じさまギツネは娘をじろじろみて、「こいや、めんごい娘よ。おらの尻尾さ乗っておら家さきたら、きれいなべべさやっから」といいました。

娘は、「だれがおまえなんかといくか!」とこたえますが、次の日も、その次の日もじさまギツネはやってきます。娘がじさまギツネの尻尾に乗ると、じさまギツネはまたたくまに3つの山と3つの谷をこえ、キツネのうちにたどり着きます──。

絵は、おそらく厚塗りの水彩。ほとんど夜の場面なのですが、雪の夜の感じがよくでています。さて、家に帰ったじさまギツネは、さっそくばさまギツネと一緒に、娘に花嫁衣装を着せ、うちの嫁にぴったりだといいだします。娘が怖くなって泣いていると、一匹のネズミがやってきて、「おまえが一番大事にしているものを、おらさくれたら、キツネの嫁にならねえですむやりかたを教えてやるべ」といいだして…と、お話は続きます。裏表紙に、娘がニワトリにエサをあげている絵が描かれているのがうれしいところです。小学校低学年向き。

2012年9月6日木曜日

ぶらぶらたろすけ










「ぶらぶらたろすけ」(いいじまとしこ/文 たしませいぞう/絵 ひかりのくに 1994)

昔、ある村に、たろすけという若者が住んでいました。たいそう怠け者で、生まれてから一度もはたらいたことがなく、毎日ぶらりくらりと遊んでいました。あるとき、たろすけがまたぶらぶらしていると、「もしもし、たろすけどん」と声をかけられました。みると、道ばたに小さなつぼが転がっており、なかに小さい男がいました。

小さい男は小さい声で、「わしはおまえさんのように、よう遊ぶ怠けもんが大好きじゃ。どうか、おまえさんの家に連れていってくれまいか」といいます。そこで、たろすけは、つぼをもって家に帰るのですが──。

日本の昔話をもとにした絵本です。絵は、おそらく水彩の厚塗り。太い描線でえがかれた、元気のよい筆づかいが魅力です。文章は、昔話風のことばづかいで書かれたタテ書きのもの。巻末に、田島征三さんによるあとがきと、二反長半(にたんおさなかば)さんによる解説がついています。さて、このあと、たろすけが外で遊んでから帰ると、見知らぬ男が寝ています。よくみると、つぼにいたあの小さい男です。たろすけが遊ぶと、男のからだはそれだけ大きくなるのです。それでも、たろすけが遊んでいると、男はとうとう家いっぱいに大きくなって…と、お話は続きます。教訓話なのですが、話が奇想天外なため、じつに愉快な一冊になっています。小学校中学年向き。

くずのはやまのきつね









「くずのはやまのきつね」(大友康夫/文 西村繁男/絵 福音館書店 2009)

昔、葛の葉山のふもとに、小さな村がありました。あるとき、何年もコメがとれないことがあり、村びとたちはコメの代わりにアワやヒエを、それもなくなると草や木の根を食べていました。村には、たみぞうとごさくという兄弟がいて、寝たきりのじいさまが「昔は、葛の葉山のキツネが嫁入りをする年は、コメがいっぱいとれたもんだが」といったので、2人は、嫁入りを頼もうと、毎日キツネをさがしに山に入りました。

さて、山に入ったたみぞうとごさくは、ある夜、とうとうキツネに出会います。キツネたちは集会をしていて、年寄りキツネが「来年の秋に、わしの孫娘が嫁入りすることになった。いまからしたくにとりかかってくれ」というのを耳にします。2人はさっそく村の大人たちにそれを知らせるのですが、「こんなに遅くまでほっつき歩いて」と、大人たちに怒られてしまいます──。

絵は情景がよくえがかれた水彩。このあと、春になり農村の一年がはじまります。今年こそたくさんのコメがとれるようにと思いながら、村人たちははたらきます。そして、秋になり、コメが実ると、そこに嵐がやってきて…と、お話は続きます。キツネの嫁入りが、豊作と関係があるのかないのか、いまひとつわからないというえがきかたが絶妙です。また、最後にあらわれるキツネの嫁入りには、思わず息をのみます。小学校低学年向き。

2012年9月4日火曜日

やまなし











「やまなし」(宮沢賢治/文 川上和生/絵 三起商行 2006)

2匹のカニの子が青白い水の底で話をしていました。「クラムボンは笑ったよ」「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」。2匹が話していると、あたりはぱっと明るくなり、日光が水のなかに降ってきました。波からくる光の網が、底の白い岩の上でゆらゆら伸びたりちぢんだりし、泡や小さなゴミからは、まっすぐな影の棒が斜めに水の中に並んで立ちました。

頭上をお魚がいったりきたりしはじめたかと思うと、突然青びかりのようなものが飛びこんできます。次の瞬間、お魚も青びかりもいなくなってしまいます。カニの兄弟がぶるぶるふるえていると、お父さんカニがやってきて、「そいつは鳥だよ。かわせみというんだ」と教えてくれます──。

宮沢賢治の「やまなし」を絵本にしたものです。絵は、日本画風の、水の中の情景が美しくえがかれたもの。「まっすぐな影の棒が斜めに水の中に並んで立って」いるところなど、原文のままに美しく再現されています。巻末には「言葉の説明」がついており、たとえばこんな風に言葉の説明されています。

〔クラムボン〕賢治の造語。それが何かはわからない。
〔樺の花〕岩手県ではヤマザクラのことも樺と呼ぶ。「白い樺の花びら」という表現から、ここではヤマザクラをさしていると思われる。
〔イサド〕賢治の造語。カニの子たちが行きたがる楽しい場所だと思われる。

宮沢賢治の文章の印象をよく絵にすくいとった出色の一冊です。小学校中学年向き。

2012年9月3日月曜日

ねこさんこんにちは











「ねこさんこんにちは」(沼野正子/作 福音館書店 1990)

ヒロくんのうちには、ギンとミーモとチーモの3匹のネコが暮らしています。食べものは、朝と夕方、1日2回あげています。ヒロくんのお母さんがごはんのしたくをするころになると、3匹とも、どこにいても飛んで帰ってきます。いつも、同じ場所で、同じくらいの時間に食べたがります。

ネコはたいていきれい好きで、食べたあとや、雨に濡れたあとなど、お気に入りの場所で毛づくろいをします。それから、お客がきたときなど、なんとなく気持ちが落ち着かないときにも毛づくろいをします──。

ネコの習性をえがいた絵本です。絵は、おそらく色鉛筆でえがかれたもの。ネコのやりそうなことをユーモラスにえがいています。ネコの習性の説明はまだまだ続き、尻尾を上げながらまつわりつくのは、「お帰りなさーい。うれしいな」という気持ち。口をあけて声をださずに「ニャオ」のかたちは、「あなたをとても好きですよ」という気持ち。道で出会っても知らんぷりしていってしまうことがあるのは、ネコなりの訳があるのかも…。ネコを飼ったことがあるひとなら、ヒザを打つことうけあいの一冊です。小学校中学年向き。