
「ふしぎなナイフ」(中村牧江/作 林健造/作 福田隆義/絵 福音館書店 1997)
1本のナイフがあります。このナイフは、曲がったり、折れたり、割れたり、溶けたり、切れたり、ほどけたりする、とてもふしぎなナイフです。
写実的に描かれたナイフが、写実的なまま、ほどけたりちぎれたりします。ありえないことが、つぎつぎに起こり、思わず目をみはることうけあいです。幼児から。
1000冊紹介したのでおしまいです。あと、コールデコット賞のチェックだけしたいので、それをぼちぼちやっていきます。このブログはじき消えます。
「ぶたぶたくんのおかいもの」(土方久功/作 福音館書店 1985)
ある日、こぶたのぶたぶたくんは、いそがしいお母さんの代わりに、ひとりでお買い物にいくことになりました。はじめにパン屋さんでパンを買い、つぎに八百屋さんでじゃがいもとトマトを買います。そうしたら、おかし屋さんで好きなものを買ってもいいのです。「ぼくキャラメル買ってくるよ」と、ぶたぶたくんは元気に出発しました。
出発したぶたぶたくんは、歌ともひとりごとともつかないことをいいながら歩いていきます。このあたり、読み聞かせをするときどう読むかむつかしいところです。途中、友だちに会ったりしながら、ぶたぶたくんは首尾よく買い物を成し遂げます。巻末に、ぶたぶたくんが歩いた地図が載っているのですが、ちゃんと各場面と地図があっているのがうれしいところです。なんともいえない奇妙な世界が魅力的です。小学校低学年向き。
「この世でいちばんすばらしい馬」(チェンジャンホン/作 平岡敦/訳 徳間書店 2008)
昔、ハン・ガン(韓幹)という、絵を描くのが大好きな少年がいました。家が貧しく、絵筆も紙も買えませんでしたが、有名な画家のクン・ウェイに認められ、宮廷の絵師になるための学校に入ることができました。ハン・ガンは先生のいうことを聞かず、いつも馬の絵ばかり描いていました。不思議なことに、どの絵の馬も、みんなひもでつながれています。友達がそのわけをたずねると、ハン・ガンはこたえました。「いつか命がやどって、絵から抜け出すかもしれないからね」。すると、ある夜、ひとりの武将がハン・ガンのもとにやってきました。
巻末の解説によれば、話は作者の創作ですが、ハン・ガンは8世紀の中国に実在した画家だそうです。話は紹介したところから戦争の惨禍へと続きます。涙をこぼす馬の痛々しい表情に打たれます。小学校中学年向け。
「バーバ・ヤガー」(アーネスト・スモール/文 ブレア・レント/絵 こだまともこ/訳 童話館出版 1998)
ある日、母さんにいわれて村にかぶを買いにいったマルーシャは、途中でお金を落としてしまいました。そこで、マルーシャはかぶをさがしに、森に入っていきました。ところが、その森は、入ってはいけないといわれていたバーバ・ヤガーの森だったのです。バーバ・ヤガーはとてもおそろしいおばあさんで、悪い子をみつけるとシチューに放りこんで食べてしまいます。ずしーん、ずしーんという音とともに、ニワトリの足が生えたバーバ・ヤガーの小屋があらわれました。
ロシアにつたわる魔女、バーバ・ヤガーを題材にした絵本です。絵は、わずかに色がつけられた版画なのですが、非常に豊かな色彩にみえます。話はふしぎで楽しく、とくに途中からあらわれるハリネズミがかわいらしいです。話は長いので、小学校中学年向け。
「200ぴきのうさぎ」(ロンゾ・アンダーソン/作 エイドリアン・アダムズ/絵 おおいしまりこ/訳 新世研 1999)
旅の途中の〈ぼく〉は、みたこともないほど手入れのゆきとどいた畑ではたらいている男の子をみつけました。この子はいまにきっとすごいことをするぞ、と〈ぼく〉は思いました。翌朝、王様のところにでかけた男の子は、王様は歌が好きだということを知り、森で練習をはじめました。でも、うまくいきません。楽器も曲芸もやってみましたが、森の動物にばかにされるばかりです。すると、男の子のところにひとりのおばあさんがやってきました。
