2011年5月30日月曜日

それは、あらしの夜だった












「それは、あらしの夜だった」(ジャネット・アルバーグ/作 アラン・アルバーグ/作 佐野洋子/訳 文化出版局 1994)

ヤギの番をしていたアントニオは、昼寝をしていたところを山賊にさらわれてしまいました。山奥の洞穴につれてこられ、そとは土砂降りの雨。「退屈で死にそうだぜ! なにか話をしろ!」と山賊の親分にいわれたアントニオは、そこで話をはじめました。「それは、あらしの夜だった」──。

「どしゃぶりの山奥に山賊とオオカミがいた」と、アントニオが続けると、山賊の親分が口をはさみます。「土砂降りはなしだ。雨はむかつくんだよ」。そこで、アントニオは語り直します。「それは凍えそうに寒い夜だった。外は大吹雪で、山にはオオカミとクマが…」。すると、親分はまた口をはさみます。「ほら穴にはうんざりだ。もっとこう広びろした話をしろよ」。そこで、アントニオはまた語り直します。「それは、星明かりのとても気持ちのいい夜だった。金色の月が、銀色の海と浜辺に輝いていた」──。

というわけで、山賊にさらわれたアントニオが、お話をするたびに親分子分に口をはさまれ、そのたびにお話がどんどん変わっていく…という読物絵本です。このあと、海岸に腹をすかせた6匹のクマがあらわれるとアントニオは語るのですが、「クマはだめ」と親分にいわれ、こう語り直します。「南アメリカの悪名高い殺し屋と海賊が突撃してきた…」。「いったいどういう海岸なのよ」と親分があきれるのがおかしいです。絵は、色鉛筆でえがかれた、細部までみどころの多いもの。もちろん最後には、アントニオはぶじ家族のところにもどります。じつに愉快な読物絵本です。小学校中学年向き。

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