「八郎」(斎藤隆介/文 滝平二郎/絵 福音館書店 1980)
昔、秋田の国に八郎という山男がすんでいました。八郎の腕や肩や胸はあんまり大きくて、見ている者は、つい気持ちよくなってしまいました。八郎は、まだまだ大きくなりたくて、山から浜へでかけていっては、海にむかって叫びました。八郎が駆け出すと、八郎の頭に巣をつくっているヒワやムクやヤマガラが、八郎の頭のまわりを飛びまわり、それはきれいなながめでした。
ある日、八郎は海をみて泣いている子どもに出会います。毎年毎年、海が荒れると塩水をかぶって、お父の田んぼがだめになってしまうと、子どもは八郎に訴えます。そこで、八郎は山をもちあげ、浜まではこび、やあーっと海に放り投げます──。
「花さき山」にゲスト出演している、八郎の絵本です。全編白黒の、大変力感に富んだ絵は、おそらく版画でえがかれたもの。文章は民話風のもので、冒頭はこんな風です。
《むかしな、秋田のくにに、八郎って山男が住んでいたっけもの。八郎はな、山男だっけから、せぇがたあいして高かったけもの。んだ、ちょうどあら、あのかしの木な、あのぐらいもあったべせ。》
このあと、田んぼを呑みこもうとやってきた大波を、八郎は身を挺してふせぎます。絵も文章も、じつに力強い一冊です。小学校中学年向き。