〈ぼく〉の一人称で語られる、少々語り口の凝った絵本です。この後、おばあさんにいわれて男の子は笛をつくり、それを吹いてみると、森じゅうのウサギがあつまってきます。男の子はウサギの行列とともにお城にむかいます。そして、最後に〈ぼく〉の正体が明かされます。ちゃんと200匹描いてある、行列を組んだウサギたちの絵が壮観です。小学校中学年向け。
「おりこうねこ」(ピーター・コリントン/作・絵 いずむらまり/訳 徳間書店 2000)
フォードさんの家族は、みんな忙しいため、ねこのシマシマはいつもずーっと待ってごはんをもらっていました。ある朝、シマシマはがまんができなくなり、自分で缶詰をとりだし、お皿によそって食べはじめました。フォードさんの家族はみんなびっくり。「こんなにおりこうだったなんて」。それから、シマシマは奥さんからカードを預かり、自分で買い物をするようになりました。ほかにも、映画をみたり、レストランで食事をしたり。ところが、ある日シマシマは、フォードさんと奥さんから、いままでつかったお金を返すため、仕事をみつけてくるようにといわれました。
おりこうになったばっかりに大変な目に遭う、ちょっと皮肉の効いた絵本です。猫のしぐさがとてもよく描けています(特に後ろ姿)。ラスト、もとのようにおりこうでなくなった(といっても、いったいどちらがおりこうなんでしょう?)シマシマをみる猫たちの、わけ知り顔の表情が楽しいです。小学校中中学年向け。
「はらぺこねこ」(木村由利子/文 スズキコージ/絵 小学館 2007)
あるところにお百姓さんがいました。お百姓さんは猫を一匹買っていました。この猫はとても大きく、どうしようもなく大食らいなので、お百姓は飼うのがいやになってきました。そこで、猫の首に石をくくりつけて、川に沈めてしまおうと考えました。そのまえに、猫に最後のおかゆをあげたところ、おかゆを食べた猫は、お百姓も食べてしまいました。
北欧の昔話です。お百姓をたいらげた猫は、このあと牛を食べ、野うさぎを食べ、出会ったものをどんどん食べていきます。類本に「おなかのかわ」や「ふとっちょねこ」がありますが、でも、スケールの大きさでは、この「はらぺこねこ」が一番。最後は月や太陽まで食べてしまいます。それにしても、「三びきのやぎのがらがらどん」もそうですが、北欧ではヤギがとても強い動物と思われているようです。3歳から。
「クリスマスのつぼ」(ジャック・ケント/作 清水 真砂子/訳 ポプラ社 1977)
つぼづくりの名人、ホアン・ゴメスさんは、2つのつぼをつくりました。ところが、かまで焼いたとき、片方のつぼにひびが入ってしまいました。ひびが入ったつぼは、ほかのつぼが模様を描かれていくのを、庭のすみからうらやましそうにながめていました。でも、ひびの入ったつぼにも、ついに出番がやってきます。それはクリスマスのピニャータになること。とろこが、ピニャータになったつぼは子どもたちに割られてしまい…。
メキシコのクリスマスを題材にした絵本です。題材になじみが薄いので、あるいは大人むけかもしれません(巻末にメキシコのクリスマスについての解説がついています)。二転三転するひび割れたつぼの運命に、はらはらしながら、最後はほろりとさせられます。この絵本はまだ手に入るみたいです。うれしい。小学校中学年向き。
「とてもかわったひげのねこ」(ビル・シャルメッツ/作 長谷川集平/訳 福武書店 1982)
ある日、魚を釣っていた女の子は、魚のかわりに猫を釣り上げてしまいました。とても変わった猫で、ひげを自由自在につかい、魚を釣ったり、なわとびをしたり、絵を描いたり。ところが、町にでた猫は、猫さらいにさらわれ、サーカスに入れられてしまいます。一躍、サーカスの人気者になった猫でしたが、うちに帰りたくてたまりません。とうとう、ひげをつかってサーカスの檻から逃げ出します。
