「三つのオレンジ」(剣持弘子/文 小西英子/絵 偕成社 1999)
昔、あるところにひとりの王子がいました。ある日、リコックチーズ(チーズをとったあとの凝乳からつくる白い柔らかな乳製品)とパンを食べていた王子は、ナイフで指を傷つけてしまいました。白いチーズに落ちた赤い血をみた王子は、「なんてきれいなんだろう。白くて赤いこんなにきれいな娘がいたら、すぐにも結婚したいものだ」と思いました。そこで、王子は娘をさがしに旅に出ました。
旅の途中、王子は陰気な歌をうたっていたミミズクに斧を投げつけます。じつはミミズクは魔法使い。王子の投げた斧により片目を失い、それによってもとの姿にもどることができた魔法使いは、王子をオレンジ畑につれていき、オレンジを3つとってくるようにとうながします。
王子は魔法使いのいいつけを守らず、途中でオレンジを割ってしまいます。すると、なかから美しい娘があらわれるのですが、すぐ消えてしまいます。3つ目のオレンジのときは、いいつけを守ったので娘は消えず、めでたく王子は娘と結婚します。
でも、話はこれで終わりではありません。よこしまな魔女が登場し、花嫁はツバメに変えられてしまい…と物語は続きます。
本書はイタリアを代表する昔話「三つのオレンジ」を絵本意したもの。巻末には充実した解説があります。それによれば、この昔話は「ペンタネローネ」に「3つのシトロン」というタイトルで収録されており、18世紀にはカルロ・ゴッツィにより仮面劇になっています。20世紀にはプロコフィエルによる歌劇「3つのオレンジの恋」で、世界的に知られるようになったということです。しかし、本書の物語は、トスカーナ地方のエジーディオ・コルテッリという、当時82歳の石工が、1970年に孫や曾孫たちに語ったもので、文学的な作品の影響を受けていない貴重なものだということです。
文章はタテ書きの読物絵本。香気あふれる絵が魅力的です。小学校中学年向き。