シンプルな線で描かれた、乱暴かつユーモラスな絵は、みると楽しくなることうけあいです。長谷川集平さんの訳文も、絵によくあった調子のいいものです。猫のひげがうんと伸び、さまざまに形を変えるという、絵本でしか起こりえないことが、充分に満喫できます。現在品切れ。小学校低学年むけ。「わたしのおふねマギーB」(I.ハース/作 内田莉莎子/訳 福音館書店 1976)
ある晩、マーガレット・トーバーンステイブルは、お船がほしいとお星さまにお願いしました。翌朝、目をさましてみると、マーガレットは船のなかにいました。船の名前はマギーB。かわいい弟のジェームズも一緒です。デッキには畑があり、リンゴやモモの木があり、やぎやひよこも乗っています。マーガレットはうれしくて、くるくるせっせとはたらいて、自分の船室を掃除しました。
美しく、精緻な水彩画で描かれた絵本です。カラーと白黒が交互になっている構成ですが、白黒のページがもったいないほど。また、大好きなものを全部船に乗せて、切り盛りするマーガレットの誇らしげな顔がとても魅力的です。歌があるので、読むのは歌に強いひとむきでしょう。小学校低学年むけ。現在品切れです。
これは余談ですが、この絵本では最後まで、もとの生活にもどるところは描かれません。ゆきて帰りし物語ではないのです。
「ぴかぴかリジーぱかぱかネリー」(デビッド・コックス/作 もりゆみ/訳 新世研 1997)
昔、ふたりの農夫がいました。ひとりは古い自動車をもっているウィリアム。もうひとりは年寄り馬をもっているビリー。ウィリアムは自動車にぴかぴかリジー、ビリーは年寄り馬にぱかぱかネリーという名前をつけていました。さて、ある土曜日、ぴかぴかリジーとぱかぱかネリーは町まで競争することになりました。
オーストラリアの絵本です。絵はクエンティ・ブレイク風。ラストはちょっととぼけています。コマ割があるので、読み聞かせには少し不向きです。
以下は余談ですが、この絵本を出版した新世研は、現在もうないようです。ネットでの情報によれば、新世研はブラジル人のマウリシオ・クレスポさんが興した会社で、一時期世界各国の絵本を出版していました。その出版方法は、翻訳の賞をつくり、絵本の翻訳を募集して、それで日本語訳の絵本をつくるというものだったと思います。新世研の出版物でなければみかけないような、めずらしい国の絵本もありました。その出版物については玉石混交。「ぴかぴかリジー ぱかぱかネリー」は玉のほうだと思います。
「ぼくはおこった」(ハーウィン・オラム/文 きたむらさとし/絵・訳 評論社 1996)
ある晩、テレビの西部劇に夢中になっていたアーサーは、お母さんにもう寝なさいといわれました。そこでアーサーは怒りました。怒りたければ怒りなさいと、お母さんがいうと、アーサーの怒りで稲妻が走り、部屋はこわれ、町中めちゃくちゃになりました。「もう充分」とお母さんはいいました。でも、まだアーサーは怒っています。
アーサーの怒りはどんどんエスカレート。最後には地球まで破壊してしまいます。子どもの感情を、過激かつユーモラスにすくいとった作品です。子どもに読んでみると、その展開に、目を丸くして聞き入ります。小学校低学年向け。
「あくまのおよめさん」(稲村哲也/再話 結城史隆/再話 イシュワリ・カルマチャリャ/画 福音館書店 1997)
昔、ネパールのある村に、ラージャンという男の子が住んでいました。あるとき、道で1枚の金貨をひろったラージャンは、そのお金でサルを買いました。大きくなり、屋根から屋根へとびうつれるようになったサルは、家の屋上で、悪魔が村人からとりあげた宝物をひろげているのをみつけました。悪魔が居眠りをしたすきに、サルは宝物をかくしましたが、目をさました悪魔につかまってしまいました。そこで、サルはいいました。「ぼくはほんとうは、おじさんにおよめさんをみつけてやろうと思ってやってきたんですよ」
このあと、かしこいサルは人形のお嫁さんをつくり、悪魔をみごとだまします。自分のせいでお嫁さんが死んでしまったと思った悪魔は、嘆き悲しんで村を去ります。このあたり、つい悪魔に同情してしまうところです。本書は、ネパールの民話を、ネパールの伝統絵画の技法によって描いた絵本です。美しい色あいの、不思議な感じの絵が印象的です。現在品切れ。小学校低学年向け。
「たなばた」(君島久子/再話 初山滋/画 福音館書店 1980)
昔、天の川に七人の天女がいました。みな、機織りが上手で美しい雲をつくっていましたが、なかでも末の娘の織姫が一番上手でした。天の川の西側は人間の世界でした。そこでは、ひとりの牛飼いが年とった牛と暮らしていました。ある日、突然牛がものをいいました。いま、天女たちが天の川に水浴びにきます。そのなかの織姫の着物をかくしてしまいなさい。牛飼いが牛にいわれたとおりにすると、ほかの天女たちは着物を着、鳥になって飛びたちましたが、織姫はとりのこされてしまいました。そこで、牛飼いは、織姫に、わたしの妻になってくださいとたのみました。
七夕の由来を絵本にしたものです。 このあと、夫婦になったふたりは二人の子どもをもうけます。が、天の王母はこのことに怒り、織姫を連れ去ってしまいます。そこで牛飼いは子どもを連れて織姫を追いかける…とういう風に物語は続きます。知っていると思っている話でも、いざ実物にあたってっみると、こんな話だったのかと思うことがよくありますが、この絵本もそんな話のひとつです。
絵は抽象的な、モダンな絵。文章は一部が急に縦書きになったりします。話も長く、読み聞かせるには練習が必要です。でも、さまざまある七夕絵本のなかで、格調の高さは随一です。同じ七夕を題材にした絵本にした絵本に「天人女房」「(稲田和子/再話 太田大八/絵 童話館出版 2007)があります。こちらは、鹿児島県の昔話を絵本にしたものです。話は、「たなばた」とよく似ていますが、織姫が子どもをつれて天に帰るところなど、細部が微妙にちがっています。読みくらべてみるのも面白いでしょう。小学校低学年向き。
「ディック・ウイッティントンとねこ」(マーシャ・ブラウン/作 松岡享子/訳 アリス館 2007)
イギリスにディック・ウイッティントンという男の子が住んでいました。お父さんとお母さんが早く死んでしまったので、ディックはとても苦労をしました。あるとき、お腹がすいて倒れていたディックは、お金持ちの商人、フイッツウォーレン氏にひろわれ、そこではたらけることのなりました。ところが、屋根裏部屋には毎晩たくさんのネズミがでるので、ディックはすこしも眠れません。そこで、ディックははたらいてもらったお駄賃で、ネコを一匹手に入れました。
その後、もち船を航海にだすことになったフイッツウォーレン氏は、家の者に商うものを選んでだすように命じます。なにももっていないディックはネコをだし、ネコは航海先で思いがけない大活躍をして、おかげでディックは、大きな出世をなしとげます。
イギリスの有名な昔話をもとにした絵本です。マーシャ・ブラウンの絵は、中世風の2色の版画で、昔話の雰囲気がよくでています。コルデット・オナー賞受賞作。余談ですが、佐藤正午の小説「放蕩記」に、この昔話が効果的につかわれています。小学校低学年向け
「しあわせなふくろう」(チェレスチーノ・ピヤッチ/絵 ホイテーマ/文 おおつかゆうぞう/訳 福音館書店 1991)
古くて、くずれかかった石壁のなかに、ふくろうの夫婦が住んでいました。2羽のふくろうはくる年もくる年も幸せに暮らしていました。すぐ近くの百姓家には、いろいろな鳥が飼われていました。鳥たちは、年がら年中けんかばかりしていました。「どうして、あのふくろうたちはけんかをしないのだろう」。不思議に思ったクジャクは、静かに仲良く暮らすやりかたを聞きに、ふくろうのもとをたずねました。
オランダ民話の絵本。このあと、クジャクの意向を聞いたふくろうは、鳥たちをあつめてもらい、自分たちの暮らしを話します。でも、ふくろう夫婦のおだやかな暮らしは、ほかの鳥たちのお気に召しません。そこに皮肉がピリリと効いています。この本も品切れです。小学校低学年向け。